ワシと木っ端天狗と妖怪の山
「……姉上は一体どこじゃ?」
ワシは木下 秀吉
姉上と一緒に帰りが遅い明久たちを探しに行ったのじゃが……よく分からぬ。
自分でも収拾がつかないのじゃ。
「しかし、随分急な山じゃのぉ」
とにかく、今説明できることは場所がどこかの山ということ。
もう一つは、全く見たことがない生き物みたいなのがいくつか見えたことかのぉ。
なんかこう……白くてふわふわしてて……何かの毛みたいなものじゃな。
とまぁそんなとこじゃ。
「姉上ーーーー!!いたら返事をしてくれんか!!姉上ぇーーーー!!!」
さっきから声を出し、探しておるのじゃが、人の気配すらない。
「少し疲れた……あの木陰で休ませてもらおうかの」
歩きっぱなしでワシは少しだけ休むことにした。
「このまま、ワシはよく分からぬ山で飢え死にするのじゃろうか……」
悪い事しか浮かばない。
山故天気も変わりやすいし、雨でも降られたら危険すぎる。
一旦下山したほうがいいかの……。
いや、姉上がこの近くにいるかもしれぬ!
もしそうならワシは姉上を見捨てることになる。
あんな姉上でも、表紙が男同士の明らかに危険な同人誌を読む姉上でも、ワシは探すぞ!!
「よし、行くかの!!」
ワシが休んでる間にも事態はよくない方向に進んでいるかもしれぬ。
急ぐとしよう。
ワシが姉上を探そうと立ち上がろうとすると――
『誰かそこにいるのか!?』
む、人かの!?だとしたら助かった!!すぐにでも返事をして、助けてもらおう。
「おーい!!ここじゃ――」
『人間の場合は即排除する!!白狼部隊の者ならば今すぐ姿を現せ!!ここはお前等の来るべき場所ではないぞ!』
た、大変なことになってしまったのじゃ!!
どどど、どうすればいいのじゃ!!あわわわわ……。
ま、まずは落ち着くのじゃ。
誰かは分からぬが明らかに危ない奴じゃ。
人間……だと危ないのか?
ならば――
『おい!!そこに誰かいるのはわかってるんだ!!』
「にゃあ~」
『なんだ猫か。ここは危険だからさっさと帰れよ』
よし、さすがワシじゃ!!
勉学は苦手じゃがこのように演劇一筋のせいかの、芝居には自信があるのじゃ。
あとは頃合いを見計らってゆっくり離れよう。
「しかし、何者なのじゃろうか……」
いきなり生死の瀬戸際に立たされ更に訳が分からぬ。
人間には~と言っていたが、あやつは人間以外なのじゃろうか……それか国の極秘にしている謎の山なんじゃろうか……あやつの姿を見ておけばよかったが、あの時はそんな余裕なんてものはなかった。
「なるべくこそこそしてた方が良さそうじゃな」
声を出せばまた見つかってしまう。
ならば目だけで探すしかあるまい。
動物の鳴き声で探してもよいのじゃがそれだと姉上は本当に動物だと勘違いをするに違いない。
だとしても地声だとさっきの奴に見つかる可能性が高い。
自分で気付いたのじゃが、ワシって結構頭脳プレイがとれるのじゃな!
少し嬉しいのぉ。
この気分で歩き続ければきっと見つかるはずじゃ!
しかし、あれから全く変化がない。
歩いては探し登っては探し、目に映るのは紅葉が見事に綺麗な風景ばかりじゃ。
「むぅ……ワシは進んでおるのじゃろうか」
なんだか不安になってくるのぉ。
またあやつらに見つからないことを祈るしかない。
「姉上は………無事じゃろうか」
もしかしたらワシが助けられる側かもしれぬな。
あそこに姉上が――あ。
「……………」
「……………」
嫌な予感がする人と会ってしもうた。
「あなた……人間ですね」
「いや、その……」
どどど、どうしようかの!!
ま、まずは落ち着いて、目の前の人について整理をしておこう。
「なぜ人間がこの山に?」
右手に刀、かなり切れ味が良さそうじゃ。
左手に盾、紅葉のマークが印象的じゃの。
そして、犬のような耳を付けている……のか?
白い髪の毛でまさに――
「犬みたいな人じゃのう」
「私は狼です!!」
む?「私」?
「そちは女なのか?」
「へ? わ、私……そんなに勇ましく見えます?」
お?これは俗に言うチャンスというものではないか!?
よし、おだてて隙が出来たら逃げ出そう。
ワシにも未練はあるからの。
「とてもカッコ良く見えますよ?」
「いや、まだまだ私は修行不足の身です」
「その刀とかすごそうじゃのう」
「あ、これですか」
相手が見せるかのように刀を突き出す。
「この刀でアナタをバサッと斬ることもできますよ?」
あ、あれ?
ワシの演技が通用しとらんのか!?
「大人しく人里に帰りなさい!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! ワシはここに来たばっかりで――」
相手の剣士らしき人が急に動きを止めた。
「確かに、見たことない衣装ですね……ん? ワシ?」
「あ、この言葉使いは気にしなくても大丈夫じゃ。おじい臭いと言われるがの」
「ふむ……外来人の方ですか」
外来人?
「ここは外国なのかの?」
「いえ、ここは幻想郷です」
「ここは幻想郷の妖怪の山というところです」
げ、げんそうきょう?
妖怪の山?
聞いたことないぞ!
「それって……なんなのじゃ?」
「私からは以上です。さぁ、大人しく帰っていただきます」
こ、このまま引き下がる訳にはいかぬ!!
「あ、姉上をしらぬか!?」
「姉上? アナタ以外の人間は現在侵入者の報告を受けていませんが……」
この山にはきておらぬか……。
「分かった。帰り道が分からぬ故、道案内頼みたいのじゃが」
「……まぁ女性のようですし、私は持ち場を離れることができませんので地図を書いて――」
「ち、ちがうっ!!ワシは男じゃ!!」
なぜワシは女に間違えられるのじゃ!?
「え? 男? 嘘はだめですよ」
「じゃからワシは男じゃて――」
「取り合えず、早く帰ってください。長話してると怒られますので。あぁ地図はこれです。では、次はないですよ!」
剣士はワシに地図を渡すと驚きの早さでどこかに行ってしまった。
「むぅ……困ったのぉ……」
あの剣士から忠告を受けたし、姉上もここにはいないと言う。
大人しく下山した方が賢明じゃろう。
「しかし……どうしたものか……」
この地図、まるで読めぬ。
細かすぎるのじゃ……ワシから見ればこの地図は緑色しか見えない。
「とにかく、下山を目指すかの」
下山しても安全地帯なのかさえ分からぬが……目の前の危険を先に考えた方が良さそうじゃ。
「よし、頑張るのじゃ!」
必ずワシは下山してみせるのじゃっ!!
――――☆――――☆――――☆
「……………」
歩き始めて何時間経ったじゃろうか……同じ場所をぐるぐる回っておるような気がするのう。
「早くせんとまた……」
さっきの剣士に見逃してもらったというのに、次は会わぬようせんと。
ザーー………
「む? なんじゃ?」
なにやら音が聞こえる……なんの音じゃろうか……。
「ふむ、行ってみるかの」
行き先は特にないし、せっかくだから寄ってみるとしよう。
何か手がかりになるかもしれぬしな。
ザァーーー
音はでかくなっておる。
この先で合っているようじゃな。
ザァァァァァ!
「この音は……水じゃ!!」
滝が流れる音が聞こえる。つまり水がこの近くにあるということ。
これで水分補給は大丈夫じゃな。
「よし、急ぐかの!」
ワシは一目散に音源地へと向かった。
ザァァアー!!!!
「滝じゃな!!」
近くで確認すると滝の音じゃと確信に変わった。
周りの風景も山から抜け出したという感じさせるほど見晴らしがよい。
「空が……青いの」
思えば今日初めて空を見上げたかもしれぬな。
こんなにも今日の空は燦々としておったのか……。
「そういえば……」
この水飲めるのかの?
どれ……。
「んく………ぷはぁー! うまい!!」
これはなんとも美味じゃ!!水とはこんな味をするのか!
山の水は美味しいと聞くがまさかこれほどとは……。
「………ん?」
あそこに見えるのは……先ほどの剣士の方じゃな。
向かい側にはまた特徴的な姿をしておる誰かがいるのう。
とにかく、また会ってしまってはまずい。
「ここは慎重に後ずさりを――」
カラカラ(偶々秀吉の足元にあった小石を蹴った音)
ポチャン(小石が川にインした音)
「――ッ!!」
気付かれた!?
一瞬ヤバいと思ったのじゃが滝の音で何とかなると思ったワシが甘かったのか!!
「あなたは先ほどの」
「面目ない! もう二度とここには来ぬので――」
「あー、今は大丈夫ですよ」
ワシは思わぬ返事に腰を抜かした。今は……とはどういう意味じゃろうか
「上から何も出てないし、ご自由にしててください」
ふむ……取り合えず助かったということかの。
「っさ、始めますよ!!」
剣士の方がもう一人に何やら勝負を挑もうとしておる。
両者を挟んで中央には碁盤がおかれておるが……一体なにを?
「椛も好きだねーこれで二十回目だよ?」
なるほど、あの剣士の方は椛さんと言うのじゃな。
「にとりが少しでも手加減してくれたらいいんですよ……」
そしてそちらの……よくわからぬ植物を持っており、緑色の帽子をかぶっておるのがにとりさんというじゃな。
「ははは、椛ったら、バカいっちゃいけないよ? 勝負は常に全力でするものだよ」
「うう……」
椛さんは困っておるようじゃのぉ。
ところで何をしておるのかの?
聞いてみようかな。
「ところで、何をしておるのじゃ?」
「これは将棋ですよ。見ての通り」
あぁなるほど、たしかに「王」と書かれた駒や「金」などが目立つ。
「ひゅい!!?」
「な、なんじゃ!?」
突然にとりさんが驚き、消えてしまった?!
「にとりってば、人見知りなんだから……というかさっきからいたじゃないですか」
「い、いやぁ……ちょいといきなりだったもので」
「ッ!!?」
と思っていたら突然にとりさんが出てきた。
「あんたは人間だね。椛から少し聞いたよ」
「これはどうもなのじゃ」
軽く礼をする。
「私は河城 にとりっていうんだ。さっき消えたのはこの服のおかげなんだよ」
「そうじゃったのか」
なんとも奇妙な服じゃのう。
見た目はごく普通というのに……。
「私は犬走 椛と申します。あ、いぬばしらじゃないですよ?」
「よろしくなのじゃ、ワシは木下 秀吉じゃ」
「それにしてもおまえさん、変な喋り方をするね」
「いやぁ、これはどうしようもないのじゃ」
やっぱりこの喋り方は他人から聞いたら変なのじゃな。
前々から知っておったのじゃがな。
「名前も変だね、秀吉って外の世界の武将の名前だっけ?」
「あの秀吉ではないのじゃ。漢字はそうなのじゃがな。ワシはただの高校生なのじゃ」
男子から告白をされたり、男子トイレに入ろうとすると怒られたり、男子更衣室で着替えようとするとみなが止めに入ったり、トランクスで海に行こうとすれば監視員に捕まったりしておるが、ワシは普通の高校生じゃ!
うむ、なにもおかしいことは……大ありじゃな。
自分で思い出しておきながら少し涙が出てくるのぅ。
こ、これは心の汗じゃ!
「木下 秀吉さんですね。しかし、なぜ下山しなかったのですか?」
椛さんが急に鋭い目つきでワシの方を睨んでいる。
「あ、い、いや……そ、それはじゃな……」
ワシも答えが返せず、戸惑ってしまう。
「なぜですか?」
ここは素直に答えた方が無難じゃろう。
「じ、実は……地図が読めなくて……」
思いきって告げてみた。
もしかしたら怒るじゃろうな……せっかくの親切を水に流してしまうのじゃから。
「あぁ、この地図、あはは……」
む??笑っておる? なぜ……。
「どうしたのじゃ?」
「いやぁ、これじゃ外の世界からきた木下さんに伝わるはずありませんよ。私のミスでした」
「なんじゃ、ミスじゃったのか。なんだか安心したのじゃ」
「む……そこで安心されても……」
「まあまあ、そんな地図じゃ誰も読めないってw」
「にとり!?ひどいですよ! 私だって頑張ったんですからね!?サラサラっと書いてかっこよく『次はないですからね』って言ったんですよ!!」
「いやぁ椛にそれは似合わないって」
「くぅん……」
にとりさんに言われ少ししょんぼりしておるの。
しかし――
「やはり犬みたいじゃの」
「私は狼です! 白狼です!!」
あ、つい口が滑ってしまったのじゃ。
「すまぬ、つい……」
「はぁ……もっとかっこよくなりたいな……」
「見た目より中身の方も大事にしないとだめだと私は思うよ?」
「それはそうですが……やっぱりもっと強くなれれば……」
「将棋のことじゃな」
「いやいや、将棋じゃないです! まぁそれも強くなりたいんですけど、私が言ったのは弾幕ごっこのことです」
弾幕ごっこ? なんじゃその遊びは。
「あぁーすごい不思議そうな顔をしているようだねぇ~よろしい! 私が教えてあげよう! この『超妖怪弾頭』がとことん教えてあげよう!!」
な、なんだかすごく嫌な予感がするのじゃが……。
「あぁなったらにとりは止められないです。木下さん、頑張ってください」
「ちょ、ちょっとまってくれんか! 今から何を――」
「なにも怖がることはないよー、ただ弾幕ごっこについて私のエンジニア魂がうずいてね。完璧に分からせてあげよう!」
にとりさんが背中のリュックの中から出ている伸びた腕でワシの肩を掴む。
「い、いや、その……ワシは暗記が苦手で――」
「そんなものはモーマンタイだよ! さって、まずは何から説明しようかな~」
な、なんかスイッチ入ったようじゃの……。
分かるよう説明してくれるのはありがたいのじゃが……嫌な予感がさっきからして寒気まで起きているのじゃが?
「では、私は見回りをしてきます。ちょうど終わったところで戻ってきますので」
「あ、ちょ――」
椛さんはこの場からさっさと逃げるかのように飛んで行ってしまった。
「よし、こうしよう! さて、秀吉さん……レッツ レクチャー!!」
ワシも男じゃ、全部覚えてやろうじゃないか!!
秀吉勉強中...
無理じゃった。
「ダウンじゃ……これ以上は無理じゃ」
「まだ半分も終わってないよ? それでスペルカードというのは――」
まだ半分すら終わっとらんのか!?
「も、もう大体理解したのじゃ!!わ、ワシはもう大丈夫なのじゃ!」
「え? そう? 物分かりが早いのも私の説明のおかげなのかな」
ふぅ……もう頭の中から何か汁みたいなのがでそうじゃ。
「終わったみたいですね」
そこに丁度のタイミングで椛さんが帰ってきた。
まるでずっと見ていたかのようなグッドタイミングじゃったの。
「椛も大変だよねー毎日毎日」
「いやいや、これも仕事ですから(棒)」
あ、そうじゃったな。
椛さんはただ逃げるために見回りを口実してただけ……バレとらんのかの?
「それより、秀吉さんはこれからどうするつもり?」
「ん~……まずは姉上を探したいの」
話はそれからじゃな。
「姉上ってどんな人?」
「ワシらは二卵双生児で顔はワシとほとんど同じじゃ」
「なるほど……もし見かけたら椛に伝えさせるよ」
「え!?だ、ダメですよ! 私はあまり勝手な行動が出来ない身なんだから!!」
「そこはワタシがうまく言っておくからさ」
にとりさんが自信を張って言う。
「うーん……分かりました」
「ほんとか!?恩に着る!」
これでもし姉上がここを通りかかっても大丈夫じゃな。
「しかし、木下さんはどうやってここから下山するつもりですか? 我々天狗達は常に見回りをしているので見つかる可能性は高いですよ」
「そこはワシの演技力で何とかして見せる!」
「演技……ですか」
椛さんは心配そうな顔でこちらを見ている。
そうじゃな……ワシの演技もここでは通用せんときがあるかもしれんし……。
「奥さん!!そんな時は――」
突然にとりさんが叫びだした!?
「この私に任せてよ!!へっへー!」
な、なにが起きるというのじゃ?
「はいよっ! 丁度余ってたからあげるよ」
「……これはなんじゃ?」
渡されたのは……多分ここでは普通だと思われる服だった。ヨーロッパの貴婦人が着ているような、どこか幻想的な服とも言えよう。
「よくぞ聞いてくれた! これは――」
「光学迷彩だよね」
「あ! 椛のくせにー!」
「どこのガキ大将ですか。身分的には私の方が上なんですからねっ」
「ずるい……」
兎に角、この服はなんなんじゃ?
「あ、説明がまだでしたね。といってもにとりが来ている服と効果は一緒なんだけどね」
「まだ光学迷彩を作って間もない頃だから性能は私のより劣っているよ」
なるほど、これで姿を消せるというのか。
「ちなみに、そこのポケットの中に制服を入れるといいよ。そのポケットは大体入れるから」
なるほどのう、見た目は制服を折りたたんだとしても少しキツそうじゃが……。
早速着てみるかの。
しかし随分科学が進んでおるんじゃな。
……もしやここは未来なのかのぅ。
「ジーーーーーーーーーーーーーーーー」
「そ、そんなに見ないでくれんかの///」
「見事な体だねーこれは――」
「ちょちょちょちょちょちょちょ!!なにをしておる!?」
見ているだけかと思ったのじゃがにとりさんがいきなり近寄ってきた。
「なにって……見てるだけだよ(ニヤニヤ)しかし、見事に小さいね」
「ワシはまだまだ(身長とか)成長するぞ!?」
「いやまて木下さん!!にとりが言ったのは胸のことです!!」
「なぬ!?そちまでワシを女じゃと思っていたのか!!」
「え!?違うのか!!」
「違うのじゃ!!」
椛さんもそうじゃったがにとりさんまで……ワシ時々自分の性別に自信がもてなくなりそうじゃ。
「確かに木下さん、女の子にしては胸がないですね……」
「椛さん、ワシの性別は胸基準かの……」
「そのうちナイスバディになりそうだよね~……あ! 今度そういう機械作ってあげようか?」
「じゃからワシは男じゃ!!男が巨乳でどうするのじゃ!!」
「木下さん落ち着いて……とんでもないこと言っちゃってるから」
「こほん、えっと……どこまで説明したっけ?」
「まだ着たばかりですよ!」
「OH! ソウデシタカ」
「……話が進みません」
全くじゃ。
「ごめんごめん。んじゃ早速。秀吉さん、そこのダイヤルを回してみてよ」
えっと……これかの。
右肩に付いていていかにもダイヤルと言った感じじゃな。
カチャカチャ……
「あ! 木下さんが消えましたよ!!」
「ほんとか!?」
自分では確認の仕様がないから実感がわかん……そうじゃ、足元を見れば……あ、確かに消えておる!!
「まだ使えたみたいでよかったよ。んで、今度は逆に回してみてよ」
左にじゃな、了解。
カチャカチャ……
「あ、見えました!」
「これはすごいのぅ、にとりさんと同じようじゃ!」
「まぁさっきも言ったかもだけどそれはまだ光学迷彩を発明して間もない頃に作った試作品、いつ壊れるか分からないよ。ちゃんとしたものがほしいなら作るけどちょいと時間がかかるよ」
「いや、これで結構じゃ。ありがたく受けとらせてもらうぞ」
「……やっぱり喋り方がすごい古いよねー私もなんだか懐かしく思えるよ」
ワシの喋り方は確かに古臭い感じもするのう。
「それにしてもにとりさん、なぜワシなんかにここまでしてくれるのじゃ?」
いくら何でもついさっき会った人にこんなスゴいものを渡すのはちと疑問じゃ。
「え? 別にいらなかったし、魔理沙もいらないってさっき言われてね。なにより――
――人間は盟友だからね」
「でた、にとりの決まり文句」
「いやいや、ワシかて河童じゃけん、人間は好きだよ~」
そうか、ワシらは好まれとるようじゃな。
………ん?
「河童とな?」
「あれ、まだ言ってなかったっけ?」
「全然イメージと違うのう」
たしか教科書で何度かみたのじゃがこんなに可愛かったかの?
「私も天狗なのですよ? さっきから言ってたような気がしますけど」
「むぅ……鼻が長くないの」
「鼻が長いのは私より偉い方々でして、私なんかは普通の鼻です」
そっちの方が似合っておると思うのはワシだけかの?
「ん……!」
急に突風に見舞われる。
風が少し強くなってきたかの……。
「っ!!木下さん隠れて!!」
急に椛さんが慌ててワシに隠れさせようとする。
「な、なにをするんじゃ!?」
「私の上司が帰ってきたんです!!アナタがいるとややこしいことになりますので!」
よ、よく分からぬが兎に角隠れるとしよう。
では早速この光学迷彩を使ってみるとしよう!
「私が良いって言うまで隠れててくださいね!」
「了解じゃ!!」
ダイヤルを右に回してっと……よし!
『さぁーて、これで外来人のネタは三つになるわねー。早速記事を書くとしましょうか! よし、飛ばし――ん? あれは……椛じゃん! 椛いるとこ私あり!!』
「よし、上手く見えてませんのでそのままで――」
「おやおやぁ、これは椛じゃないですかー、河童もいますね」
風が連れてきたかのように、その人は突風を起こしながら着地する。
「これはこれは天狗様じゃないですか。また記事を?」
「まぁね、そうだ、これ拾ったんだけど見てくれない?」
「こ、これは……カメラ?」
「しかも私のと似てるんだよねー白玉楼の近くで拾ったのよー」
「ちょいとそっちのカメラも貸してくれますか?」
「あいよー」
あれが椛さんの上司かの。
大きな黒い羽が格好良いのぅ。
「ふむふむ……見た目は似ているが私が天狗様に渡した方が性能が上ですな」
「それって使えないの?」
「いや、今は何かの衝撃でシャッターが効かないですが原理が同じでしたら直せないこともないですよ」
「いつぐらいまでかかる?」
「二、三日私に預けていただければ直せます」
「分かった。ありがとね(カシャ)」
「んな!!文さんいきなり撮らないでください!!」
「さっきの表情、実に良かったですよ。さすが私の部下です」
文と椛は相性が最悪だった。生真面目な椛に対して文は自由奔放。
椛はそんな先輩を好きになれなかった。
「さっきの写真、消してください!!」
「そいつは無理な相談だ、ではでは、また会いましょうー!!」
まるで嵐を連れてきたような人だったのう。
風を纏うその姿はまさに台風の目。
口調は巫山戯て(ふざけて)いたが、天狗の真の姿を垣間見た瞬間でもあった。