バカと霊夢と幻想郷   作:こきゅー

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土屋康太
ムッツリと庭師と白玉楼


私は魂魄妖夢。

ちょっぴりお茶目な庭師よ。

白玉楼で幽々子様に毎日必死に仕えています!

………ちょっとギャップあるんじゃないかなこれ。

 

「妖夢ぅ~ご飯まだー?」

 

「さっき食べたばかりじゃないですか!!」

 

いつものように私の主人、幽々子様はお食事の後のデザートを要求してくる。

食べても食べても太ったりはせず、その栄養は胸に宿っていく……正直うらやましい。

 

「えぇー、普通デザートくらいあるでしょう?」

 

「幽々子様、デザートもさっき特大ケーキを丸呑みしましたよね?」

 

そう、実はこの亡霊さっきも甘いものを補給したばかりなのである。

 

「うん、美味しかったわ」

 

「ハァ……分かりました。デザート作りますのでもう少し待ってください」

 

「分かったわー」

 

ここは幻想郷の幽霊が集う場所、その名は白玉楼。

白玉楼ではたくさんの幽霊たちと毎日平和に過ごしている。

時々閻魔様の監視による調査も入るが基本異常はない。

 

「あれ、もう食材が何にもない……」

 

「妖夢ーーまだーーー?」

 

「すいません、材料がないので買ってきます!!」

 

「そんなーーーっ!!私死んじゃうじゃないの!!」

 

「もう死んでます。では行ってきます!!」

 

冷静にツッコミを入れて私は人里へと向かった。

財布、よし。

お金、よし。

忘れ物はない……と思う、飛びながら確認をしておく。

 

「もぅ、妖夢のバカぁ~!」

 

後ろから幽々子様の声が聞こえてくるが、振り返らずそのまま人里へ続く長い階段の上を飛行する。

白玉楼は冥界、つまり死んだ者しか入ってはいけない。

普通の人間がなんらかの原因で中に入ってしまうと命を簡単に落としてしまうからだ。

そういったこともあるので私は買い物する時はいつもこの道を通ることにしている。

 

「………妖夢は一生懸命ね~感心、感心♪」

 

「相変わらずここの階段は長いなあ……さて、と……侵入者も特にいないよね」

 

妖夢は時々白玉楼に不法侵入する者を追い出す仕事もしている。

背中に二本の刀を背負っているのもその為だ。

もっとも、あまり使うことはないのだけれど……それだけ平和が続いているんだろう。

たまに異変で騒がしくなるけど、彼女の出番はさほどない。

いつもは博麗の巫女――博麗 霊夢や黒白の魔法使い――霧雨 魔理沙が片づけてしまうからだ。

といっても、神霊たちが騒ぎだすという異変は彼女も干渉したのだが、それはまた別のお話で。

 

「…………あれ?」

 

ふと階段を降り続けていくとそこに人間らしき男の人が倒れているのを目にする。

彼は土屋 康太、通称「寡黙なる性識者(ムッツリーニ)」。

彼は基本的にあまり喋らないので私、現在入院中のナレーションが努めさせていただきイタタタ。

 

「こんなところで死人? でも魂とか見あたりませんね………つまり、まだ息あるじゃないですか!!医者に見せ――」

 

「…………んん」

 

「あ! 気が付いたようですね!!大丈夫ですか?」

 

「………っ!!!!」

 

 

ブシャー!!

 

 

「キャーー!!ち、血!?相当重症ですね……幽々子様、しばしの寄り道お許しください!!」

 

こうして妖夢は一人の意識不明(多量出血)を背負うと医者の元へと急いだ。

 

「ハァ………ハァ………す、すびませーん!!」

 

重症の患者を運び、やってきた場所はとある診療所。

妖夢はそこの妖怪とは縁があり、診てもらおうと急いでやってきたのだ。

 

「はーい、今開けますね。って、妖夢じゃない!!どうしたの? そんなに慌てて」

 

「じ、実は……材料が切れてて買い物に出かけたら家の前でこれを」

 

「っ!!すぐ師匠を呼んできます!」

 

顔面血だらけの見ず知らずの人間を見ると月兎は師匠を慌てて呼びに行った。

 

「……………大丈夫かな」

 

妖夢は心配になり人間の顔を見てみる。

 

「っうわ!!もう顔面真っ赤じゃない!」

 

早く手当てしないと……この人の命が危ない!

とっさにそう思った。

 

「お待たせ!!」

 

鈴仙が師匠と呼んでいる人と一緒に戻ってきた。

その人は患者の様子を見終わるとくるりと背を向ける。

 

「さっそく患者を連れて行きます。妖夢、あなたも来て」

 

医者の助手、つまり八意 永琳の鈴仙・優曇華院・因幡が診療室へと連れて行く。

 

「あ、はい!!」

 

これで少しでも助かる希望が持てるというものだ。

 

「うーん………顔面骨折でもしたのこれ?」

 

「あ、それは鼻血だと……」

 

「なにがあってこんなに出血したのかしら……まぁ、すぐに薬を調合してきます。うどんげ、患者になにかあったら知らせに来るように」

 

「分かりました!!」

 

そう言うと永琳は薬を作るため調合室へと向かっていった。

 

「…………このままなのも可哀想だし、血、拭いてあげましょうか」

 

「そうですね……」

 

妖夢はようやく一段落つけた。

白玉楼の敷地に無断で入る輩が多いのだが……まさか侵入しようとして失敗したのかな。

だとしたら、そんな悪人を私は助けていることになる。

 

「これでよし」

 

鈴仙が顔を拭き終わりタオルは真っ赤になっている。

よほど量が多かったのだろう。

 

「うわ、絞ればダラダラーってでますよこれ」

 

「…………」

 

「…………妖夢?」

 

「ほぇ!?な、なに?」

 

「どうしたの? 急に黙り込んで……」

 

「うん、ちょっと考え事」

 

「心配ならいりませんよ! 師匠の薬はすごいんですから」

 

だが、妖夢が心配しているのはそんなことではなかった。

 

「アナタの師匠は優秀ですよね」

 

「まぁ、私の自慢の師匠です!」

 

そんなことは今はどうでもよかった。

ただ、一つだけどうしても無視出来ないことが頭から離れず、考え込んでしまう。

 

(まぁ、意識が戻れば聞いてみよう)

 

「出来たわ」

 

永琳がそう言いながら戸を開けた。

 

「早速飲ませるわね。といっても起きてくれないと飲み込んでくれそうにないわね……」

 

「患者に一時的に幻覚を見させると言うのは?」

 

鈴仙も必死になって考える。

 

「意識がないんだからあなたの目を見れないわよ」

 

「そ、そうでしたね……」

 

「ここは待つのが一番ね。すぐに起こせることもないけど……」

 

「何故待つのが一番なんですか? この患者って重症なんじゃ……」

 

「ハァ……うどんげ、よく聞きなさい」

 

「は、はい!」

 

「アナタ、患者の顔の血を拭いた時に何も思わなかったの?」

 

「えっと……凄い多量の血が出ていて……くらいしか」

 

「まだまだ修行不足ね。だから新参ホイホイとか言われるのよ」

 

「はい、すみません」

 

「結論から言うと、ただの鼻血よ」

 

「えぇーっ!?」

 

「顔の傷に特に目立ったところが無かったもの」

 

「そうですね、私が見たときはただ意識を失っていただけでした」

 

「って、妖夢!!知ってたの!?」

 

「え、あ、私言ってなかったっけ?」

 

「……………そうだっけ?」

 

「え!?」

 

「アハハハ……ちょっと耳から抜けてたみたい。なんだ、それなら時期に目が覚めるじゃないの」

 

「そうでもないわ、うどんげは詰めが甘い」

 

「ほぇ?」

 

「あんなに、例え鼻血だろうと出血していたに変わりはない。早く輸血してやらないと」

 

「あ、そうですね……でも、この患者の血液型なんて……」

 

「それで私の作った薬があるのよ」

 

「流石です!!」

 

「もっと褒めなさい」

 

なんだかんだで永琳さんと鈴仙は楽しそうだなと、ついつい見とれてしまう。

 

「……………ん」

 

「「「っ!!」」」

 

突然の声にその場にいた三人は一斉に患者の方へと視線を映す。

 

「………不覚」

 

「いいえ、目は覚めてますよ」

 

「………もう二度も食らわない」

 

「ん? 順に話してくれないと分からないわ」

 

「………っ! ウサ、さ、さ、サ――」

 

「な、なんか私の方見て暴走しそうなんですけど」

 

「多分私たちの姿に慣れていない、つまり外来人ね」

 

それだけの情報で外来人と分かるのか……。

さすが永琳さんだ。

そういえば、服装も私達のとはちょっと違った感じがするかも。

 

「人里の人間はこんなリアクションはしなかったはずよね?」

 

「あ、はい! 最初は警戒されましたが時が経つにつれ皆さん信頼してくれるようになりました」

 

そういえば鈴仙はたまに永琳さんの薬を人里へ持っていって売っていると聞いたことがある。

生活資金を稼ぐのも楽じゃない。

 

「………ところで、ここはどこだ?」

 

鈴仙を見た後は周りをキョロキョロとし始めた。

 

「ここは永遠亭と言って小さな診療所よ」

 

「………ありがとうございます」

 

「気にしないで、私は八意 永琳。あなたは?」

 

あ、やっとこの人の名前が聞ける。

私は耳と目を一点に集中させた。

彼の名前を聞くためだけに。

 

「………俺は土屋 康太」

 

「土屋君ね」

 

「………っ!!」

 

「ん?」

 

「………何でもない、ただ少し揺れただけだ」

 

何が揺れたんだろう………。

 

「そしてこっちが私の弟子みたいなもので名前は鈴仙・優曇華院・因幡。長いから自由に呼んでもいいわ」

 

「よろしく」

 

鈴仙は土屋さんに手を差しだし握手を求める。

 

「………よろしく」

 

土屋さんの表情はどこか照れているように思えた。

 

「………その耳について詳しく」

 

「あ、これ? 付け耳とか言われるんだけど正真正銘本物の耳よ。触ってみる?」

 

「………(コクリ)」

 

土屋さんが頷くと鈴仙は耳を触りやすい位置に下ろした。

 

「………85か」

 

ん?今なにか言ったような……。

 

「………(もふ)」

 

「あ……」

 

「………(もふもふ)」

 

「……ん」

 

「………(ズイー)」

 

「イタタタタタタ!!引っ張らないで!!」

 

「………兎の擬人化?」

 

「まだ混乱してるみたいね」

 

ムッツリーニside

 

「………………」

 

俺は……あの後どうなったんだ。

姫路と島田が八雲という奴になにかされた。

そして俺は油断した……!

 

「まぁ時間と共に馴れてくるわよ」

 

目の前にいるのはここの医者らしき人物、八意さん……。

聞いたことない。

しかし、こんな絶世の美女……写真に収めなければ……っ!?

 

「そうですね……って、どうしました?」

 

俺を救ってくれた一人のウサミミの人が尋ねてくる。

 

「………ない」

 

「なにがないんです?」

 

「………カメラ」

 

「カメラ?」

 

「カメラってあの新聞記者が持ってるの?」

 

後ろから声が!!

 

「………俺の後ろに立――」

 

俺は気になり振り向いた。

そこにはあの時にいた娘だった!!

 

「………!!」

 

「あ、えっと、まだ名前言ってませんでしたよね」

 

是非聞かせてくれ。

 

「私は魂魄 妖夢、よろしく」

 

「………幼夢さん、ありがとうございます」

 

「それ字違う!!妖怪の妖に夢でよ・う・む!!ていうかそれでなんで読むの!?」

 

「………(ガックシ)」

 

「なんか落ち込んでるように見えるのは私だけ?」

 

「まぁまぁ、土屋さんも平気みたいですし、あとは妖夢んとこで」

 

「え!?」

 

「だって、この人外来人でしょ? 私のとこに既に一人いますし」

 

「………頼む!!」

 

 

ガンガン!!

 

 

「わわわ!!分かった! 分かったから頭を壁にぶつけないで!」

 

「………心より感謝する」

 

「それじゃ妖夢、なにかあったら薬飲ませれば大丈夫だから」

 

妖夢は薬と思われる液体が入った小さな瓶を受け取る。

………華奢で小さくてそこまで胸もない体。

子供のような純粋な瞳、差し出した手の指の細さ。

見た目にそぐわない長刀と少し小さい刀の二本を背負っている。

 

………彼女は一体、何色なのだろうか。

 

「あ、はい! ありがとうございました!!」

 

「………また来る」

 

「ん? なにをしにですか?」

 

「………必ずカメラを探し出す」

 

妖夢さんを撮影した後、ここに戻って盗撮しよう。

 

「撮影する気満々ですよ師匠」

 

「まぁ、良いんじゃない?」

 

ところで、俺はなにをしようとしてたんだったか……まぁいい。

必ず、必ずカメラに!!

 

「禍々しいオーラ全開ね。はぁ……幽々子様に怒られないかな……」

 

「……………」

 

「………(ジーー)」

 

「あの、土屋さん」

 

「………なんだ」

 

「私の顔になにか付いてます?」

 

「………(フルフル)」

 

なぜ俺のしていることがバレた……。

そっとばれないようにただ見ているだけなのに。

 

「それより、どうしましょうか……」

 

「………なにかあるのか?」

 

妖夢さんが顎に指を置いて考えている。

その姿も……くっ、やられた上にカメラも無くすとは、情けない話だ。

 

「いや……アナタ、飛べる?」

 

「………!!」

 

飛べる……とべる……。

 

「………ぶっとべる(グッ」

 

「なんかそれ意味違うような………私が聞いてるのは空を自由に飛べますか? ってこと」

 

「………(ガックシ)」

 

「落ち込むことではありませんよ」

 

「………情けは無用」

 

「情けもなにも病人をほっとける訳ないです」

 

妖夢さんは見ず知らずの人にこんなに優しくしてくれて……ありがたい。

 

「っさ、私の手に掴まって。詳しく聞きたいことが沢山ありますしね」

 

「………(コクリ)」

 

俺は言われるがままに妖夢さんの小柄な手をつかむ。

 

「………っ!」

 

「ん、どうしました?」

 

俺は驚愕した。

妖夢さんの手は尋常なほど冷たく、思わず驚いてしまう。

 

「………冷たい」

 

「あぁ、私は半分人で半分は幽霊なんですよ」

 

最初俺はジョークのつもりかと思った。

 

「その証拠に、ほら」

 

妖夢さんが指差す先には白く、ふわふわとなにかが浮いている。

まさに幽霊のようだ。

信じられない。

 

「………幽霊とて写真に写るはず」

 

「私も撮られるんですね……」

 

その後、妖夢さんと共に空の旅を楽しんだ。

ゆっくりと飛んでくれている……俺は正直掴むので精一杯だった。

 

すると、いつの間にか俺は妖夢さんの手を握りしめ空を飛びどこかの屋敷みたいな場所へ到着。

 

「幽々子様ぁーっ!!」

 

屋敷に着くなり、妖夢さんは慌てている。

一言だけ、俺に待っててと言い残し、そのまま中へと入っていった。

 

「あ、妖夢ー!?遅かったじゃな――」

 

「すみません幽々子様、買い物はまだなので外来人を連れてきました」

 

「あわてすぎて会話が成り立ってないわ。買い物がまだなので外来人を連れてきたってどういうこと?」

 

俺は屋敷の前に一人棒立ちとしている。

屋敷の周りには白い魂らしきものがたくさん見える。

 

「あ、すみません。話すと長くなるので」

 

「いいわ、話してみなさい」

 

「はい、実はですね――」

 

屋敷の中からは妖夢さんの会話が聞こえる。

幽々子……「様」? ……ゴクリ。

それより、この白くてふわふわ浮いているこれは触れられるのか?

そーっと手を伸ばしてみるが透けてしまった。

 

「………写真もいいがまず情報がほしい」

 

そうだ、写真より、姫路たちを探さなくては。

しかし、闇雲に探すのは自らの死を表す。

ここは俺の知っている日本ではない。

 

「なるほどねぇ……外来人……ふーん……いいんじゃない?」

 

「……随分てきとうですね」

 

「あら、適当だったかしら」

 

「ま、許可もでましたし、暫くは家に住まわせるという方針でいいですね?」

 

「分かったわぁ」

 

ん、どうやら会話が終わったようだ。

屋敷の奥から廊下をジタバタと走る妖夢さんが見える。

 

「土屋さん! 幽々子様の許しを得たので暫くは家に泊まっていってください」

 

「………なにからなにまですまない」

 

「いいんですよそんなの。っさ、あがって」

 

「………お邪魔します」

 

「土屋さんは客間に案内しますんで、しばらくそこで休んでて」

 

「………了解」

 

さて、これからどうするか……。

 

「どうですか、私たちの家は」

 

俺は客間に案内されながら屋敷のいろんなものが目に入ってくる。

 

「………和風」

 

今時畳など、珍しい。

縁側から見える外の景色は最高だった。

昔は和風の家で使うことは多かったが、今は洋風で畳は滅多に見ない。

俺たちは歩きながらも話を交わす。

 

「そうですね……外の世界だと珍しいのですか?」

 

「………そうでもない」

 

「そうですか。それにしても土屋さんって無口って言われませんか?」

 

「………ない」

 

「ここは白玉楼――死んだ後の世界。ここには生きた生身の人間は入れないの」

 

「………分かった(シャキッ)」

 

「わわっ!!どこからそんな刃物を!?しまってください!」

 

「………今俺は生きているはず」

 

「まぁそうなんだけど、アナタのような性格なら死ななくても大丈夫」

 

「………俺はそんなに地味ではない」

 

「地味には見えませんよ?」

 

とりあえず、俺はなにかと都合がいい存在なのかもしれん。

 

「さて、着きました。すっかり昼を過ぎちゃった……」

 

ここならゆっくりと整理出来そうだ。

早速、畳の上に座ると俺はすべきことを思索する。

 

「………………」

 

カメラもない今、俺のすべきことは一つ。

姫路や島田の救出。ついでに明久たちの発見。

その後からでも遅くはないだろう。

 

「ん? どうかしましたか?」

 

考え込んでいる最中、妖夢さんが話しかける。

 

「………俺の他に、人は見なかったか?」

 

まずは聞き込みだ。

もっと早く行動に移せば医者の永琳さんたちの話も聞けたのだが……それは不可能に近い。

 

「んー……そうねぇ……そういえば外来人が鈴仙とこに一人いたとか……」

 

「………本当か!?」

 

「多分……あ、ごめんなさい、私は買い物に出かけますので、それでは!!」

 

そう言い残すと妖夢さんは急いで飛んでいった。

 

「………広い」

 

部屋に着くなり俺は畳にゆっくりと座り込んだ。

それにしてもこのい草の匂いが時代を超越した思いに浸らせる。

周りを見渡すとなんとも今の日本ではあまり見ない感じの和風な部屋だ。

この部屋に元々ひかれていた布団もふかふか、寝心地は最高だろう。

高級ホテルにでも来たかのようだ。

窓からの景色も葉が赤へと染まった、わずかな量だがまだ生きている庭が見える。

地面を見ても枯れ葉がなく、なんとも美しい状態を保持していた。

これが春になれば花見も楽しくなりそう。

絶世の美女に辺り一面広がる絶景、妖夢さんをこの場所で撮れば瞬く間に売れるはず。

ずっと見ていると江戸時代にタイムスリップしたかのような感覚にとらわれる。

誰が手入れをしているんだろうか。

こんなに広いのに、身が持つのだろうか……あ、幽霊に体はないか。

 

「………折角だし、挨拶に」

 

この屋敷には幽々子という妖夢さんの知り合いか何かがいるはず。

その人にも礼と挨拶に行かねば。

そんなことを思って、いざ立ちあがろうと。

 

 

サーッ(幽々子が客間の戸を開ける音)

 

 

「………誰だ(ブシャー)」

 

「わぁーいきなりすごい鼻血ね」

 

いきなり現れたのは着物から大きな二つのメロンがチラリと見える美女だ。

ふわふわとした衣装。

帽子にナルトのようなマークがあるが……そ、それよりも……ブシャ。

だ、ダメだ……俺はこれ以上持たない……!!

 

「………死してなお、一片の悔いなし(グッb」

 

そして、俺は真っ赤に染まった(主に鼻血で)畳の上で瀕死になる。

あの人は俺を殺す気なのか……ブシャッ!

 

「死なれても困るわ……あなたは大事なお客様だもの」

 

「………そのスイカの中で殺してくれるのか」

 

「誰も言ってないわ、そんなこと。はい、これ飲んで。妖夢が慌てて私の部屋に置いていったままなのよ。多分薬だと思うわ。でもなんの薬かしら……」

 

「………ありがとうございます」

 

俺は幽々子さんから瓶を受け取る。

これは……妖夢さんがもらっていたあの薬。

一体どんな効果があるのか分からないが……俺は、まだ終われないってことだ。

 

 

ゴクゴクゴク

 

 

「………!?」

 

幽々子さんに渡された薬を飲むとたちまち鼻血が止まっていく。

それだけではない。

この感覚……俺がいつもしている…これは……。

 

「………輸血?」

 

まるで輸血されたような感覚。

いつも持ち歩いている輸血パックは今はない。

 

「あらあら、大丈夫?」

 

「………大丈夫だ、問題ない」

 

しかし、あの二つのスイカ、直視するとまたすぐ鼻血が!!

なるべく直視をしないように、いつか盗さt……写真撮影させてもらおう。

 

「え~っとたしか……ムッツリーニだったかしら?」

 

「………ちが――」

 

待て。

 

「………何故その名を知っている」

 

俺はこの人と会ってからまだ自己紹介していないはず……なのになぜ。

 

「それは内緒よ、あなたには色々説明しておきたいことがあるの。親友の頼みだから仕方ないの」

 

「………分かった。俺も沢山知りたいことがある」

 

この人は今回の件の何かを知っている。

あの人の親友なのか……?

とにかく、話を進めよう。

………それにしても、なぜカメラがない!

 

「ムッツリーニさん、貴方には幾つか伝言を預かっているわ」

 

「………ここに泊めたのもそのためか?」

 

「そうなるわね。他にはあるかしら?」

 

少し腕を出し、次に俺へ質問を尋ねる。

 

「………俺のカメラは知「知らないわ」………なぜ即答」

 

少し切ない気持ちが横切る。

 

「あなたにカメラを持たせると厄介なことになるって言われてね。でも私は持ってないわよ? 証明してみる?」

 

そう言うと幽々子は服を脱ぐ体制に入る。

 

「………別にいい」

 

今はカメラがない、それに輸血もあの薬がない。

手段は断たれた……我慢するしかない、耐えろ。

 

「では、次どうぞ」

 

着物を整え、俺を促す。

聞きたいことはまだまだあるから、焦らずに聞き出して行こう。

 

「………ここは日本か?」

 

「答えはノーよ。ここは幻想郷」

 

「………げんそうきょう?」

 

まるで聞いたことがない。

 

「私たちは、あなたたちのような外の世界から来た人間のことを外来人と呼んでるの」

 

「………がいらいじん」

 

「そう。私からはこれ以上言うことは無いわ。次、どうぞ」

 

最初に会ったときのおとぼけてるような感じ時とはかなり違う。

油断すると気迫で抑えつけられそうだ。

場所に関しての質問はもういいだろ、次は……。

 

「………姫路達はどこにいる」

 

「それは、私からは言えないわ。でもいづれ知ることになる」

 

「………命の安全は?」

 

「大丈夫じゃないかしら? 私は知らないけど」

 

………どこかうさんくささが漂うが、嘘ではなさそうだ。

俺達を誘拐して、その様子を高みの見物という訳か?

死ぬより辛い目に――ってことでもなさそうだ。

まぁ、今はこの人のスリーサイズを測定しないと。

………もちろん、こっそりと。さて、次の質問は。

 

「………幻想郷と言ったな。どんなところだ?」

 

「そうね……一言で言えば……『楽園』かしら」

 

「………楽園?」

 

その言葉は今の俺にとってぴったりだと思った。

俺の脳内フォルダじゃ限界があるから、なんとしてでもカメラに収めたい。

そうすればまたムッツリ商会はさぞかし賑わうことだろう。

………あ、今は明久の写真が売れてたっけ。

 

「………そうか」

 

「あら、もう終わり?」

 

首を傾け、不思議そう表情をしている。

もっと聞きたいことがあると思っていたんだろう。

なら、せっかくだしもう少し聞くとする。

 

「………幽々子さんは味方……でいいのか」

 

「えぇ。私は襲ったり食べたりしないわ」

 

「………おそったり……たべたり……」

 

この一言が、ムッツリーニの地雷を踏むこととなった。

 

 

ブシャー!!

 

 

「また鼻血……聞いたとおりの子ねぇ」

 

「………く、薬を」

 

「はいどうぞ、『私』の薬よ(はぁと」

 

「………わたしの……?」

 

 

ブシャー!!

 

 

「おおぉ~また一段とすごいわね」

 

 

ゴクゴク

 

 

「………殺す気か」

 

まだあったのかあの薬。

 

「面白い子だわぁ~」

 

今の幽々子さんには先ほどまであった気迫は無く、のんびりとした性格に戻っていた。

 

「質問も終わって、落ち着いたみたいだし、伝言を言いますっ!!」

 

「………誰の所為だ」

 

あと、楽しんで見えるのは俺の気のせいか?

 

「まず一つ、貴方達は死なないようがんばってもらう」

 

……ん?俺たちを死なせたくないのか?

頑張るというのは……何を、だ?

 

「次に、幻想郷の様々な事を知ってもらう」

 

なるほど、俺になぜかは知らないが幻想郷のありとあらゆるスリーサイズを測定したものをまとめたファイルを作れということか。

………冗談。

まずは皆の安否を確かめねば。

 

「………暗記は苦手」

 

「なら一番賢い人に話してって言ってたわ」

 

「………坂本」

 

「最後に――」

 

最後の伝言、きっと重要なことだ。

よく聞いておこう。

俺は今まで以上に幽々子さんの顔を睨むように見つめた。

 

「私たちの迷惑をかけないように!!以上、親友からの伝言でした」

 

「………(ガクっ)」

 

「あららら……」

 

なんか、気が抜けた。

迷惑……? どういう意味だろうか。

 

「………あ」

 

「なに?」

 

「………幽々子さんの親友って……俺たちの知っている人か?」

 

「う~ん……これ言ってもいいわよね……うん、あなたたち全員知ってると思うわ」

 

「………分かった」

 

これで幽々子さんの親友=誘拐犯だというのが一致した。

……しかし、少し疲れた。

 

「それじゃぁ~ムッツリーニぃ~」

 

笑顔でゆっくりと俺との距離を縮める。

 

「………ッ!」

 

な、なんだ……なにかする気か?

 

「外の世界で覚えたんだけどーやってもいい?」

 

「………あぁ」

 

殺す気はないよな……?

一体何を。

 

「いくわよ~~えぃ!!」

 

 

バサッ!!(幽々子が上着をさっと脱いだ音)

 

 

「………□@∋∇≒!!!!」

 

 

ブシャアアアアァァ!!

 

 

「おぉ~~綺麗な紅の噴水ぃ~~このしあわせパンチは効果絶大ね♪」

 

「………やっぱり殺す気あるんじゃ……」

 

 

ガクッ

 

 

『あら大変、気を失っちゃったわ』

 

『幽々子様ーこちらにいらして――ってなにしてるんですか!?』

 

『あ、妖夢お帰りなさーい』

 

『ただいま……じゃないです!!まず服を着てください!!!』

 

今の衝撃で、ムッツリーニの記憶のほとんどが消し飛んだのは、言うまでもない。

 

「………う……ん」

 

「あ、目が覚めたみたい」

 

俺は……たしか……なにを。

 

「幽々子様になにされたか知らないけど、無事でよかったわ」

 

辺りを見渡すと俺の部屋とは別室となっている場所のようだ。

もしかしてここまで運んでくれたのか?

そして、

 

「………俺を看病してくれたのか」

 

「一応ね。ちなみにもう夜になってるわ」

 

窓をふと覗くと暗くなっている。

 

「晩御飯出来てるけど、食べる?」

 

「………いいのか」

 

「なにが?」

 

「………俺なんかに飯をくれて」

 

「当たり前じゃない! ご飯食べないと体が持ちませんよ?」

 

「………すまない」

 

妖夢さんにはなにからなにまでお世話になりっぱなしだ。

俺になにか……出来ることはないか?

 

「………あの」

 

「ん? なに?」

 

「………俺になにかさせてくれ」

 

「いいのよ、あなたは客なんだから」

 

「………それじゃあ俺の気が済まない。家事とかないか?」

 

「あ、家事とかできるの?」

 

「………それぐらい、紳士の嗜み」

 

「なら晩御飯の片付けを手伝ってもらえるかな」

 

「………お安い御用」

 

「ありがと! それじゃ居間に案内するわね」

 

俺は妖夢さんの後ろを付いていく。

まだこの屋敷の見取り図を把握しきっていない。

一人で出歩くと迷子になるのがオチだろうしな。

 

「……………」

 

妖夢さんを先頭に、後に続く俺は後ろ姿を見ているだけで満足出来た。

 

「………あの、何か背中についてます?」

 

「………!(ブンブン)」

 

ただ背中を見ていただけなのに……さすが妖夢さん、なるべく気配は消していたのだが。

 

「………(ふわ~)」

 

そんな時、ふと視界に妖夢さんの幽霊の部分(半霊と言うらしい)が映った。

 

「………(ゆっくりしていってねー)」

 

このふわふわ浮かぶ謎の白い物体……ほんとにこれは幽霊なのか……にわかに信じがたいが、今目の前にこうして存在している。

ここの屋敷にも何体か見たが……。

 

「………(?)」

 

「………ジー」

 

「あの、さっきから視線がくすぐったいんですが」

 

「! ………すまない」

 

あれ、俺はいつの間に妖夢さんをまた直視していたのだろう……。

そんなつもりはなかったのだが……。

 

「………(www)」

 

………この半霊に殺意が芽生えそうになった。

もうすでに死んでいるので二回目ということになるのか。

 

「………ひょい」

 

「!!!?」

 

俺はこの半霊に少し興味が湧いたのでこの手で触れてみようと思い腕を伸ばした。

そしたらすぐに捕まえられた。

おかしい、他の幽霊は透けたはず……なぜこの半霊は捕まえられたのか。

そしてなぜ妖夢さんがあんなに大きい声をあげたのか。

 

「ちょっと! やめて下さ――どこ見てるんですか!!」

 

「………すまない」

 

つい本能として半霊の下半身と思われる場所を下から見上げてみた。

生き物として、当然の行為だと思う。

 

「私とその霊はつながってるんです! ですのであまり悪戯はしないでいただきたい!」

 

妖夢さんが顔を真っ赤にして注意をする。

つまり妖夢さんが痛いと思ったことは半霊にも比例し、半霊が触れた感覚は妖夢さんにも感じるということか。

 

「あ、すみません、つい強く言い過ぎま――だからそこ見るの止めて下さい!!」

 

「………もう少しだけ」

 

「だめです!」

 

………残念。

 

――――☆――――☆――――☆

 

「幽々子様、お連れしました」

 

「ありがとぉー美味しいご飯には皆で食べないとねぇ~」

 

「………すごい量」

 

なんだあの量、俺たちの分と比べてもとても三人分の料理に見えない。

 

「幽々子様はかなりの暴食なのよ……毎日作る身にもなってほしいものです」

 

俺の表情から読み取ったのか、妖夢さんが横から説明する。

 

「あら、毎日ちゃんと残さず食べてるけど?」

 

「………苦労してる」

 

「それじゃ、座って座って」

 

幽々子さんに言われ、適当に空いているところに座る。

この人には敵意とかはない、今後はさん付けで呼ぶことにしよう。

 

「はぁ……まぁいつものことですしね。私も多分慣れました」

 

妖夢さんも空いているところに座る。

全員で料理を円形に囲むように座る。

まさに昔の食卓、日本の代表的な家庭の風景のようだ。

 

「それでは――」

 

「「「いただきます!!」」」

 

「「「御馳走様でした!!」」」

 

妖夢さんが作った料理はどれも美味しく、何でも胃にスポーンと入る勢いだった。

しかし、例えば俺が「ニ」食べたとして妖夢さんが「ニ」とすると幽々子さんは「六」くらい食べた。

しかも完食。

………悪魔の力でも働いてるんじゃないか?

 

「今日も美味しかったわ」

 

妖夢さんは幽々子さんのたいらげた皿を取りに行く。

 

「ありがとうございます」

 

一礼すると妖夢さんは皿を持っていこうとする。

どこにあの量をしまう胃袋があるんだ……?

おっと、家事を手伝う約束があったな。

 

「………手伝う」

 

「お願いね」

 

「………任せろ」

 

 

サッ!!

 

 

サッ!!

 

 

サッサッサ!!

 

 

俺は手際良く食卓の食べ終えた残りの皿を台所へと持っていく。

 

「……そ、そんなに張り切らなくても」

 

「………この量だ。早くしないと汚れが落ちなくなる」

 

「……そうね。にしても早いわね」

 

「………身体能力は高い」

 

「動きを見れば分かるわ。まるでプロの人みたい」

 

ひとまずすべての皿を水に浸けていき、すぐに洗う準備をしようとする。

 

「あー、お皿は任せて、土屋さんは机を拭いてくれませんか?」

 

「………承知」

 

適当に置いてあった布巾を持ち食卓を綺麗に拭き上げる。

この机は一般の家庭にもあるような机だ。

拭いていて気分が良くなる、自分でも説明がつかない気分になる。

隣では幽々子さんがゆっくりくつろいでいるのが見えた。

 

「あと牛を一頭分食べたかったわね……」

 

黙々と作業をこなしていると、そんなつぶやきが耳に入ってきた。

どこまで食べるんだ……。

 

「終わりましたか?」

 

「………あぁ」

 

「わぁ、かなり綺麗に拭いて下さったんですね。ありがとうございます」

 

妖夢さんの笑顔を見てるともっと机を拭きたくなる。

疲れも吹っ飛ぶとはこのことか。

 

「………次は?」

 

「次は私の皿洗いを手伝ってくれませんか? 実はまだ片付かなくて」

 

「………了解」

 

家事なんてものは俺にとっては安易なものだ。

妖夢さんに言われ俺は皿洗いの手伝うこととなった。

隣には大量の汚れた皿がまだまだたくさん置いてある。

妖夢さんは俺が食卓を拭いている間にもひたむきに洗っていた。

 

「………あとは俺に任せてくれないか?」

 

そんな様子を見てつい頑張りたくなった。

 

「え、まだこんなにあるけど……大丈夫?」

 

「………大丈夫だ、問題ない」

 

指先を立てて、余裕という意思表現をする。

 

「………終わった」

 

さすがにあの数を洗い流すのは少々無茶したが、見事に皿は綺麗に元通りになった。

 

「え、もう終わったのですか?」

 

様子を見に来た妖夢さんが綺麗になった皿を見て驚愕している。

 

「………これくらい安いものだ」

 

「あなた、ほんと家事が得意なのね」

 

「………家事が出来なくては生きていけない」

 

「まぁそうなんだけど、男性の方って家事とか出来ないイメージだったので、ちょっと感心しました」

 

「……………」

 

今の妖夢さん……かなり可愛い。

照れながらも俺のことを褒めてくれる。

そんな妖夢さんを見て――

 

 

ブシャ!!

 

 

「あーっ!!せっかくピカピカになったお皿が、真っ赤に……」

 

「………すまない」

 

「土屋さんって変わった方ですよね。今更かもしれませんが」

 

「………そんなことはない」

 

しかし、俺の所為で真っ赤になってしまった皿をどうするか。

………愚問だったな。

 

「………もういちど洗う」

 

そんな様子を見て妖夢さんは、

 

「無茶はしないでくださいね。今度は私も手伝いますよ」

 

「………いいのか?」

 

俺のせいで二度手間だと言うのに。

 

「今度は私の番です。これも修行だと思えばいいんです」

 

「………微力ながらも助太刀する」

 

「ありがと」

 

妖夢さんは俺の方をニコッと笑い、隣で皿洗いの作業へととりかかった。

 

「………一ついいか」

 

「なんですか?」

 

俺たちは皿洗いをしながら、手は止めずに口を動かす。

 

「………妖夢さんは剣士なのか?」

 

「うーん、まぁそうなるかな。普段は庭師をしてるんだけどね」

 

庭師……というと、あの庭はいつもこの人が手入れしているのか。

ふと刀に目をやる。

 

「………二刀流か」

 

妖夢さんの後ろの背中に背負っている二本の剣が、薄々気になっていた。

 

「ただの剣じゃないわ。ちょっと見てみる?」

 

「………是非」

 

皿洗いの方はあらかた終わっている。

少しくらい休んでも多分大丈夫だろう。

 

「よいしょっ……ふぅ。こっちが白楼剣と言って人の迷いを断つことができるの」

 

「………人の迷い?」

 

普通の短剣ではなく、特殊な短剣なのでつい聞き直してしまった。

 

「そう、簡単に言うと迷って悩んでいる人をこれでバサッと決めてあげるの」

 

「………便利そう」

 

「確かにコレには随分助けられてるかな。でも楼観剣も凄いのよ? コレは妖怪を斬ることができるの」

 

妖夢さんはもう一本、今度は長刀について教えてくれた。

 

「………いかにも戦闘向き」

 

「この二本を使って、私はここに無断で侵入してくる輩とかを追い返したりするの」

 

「………すごい」

 

この人、普段から物凄く忙しいんだな。

弱音とか吐かなそう。

ここで一つ勝手だが決めた。

 

「っさ、そろそろ作業に戻りましょうか」

 

「………やっぱりいい」

 

「ほえ?」

 

いきなりのことで妖夢さんがきょとんとしている。

 

「………皿洗い、俺が全部片付ける」

 

「なんでですか! 私ならなんとも――」

 

「無茶はするな、そう言ったのは妖夢さんだろ?」

 

少し強引だったか。

場の空気が一気に悪くなるのが分かる。

もう遅いが反省はしよう。

だが、これ以上は俺に任せてほしい。

 

「……分かりました。そんなに言うならアナタに任せます」

 

そう言い残すと妖夢さんはすっと消えるように厨房から姿を消した。

 

「………余計なお節介……だったか……」

 

っさ、皿洗いする作業に戻ろう。

これが俺の選んだ道だ、今更悔んだところでどうしようもない。

これでいいんだ。

少しでも、休ませてあげれば……。

 

「………これで、本当に終わりだ」

 

ようやく二度目の皿洗いを終えることが出来た。

外はすっかり真夜中になってしまっている。

 

「………寝るか」

 

ここにもう用はない、自分の部屋に戻るとしよう。

 

「………寒い」

 

季節は紅葉がもう落ちる頃か、もうすぐ冬だ。

冬と言えば冬休み。

明久を再利用………また遊びたいものだ。

 

「………いつ、俺は帰ることが出来る?」

 

………自分に聞いても仕方ない。

俺は明日を待つことにした。

 

 

――――☆――――☆――――☆

 

~翌日~

 

「………朝か」

 

今日は何月何日だろうか。

俺がここに連れてこられた時は平日だった。

そのせいか、少し早く目が覚めた。

 

「………爽やかな朝だ」

 

だが、俺の心は曇っている。

昨日の件があるからだ。

あれは紳士として、不合格。

 

部屋を出て、ふと外を眺めると白玉楼から見る外はなんだか不思議な気分にさせる。

 

『……やぁ………はぁ!!……』

 

ゆったりしていると外からなにやら張り切っている声が耳に入ってくる。

 

「………誰だ?」

 

俺は気になって声の主の方向に視線を移す。

 

「やぁ!!ハァァァーッ!!!」

 

声の正体は修行に励んでいる妖夢さんだった。

 

「てぃや!!ハァ……ハァ……」

 

俺が寝ている間か、ついさっき修行を始めたのか分からないが息が乱れていた。

体力的にかなり無理をしていそうだ。

 

「ハァ……ハァ………」

 

 

ガクッ(妖夢さんが膝をつく音)

 

 

「………!!!」

 

またあんなに無茶して……俺は気になって仕方がなかった。

あんなにかわい……疲れているのだから。

 

「………なぜ、あんなにも妖夢さんは……」

 

俺は何だが居た堪れない気持ちになってくる。彼女は一人で努力を重ねる。

だが倒れてしまっては本末転倒。

なのになぜ……、

 

『それは、彼女自身が望んだからよ』

 

 

 

「「「いただきます!!」」」

 

妖夢さんは朝の稽古を終えたのち、すぐに朝ご飯の準備にとりかかった。

ご飯も美味しいがなんといってもその速さが凄い。

これも幽々子さんの為、師匠との約束を果たすためなのだろうか。

 

「あれ、土屋さんどうしたんですか? さっきから手が進んでないようですが……お口に合いませんか?」

 

ムッツリーニ視点だと今の台詞がとても初々しく、さらに可愛く見えた。

 

「………(ブンブンブンブン!!)」

 

 

ガツガツ………

 

 

「あ、そんなに慌てると――」

 

「………っ!!」

 

「喉に詰まらせますよって言おうとしたら……はい、飲み物!!」

 

ゴクゴクゴク……

 

「………助かった」

 

「まあ、死んじゃっても私が面倒見ますよ」

 

「………死にたくない」

 

「ねぇお二人さん、仲が大変よろしいようで」

 

気がついたときには、俺と妖夢さんの距離は目と鼻の先だった。

 

「「え………」」

 

そのことに意識してしまい、二人同時に顔を赤らめる。

 

「「す、すみません(すまない)!!」」

 

慌てて距離を置く。

 

「えぇー離れたら駄目じゃないの」

 

そう言う幽々子さんの姿は視界から消えていた。

 

「………?」

 

「こっちよ~~はいっ」

 

俺の右手が不動作にも動かされていく。

 

「え? 幽々子様、なにを――」

 

妖夢さんも左手が勝手に動く、いや、動かされているようだ。

 

 

そして、その両方の手は互いに重なるように置かれた。

 

 

「よいしょーっ」

 

「「………///」」

 

「もう二人とも可愛いんだから」

 

パシャ!!

 

「「!!!!」」

 

幽々子さんによって俺と妖夢さんの手が重なった瞬間に聞こえたこの音……。

今の音は俺がいつも聞いている音。

この俺のために生まれた音のようなもの!

 

「いやぁ朝からお二人ともお熱いですね~あややや」

 

「あなたは新聞屋の……!!」

 

「………誰だ?」

 

黒い羽根が生えていて明らかに人間ではないと悟った。

 

「ご紹介が遅れました。私、射命丸 文と申します」

 

「そ、そんなことよりさっきの写真、今すぐ消してください!」

 

「あやぁ~? 聞こえんなぁー」

 

カメラを片手にぶらぶらと動かす余裕たっぷりといったその動きは、うざいの極みだった。

 

「………消してくれないか」

 

俺からも頼む。

あの写真を分子レベルまで消滅させねば俺が分子レベルまで消えかねない。

 

「アナタは!!その格好からすると……外来人の方ですよね?」

 

さっきからいたんだが。

 

「文月学園二年F組、吉井 明久をご存知ですよね?」

 

「………!!なぜ……」

 

聞き覚えのある名前に俺は即座に反応した。

 

「何故かというと私直接会ってきたんですよ。それで他にも外来人がいるとの情報を得て探し回っていたのですよ」

 

これはなんとも幸運。

この人に聞けば明久たちの居場所も……!

 

「今回はいつものように新聞の配達中にたまたま、偶然見つけてしまったのです」

 

そのたまたまの場面があれということか。

 

「ってことで、取☆材ターイム!!!!」

 

「………取材?」

 

「この天狗には関わりたくないです」

 

妖夢さんがボソりと呟くのが聞こえた。

 

「………別に構わない」

 

「ほんとですか!?では早速――」

 

「………その代わり、さっきの写真の削除してくれ」

 

「えぇー………んー……」

 

しばらく考えてくれている。

 

「分かりました!!あの写真は削除しましょう」

 

「………恩にきる」

 

「助かります! またからかわれたりしたら困ります」

 

これで俺の命と妖夢さんの名誉は助かった。

 

「では、取材といきましょう!!」

 

「………約束」

 

「まずお名前は?」

 

「………土屋こ――」

 

「ムッツリーニですね?」

 

 

シャキ!!

 

 

「お、おおお落ち着いてください!!そのカッターナイフをしまってください!!」

 

「………土屋康太」

 

「分かりましたよぉ………えぇ、次に特技とか」

 

「………とう――写真撮影」

 

「盗聴とは、流石はムッツリーニさん」

 

「………帰りたい」

 

横では妖夢さんが苦笑いでこちらを見ている。

まるで同情されているようだ。

 

「ありがとうございます。では最後に吉井さんからの伝言です」

 

「………なんだと」

 

「私射命丸は要領よくこなすんで!」

 

「………内容は?」

 

「『人里の寺子屋に生きて集合する!!』とのこと」

 

「………了解」

 

明久らしいシンプルかつバカな伝言だ。

 

「人里ですか、ちょっと遠いですね」

 

妖夢さんから助言をもらう。

 

「あ、ちなみにこちらの文々。新聞にも載っていますので。では!!ご協力ありがとうございましたーっ!!」

 

文さんが取材を終えたのち、一瞬で飛んでいってしまった。

 

「………あ」

 

「どうしたんですか?」

 

「………カメラ探さなくては」

 

「そういえばまだ見つかっていませんね……」

 

あれがなければいつまでも写真を撮影することができない。

それは俺に「死ね」と言っているようなものだ。

 

「………ところで、人里とはどこだ?」

 

「妖夢――」

 

「分かっています。ですが――」

 

幽々子さんが妖夢さんになにかを止めようとしている。

きっと重要なことだろうから、俺は息を飲んだ。

 

「――お土産よろしくね」

 

「しばしの留守をお許しくださ――ってええ!?い、いいのですか?」

 

お土産か……そっちを心配だったか。

 

「え? なに? 止める理由ある?」

 

「いや、ないならないでいいのですが……」

 

予想外の言葉に困惑の表情を浮かべる妖夢さん。

俺も少々戸惑っている。

となると妖夢さんにはこれから一緒に人里まで共に行動することになる。

それまで妖夢さんと二人っきり……………ないだろう。しかし、わずかな希望は持っておくとしよう。

 

「………道案内頼む」

 

「いえいえ、いつも買い物の時に寄りますので」

 

「………それじゃ、悪いが早速頼む」

 

「分かりました! しかし――」

 

さすがに慌てすぎたか?

妖夢さんがなにやら言いづらそうだ。

 

「――朝ごはん食べて、片付けてからにしてくれませんか?」

 

「………!!」

 

そうだ、こんな朝ご飯を残すなんて……!

妖夢さんの飯を俺は残すわけにはいかない!

 

 

 

ムッツリ達食事中...

 

 

 

「「「御馳走様!」」」

 

「それでは、また皿洗いの方を手伝ってもらえますか?」

 

「………いいのか?」

 

「へ? だって、早く帰りたいじゃないんですか?」

 

「………感謝する」

 

昨日のことは許してもらえたのか……それとも俺の考えすぎだったのか。

兎に角、今できることをするだけだ。

 

 

 

庭師達片付け中...

 

 

 

「終わりました!」

 

「………終わった」

 

急いでやったせいかこの前よりも早く終えることができた。

 

「それじゃ、さっそく行きましょうか」

 

「………(コクコク)」

 

明久以外にも会えるといいが……とにかく、急がねば。

 

「それでは幽々子様、いって参ります」

 

「は~~い」

 

「………お世話になった」

 

「いえいえ、またいつでも来てね♪歓迎するわ」

 

それはつまりいつでも死ねということなのか?

相変わらずのんびりした性格なのか、意味深だったり……この人はよくわからない。

そんなことを考えているとふと目に写り、その視界には自分の何倍もする大きな木を見つけた。

ここに来る時も見かけたが、今思うとあの木だけやたらとでかい。

 

「………妖夢さん」

 

「ん? なにかしら」

 

「………あの木ってなんですか?」

 

「あぁ、あれね。あれは『西行妖』と言って妖怪桜よ」

 

妖怪桜……?

まぁ確かにこれほどでかい桜の木ならば妖怪とついてもおかしくない気がする。

 

「あの西行妖は昔々からあってね、今は咲かないの。でも数年前、私たちは咲かせようとしたんだけど止められちゃったのよね」

 

「………なぜ?」

 

「そりゃ他人の春度を奪って、異変まで起こしちゃったから巫女が私たちをふるぼっこにしたの。あぁ、私がいながら情けない」

 

春度……?

それがあれば咲くことができるのか?

 

「………今は咲かせるつもりは?」

 

「今はもうどーでもいいみたいだけどね。幽々子様が興味本位で咲かせたかったみたいだし」

 

ふむ、ならば俺もそっとしておこう。

 

「それでは、今度こそ行きましょうか。ちょっと飛ばしますので」

 

妖夢さんが手を差し伸べる。

俺はその手を強く握りしめる。

 

「………分かった」

 

やはり冷たい。

半分人間で半分幽霊という不思議な人……妖夢さん。

……まぁ可愛ければいいか。

 

「では、行きますよぉーっ!!」




少し長くなりすぎてしまった……。
一部省略でごまかしてます(汗
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