「雄二のその着物姿似合ってるよね」
「あんな女装めいたこと死んでもやりたくねえよ、ましてやお前じゃあるまいし」
「失礼だな! 僕だってしたくてしてるんじゃないからね?」
「はいはい。んじゃさっさと稗田から借りた幻想郷縁起で勉強会と行くぞ」
「分かってるよ。けど、僕はもうちょっと人里をぶらぶらしてていいかな?」
「なんだ? サボりか? 異世界だからファンタジーで頭に入りやすいだろ」
「いや、そうじゃなくて、ちょっとやり残したことがあるから」
「……そうか。分かった。じゃあ俺は先に寺子屋に戻ってるわ」
「了解。察してくれてありがと」
「よせよ気色悪い」
「人の感謝を無下にする雄二は流石だよまったく」
「じゃあな、目的の木下姉に会ったら連れてきてくれよ?」
「あ、うん。分かったよ」
アタシと騒霊と幻想郷
「それにしても……この世界って田舎というか自然豊かと言うか……」
アタシは木下優子。向日葵畑の一件の後、妹紅さんと一緒に秀吉たちを探しているのだけど全然見つからない。この周りを見渡すだけの時間に飽きてきたので適当に話を降る。
「さっきの吉井とかも見当たらないな、メイドと巫女なんて目立つだろうに」
妹紅さんから聞いた話だと、吉井君たちはまるで最初からいなかったかのように姿を消してしまった。あの二人に秀吉のこと聞き出せてればこんな手間を取らずに済んだのに、でも仕方ないことだったかも知れないわね。
「というか、流石よね……あんな激しい戦闘の後だって言うのに傷一つないなんて」
「これも私の能力なんでな」
一見すると便利な力に思えるかもしれないけど、それは人を第一印象のみで評価する者のすることだと思う。この人の人生は想像を超えているのだから。けど、アタシは元気よく話す。
「頼りにしてるわ!」
「任せておいてくれ!」
力強く答えてくえた妹紅さんが今のアタシを支えてくれる唯一の柱となってくれている。一人竹林で彷徨っていた自分に差し込んでくれた、とても優しかった妹紅さんの笑顔がそこにあった。
「……だが、任せろと言ったがどこを探そうか」
今アタシたちは幻想郷の上空から辺りを見下ろしているけど吉井君たちの姿はない。何処か拠点でも作っているのか、もしくは地下に潜伏しているのか分からない状態よ。このまま妹紅さんに担いでもらうのも失礼よね、一旦下ろして貰いましょう。
「ねぇ妹紅さん、取り敢えず彼処で休憩しない? 傷は癒えても疲労は溜まってるはずよ?」
「そうね、まさか見抜かれていたとは思ってなかったけど」
「汗が出ているわ。気温も下がるこの空でおかしいと思って」
「すまないな、うん、そこで休ませてもらおう」
一先ずアタシたちは湖の畔に着地し、休憩をとることにした。偶々目に入った理由もあるけど見た感じ綺麗な水だし水分補給出来そうと思ったからね。
「霧の湖か、まあ紅魔館から離れているし吸血鬼にも遭うことはないだろう」
「きゅ、吸血鬼!?」
ま、まさかそんな怪物がいるなんて……実在するなんて思っても見なかった。平然と口にした妹紅さんの様子から察しても嘘じゃなさそう。
「大丈夫だ、今は昼間だから出て来れない」
「そ、そうよね! うん、知っていたわ! 当然よ、当然!」
「……すまん、怖がらせたか?」
ああ妹紅さんの思いやりが痛いわ。意地を張るんじゃなかったわ。
「え、ええ。ホントに大丈夫よ。さぁ、水でも飲んで一段落と行きましょう」
アタシが勧めると妹紅さんも頷く。手を皿のように水をすくい口に運ぶ。
「……なんか、思ったより不味いな」
「え? そうなの?」
「飲んでみるか?」
「いや、アタシは大丈夫だから」
「無理するな。お前も疲れてる筈だ。折角だし紅魔館の奴等から何か分捕ってきてやろうか?」
それって、吸血鬼に喧嘩を売るという解釈で良いのかしら?
「いやいや、普通にお邪魔しましょうよ。随分好戦的な挨拶よね?」
「ん? 吸血鬼だしそれくらいが良いだろうと思ったんだが……」
この辺りが異世界とこっちの世界の常識に差があるのを痛感させられるわね。
「ダメに決まってるでしょ! 妹紅さんだって手負い何だからゆっくりしないとメッ!」
「わ、分かったよ……それじゃあ――」
何とか吸血鬼と揉め事にならずに済んだ。代わりの案として周囲に何かないかと見渡す妹紅さん。
「ん? なあ、あっちに行ってみないか?」
「あっちって……エ?」
妹紅さんが指した先は誰がどう見ても分かるくらいオンボロで今にも崩れそうな廃墟と化した家屋が一件見えた。
「あんなとこ誰かいるわけないじゃない!」
「幽霊ならいるかも」
「お化け出るの!?」
「ああ、ここには亡霊騒霊大体いるよ」
なんて恐ろしい世界なのかしら、まさかお化けが当たり前のように存在しているなんて……べ、別に怖くはないけど。
「んじゃ行ってみるか。誰か住んでるだろう」
「その誰かがお化け……?」
「多分ね。あの建物の中から物音がする」
まさかと思い耳を澄ましてみる。けどこれといって音は聞こえなかった。
「うーん、分からないわ」
「耳がダメなら目だな、よし、見てくる!」
「ちょ! 待って、置いてかないでよぉ!」
――――☆――――☆――――☆
「こんな古びた洋館があったとは……幻想郷も侮れないな」
小さい子供のように目を輝かせている妹紅さん。
「そ、そうね……なんか寒気がするわ」
妹紅さんと対になるようにアタシは正直言って怖い。館の中に入ると床や壁が外から見た通りボロボロで一部には蜘蛛の巣が張ってあるし。下手すると床に穴が開きそうで歩くことすらままならない。
「寒いなら火を出そうか?」
「燃え移ると危ないからいいわ」
埃っぽいしもしかするとバーンって爆発したりするんじゃないの? 危ないことは極力無しで行きたいところ。
「分かった、それじゃ私の腕にしがみついてみて」
そう言われ腕を差し出されたのでアタシはゆっくりと掴んでみる。すると驚くことに暖かい感覚があった。
「私の腕の体温を少し上げてある。暖かいだろ?」
「え、ええ」
驚きという感情が表に出てしまい感謝の言葉が奥に引っ込んでしまった。器用なことをやってのけるのね、と安心しきっていたとき、アタシにも音が、声が聞こえてしまった。
「こんなところに人間がどうしたの?」
「ひぃっ!?」
い、今妹紅さんではない声がどこからか耳に入ってきた。驚きでつい妹紅さんの傍を離れてしまった。
「誰だ?」
妹紅さんが怯えてるアタシを横に声の主を探すけど、見当たらないみたい。
「き、きっと幻聴よね?」
「空耳なら私にも聞こえたよ」
「な、ならお化けが出た? ついに出ちゃったの?」
「……そうだろう。しかしあれだ、『お化け』か」
神妙そうな顔つきで何やら考え込んでいる妹紅さん。
「そうよお化けよ! それがどうしたの?」
「いや、ずっと気になっていたんだが……幽霊って呼ばないか?」
「どーでもいいわよそんなこと!」
そんな小さなことより、怖がりということを指摘されるよりプライドが傷つくからいいけど。
「確かこっちの方から聞こえたな。よし、行こう」
「そ、そうね……」
妹紅さんも一緒にいるんだし、お化けの一体や二体軽く蹴散らしてくれるよね。人任せって点が少しアタシの中でモヤモヤするけど仕方ないということにしておきましょう。
「えっと、こっちだったはず」
妹紅さんが指さした方向は大きな防音用の扉ががっしりと閉まっているのが見えた。まるでコンサートホールにある会場の入口に設置してあるような立派な扉。けどそれもホコリや蜘蛛の糸だらけで正直触りたくないかも。
「んじゃ入ってみようか」
「う、うん」
自分の家に入るように自然に開けて入っていく妹紅さんに置いてかれないように腕を掴んだ。あれ、妹紅さんの手が汚れていない? よく見るととっての部分だけ誰かが触った痕跡が残っているのか綺麗に手入れされてる。
「たのもー!」
「ちょ! 何やってんの!!」
相手は肉体を持たない人外なのよ! もうちょっとこそこそとね? わざわざこちらの存在を知らせるなんてもう……ため息が出ちゃうわ。
扉の先にあったのは汚れているカーテンで幕を閉じている小さな舞台が不気味に思わせる。お化けたちのコンサートでも開くのかしら。昔小さな頃にそんな絵本を読んだことがあるような。
「誰もいないみたいだな?」
「ね? もうそろそろ帰りましょ。こんなところにいても時間の無駄だわ」
アタシたちの目的はあくまで吉井君たちの捜索であり秀吉の安否確認なんだから。休憩ならもうとっくに済んだしこの洋館から出る頃合よ。そう思っていたとき、
「あら? 来たばっかりなのにもう帰っちゃうんですか?」
幕が閉じられた舞台上の方から声が不意に聞こえた。けれどアタシたちが最初に聞いた声の主とはトーンが違う。まさか、お化けは二人以上いるの!?
「帰りたいわよ! お化け怖いもん!」
もうやだこんな屋敷さっさと外の空気吸いたい! 綺麗な空眺めたい!
「まぁまぁそんなこと言わずに一曲」
「一曲? 演奏会でもしてくれるのかい?」
怖がるアタシを横目に妹紅さんは堂々とお化けと会話を続ける。
「そうよ、私たちの演奏。聞かないと損する」
さ、三人目の声を確認しました。もうダメかもしれないわアタシ。
「さァ! せっかく迷い込んで来てくれたお客様だもの~」
「思いっきり楽死んで逝ってね!」
今館内で初めに声をかけたお化けがすごい恐怖心を煽る意味深な言葉を発したような気がするわ。
「大丈夫、命は取らない」
「当たり前よ!!」
「良かった。私の命払えないからどうしようかと」
「妹紅さんはちょっと黙ってくれませんか?」
「お、おう……」
後ろへ勢いよく翻すと扉がバタンと、閉まっちゃう。うん、そうよね、お決まりよねクスン。
「お、木下―。ここの席空いてるぞー」
いつの間にか妹紅さん舞台に一番近いところでアタシを呼んでるし。思わず機嫌が悪くなっちゃうわ。
「どうも、あ・り・が・と・う・!」
物凄く不機嫌気味に強調して妹紅さんが埃を払ってくれた椅子に座り込む。なんか余計に疲れたわ。
「何怒ってるんだ?」
「この世界の常識に、よ」
頭にハテナが二つほど浮かんでいるのがなんとなく見えるわ。まるで理解していない時の吉井君のような、そんな間抜けな顔ね。ちょっとは怖がりなアタシのことを気遣ってくれてもいいのに。
「それじゃ、元気の出るアレ、聞いてってね!」
イジイジと拗ねている子供のようなアタシに構わずお化けたちは着々と準備を終わらせいよいよ演奏が始まるようだ。ここはもう開き直ったほうがいいみたい。
「姉さん、アレじゃわからないよ。初見な人もいるし」
「うーん……それじゃこっちにしましょっ」
「それはまだ未完成。本番には早い」
「もう! 壁にぶち当たるような気持ちで行けばなんとかなるわよ!」
「それは無計画すぎるよ姉さん」
いいからはよせんか! と心の中で怒りを示しておこう。妹紅さんは何故か楽しんでいるように見える。
「いや~こういうの初めてだから少し楽しみだよ」
そうね、アタシもお化けの演奏会なんて初めてよ。そんな他愛ない話をしていると準備が整ったのか幕がゆっくりと開かれる。舞台には三人のお化けらしき人が楽器を持って立っていることをスポットライトが照らして教えてくれた。トランペットにバイオリン、後ろにいるのはキーボード? この三人が声の正体だったようね。けどアタシの想像していた姿とは違うわね、もっとこう……ペロって舌とか出てるような想像だったわ。
「あれは! プリズムリバー三姉妹!」
「知り合いなの?」
「ああ! 博麗神社で宴とか開かれるとたまにやってきて演奏を披露していく楽団だ」
「そうだったの」
ふぅ、ようやく胸をなで下ろすことができそうね。悪いお化けじゃなさそうだし、何より知り合いならそう早く言って欲しかったわ。妹紅さんは「これは得したかもな」と一人でぶつぶつ呟いている。その表情は笑顔で嬉しそうだったけどそんなに有名なのかしら。これはこれでどんな音色を奏でてくれるのか楽しみになってくるわ。
「それじゃ私たちの熱い魂を――」
「「「どうぞ!!」」」
それからというものアタシは何時間その場に居ただろうと思わせる程、その演奏の虜になってしまっていた。本当に一曲だけだったのか、もしかすると何十曲も聴いていたのではないか、感覚が麻痺していることにすら気付いていないアタシにはそれを認識するのは難しかった。音痴なアタシだけどそれでも分かる、この三人は間違いなくプロを超越している!
「いや~楽しかったわ~」
「音楽で人の気持ちが動く瞬間を味わったわあ」
「楽しんでくれて嬉しい」
アタシたちが感想を言い合っているとバイオリンの奏者がゆっくりと近付いてペコリと頭を下げる。月の帽子が可愛くて足も生えてるし亡霊だなんて嘘みたいな外見よね。
「私の名前はルナサ、三姉妹の長女」
「そして~私がメルランよ~」
「よろしゅうな!」
何処から沸いてでたそこの二人?
「おっと、名前はリリカだよ。改めて」
「「「プリズムリバー三姉妹です(よ)!!」」」
それぞれがバラバラだけど丁度いい協調性を生んでいるのかしら。ともあれ言えることは仲が良い三姉妹ということね。
「んじゃ、聞いていくだけってのもなんだし~」
台詞の後にトランペットを軽く一湊するルナサとは反対に陽気な性格を持つメルラン。
「今度はお姉さんも一緒にやろうよ!」
キーボードの子がまさかの提案をして来たことに少々動揺を見せてしまう。
「ええ!?い、いや、アタシはそういうのは……そもそも楽器は何処なの?」
「楽器はない。貴女にはボーカルを担当してもらう」
今……なんて言った? アタシの聞き間違いかしら?
「あー、ご免なさいアタシ歌の方は特に--」
「まぁいいじゃないの。ほら、こっち来てきて」
拒否権はないの!?え、どうなるのアタシ……?