アナザーワールドトリガー 3人目のすごいチビ   作:亀川ダイブ

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 どうもこんばんは。亀川です。
 今回も我が女神・木虎さまは出番がありません。きっと今頃、イレギュラー門の発生を受け、ぴょんぴょん跳んでこちらへ向かっているところです。ジャンプする木虎さまも非常にキュートだと思います。
 
 そんな第四話(?)です。どうぞご覧ください。


第4話 「三雲 修②」

『モールモッドを一匹殺すには、少なくともオサムが20人はいなきゃムリだ。それで勝てたとしても20人中18人のオサムは死ぬ』

 

 修の脳内で、遊真の言葉が繰り返される。

 空閑遊真。強力な、未知のトリガー使い。そして、人型近界民。世間知らずの常識外れ、あまりにこちらの世界のことを知らない、背の低い白髪の少年。出会って間もないイレギュラーな存在だが、修は、遊真の真っ直ぐな瞳と嘘のない言葉には、一定の信頼を置いていた。

 

『行くか行かないか、決めるのはオサムだ。でもおれはいかない方がいいと思う』

 

 だからきっとその言葉も、自分とモールモッドとの実力差を考慮して、現実的なアドバイスとして述べたものなのだろうとわかっていた。

 しかし修は、砕けた門柱のコンクリートに埋もれながら、飛び出したことを後悔してはいなかった。修が悔やんでいるとするならば、それは、「自分がすべきと思ったことをする」という単純に過ぎる信条を貫くには、自身の実力があまりにも足りなかったことだ。

 

「大丈夫か、オサム」

「空閑……!」

 

 この状況下にも関わらず、緊張感のない軽い声かけ。小柄な白髪の少年・空閑遊真は、それが何気ない日常の一コマででもあるかのように、コンクリート片を払いのけ、ひょいと修を助け起こす。

 

「だから言っただろ。他のボーダーを待とうぜ、って」

「目の前で学校が襲われて、見ていられないだろ。それに、ヤトが……」

 

 反駁し、レイガストを構え直した修の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

 今まさに振り下ろされる、モールモッドの鎌腕。鋭利なブレードがギラリと光り、凶悪な切れ味を誇示し、ヤトを両断しようとする。対するヤトは、避ける素振りすら見せない。修との模擬戦では見せたことがないような眼光でモールモッドを睨み付け、ポケットに手を突っ込んだまま仁王立ちする。

 修の眼前に真っ二つに切り裂かれるヤトの姿が幻視し、思わず叫び出しそうになったその時――遊真が、ぼそりと呟いた。

 

「ほう。〝居合い〟か」

「…………オン」

 

 聞こえるか聞こえないか、短く簡潔なトリガー起動のキーワード。同時、ヤトの手元からトリオンの光が噴出し、レイガストの分厚い刃が出現する。修は訓練で何度もヤトのレイガストを見ているが、それにしても彼女のレイガストは大きい。同じレイガスト使いの修としては、嫉妬を禁じ得ないほどだ。

 しかしその大振りなレイガストの刀身は今、握り手に近い側の半分ほどしか、修の目には見えなかった。なぜなら、残りの半分は。切っ先から、刀身の中ほどまでは。

 

「なっ……!」

 

 それは、太刀筋で言うならば逆袈裟斬り。ヤトが左下から右上へと振り上げたレイガストは、モールモッドの下顎を断ち切り、「目玉(コア)」に深々と喰い込んでいた。

 

「い、一撃……っ!?」

 

 冷や汗を垂らして絶句する修。

 ヤトの上半身は、まるでフェンシングのような極端な半身の構え。左足はモールモッドの懐に大きく踏み込み、ブレードの太刀筋の内側に入り込んでいる。胸を大きく逸らしているのは少々不格好なようにも見えるが、ブレードの回避と攻撃を両立したためだろう。

 

「ニホンのサムライが使うアレだろ? 居合いとか抜刀術ってヤツ。あのでっかい剣でよくやるなあ」

「ば、抜刀術……ヤトが!?」

「敵を目の前にして、ポケットに手を突っ込んでた。あの時点でもう予備動作は終わってたってことだな」

 

 遊真は目と口を「三」と「3」にして一人で納得していたが、修は驚愕を禁じ得なかった。今までに二十戦以上は模擬戦を繰り返しているが、その中で修は、ヤトのそのような剣技を見たことはない。それよりなにより、

 

(ただ単に、トリガーホルダーがポケットに引っかかってただけに見えたけど……)

 

 だが実際に、モールモッドは撃破されている。

 ヤトの体がトリオン体に換装され、C級隊員共通の白いジャージ姿に変身する。そしてヤトが無造作にレイガストを引き抜くと、モールモッドはずぅんと重い音を立ててその身を校庭に沈めた。

 

「……三雲先輩」

 

 瓦礫から抜け出した修の耳に、ヤトの声が届く。二人でしゃべっている時とはまるで違う、低く抑揚を抑えた声色。いつも以上に細められたクマの濃い三白眼が、得も言われぬ迫力を醸し出している。

 

「……校舎の方……お願い……します」

 

 言うや否や、ヤトは走り出した。その向かう先は、グラウンドの奥。多くの生徒たちが避難しているであろう学校の第二シェルターだ。いつものふらついた足取りとはまるで違うヤトの機敏な動作に面食らいつつも、修は「校舎の方」というのが校舎地下の第一シェルターのことであろうと思い至る。出現した三体のうち少なくとも一体は、壁をぶち破って校舎に侵入していた。

 

「行くのか。もう一回言うけど、オサム、死ぬぞ?」

 

 駆け出そうとした修の背に、緊張感に欠ける遊真の声が投げられる。

 

「行くかどうか、決めるのはオサムだ。でもあの女の子のトリガー、オサムのやつよりだいぶ質が良かったぞ。バムスターを斬れないオサムのじゃあ、モールモッドはもっとムリだぞ」

「……空閑は避難しろ。校舎に残された人がいるかもしれない、僕は助けに行く。それに……」

 

 修の脳裏に、遊真が持つ強力なトリガーのことが浮かぶ。遊真ならきっと、警戒区域でバムスターをたやすく葬り去ったように、モールモッドだって倒せるのだろう。だが、彼は近界民(ネイバー)だ。ボーダーの管理下ではないトリガーを、そう易々と使わせるわけにはいかない。

 だが、それ以上に。まず、何よりも。

 

「勝ち目が薄いからって、逃げるわけにはいかない!」

 

 ちょうど、校舎の二階部分で生徒の悲鳴が聞こえた。窓ガラスが割れ砕け、モールモッドのブレードが突き出す。修は震える右手を抑え込むようにレイガストを握り、校舎に向かって駆け出した。

 遊真はぽりぽりと頭を掻きながら、その場で修を見送る。

 

『いいのか、ユーマ』

 

 その傍らに、いつの間に出現したのか、黒い物体が浮かんでいた。その外見は、ウサギっぽい耳が生えた黒い炊飯器、とでもいうべきか。ともかく、その物体は遊真に話しかけていた。

 

『さっきの女子生徒はともかく、オサムにモールモッドの相手は荷が重いだろう』

「うーん……そうだよな」

 

 遊真は腕組みをして、うんうんと頷いた。

 その間に修はトリオン体の運動能力を存分に発揮し、二階の窓から校舎内に飛び込んでいた。狭い場所ならモールモッドはブレードを振り回せないという読みだろうが、それは甘い。全トリオン兵の中でもトップレベルの硬度と切れ味を誇るモールモッドのブレードなら、壁自体を切り裂きながら振り回すことだってできる。

 更に追い打ちをかけるように、もう一体のモールモッドが、修からは死角になる方向から、校舎の壁をよじ登っているのが見えた。このままでは修は、狭い室内で挟み撃ちに遭うことになる。もちろん、修のレイガストには、壁をぶち抜くような攻撃力は期待できない。

 

「おれは助けに行くべきか、レプリカ」

『それを決めるのは、ユーマ自身だ』

 

 レプリカと呼ばれた宙に浮く炊飯器の、短くも的確な返答。

 

「……オサムとの約束を守りながら、あいつらを殺し切る方法、か」

 

 遊真は腕組みを解いて、にやりと笑った。

 

「よし、やろうか」

 

 

 

 

 

 

 ……イメージは、完璧だったのです。

 ブレードを振り上げるトリオン兵にトリガーホルダーを突きつけ、カッコよくトリガー起動(オン)。初手からシールドを展開し、まずは身を守る。迫る眠気を我慢して「C級隊員向けレイガストの使い方講座(特別講師:鬼怒田開発室長)」に参加し、シールドモードの使用方法を身に付けたのはこの時のためです。

 しかし、なぜでしょう。

 

「トリガふっ!?」

 

 畜生、また噛みました。我が制服ブレザーの左ポケットに収まったトリガーホルダーは、何に引っかかっているのかまったく取り出せません。

 三雲先輩の冷や汗なんて比べ物にならない量の汗がだらだらと顔面を流れ落ちた気がしましたが、私の鉄面皮は幸い何も変化なし。その代わりではないでしょうが、手汗が倍プッシュです。ぬめります。ますます、取り出せません。左ポケットに右手を突っ込むからいけないのでしょうか。いやでも私右利きですし。そもそもトリガーホルダーを左ポケットに入れたのが間違いだったのでしょう。

 嗚呼、ブレードが迫る。トリオン体への換装すらまだ終わっていない私はつまり、生身であのブレードを受けるということ。今から一秒後には、赤城ヤト(右)と赤城ヤト(左)の完成です。リアルに迫る死神の鎌を目の前にして、私は生きることを諦め――

 

(――る、もんかああああああああああッ!)

 

 と、心のままに叫べたならば私も少年漫画の主人公になれたのでしょうが、それができないからこその私です。しかし心中の絶叫に効果がまるでなかったわけではなく、手汗で滑るばかりだったトリガーホルダーが、ぎゅっと私の手に収まったのです。

 

「オンッ!」

 

 ほとんど吐き出した息だけ、といった擦れた声で私は言います。ポケットの中でトリガーが起動、制服のポケットは破れますが、そんなことは気にしていられません。トリオン体への換装すらままならないままにレイガストの刃が噴出し、女子中学生の細腕には支えられない超重量が私の体を傾けます(・・・・)

 

(――〝強化平衡感覚(バランサー)〟っ!)

 

 身体が、勝手に動きます。レイガストの切っ先が重さに引きずられ地面をこすり、その負荷を逃がそうと左足が踏み出されます。その一歩によりレイガストは振り子運動、私の腰を捩じ切るつもりかというような勢いで、左下から右上へ、凄まじい勢いの斬り上げが繰り出されます。

 もしこれが空振りに終われば、生身の私はレイガストの振り子運動に腰を捩じ切られ、赤城ヤト(上)と赤城ヤト(下)に引き千切られるところでしたが、

 

「当たっ……た……?」

 

 振り上げた私のレイガストは、トリオン兵の下顎を断ち切りました。そして口の奥にある不気味な「目玉(コア)」の中ほどまで、その分厚い刃を喰い込ませていたのです。……ってアレ? 確か「目玉」ってトリオン兵共通の弱点で……

 

(……もしかして、私……倒しちゃいました……?)

 

 コアが色を失い、トリオン兵が止まります。まさかの一撃で、まさかの一体撃破。なんという戦果でしょう。

 しかし私も危機一髪。トリオン兵が振り下ろした鋭利なブレードは、私の平坦な胸板の僅か2ミリ前を通過し、グラウンドの土を深々と切り裂いていたのです。もし私の発育具合が、もう少し女性らしかったら。きっとその部分(・・・・)を斬り落とされていたことでしょう。ひぃっ、想像しただけで寒気が……

 一拍遅れて、私の身体がトリオン体に変換されていきます。本部での訓練と同じ腕力が戻ってきて、自分の身長とほぼ同じ大きさのレイガストでさえ、片手でほらこの通り、引き抜けます。

 レイガストを引き抜かれたトリオン兵は力なくずぅんとグラウンドに腹をつけて倒れました。ピクリとも動きません。

 初の実戦。命のやり取り。いや正確には、トリオン兵は機械人形のようなものらしいので、命はないのですが。それでも私は、あと2ミリの差で、死ぬところでした。死ぬようにしんどい模擬戦や訓練を何百回重ねても、私の胸の前を通り過ぎたブレードの一振りの冷たさには、到底及ばないのです。

 動かなくなったトリオン兵を前にして、それを実感した私は、

 

(うっ……おぇっ!?)

 

 猛烈な吐き気に、襲われました。

 胃袋からせり上がってくる、不快な波。トリオン体には胃袋などないのに。ということは、これは私の精神が、心が、感じているもの。

 どうにかいつもの無表情で耐え抜きましたが、波は収まりそうにありません。第二波にはもう耐えられない。ふと気づけば、瓦礫から抜け出した三雲先輩の近くには、たぶん後輩であろう白髪の少年がいます。三雲先輩になら模擬戦後に疲れすぎてゲロった姿ぐらいならすでに見られているのでいいのですが、他の生徒にまで見られてしまえば私のあだ名は「規則違反暴走げろんちょチビ」に決定です。暗黒の中学校時代の幕開けです。いや、元からぼっちではあるのですが。

 

「……三雲先輩」

 

 収まらない吐き気を誤魔化しつつ、声の動揺で悟られないよう声量を押さえます。三雲先輩はとても頼りないメガネですが、時々とても頼れるメガネです。私が人前でげろんちょするかどうかという乙女の危機を、きっと感じ取ってくれるはず。

 

「……校舎の方、向いて……ください……お願い、ぅえっぷ、ですから……」

 

 ヤバい、第二波到来。気遣いとかじゃねぇ、今すぐトイレに! ここからならどこだ、グラウンドか! 運動部用の! きったねぇトイレですが仕方がありません。背に腹は代えられぬ。ゲロインの名をほしいままにするにわけにはおぅうぇえええ!

 大丈夫、まだ出てない。まだ口からは何も出ていません。まだ私はゲロインではございません!

 私は動かなくなったトリオン兵の脇を全速力で駆け抜け、一目散にグラウンドの運動部用トイレを目指すのでした。

 




☆アナザーワールドトリガーを百倍楽しむ講座☆

《独自設定》
 赤城ヤトの発育具合

 ワールドトリガー原作では、女性キャラはコミックス表紙裏などでバストサイズ・カップ数について言及されるのが常だが、ヤトの場合は言及が不可能である。(理由:ないものは測れない)


次回 アナザーワールドトリガー
第5話「三雲 修③」に――トリガー、起動(オン)






 次回はサブタイトルからしてもう、我が女神のご登場ですね。コミックス一巻の最後の方は木虎の木虎による木虎のためのページがたくさんで幸せでした。
「できますけど」木虎。シャッターチャンス木虎。ボーダー組織説明木虎。トリガー起動木虎。「私が始末するわ」木虎。そして裏表紙折り返しのカッコいいポーズ木虎。
 次回は木虎さまの魅力が読者の皆さまにも伝わるように頑張ります。
 感想・批評もお待ちしております。よろしくお願いします。

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