一夏が
「ラインハルトさん、今日こそはあなたのボディに一発でも拳を当ててみせますよ」
「その台詞は今のを入れて679回目だ。何度同じ台詞を聞かねばならないのだ俺は…」
「じゃあ一発だけは喰らって下さいよ」
「いや、わざと当たったら意味が無いだろ。これは一夏、お前が
一夏は何とかラインハルトに拳を当てようとするが、ラインハルトは簡単に一夏の動きを読み一発一発を軽々と避けていく。ラインハルトが言う様にこのままだと本当に後先が心配になってきたので、尚更一夏は必死に拳を当てようと頑張った。
しかし、一刻経っても当たる素振りは無く模擬戦は終了し、今日の修行は終わりだとラインハルトは告げた。
「本日の修行はここまでだ。」
「待って下さい!俺はまだやれます!」
「いや、今日はもう休むといい。適度に身体を休める事も重要だ。特にお前の場合は気持ちを落ち着かせる事も大切だろう。分かったなら、休め!いいな」
ラインハルトは一夏に休んで気持ちを落ち着かせる事も大切だと告げた後に自分の守護宮である磨羯宮に戻っていたので一夏も聖域に戻ろうと山を下っていた時だった。
一夏の前から白いシャツを着た一夏と同年齢と思われる紺色の髪の少年が登ってくるのが見えたので、その人物に一夏は声を掛けた。
「おーい、わざわざこんな所に何しに来たんだ祐介」
「一夏か。何、ちょっと時間が有るからな。この裏山から見る景色をキャンバスに描こうと思ってな」
一夏が声を掛けた少年の名前は祐介。一夏が聖域に来て出来た友人の一人である。祐介は腕にイーゼルとキャンバスを抱えており、祐介本人は言う通り、絵を描きに来ただけの様だ。
「聖闘士の訓練所に使われている裏山でスケッチをしようと思うなんて…さすがは狐座フォックスの聖闘士って事だけは有るな」
「何を言うか。俺が先に聖闘士になったと言えど、お前も俺に負けない程の素質が有る筈だからな。早く聖闘士になって、お前も心に少しの余裕を得られる様に頑張ればいい話だ。お前の師は俺の師である蟹座キャンサーのカブキと同じ
「俺は言われた通りに修行しても、今日までラインハルトさんとの模擬戦で拳一発当てられずに終わっているけどな…」
「そうか…とりあえずは少し休んで気持ちを落ち着かせてみると良いかもしれん。気持ちが落ち着いてリラックスした状態の方が力を発揮出来るかもしれないからな」
「ラインハルトさんも気持ちを落ち着かせる事も重要だって言っていたし、祐介もそう言うなら少し休んで気持ちを落ち着かせてみる事にするか」
「そうした方がいい。さてと、俺は絵を描くのに専念したいから一夏、お前は早く聖域に戻って休むといい」
祐介は一夏に聖域に戻って休む様に言った後、イーゼルを立たせキャンバスを設置すると絵を描き始めたので一夏は祐介の邪魔にならない様に静かに裏山を降りていき、聖域に戻り身体を休めようと就寝所で眠りにつこうとするが…
「はあっ、休もうとしても体力が有り余っているから寝れないな…ちょっと、身体を動かすか」
休もうにも気分が乗らない一夏は就寝所を出ると、聖域の近くに有る森の中に入ると拳や蹴りを森の木に向かって放ち、ラインハルトとの模擬戦に備えてのイメージトレーニングを合わせた自主トレを行うが、小宇宙に目覚めていない自分では一本の木を倒すのにも時間が掛かってしまうので、本当に自分に聖闘士としての素質が有るのか不安に思えてきた。
そんな一夏の様子を森の奥から見ていた者が一夏の後ろから彼に近寄ると一夏に声を掛けた。
「相変わらずぶきっちょな奴だな…お前は」
「その声は、まさか!?」
「よう、久しぶりだな一夏」
「やっぱりお前か、紅蓮!」
一夏に声を掛けたのは紅蓮という赤いコートを着た少年だった。紅蓮は少しツンツンした黒髪でルックスの良い誰が見てもイケメンと思える容姿をしている。紅蓮は一夏や祐介とは違い聖域に住み込んでいる訳ではなく、絶海の孤島と言える様な場所で修行をしている聖闘士の候補生であり、彼の師が聖域に行く時に一緒に来ているので、たまに顔合わせする程度だが一夏と紅蓮は互いに認め合っているライバルであると同時に友でもあるのだ。
そんな彼がここにいるという事は彼の師である人物も聖域に来ていると思い、一夏は紅蓮に尋ねた。
「紅蓮、お前がいるという事はお前の師である鳳凰座フェニックスの一輝も来ているんだよな?」
「えっ…」
「どうしたんだよ紅蓮?何か様子が変だぞ…」
一夏は紅蓮に彼の師であるフェニックスの聖闘士である一輝も来ているのではないかと尋ねたのだが、紅蓮の反応からして何か様子が変だと思った一夏はもしかすると一輝に何か合ったのではないかと思ってしまう。紅蓮はそんな一夏の考えを理解してか話し出す。
「一夏、俺の師であるフェニックス一輝は…ある奴との戦いで致命的なダメージを受けてしまい、聖闘士として再起不能の怪我を負ってしまった…」
「何だって!?伝説の聖闘士である不死身と呼ばれるフェニックス一輝を再起不能にまで追い詰める様な奴がいたっていうのか!?」
「ああ…事の八反は四日前、デスクィーン島で何時も通りに一輝の指導の下修行していたんだが…その日は一輝がいきなり修行を一時中止すると俺に言った後、デスクィーン島の奥深くにまで一人で向かっていたんだ。それで様子が変だと思った俺はこっそりと一輝の後を追ったんだ。一輝の姿が見えた時、既に奴と対峙していた…一輝は奴と対峙し、互角の戦いを繰り広げていたんだが…奴は何処からか拐っていたまだ幼い子供を盾にして、一輝が攻撃出来ない様にしたんだ。一輝は自分が技を放てば無関係な子供を巻き込んでしまうから下手な攻撃は行えなくなったところを奴は躊躇なく人質にしていた子供を引き裂き殺すと、引き裂いた子供の亡骸を自身が持っていた大砲の様な物の中に突っ込むと、小宇宙を蓄積させた弾丸として一輝に放ったんだ…」
「子供を盾にした上に子供を殺して亡骸を弾丸として扱ったっていうのか、ソイツは…」
「そして、弾丸となった子供の亡骸は強力な一撃を持っていて一輝の片腕を吹き飛ばし、再起不能の大怪我にまで追い込んだんだ。その後、奴は『愛を守る聖闘士はやはり幼い子供を巻き込む様な真似は出来ない様ですね。戦いに綺麗事は無用なのですよ!勝てば正義、負ければ悪!それだけの簡単な理屈です。どんな事をしてでも勝てばいいのです!何故なら勝った方が正義なのですから!』と高々に言った後に姿を消したんだ…」
「そうだったのか…ところで紅蓮、少し悪いけどそのお前が言う奴って何者なんだ?」
一夏は紅蓮が奴と呼ぶ存在が気になり、どんな人物なのか尋ねたが紅蓮は首を横に振る。
「すまないが一夏、奴の名前だけは解らない…だが、姿形はハッキリと覚えている。奴は大きな単眼のマスクを被って素顔を隠し、聖衣に似た鎧を纏い、その上にローブを羽織った大男だ!奴だけは絶対に俺の手で倒さないと気が済まない!一輝から託されたフェニックスの聖衣と共に奴を倒してみせる!」
紅蓮はそう発言すると、コートのポケットから赤い結晶が付いたペンダントを取り出すと一夏に見せた。
「それはフェニックスの
「そうだ。一輝がグラード財団の経営する治療所に連れて行かれる前にこのフェニックスの聖衣石を俺に託したんだ。この聖衣石を託されたからには俺はフェニックスの名に恥じない聖闘士になってみせる!」
「そうか。お前が一輝さんの後を継いで戦うって決めたなら、俺もお前の力になってみせる!もし一輝さんを追い詰めた奴と戦う事になった時には俺も一緒に戦ってお前を手助けするって約束するぜ!」
「そうか、お前が協力してくれるのなら有り難いな。でも、それはお前も自分の聖衣を持ってから言おうな」
「ははっ…確かにまだ小宇宙にも目覚めてない俺が言える台詞じゃなかったな…」
「まあ、お前はぶきっちょだからな。小宇宙に目覚める前段階にまで来ているのに、心の何処かで慌てている感じだから気持ちを落ち着かせさえすれば、きっとお前も聖闘士になれる筈だ。さて、そろそろ俺は教皇に会ってフェニックスの聖闘士になった事を伝えに行く。じゃあな!」
紅蓮は一夏に気分を落ち着かせる様に告げた後に教皇に一輝の後を継いでフェニックスの聖闘士になった事を伝えに向かった。
「気分を落ち着かせるって言ってもな…どうすれば気分が落ち着くんだかがさっぱり解らないんだよな…とりあえず、自主トレを再開するか」
一夏は再び自主トレを再開し、木に向かって拳や蹴りを繰り出していき、何度も繰り出している内に一本の木が倒れるが一夏は険しい表情をしていた。
「ダメだ…一本の木を倒すのにこんなに時間が掛かる様じゃ聖闘士なんて到底なれる筈も無い…」
自分の今やっている自主トレじゃ力不足に思えた一夏を見かけたある人物が彼に近付くと彼に向けて発言した。
「確かにね。それじゃ只の環境破壊だし、木一本を倒すのに時間が掛かる様じゃ聖闘士への道は遠いかな。それにそんな荒い動きじゃ、体術の訓練にもならないと思うかな」
そう一夏に少々厳しい言葉を送ったのは、少し青みが掛かった長い黒髪を持つ一夏と同年齢の少女だった。その少女の発言を聞いた一夏は少し苦笑いをしながらも彼女と話し出した。
「相変わらず厳しいな…お前はさ…」
「まあね。実際、私はあなたが聖域に来る前から聖闘士になっていたし、同じ歳と言っても私の方が聖闘士としては先輩になるからアドバイスをしてあげてるんだよ。それにしても本当に変なところで不器用だよね、一夏は。聖闘士としての素質は確かに有るのに未だに小宇宙が目覚める事が無いなんて…」
「うるさいな。嫌味を言いに来ただけなら帰ってくれないか!」
「そんなつもりは無かったんだけど…ええと、とりあえずは聖闘士である私が小宇宙に目覚めるコツを教えてあげてもいいかな?まあ、君が頭を地べたにつけて必死に頼むなら考えてあげても構わないかな」
「ゼッテェお前だけには頼まねえからな…龍座ドラゴンの
今、一夏の目の前にいる少女の名前は龍音。龍座の聖闘士であり、伝説の聖闘士である紫龍の孫だ。かつては女性の聖闘士は仮面を付けて素顔を隠す掟が有ったが、今では現在の教皇がそんな古臭い上に性別で差別する様な掟など消してもいい筈だという事で教皇の圧力でもみ消したらしい。 彼女が一夏に嫌味っぽく話すので一夏は不快に思い、彼女に教えられるのはごめんだと告げるが、龍音は自分が一夏の発言の一部が気に入らないらしく機嫌が悪くなった様だ。
「別に私は父様とお祖父様の名前を利用するつもりは無いから!もういいもん!一夏の様な朴念仁に教えてあげる事なんて何も無いもん!じゃあ、私は行くからね!後で『やっぱりコツを教えてくれませんか』って言われても絶対に教えてあげないからね!」
「ああ!別に言わねえから大丈夫だ!」
「えっ!?あ、あれ?ここは普通は必死に頼むところじゃない?本当に大丈夫?」
「お前、俺に教えたいのか教えたくないのかどっちなんだよ…」
一夏は龍音が自分に小宇宙に目覚めるコツを教えたいのか教えたくないのかはっきりしないので困惑しているが、一夏が鈍いだけで知らないだけだが龍音が一夏にキツイ態度を出すのも好きな子はいじめたくなるというモノであり、龍音は一夏に好意を懐いているが一夏がそれに気付かないので一夏は龍音が自分の事をわざわざからかいに来る奴としか思っていないので、彼女の本意を見抜けずにいた。
そんな一夏だが、さすがに今回はしびれを切らしたので彼女に小宇宙に目覚めるコツを教えてもらう事にした様で頭を地べたにつけて頼み込んだ。
「仕方無いか…龍音、俺に小宇宙に目覚めるコツを教えてくれないか?」
「ええっ!?ほ、本当に地べたに頭をつけて頼むなんて…それは冗談で言ったつもりなんだけどな…とりあえず、頭を上げてくれないかな。さすがに頭を地べたにつけているのを見ると私退いちゃうし…」
「おい!結局は俺がやって損してるだけじゃねえか!」
「ごめんなさい…本当に簡単なコツを教えてあげるからさ」
「本当か龍音!さすがは龍座の聖闘士だけあるな龍音。よっ、男前!」
「ちょっと!?ソコは女子力が高いって言ってよ!私は女の子なんだからね!」
龍音が一夏に小宇宙に目覚めるコツを教えてくれる様なので、一夏は彼女に誉め言葉を言ったつもりだが彼女を不快に思わせる言葉を言ってしまった事に気付いたので彼女に謝罪する事にした。
「わりぃ、すまねえな…女の子に向かって男前は無かったよな…」
「本当だよ。失礼にも程が有るんじゃない」
「まあ、先に失礼な事を言ったのはお前なんだけどな」
「それはそうだけど…ええと、確かに私の方が悪かったかな。本当は一夏の手助けをしたくて来たのについ、からかいたくなっちゃてさ…」
「何か今になって急に冷静になれたんだけどよ、俺とお前って結構下らない理由で口喧嘩してたよな…」
「そうだね…教えてあげたいなら素直に教えてあげればよかったのにね…」
「まあ、俺も売り言葉に買い言葉を返してしまったから人の事を言えないけどさ…本当に俺とお前は会う度にこんな感じになっちゃうよな」
「そうだね。よく思い返せば、一夏が聖域に来たばかりの時から私とあなたはすれ違う度に口喧嘩ばかりしては父様に『喧嘩するなら聖域から出てからにしてくれないか!』って怒られたよね」
「その後、お前と口喧嘩した件を聞いたラインハルトさんからは『口喧嘩する元気が有るなら聖域中の床磨きをしろ!』って言われて、俺とお前はやらされたよな…」
「本当にそれが一番大きなペナルティだったよね…父様は厳しいには厳しいけど、ラインハルトが一番厳しいよね…まるで鬼神が宿ったかの様に凄い形相で説教された後に聖域中の床磨きをされたり、難しい問題が書かれた用紙を持ってきては勉強を強いられたしね…」
「本当にラインハルトさんが一番厳しいよな…でも、それは俺達を思っての事だって解っているから、俺はラインハルトさんの期待に答えられる様にも早く聖闘士になりたいと思ったんだ…そうか!だから俺はここまで焦っていたのか」
一夏は龍音との口喧嘩を終えると、互いにこうして会う度に口喧嘩ばかりしては怒られていたなという話をしていく内に一夏は自分が何故、聖闘士に早くならないとと思い焦っていた理由に辿り着くと、龍音に向かって発言する。
「龍音、ありがとな。お陰で今の俺に足りないモノが何なのか解った気がする」
「えっ?何の事なのか解らないけど、力になれたのなら良かったかな」
「ああ。本当にお前のお陰だよ!さてと、今日はもう休む事にするか!って事で俺は失礼するぜ」
「えっ!?ちょっと、私に小宇宙に目覚めるコツを教えてもらうつもりじゃなかったの!?」
「すまねえな。さっきまではその気だったんだけど、事情が変わったわ。悪いけど、それは明日以降に小宇宙に目覚める事が出来なかった場合って事で!」
「そんな事言われたって…私はとっくに教える気満々でいたのに…」
「それについては本当に悪く思っているよ。それにしても、今気付いたんだけど…龍音って結構可愛い顔してたんだな」
「私が可愛い!?『今気付いた』って部分が少し気になるけど、可愛いって言われて悪い気はしないかな」
一夏は純粋に思った事を口に出したのだが、龍音は一夏が自分の事を好いているのではないかと考えてしまうが、龍音が我に帰った時には既に一夏は聖域の就寝所の中に移動して眠りに着いていた訳だが、それは全く別の話。
次の日、一夏はリラックスした状態でラインハルトとの模擬戦に備えて準備運動をしていた。今日こそはラインハルトに一撃を与える事が出来る筈だと確信した一夏は準備運動を終えると、ラインハルトと模擬戦を行う為に何時も通りに裏山に移動をしようとした一夏を見かねた茶髪のロングヘアーをした女顔の少年が彼に声を掛けてきた。
「イッチー、今日もラインハルト様との模擬戦に向かうみたいだけど、今日は何時もと違ってリラックスした様子だね」
「まあな。今日はラインハルトさんにきっと拳を一発当てる事が出来るって確信してるんだ。それよりも…その『イッチー』って呼び方は止めてくれないか…仔馬座エクレウスのフィリス。俺とお前は同じ歳で男同士だし、さすがにその呼び方は色々と誤解を招きそうだから止めてくれない…」
「まあまあ、そう言わないでさ。僕は友達を親しみ込めて呼びたいだけなんだから」
「解ったよ…お前がそう思っているなら無理に呼び方を変えるのも悪いから、俺が我慢すればいいや…」
一夏声を掛けたのは仔馬座エクレウスの聖闘士であるフィリス。一応、こう見えても
「今日のイッチーは何時もとは違って、リラックスした状態だから…もしかすると、小宇宙に目覚める事が出来るかもしれないね。心の中で焦っている状態と比べればリラックスした状態の方が小宇宙に目覚める可能性が高いからね」
「フィリスがそう言うなら、絶対に今日で小宇宙を目覚めさせてラインハルトさんに一発当ててみせるぜ!」
「その調子でいなよ、イッチー。イッチーは何時もどこか焦ってた感じに思えていたんだけど、今日のイッチーからはそんな感じはしないし、きっと大丈夫だよ」
一夏はフィリスの言葉を聞き、尚更確信を得た一夏は裏山に向かって走っていた。フィリスはそんな一夏の姿が見えなくなるまで見送った。
裏山の頂上に着くと、何時もの様にラインハルトが待ち構えていた。
「一夏よ、今日は昨日までと違い落ち着いてリラックスした状態でいるな。ふっ、どうやら昨日の内に何かを掴んだみたいだな」
「はい!俺はラインハルトさんや他の聖域の人からの期待に答えようと一刻も早く聖闘士になろうと心の何処かで焦っていました。それは俺が聖闘士になろうと決めた時の思いが薄まっていたのも有ったからだと思ったんです。俺が聖闘士になろうと思ったきっかけは…守られるばかりだった俺が今度は千冬姉を守れる様になりたい、千冬姉だけではなくて理不尽な理由で傷付く様な人達を一人でも多く守りたいという思いが有って聖闘士になろうと決めたのに…俺はそれを聖域で修行している内にいつの間にか忘れていたんです。ですが、昨日の模擬戦の後に俺は友と出会い話をし、その中の一人と口喧嘩もしましたけど…その何気無い一時で俺は思い出せたんです。聖闘士になろうと思ったきっかけを!」
一夏は自分が見失い欠けていたモノを見付け出し、その答えにたどり着いた事をラインハルトに語った。ラインハルトはそんな一夏の目を見て、まるで懐かしく感じたのか、思わず笑みを浮かべた。
「ふっ、お前のそんな目を見たのは初めて会った時以来だな。どうやら今日のお前は昨日までとは違って少しは期待出来そうだな」
「はい、今日はその期待に今度こそ答えられる様にします!」
「その言葉が本当か確かめさせてもらうぞ!いくぞ一夏!」
ラインハルトが合図を出すと模擬戦を開始する。この模擬戦は一夏が小宇宙に目覚めて上手く扱えるかどうかを確かめるモノである為、ラインハルトは青銅聖闘士の基準値のスピードであるマッハ1で動いている。もし、一夏が小宇宙に目覚めさえすればマッハ1のスピードで動くラインハルトに拳を当てる事が可能だ。
ラインハルトは一夏を翻弄するかの様に常人では見切れない速さで木の上に移動し、違う木の上へと飛び越えたり、地面に着地したり等で一夏を試す様に動き回る。これまで一夏はこのスピードに反応出来ずに闇雲に攻撃するばかりだったが、今日の一夏は落ち着いてリラックスした状態で慎重にラインハルトの動きを捉える事に専念した。
(落ち着いてラインハルトさんの動きをよく見るんだ。肉眼ではなくて心の目で…)
一夏はラインハルトの動きを心の目で観察すると、一瞬だが彼の動きが鈍る瞬間が有るのを感じ取った。おそらくラインハルトがわざと鈍る瞬間を作っているんだろうが、その動きを見極められない様では聖闘士になれないという意味も兼ねているのだと一夏は考えた。
動きは捉える事が出来たが、自分の攻撃を当てられない様では動きを捉えても意味は無い。ラインハルトに拳を当てるには小宇宙に目覚め、ラインハルトの動きと同等の速さで攻撃を放つ必要が有る。だからこそ、一夏はここで小宇宙を目覚めさせようとしていた。
(ラインハルトさんの動きは捉える事が出来た。だけど、ラインハルトさんに拳一発を当てるには俺が小宇宙に目覚める必要が有る。小宇宙は身体の奥に眠る宇宙的エネルギー…それを目覚めさせ、扱うには俺自身の心に語り掛けるんだ!俺は千冬姉を守れる様になりたい!千冬姉だけじゃない、この世界で理不尽に傷付く人達が出ない為にも俺は聖闘士になるんだ!その為にも今こそ目覚めろ、俺の小宇宙よ!!)
一夏が自身に思いを語り、自分の中の大きな何かにその思いが届いたのか、一夏は自分の身体の奥から大きな力が溢れてくるのを感じた。
「俺の中から溢れてくるこの力…これが小宇宙なのか?」
「その通りだ一夏。お前は今、遂に小宇宙に目覚めたのだ。さあ、今こそ見せろ。お前の小宇宙を使った一撃を!」
ラインハルトは一夏が小宇宙に目覚めた事を感じ取ると一夏に小宇宙を使った一撃を自分に放つ様に告げる。それを聞いた一夏はラインハルトに向けて小宇宙を込めた一撃を放とうと構えを取ると、一夏は自分の心に何かが語り掛けてきた。
(何だ?俺に語り掛けるこの声は…いや、声じゃない。まるで何か映像みたいに俺の頭に誰かの記憶が流れ込んでくる…誰の記憶か解らないけど、何となく俺に今の映像で見た技を使えって言ってるのか…上手く出来るかどうか自信は無いけど、ラインハルトさんが小宇宙を使った一撃を放てって言ったし、これも一応は一撃って事でいいのか?まあ、とにかくやってみるか!)
一夏は今の映像で見えた技を放つ為に、映像で見えた動きと同じ構えを取る。その動きは天馬座の星の並びを連想させる動きだった。その構えを見たラインハルトは一夏が放とうとする技に心当たりが有った。それは間違いなく今の射手座の聖闘士がかつて使っていた技と同じ構えだったからだ。
「一夏、その構えは…その構えを何処で見た?その構えは今の射手座の聖闘士がかつて使っていた技を放つ時と同じ構えだ。その技を使う瞬間を見れる機会は無かった筈…偶然とは到底思えん。何故、その構えを知ってるのだ!?」
「今、俺の頭の中に映像が流れ込んできたんです。その映像で見えた技を今から放とうと思っての構えです」
「頭の中に映像が流れ込んできただと…まさか、一夏の守護星座は…だとすれば納得だな。面白い、そのお前が見たという映像の技を俺に向けて放ってみせろ!」
「はい!遠慮せずに放たせてもらいます!」
ラインハルトに向けて一夏は映像で見えた技を放つ。その技はまるで流星の様に多数の拳がラインハルトに向けて放たれた。
「ペガサス流星拳!!」
「やはりか…だが、俺は流星拳を全部受けてやる程甘くは無いぞ!」
一夏が放つペガサス流星拳を全て受ける程、ラインハルトは甘くは無い。ラインハルトは両腕両足を使い、一夏の流星拳をまるで銃弾を剣で切り落とすかの様に防いでみせたが…
「さすがに全て受ける程、甘くは無いというのは分かっていましたよ。ですけど、頬に僅かにかすった程度と言えど俺の拳一発は当たりましたよね?」
「ああ、見事だ。確かにお前はかすり傷程度とは言え見事だ。俺に拳一発をようやく当てる事が出来たのだ。本日をもって一夏、お前を正式に聖闘士の一人として迎える様に教皇に申請してこよう。今日はもう休むといい。今日は初めて聖域に来た時の様に俺の守護宮である磨羯宮で休んでもらおうか」
「はい。そうさせてもらいます」
一夏は小宇宙に目覚め、ラインハルトに拳一発を当てる事が出来たので聖闘士になる資格を得る事が出来た。一夏はラインハルトに言われた通りに今日は休む事にして、初めて聖域に来た時以来に磨羯宮で休息をする事にした。正直、遠い磨羯宮に行って休むなら聖域に入って直ぐ有る就寝所の方が良かったと思ったのだが、ラインハルトに磨羯宮で休む様に言われた以上は仕方無いので、磨羯宮に有る寝床で眠りについたのだった。
次の日、一夏が目覚めると磨羯宮に聖域のトップである教皇が来ていたので驚いた一夏は慌てた様子で教皇に挨拶をした。
「おはようございます教皇…まさか、磨羯宮に来るとは思いもしませんでした…」
「おはようと言うには既に遅いな。もう昼間だぞ一夏!さすがに寝過ぎだ」
「すみません…あれ?そう言えば、ラインハルトさんの姿が見えないんですけど…」
「ラインハルトなら、昨日私が命じた任務を遂行する為に朝早くに出発したからな。少なくとも一週間は戻ってこないな」
「そうなんですか。ところで教皇は一体何をしにこの磨羯宮に…まさか俺に何か用事でも?」
「全くもってその通りだ。お前が起きるのをわざわざラインハルトを見送った後に待っていたら、まさか昼間になるとはな…昨日はようやく小宇宙に目覚めたのだと聞いたからな。小宇宙に目覚めたばかりだから仕方無いと割り切る事にした」
「わざわざすみませんでした…」
「まあ、構わん。お前が起きた事だし、さっさと用件を済ませるとしよう。一夏よ、お前にこれを渡す」
一夏は本当に朝早くから自分が起きるのを待っていた教皇に申し訳ないと思う中で、教皇は一夏への用件を済ませる事にしたのか、教皇は自分のローブの中から透明な水晶が付いたペンダントを取り出すと一夏に手渡した。
「教皇、これって聖衣石ですか?」
「そうだ。それがお前の守護星座である天馬座ペガサスの聖衣石だ!聖闘士に成り立ての新米が運びやすい様にわざわざ聖衣石にしたのだからな。くれぐれも無くしたりするのではないぞ!」
「勿論です。絶対に無くす様なへまはしません」
「そうか。そのペガサスの聖衣は昨日お前の頭に前の所有者の記憶を映像として見せた辺り、お前はペガサスの聖闘士としての素質が高かったのかもしれん」
「昨日の俺の頭の中で流れた映像はこのペガサスの聖衣の仕業だったのか…」
「それほどお前にペガサスの聖衣も期待してるという事だろうな。せいぜいペガサスの聖衣に愛想を尽かされない程度には頑張るのだな」
そう言って教皇は磨羯宮から出ていき、教皇の間に戻っていた。
一夏は自分に渡された聖衣石を見て、改めて決心した。
「俺は守ってみせる!千冬姉や仲間達に、そして理不尽に傷付けられる人達を…俺は絶対に守り抜く!ペガサスの聖闘士として!」
こうして本格的に始まったのだ。一夏の聖闘士としての戦いの日々が…新たなペガサスの聖闘士の物語が今動き出す!
次回は一夏が聖闘士になって初めての戦いになります。
今回登場した青銅聖闘士達のプロフィールは時間が出来た時に活動報告に載せるかもしれません。とりあえず、山羊座の黄金聖闘士であるラインハルトのプロフィールの一部をここに載せます。
名前;ラインハルト
守護星座;山羊座
血液型;A型
山羊座の黄金聖闘士であり、一夏の聖闘士としての師でもある。面倒見が良く器用な為か色々と頼られるが、それ故に大変な目に合う事も有る苦労人。教皇が聖闘士の中でも特に信頼されてるのか、不確かかつ危険度が高い任務を任される事が多いが、どんな難題な任務だろうと必ず生還して任務を終えている為、黄金聖闘士の中でも高い総合能力を持っていると思われる。必殺技は『シャイニングインパルス』。小宇宙を右腕に集束させて強力な右ストレートを放つ、この技はまるで巨大な光の光線の様に見え、全力で放たれたこの技を受けた相手は塵すら残らず消滅する程の威力を持っている。尚、腕を強力な刃とする聖剣エクスカリバーと呼ばれる技も持っている他、未だに見せてない技も有るので様々な局面に対応出来る様に複数の技を持っていると考えられる。