バカと霊夢と幻想郷   作:こきゅー

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アタシと幽霊とたった一人の愚弟

驚いた、素直に驚くことしかできなかった。

まさかアタシたちの他にも召喚獣を呼び出すことができたなんて……。

見た目はアタシたちの召喚獣とほぼ同じ。違う点といえば魂魄妖夢がそのまま小さくなったような姿だということ。アタシのような甲冑を着ていたりしてないわ。

 

「うふふふ、ビックリして声も出てないわよ妖夢~」

 

「そのようですね幽々子様」

 

「それ、どうやったんだ? 私にもできるのか?」 

 

妹紅が仲間はずれにされたと思ったのか慌てて幽々子さんたちに尋ねる。

 

「この結界内にいれば誰でも呪文を唱えれば出せるわ。けれど私たち側は紫が設定した点数やほぼ同じような見た目でしか呼び出せないけどね。」

 

「面白そうだな! 私も八雲に頼んでみるか!」

 

「参加者は博霊神社で受け付けてるわよ~」

 

何がなんだかよく分からないけど、アタシと同じ土俵に立ったということは分かるわ。ならば、

 

「なるほどね、詳しくは分からないけど召喚獣を呼べるの、ちょっと安心」

 

「弾幕ごっこは生身の人間相手だと辺りどころが悪ければ命に関わるので、私もこの方がやりやすいです」

 

それはこっちとしても有り難いわね……えぇ、弾幕ごっこやっぱり怖いじゃないの

 

「それじゃ、遠慮なんかしないからーーッね!」

 

「ッ!?」

 

ある程度理解はした。ならば先手必勝! 悪く思わないでねっ!

 

「は、早い……捌ききれない……」

 

だろうね、そうなると思ってた。

 

「このままどんどん押し込むわよ!」

 

魂魄さんは一本の剣でアタシの猛攻撃を必死に耐えている。点数の差というのもあるでしょう、反撃をしかける隙なんて見つからないように思えた。

 

「な、なんという……私が、手も足もでないなんて……」

 

「悪いけど、このまま押しきらせてもらうわよッ!」

 

今回の目的はあくまでアタシと手合わせしたいって言ってたし、なんか知ってるみたいだから親切に操作方法とか教えるなんてせずにごり押しで決めてしまいましょう。

でも、攻めてみてわかったけど彼女、召喚獣を呼び出したこと事態初めてなのね、全く扱えていない。これならただのカカシね。

 

 

2-A 木下優子 320点

    vs   社会

Phantasm 魂魄妖夢 112点 ♪広有射怪鳥事 ~ Till When?

 

 

「悪いわね、初心者だろうと油断しないことにしてるのアタシ」

 

「このままではなにもしないまま負けてしまう……」

 

余裕の笑みを浮かべながらふと視線に入った幽々子さんに目を当てる。魂魄さんがピンチだと言うのに顔色1つ変えていない。あまり面白くなかったかしら。まぁアタシなら見ててつまらないけど、手加減とか苦手なのよね……。

 

「妖夢~」

 

「ゆ、幽々子様……」

 

主人に魂魄妖夢の敗けを察しられたのだろう。どこか悔しそうに、己の無力さ、相手との実力の差を痛感している表情を浮かべる。そんな妖夢に幽々子はこう告げた。

 

 

「負けたら三日間、毎食後におやつも作ってもらうわ~」

 

「ーーッッ!!!?」

 

「え?」

 

突然口を開いたかと思ったら何を言い出sーー。

「ふんッ!!」

 

「キャアッ!」

 

「優子!」

 

今、何が起きたの? 幽々子さんの方を目視はした。けれどすぐに妖夢と私の召喚獣に集中した。そして間合いを詰めて攻撃できないように攻め続けた。なのに、いつの間にかアタシの召喚獣はきれいな円を描きながら吹っ飛ばされた。

 

「ユウコサン……アナタヲキル」

 

「優子! 態勢を早く建て直せ! 来るぞ!」

 

 

2-A 木下優子 240点

    vs   社会

Phantasm 魂魄妖夢 12点 ♪アルティメットトゥルース

 

 

吹っ飛ばされただけであれほどのダメージを負った上に何が来るって言うのよ! 幽々子さんは魂魄さんに何をしたの? おやつがどうとか言ってただけ。なのに今アタシの目の前にいる妖夢はまるで人斬り侍のごとく殺気。今のアタシは百獣の王に睨まれた獲物にすぎなかった。

 

「スペルカード……」

 

「不味い、避けろ! 優子!」

 

「え、え、何がどうなってーー」

 

人鬼(じんき)未来永劫斬(みらいえいごうざん)』」

 

焦燥募るアタシに一切の迷いをなく鋭い眼光がアタシの召喚獣を捉えている。もう逃げることはできないだろうと悟った。

 

『ッ!!』

 

アタシの召喚獣は鋭い一閃を食らうとどこかへ姿を消した魂魄さんの召喚獣を探す。しかし、次の瞬間、目では追えない程素早い斬撃が切りつけられる。さっきまで戦っていた敵とは思えないほど華やかで、アタシは無抵抗にダメージを負わされる。動きだけで見れば吉井君はおろか、高橋先生よりもスピードは上だ。そんなものにアタシが敵うはずはなかった。

 

そして、斬撃の雨が止んだと思えば最後に勢いを付けて真っ直ぐ叩き切る魂魄さんの召喚獣がそこにいた。

 

「な、なによこれ……」

 

 

2-A 木下優子 Dead

    vs   社会

Phantasm 魂魄妖夢 12点 ♪アルティメットトゥルース

 

 

勝負は一瞬でアタシの負けで決着が付いた。魂魄さんに放ったあの言葉が何かのきっかけになった。

でも、アタシにはとてもそんな風に思えなかった。油断大敵とはこのことか。

 

「妖夢~流石だわ~」

 

「……ッは、私は何を?」

 

魂魄さんがふと我に戻ったときにはアタシが初めて会ったあの魂魄さんになっていた。

 

「妖夢は勝負に勝ったのよ? もっと胸を張りなさい」

 

まだ現状を把握しきれていないのか辺りをキョロキョロ見渡し、アタシの召喚獣が倒れてる姿と点数を見ると理解したようだ。

 

「あ、えっと……手合わせありがとうございました!」

 

アタシに向けて丁寧に一礼をする。

 

「え、えぇ……こちらこそありがとう、魂魄さん」

 

「一戦交えた仲です、妖夢でいいですよ」

 

にこりと笑顔を向ける彼女から、本当にさっきまで剣に殺気を込めて振るっていたとはにわかに信じがたい。けど確かな純粋な笑顔がそこにあった。

 

「妖夢……あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

 

「ダメよ?」

 

妖夢に色々尋ねたいことがある。素人は勿論、熟練者ですら本来ありえないほど俊敏な動きで大ダメージを追わせたあの大技を繰り出してきた。腕輪もなしに、ましてや召喚獣を出した初日になんて不可能だわ。けれど幽々子さんは横槍を入れる。

 

「敗者は勝者の言うことに従うのがこの世界のルールよ? 不老不死さんから聞かなかったかしら?」

 

「いえ、説明は受けているわ。けどさっきのアレはなんなのよ! アタシたちにはない仕様だわ!」

 

物理的干渉を行える吉井君ぐらいしか例外は存在していなかった。それを堂々と使わせてくるなんて!

 

「あら、操作に不慣れなうちの子と操作に慣れている上に高点数なそちらとはハンデがあるでしょ? だから敢えて言わなかったまでよ。最も、あんな一方的に攻められちゃ仕方ないと思わない?」

 

ぐうの音も出ない程正論ではある。だけど一般人なアタシにやりすぎじゃないかしら。

 

「そ、そうね……けどあれは模擬試合ではないのかしら?」

 

「手合わせとあの子は言っただけのはずだけど? 誰も手を抜く、なんて言ってないわ」

 

「ふんっ!」

 

圧倒的力の差と理不尽を感じたアタシはそっぽを向く。気分悪いわね……アタシが勝つつもりだったのに。召喚獣を扱う先輩として指導してあげるつもりだったのに。

ふと、目に映ったのは妖夢の点数だった。アタシの攻撃を受けていたとき、最後に見た時は百十二点だったはず。けれどマイナス百点されていて十二点しか残っていない。

 

「質問いいかしら」

 

「質問は受け付けないわって、もう~人の話は聞きなさい?」

 

「いや、これは勝負の結果が覆るかもしれないことよ、発言権をもらうわ」

 

少し考えた幽々子さんは目付きを鋭くしてアタシに返答する。あの目は弱者を見るような人間という種族を貶しているかのような、そんな妖怪じみた目だった。

 

「……何かしら?」

 

「妖夢の点数が減ってるんだけど、バグじゃないかしら」

 

「いいえ? これはさっきのスペルカードを撃つのに代償として使ったものよ」

 

スペルカード? 弾幕ごっこで使う特殊な術式を用いた魔法のカードのようなものだと聞いている。なるほど、1つ謎は解けたわ。けど、これ以上は下手な真似はできない。敗者らしく大人しく従うことにしよう。

 

「そうだったの、なら私からは以上よ。さっさと何でも命令したらいいじゃない」

 

さっきまでの見下すような目付きとは裏腹に初めて会ったときのようなもてなす笑顔で口を開く。

 

「そうね、では発表します!」

 

急に無邪気な子供のようにトーンを変えると幽々子さんはこうアタシに言った。

 

「プリズムリバーとの演奏が終わったら寺子屋に向かいなさいっ!」

 

「寺子屋? アタシに勉強をしろって言うの? この世界の? それとも弾幕ごっこのことをかしら」

 

コロコロとよく態度が変わる人だとは思ったけど、何を言っているのか理解が追い付かなくなりそう。一体、何が目的なの?

 

「詳しいことはこの新聞に載ってるわ。そこに貴方の知り合いがいるはずよ」

 

「なんですって?」

 

まるで敵から塩を顔面に思いっきりなげつけられたような気分だわ。まさか、アタシの知り合いの話が出てくるなんて思っても見なかった。

 

「お、おい! 本当か?」

 

「今日の文々。新聞よ、見てないのかしら?」

 

「あ、あぁ……よく火起こしに使っててな」

 

新聞ぐらい読みなさいよ妹紅。いい歳なんだから……。

 

「ちょっと見せて!」

 

半ば無理矢理新聞を強引に受けとる。

慌てて目を通すとそこには吉井明久という文字を筆頭に様々な記事が書かれていて、試召戦争ごっこというものの開催決定など大きく載っていた。

 

「…………なるほど、そういうことね」

 

寺子屋に向かえって言ったのはアタシを呼んでいる人がいるってことね。吉井君がいるってことはFクラス代表の坂本雄二もいるってこと。アタシが知らない情報をたくさんもっているはずだわ、秀吉のこともきっとそこに行けば!

 

「ありがと! 幽々子さん!」

 

「別に? 今日の演奏のお礼よ~」

 

「あ、待って優子!」

 

新聞を勢いよく返すとじっとしてられなかった。手を降っている幽々子さんをチラリと見て、皆が居る楽屋に直ぐ様向かった。吉井君とはひまわり畑で会って以来だけど、そこに行けばじっくり話ができる! アタシの旅の目的が果たされる!!

まずはプリズムリバーたちに事情を話そう!

 

『あらあら、随分とあわてんぼうさんなのね』

 

『幽々子様、あの、私は……』

 

『ん~? 妖夢はまだまだ未熟ってことよ』

 

『え、あ、はい……もっと精進します。試召戦争ごっこでは紫様にも目を引いてもらうように』

 

『その粋よっ! ファイト!』

 

『はいッ!』

 

 

 

『紫の活動できる時間も限界に近いわ……妖夢には内緒で、私も張り切っちゃおうかしら。ウフフ……』

 

 

――――☆――――☆――――☆

 

 

「ちょっといいかしら!」

 

「「「ぶふぉっ!!」」」

 

ノックもせずに襖を力一杯開け放ったせいで三人は驚いて楽器から変な音を鳴らしている。

 

「ちょちょちょ! 困るよゆっこ! びっくりしたじゃん!」

 

「もう~昇天しそうだったじゃないの」

 

「それで、どうしたんだ?」

 

リリカ、メルラン、ルナサの全員が丁度揃ってて助かったわ。アタシはさっき起きたこと、幽々子に伝えられたこと、新聞を見て寺子屋に行きたいということを説明した。

 

 

 

 

 

少女説明中...

 

 

 

 

 

 

「なるほどね~試召戦争ごっこね~」

 

「優子の弟が人里の寺子屋にいるのか……」

 

「かもしれないってところよ、けどアタシは確かめないと! だから、ごめん!」

 

昨日、プリズムリバーのボーカルを担当するって言った手前で勝手なお願いだと承知の上だ。誠意を込めて頭を下げる。

 

「ゆっこ、頭を上げな」

 

「リリカ……」

 

「気にすることはない、そもそも私たちが半分強制的にやらせちゃったようなもんだし」

 

「本当!?」

 

思わぬ言葉をリリカから耳にし声を大きくする。

 

「ああ、ただし! ここでのライブが終わったらだ。それまではプリズムリバー楽団にいてもらうからな!」

 

「ありがとッ! リリカ!」

 

「おいおい、照れるじゃん。離れてよ。ね?」

 

傍からルナサさんたちがにこにこしながらこっちを見ていることにはお構いなしにアタシはリリカに抱きつく。

 

「でもあれだからな! 人里で開かれる祭には出てもらうからな! それまでは自由時間ってだけ、分かったか!?」

 

「ええ! アタシの歌声でよければいくらでも聞かせてあげるわよ!」

 

「よかったな、優子」

 

アタシの喜びを共感してくれているようで妹紅も嬉しそうに微笑む。

 

「妹紅がいなかったらアタシは野垂れ死んでた、ありがとッ! 本当にありがとう!」

 

「ああ、優子が私を嫌いになるまで一緒にいるぜ」

 

自慢の友を異世界でも作れたことを本当に心から誇りに思う。この気持ちをいつまでも覚えて生きていくだろう。

 

「そろそろ開演だ。行くよ」

 

「は~い」

 

「あいよ、ゆっこも支度しなっ」

 

「わかったわ!」

 

「今回のライブはとても楽しいものになりそうだ……」

 

「どうして?」

 

「ライブで必要なのは演奏者の楽しい気持ちや嬉しい気持ちは不可欠だからね。優子がとても生き生きとしている今、最高のライブになるよ」

 

「ルナサさん……ええ、そうね!」

 

この後、西行寺家中をプリズムリバー楽団の演奏が数時間ほど響き渡ったという。観客席にいた妖夢は大満足、幽々子も「また次回も頼むわ~特に優子ちゃんの歌、良かったよ」と好評を頂いた。白いふわふわしたアレも楽しそうに揺れていた。大盛況のうちに幕を閉じた今回のライブはアタシ自身とても楽しめた。ルナサさんの言った通りね、勉強になったわ。

それからアタシは妖夢たちに別れの言葉を告げ、妹紅とプリズムリバーのみんなと共に人里まで送ってってもらう。

 

 

――――☆――――☆――――☆

 

 

「ここが人里ね」

 

アタシたちは人里までは何事もなく無事に辿り着くことができた。といっても人里付近に到着する。

 

「そう、寺子屋はこの道を真っ直ぐ歩けば着く」

 

「アタシたちは人里に入ると有名人だからここでと別れだ」

 

「また迎えに来るからその時は宜しくね~」 

 

ルナサ、リリカ、メルランがアタシと妹紅を見送る。思えばアタシの音痴を褒めてくれたのはこの三人が初めてだったなぁ……柄にもなく思い出を振り返る。

 

「もし私たちに会いたくなったら何時でも来なさい。大体居るから」

 

「分かったわ」

 

「その時はまた私が運んであげるわよ」

 

「ええ、ありがと」

 

「それじゃ、私たちはこれで」

 

「弟さんに会ったら宜しくなッ!」

 

「これ、プリズムリバー特別招待券、良かったら皆で来てね~」

 

メルランからコンサートのチケットのような紙を数十枚貰った。妹紅はその様子を見るとテンションが上がっている。

 

「おお! それは発売前にはとっくに売り切れてると噂されるほど超プレミア券じゃないか!」

 

発売前に売り切れるって、それどういうことよ……でも妹紅の様子を見てるとかなり貴重なもののようだ。まぁ頂いておくわ。有り難くね。

 

「ありがと、メルラン」 

 

「それじゃ、私たちはこれで」

 

「じゃあね! ゆっこちゃん!」

 

ルナサとメルランは別れを告げるとフワッと飛んで行こうとするが途中でリリカが動かないことに気付く。

 

「どうした?」

 

妹紅もアタシもその様子が気になる。

 

「い、いや、折角私に妹分ができたかもって思ってたんだけどな……」

 

「リリカ……」

 

「まっ、姉妹とかって一緒にいないと寂しいよな。私もルナサ姉とメルラン姉とはずっと居たいし」

 

「そうね……でもリリカ。アタシは必ずまた戻ってくるから、ちょっとだけ離れるだけだから悲しまないで」

 

一番アタシとの別れを思ってくれているのがリリカとは、アタシも少し驚いたけど、そんな風に考えてくれていることが何よりも嬉しかった。

 

「ああ、その辺の妖怪に食われないよう蓬莱人にしっかり守ってもらいなよ?」

 

「言われなくっても、誰にも優子を傷付けさせねーよ」

 

「格好いいわね妹紅」

 

「そろそろ行くよ、リリカ」

 

「分かったよ。じゃあな!」

 

そう言うとリリカはルナサさんたちと合流し、そのまま屋敷へと帰っていった。

 

「行っちゃったわね……」

 

「この狭い狭い幻想郷、そんなに悲しまなくとも何時でも会えるのにな」

 

「ふふっ。さて、寺子屋に向かいましょうか!」

 

「あいよ」

 

人里の中をゆっくり歩くのは初めてなアタシは辺りを見渡すと日中様々な人が元気に過ごしているのが見えた。殆どの人が着物を着て過ごしていて、江戸時代にでもタイムスリップしたのかと錯覚してしまうほどのようね。

 

「人里には妖怪が攻めてこないよう結界が貼られてる筈だから安心するといい」

 

「そうなの?」

 

アタシに気遣っているのかもしれないけど、柳の木の下に首が3個に見える、明らかに人間じゃない人がいるのは気のせいなのかしら。

 

人里を観光気分で歩いていると前から知り合いが何やらキョロキョロしているのが見えた。思わずアタシは声をかける。

 

「吉井君!」

 

向こうもアタシたちに気が付いたのか大声を出して、満面の笑みで手を降り、こっちに走ってくる。ひまわり畑で見たあの巫女服ではなかったのが少しだけ残念だけど着物姿も様になっている彼を見ていると流石ね、と思わず顔が綻びる。

 

「木下さん!!良かったあ! 元気そうで何よりだよ!」

 

アタシを見るなり無邪気にはしゃぐ吉井君を見ていると思わず照れてしまう。さりげなくアタシの手を掴んでるし。

 

「明久か、久し振りだな」

 

「妹紅も一緒だったんだね。もしかしてずっと木下さんと一緒に?」

 

「あぁ、優子と一緒にいると楽しいからな」

 

妹紅の実力は恐らく向日葵畑で理解しているだろう吉井君はアタシたちが一緒にいることである程度察したようだ。

 

「そうだったのか。おっと、今は感傷に浸るのは早い! 秀吉に早く会ってあげて!」

 

「秀吉!?……秀吉は元気にやってる?」

 

「うん、今は元気に雄二やムッツリーニたちと一緒だよ」

 

はち切れそうな思いを押さえ、吉井君の前では冷静さを保ちながら秀吉の状況を尋ねる。元気でやってるそうで良かった……。

 

「本当に、良かった……」

 

「秀吉も凄く心配してたからね……さぁ、僕が案内してあげるから一緒に行こう!」

 

「うん!!」

 

それから寺子屋までの道のりは頭の中に一切なかった。あるのは秀吉を最後に見たあの別れの瞬間が鮮明に思い浮かんだ。短いようで長かった。あの日届かなかった手にようやく差し伸べることができる。そう思うとまだ会ってもいないのに涙が奥からこぼれ落ちそうだった。ダメ、姉としての威厳を保つ為にも泣いてなんかいられないわ。

 

「雄二! ただいま!」

 

寺子屋の玄関を思いっきり開ける吉井君を後ろからそっと見ながら付いてくるアタシはなんて声を掛けようか考えるのでいっぱいいっぱいだった。文月学園のPR文をカメラの前で言う緊張感もあると思うけどそんなの比にならないくらい頭は真っ白にガチガチになっていた。

 

「優子?」

 

心配そうに見つめる妹紅のことは全く視界に入っていなかったアタシは大げさに驚いてしまう。

 

「ッ!!?」

 

「何をそんなに固くなってるんだ? ほら、笑顔で迎えてやりな」

 

「笑顔……!!」

 

そうね、何を愚弟にこのアタシが思考を巡らせなきゃいけないのよ。真っ直ぐ秀吉の顔を見て、笑顔でこう伝えればいいんじゃないの。

 

「姉上……? 姉上なのか!!!」

 

「ええ……元気そうで良かったわ。秀吉」

 

ただ、秀吉の元気な姿を見れれば、次に出てくる言葉なんてほら、簡単に出てくるもんね。

勢い余らせて秀吉が涙弱りながらアタシに飛びついてきたときは流石にびっくりしちゃったけど、仕方ないわよね。

 

「姉上……無事でなによりじゃった……」

 

「アタシがこんなところでくたばるわけないじゃないっ」

 

「うう……グスン……」

 

全く、人の目も気にしないでウェンウェン泣いちゃって。そんなに嬉しいとアタシも泣いちゃいそう。

 

「優子も素直に泣いてもいいんだぜ?」

 

「ふ、ふん! 吉井君たちの前で泣けるわけ……ないじゃない……みっとも、ない、じゃ……うぅ」

 

「明久、行くぞ」

 

「あ、うん」

 

堪えきれずに出てきしまったアタシの涙を見ると坂本君たちは奥の居間へとこっそり去っていった。それを確認したアタシも静かに大粒の涙を秀吉の温みを感じながら流して流して流しまくった。静かに、秀吉に顔を見られないように、でも肩に涙が溢れてシミになっている時点でもう隠せないけどねっ。

 

「ふふっ姉上も泣いておるんじゃな」

 

「当たり前よ、あんたが無事で本当に良かったわ」

 

「姉上にも人の心はあったのじゃな……ワシも安心したぞ」

 

うん、なんだろ、愛おしい弟が憎たらしい弟に気持ちチェンジしてきたわ。

 

「それどういう意味ィィィーーーッ!!?」

 

「ご、誤解じゃ姉上! ちょっとしたジョークなのじゃあああああ!!!」

 

 

 

ボキンッ(秀吉の背骨が曲がらない方向に曲がった音)

 

 

 

『ねえ雄二、なんか秀吉の悲鳴が聞こえるんだけど』

 

『気のせいだろ。さて、そろそろ次の段階に移行するか』

 

『というと?』

 

『秀吉もこれで本調子になるだろう。俺とお前とムッツリーニと秀吉、そして島田の五人でとある場所に向かう』

 

『へ? 別にいいけどどこに?』

 

『稗田んとこの資料によると人里に住み着く妖怪寺と呼ばれている場所だ。そこに清水がいる。現状を確認しておきたい』

 

『分かった。あとで僕もそれ読んでおくね』

 

『時間の無駄だからやめとけ』

 

『酷い!』




近日中とはなんだったのか、どうもこきゅーです。
色々事情がころころと変わってきまして更新が遅れました。許してヒヤシンスッ!

うん、凄く私を見る目が養豚場のブタを見るような目で見られてる気がするのでこの辺で。

次回の投稿は来週から再来週の間にします。実は言うと話の内容もある程度は決まっていますが先行きが怪しい状態で……。
この空いていた時間は全部現実というクソゲーで手一杯だったもので……(汗

では次回お会いしましょう。サラダバー!



~余談~

最近バカテストの内容が全く思い付かない……orz
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