セクハラ提督と秘密の艦娘達   作:変なおっさん

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『演習後』

 演習を終え、海上にて内容を振り返る。

 

「今回のMVPは、加賀だ。赤城が相手の情報を把握するまでよく耐えた。結果としては、大破判定になるわけだが最後まで生き残った事は称賛に値する」

 

 最終的に島風、夕立をはじめとした駆逐艦隊は護衛を潜り抜け攻撃を仕掛けることに成功した。それこそ控えていた赤城に迫る勢いではあったが、それを加賀が身を挺して防いだ。無謀とも思えるような行為も計算して行えてさえいればそれは勇敢と言える。

 

「翔鶴、瑞鶴の両名に関しては善戦したと言える。二人の息は合っていた。結果としての差は、単純な経験によるものだ。今度の海軍本部との演習後、二人を前線へと送る。海軍本部に居る精鋭達から多くを学び、前線で活躍してくれることを楽しみにしている」

 

 翔鶴、瑞鶴の表情は暗い。特に瑞鶴は、赤城の強襲に一方的に敗北した。瑞鶴に関しては、時間を見つけて早めに話をしておこう。翔鶴も鳳翔に一度任せてから話をする。ここが二人にとって正念場になる。慎重に行きたい。

 

「扶桑、山城の両名は戦艦組の中ではMVPだ。他の者も奮闘はしたが、今回は轟沈の数を基準として判断した。撃沈の数だけで見れば金剛一人に与えたいが戦場の整理を迅速に行えればそれに越したことはない。引き続き鍛錬に励むように」

 

 扶桑と山城は、後方からの支援射撃を想定して鍛錬させている。制空権の確保が出来れば、弾着修正射撃により精密な砲撃が行える。仮に制空権が確保できなくても駆逐艦相手に鍛錬を積んでいる砲撃は十分な結果を生むだろう。

 

「駆逐艦の中でMVPを決めるとするなら島風、夕立のどちらかだろう。よくあれだけの防衛網を潜り抜け加賀に魚雷を当てる事が出来た。他の者達の功績もあるがあれだけの激戦地を潜り抜けたのは誇りに思っていい。但し、蛮勇と勇猛は違う。その事は、決して忘れるな」

 

 島風と夕立のどちらをMVPにするかは難しい。二人による息の合った動きが結果を生んだからだ。他にも惜しい者達が居たが、撃沈判定の多さで差が開いた。

 

「最後にだが、既に此処には居ない者達についてだ。入渠にて怪我の治療にあたっている訳だが私はそれを咎める気はない。しいて言うならそれを引きずり、不協和音を生んだ場合は海軍本部へと送る。そこでしっかりと更生して戻って来い」

 

 那智、足柄、天龍、摩耶、龍田の五名は一足早く羽黒の付き添いで入渠している。資材を妖精製作の特殊な機械で精製し、風呂の形をとって艦娘は怪我や損傷を治療する。軽度であれば、装備している艤装も修復する。そうでない場合は、妖精と夕張に修理を頼む事になる。

 

 演習を終え、各自入渠か浴場にて汚れを落とし食堂へと足を運ぶ。僅かな差はあるが演習に参加した者達で食堂は賑やかになる。

 

「サバの味噌煮は美味いな」

 

「なに言ってんのよ! 肉よ、肉! 今すぐカツを揚げてやるわ!」

 

「いいな、肉食いてぇ~!」

 

 目の前の席で肉肉言っている足柄と天龍を走りに行かせたい衝動に襲われる。サバの味噌煮に対して失礼だ。

 

「いや~、でもあれだよな。那智さんと足柄さんの砲撃は効くよなぁ。未だに頭がガンガンするよ」

 

「摩耶もなかなかやるようになったな」

 

 摩耶と那智は互いに称賛し合っている。演習弾とは言え、見ている分には実戦と変わらなかったというのに相も変わらずだ。

 

「美味しいところはぜ~んぶ羽黒さんにとられちゃいましたね」

 

「私なんて……必死だっただけで……」

 

 ある意味では保護者役で、別の意味では本命同士の二人は大人しく食べている。羽黒が結果として天龍、摩耶、龍田を撃沈したが龍田は最後まで奮闘していた。それこそ羽黒との一騎打ちまでのダメージが少なければ結果は変わっていただろう。

 

(だが、なぜ私の周りに座ったんだ)

 

 神通は、大淀と共に司令室で食事をとっている。どうやら外から連絡があるようでそれを待つらしい。別に緊急ではないが、それ故にいつ来るか分からないので仕方がない。

 

「提督、私の話を聞いているのかしら?」

 

「絡むな、足柄。カツが食べたいのなら自分の当番の時にしろ。お前のカツカレーは私も期待しているのだからな」

 

「ん? それは、私の手料理に惚れたってこと? もぉー、早く言ってくれればいいのにー♪」

 

 料理を褒められて機嫌が良くなる。足柄のカレーは、香辛料が利いていて刺激的な辛さがある。女性が多い此処では、比較的甘口になるので貴重なカレーになる。ついで言えば、足柄がこだわっているカツも美味い。ただ、バカみたいな量を揚げたりするので監視が必要だ。

 

(早く、妙高に戻って来てほしい)

 

 長門を旗艦とした現在の第一艦隊の一員として前線に派遣している。報告は受けるが、戻るのは海軍本部との演習の少し前ぐらいだ。

 

「なぁ、提督。仮になんだけどさ、海軍本部の連中に勝ったら俺が最強を名乗ってもいいのか?」

 

 突拍子のない天龍の発言に一瞬理解が追い付かないが、本人は真面目に訊いているのだろうなと思うとなんだか微笑ましい。

 

「そうだな。戦いに勝利し、MVPを取れば名乗れるだろうな。だが、相手の中にはお前をボコボコにした者が居る事を忘れるなよ?」

 

「天龍、武蔵の姐さんに喧嘩売ってボコボコだったもんな」

 

「うっせえな。摩耶だって同じだろ? 大和さんが止めてくれなかったら死んでるぞ?」

 

 前線に居た時に所属していた二人。香取と鹿島は、あくまでも海軍本部からの派遣だったが、二人は直属の部下だった。前線から外された際に海軍本部に持っていかれた二人だ。

 

「思う所があるのか?」

 

 心を見透かしたように那智がこちらを見る。

 

「恨み言の一つ二つ覚悟していたが何もなかったからな」

 

「今生の別れでもない。それに鬱憤なら今度の演習で晴らすだろう」

 

 それが怖い。香取と鹿島は、前線に居た時に練習艦として指導を行っていた。こちらの手の内は熟知している。好戦的な武蔵からしたら本土での暮らしは退屈だろう。それを今度の演習で晴らすと思うと不安しかない。大和は――

 

(どうなんだろうな)

 

 前線での最後を飾った戦いでの第一艦隊の旗艦。その活躍は、記憶に残るものだった。だが、今思う大和個人の事はあまり知らない。当時は、上官と部下としてしか接していない。今の私を見たらどう思うのだろう?

 

(今の私か……)

 

 ただ変わっただけならいいが、欲望に目覚めてしまった私を見てどう思う? 少なくとも彼女達の知る軍人としての私は死んでしまった。今は飢えた性欲の権化。己が欲に従順な獣だ。

 

 今夜だって、神通に対してなにかしようと考えているぐらいだ。だが……止まる事はできない。たとえ失望されたとしても。

 


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