セクハラ提督と秘密の艦娘達   作:変なおっさん

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『case12 加賀②』

 あの後、提督がしばらくして部屋に戻るとそこに加賀の姿はなかった。提督は、部屋の片付けもせずにそのままベッドへと倒れる。

 

「私は何という事をしてしまったのだ」

 

 加賀に差し出した指を見て思う。いや、忘れられない。あの時の興奮を。加賀の羞恥に染まった顔を忘れられない。

 

「明日から加賀に合わせる顔が無いな」

 

 どんな顔で会えというのだ。加賀は記憶が無いが、私にはある。だが、この記憶を忘れたいとは思わない。

 

「寝よう。寝不足は業務の支障となる」

 

 提督は目を閉じ無理矢理眠りへと――つくことは出来ず朝を迎える。

 

「寝不足ですか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 大淀に心配されるが業務を行わなければならない……のだが。

 

(加賀……)

 

 作業の手を止め、加賀が口に含んだ人差し指をどうしても見てしまう。流石に洗ってはいるが、あの時の感覚は未だに色濃く残っている。

 

(まさか、これは恋か? いや、変かもしれないな。変態の意味で)

 

 ダメだ。チラチラと加賀の顔が浮かんでしまう。これでは業務どころではない。

 

「司令官。指が痛いの?」

 

 今日の秘書艦である暁が心配そうにこちらを見ている。

 

「いや、少し考え事をな。心配してくれてありがとう、暁」

 

「暁は、これでもレディーだから気は利く方なのよ。なにかあったら司令官も暁を頼ってよね!」

 

「そうか。それは、頼もしいな」

 

 大淀と暁に心配を掛けてしまった。これでは上官失格だな。

 

「し、失礼しますぅ……」

 

 声が聞こえた瞬間扉の方に意識が向かう。いつもと違いオドオドした小さな声ではあるが間違いない。この声は、加賀の声だ。

 

「大淀さん。コレを」

 

 部屋に入って来た加賀は物凄い早さで大淀の下へと向かった。こちらの方は一切見ずに。

 

「……加賀さん。こちらの書類は、私ではなく提督にお願いします」

 

「て、提督に!?」

 

 加賀の珍しい驚き声に大淀の方が驚いている。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いえ……なんでもないわ」

 

「そうですか」

 

 大淀は、何事もなかったように自分の仕事へと戻る。

 

「…………提督に、ね」

 

 加賀と目が合う。だが、互いに目を背ける。しかし、その事を知っているのは二人の様子を見ていた暁だけ。本人達は目を背けているので気づいていない。ついでに言えば、互いに顔が赤くなっているのも。

 

「ん~、もしかして司令官と加賀さん喧嘩でもしたの?」

 

「喧嘩? いや、そんなことはしていないぞ?」

 

「そう? なんだか喧嘩した後の雷と電みたいに見えたんだけど。違うならよかった」

 

 事情を知らない暁にはそう見えてしまったのか。それはそうだよな。いきなり目を背けては加賀に対して失礼になる。

 

「ショルイヲイタダコウカ?」

 

「ソウネ。オネガイスルワ」

 

 ガチガチな感じで加賀から提督は書類を受け取る。

 

「……ん? 予算と物資の数が合わないな?」

 

 書類の内容で正気に戻る。

 

「値上げか。大淀、これはどういうことだ?」

 

「本部の方から経費削減の話が出たそうです。おそらく政府の方からだと」

 

「馬鹿どもめ。我々が負ければ本土がどうなるかもわからんのか」

 

「今や攻勢に出ていると考えている方が増えてきましたからね。慎重派は、主に前線に居る方々ぐらいなものです」

 

「押し返しただけだというのに本土は気楽なものだな。未だに敵戦力に限りが見えない。むしろ敵戦力は増す一方だ。大淀、空母の方に予算を付けろ。多少の無理は私の権限で許す」

 

「了解しました」

 

「加賀。しばらくはこのままになるが、辛抱してくれ」

 

「わかりました」

 

 海軍本部に話を……いや、他の所に先に話を通しておく方がいいか。

 

「……どうかしたか?」

 

 用が済んだのに加賀は傍から離れない。

 

「……コレを提督に」

 

 加賀が後ろ手に持っていた物を提督に差し出す。それは、昨日二回も見た間宮アイスだ。まさか――覚えているのか!?

 

「コレを私に?」

 

 平静を装うので精一杯だ。心臓が激しく動くせいで息がし辛い。

 

「私の所に三個ありましたので」

 

「そうか」

 

「確かにお渡ししました。それでは、失礼します」

 

 加賀は来た時と同じように足早に部屋から出て行く。

 

「珍しいですね。明石さんが配り間違えるなんて」

 

 大淀の言う通りだ。あの明石が間違えるとは思えない。

 

「大淀、私はコレを仕舞ってくる」

 

 可能性を考え、部屋へと戻る。

 

「……やはり無いか」

 

 昨日のままの部屋を見て確信する。加賀に渡した分のアイスの入れ物が無い。どうやら加賀はアイスの入れ物を部屋に持って帰ってしまったようだ。

 

「記憶があるわけではないようだな」

 

 安堵のため息が出る。それこそ思わずベッドに倒れてしまうほどに。

 

「もし許されるのならもう一度やってみたいものだな。加賀には悪いが、あの一夜は私にとって貴重な時間であった」

 

 加賀には悪いと思うがもう一度あの時間を味わいたい。そんな願いを込め、加賀から渡された間宮アイスは大事に仕舞っておく。また訪れるかもしれない時の為に。

 


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