「音波検査でも、以上は見られませんでした。順調に、赤ちゃんは成長していますよ」
「本当ですか!? よかった……」
江句巣(えくす)産婦人科の産婦人科医、鹿島志以(かしましい)の言葉に、妊婦とその夫は、ほっと胸を撫で下ろした。
「予定日まで、あと一週間ですね。一緒に頑張っていきましょう!」
「ありがとうございます。ここまで来られたのも、鹿島(かしま)先生のおかげです、なあ恵(めぐみ)」
「えぇ」
「その笑顔は、もう少し先に、とっておいてくださいね」
「「……はいっ」」
夫婦は真剣な顔で立ち上がり、診察室を去っていった。そして、それをにこやかな笑顔で見送る鹿島志以(かしましい)。
「……あの三人はどうですか?」
夫婦が出ていった扉、受付から診察室へ入ってきたのは、ここの院長、江句巣界(えくすかい)。二メートルはくだらない身長で頭をぶつけないようにやってきた彼に対し、キャスターチェアに座った鹿島志以(かしましい)は見上げる形になりながら返答した。
「経過は順調ですよ、院長」
「……本当ですか? 『三人』共、ですか?」
「……まさか!」
鹿島志以(かしましい)が驚いて立ち上がったのとほぼ同時に、先ほどの妊婦の夫の悲痛な叫び声が響いた。
「こうしちゃいられない! 院長、お留守番お願いします!」
◆◆◆
「どうしましたか!?」
江句巣(えくす)産婦人科を出てすぐ。平日は小学生で賑わう通学路で、事態は起きていた。
「妻が、妻が……」
先ほどの男は腰が抜け、その場で座り込んでいた。
そしてその隣では、うつ伏せで倒れている妊婦からぶつぶつとした何かが浮き出ていた。
鹿島志以(かしましい)は妊婦に駆け寄り、特殊な聴診器を使って診察を開始した。
「まずい、もう発症してる!」
鹿島志以(かしましい)がそう言った直後、妊婦は大きなミートボールがいくつも合体したような巨大なモンスター「バグスターユニオン」となって暴れだした。
「妻を、妻を助けてください……!」
「もちろんです。とにかく旦那さんは、安全な場所まで逃げてください!」
鹿島志以(かしましい)は男をその場から遠ざけると、携行していた蛍光グリーンの箱状の物体「ゲーマドライバー」を腰に当てた。すると本体をバックルとしてベルトが伸び、彼女の腰に巻きついた。次に、彼女は変わった形のゲームソフトのような形状をしたアイテム「ライダーガシャット」の黒いスイッチを右手の人指し指で押した。
「ピシュウン! ビビッドギャルズ! テレレレテレレレテーレッテレン!」
セーラー服を来た女子校生のSDキャラのイラストが描かれた面を正面にして構えられたエメラルドグリーンカラーのそれは、上部の透明な端子を同色に発光させ、ゲームスタートを表すガイダンスボイスを響かせた。さらに、美少女ゲームをイメージしたタイトルロゴのグラフィックが、鹿島志以(かしましい)の背後に大きく表示された。
彼女はその右手を自身の左側に左手と一緒に運び、端子を下向きにしながら左手でライダーガシャットを受け取る。
「変身!」
左手を天高く突き上げ、一気にゲーマドライバーに備わったスロットに装填した。
「ガシャット!」
「レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム?」
キャラクターセレクトボイスが始まると同時に、彼女の体を囲むようにいくつものアイコンが出現、回転を開始した。彼女はそのうち正面にやってきたひとつのアイコンを両手を重ねて押し出し、選択。彼女をエメラルドグリーンの光が包み込んだ。
「アイムアカメンライダー!」