セクハラ提督と秘密の艦娘達   作:変なおっさん

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『case6 ??・北上』

 提督の部屋は司令室の隣に配置されている。

 

「失礼しまぁ~す。おやおや、ぐっすり寝てますね」

 

 ??は、鍵の掛かっていない扉を開け提督の部屋に入る。非常時の為に施錠はしていないので入ろうと思えば誰でも入れる。そんな侵入者が居るとは知らず、提督は静かにベッドの上で眠りについている。

 

「司令官はお酒を飲むと簡単には起きませんからね。まぁ、その方がやりやすいんですけど」

 

 ??は、キョロキョロと部屋を見渡し手に持っている箱の置き場所を探している。目についたのは、提督の私用の机。そこに密封されている箱を慎重に置く。

 

「後は、コレを置いておきますね。司令官の勇姿が載ってますよ」

 

 箱の横に紙を一枚。『艦隊新聞』と書かれた物を置いておく。

 

「司令官、今までと同じように上手く行くと思っていると大変なことになっちゃいますよ? これからドンドン此処に戻って来るんですからね? でも……司令官には責任があります」

 

 ??は、コソコソと提督の傍に近寄る。すると――

 

「失礼しますね」

 

 提督が眠るベッドの中にコッソリと入る。それでも提督に変化はない。

 

「腕枕~♪ そして、記念に一枚……よし、これで今は十分」

 

 ??は、横で眠る提督の横顔を眺める。

 

「司令官。もっと??達と関わらないとダメですからね? ??は、いつでも待ってますから」

 

 そう言い残すと部屋から出て行く。まるで誰もそこに来なかったように。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「提督~、借りてた本返しに来たよぉ~」

 

 北上が部屋の扉を叩き部屋に入って来る。

 

「まだ寝てるんだ。本当にお酒に強いんだか分かんないね、これじゃあ。とりあえず、コレ返しとくからね」

 

 本棚に借りていた本を仕舞う。

 

「……なんだかズルくない? 私だけ起きてるの?」

 

 北上は提督の眠っているベッドに近づく。

 

「いつも頑張ってるのは知ってるけどさ~、そんなに気持ちよく眠ってるのを見ると悪戯したくなっちゃうよね~。んじゃ、失礼しま~す」

 

 ベッドの中に潜り込む。それでも提督に変化はない。

 

「んしょ。……これでもダメかぁ~。緊急時には起きるから問題ないけど軍人としてどうかと思うよ? まぁ~いいいけどさ。少し前だとこんなことできるなんて思わなかったけど、この前のお返しってことでよろしくね。じゃあ、お休み~」

 

 北上は、提督の腕を枕にして抱きつくようにして眠りにつく。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 これは、夢か幻か? 少なくとも腕から伝わる温かさは本物で。寝息が耳に届いている。

 

(……なにがあった?)

 

 昨日の夜は、居酒屋鳳翔で遅くまで鳳翔と飲んでいた。それから自室へと戻って来たわけだが起きたら横で北上が眠っていた。

 

「まさか、連れ込んでしまったのか……私は……」

 

 記憶にはない。部屋には一人で戻って来た。北上とは少なくとも会ってはいないはず。しかし……

 

「北上?」

 

「ん……」

 

 名前を呼び、自由な方の手で北上の頬っぺたをツンツンしてみる。柔らかい。少なくとも偽物ではない。夢でもないのだろう。

 

(軍法会議か……)

 

 部下を自室に連れ込み一夜を共にする。記憶にはないが処罰は免れまい。

 

「いや……私にはまだ奥の手がある」

 

 成功するかは分からない。しかし、他に方法が浮かばない。

 

「鍛え上げた私の催眠術で上手く記憶を操作すれば……いけるはずだ」

 

 催眠術には眠らせてから暗示を掛けるものがある。本当に眠っている場合に有効かは分からないが他に手が浮かばない。北上を起こさないように身体に絡みつく腕をはずしていく。慎重に、爆発物を扱うように慎重に。

 

「ん……ていとく……」

 

 心臓が跳ねる。

 

「起きたか?」

 

 声を掛けるが反応はない。セーフだ。

 

「起きるなよ、北上」

 

 身体から腕を外すのに成功すると今度は移動を行う。現在の状況はこうだ。私が壁側に居り、北上が内側に居る。北上の上を通るルートは危険と判断し中止。上の方も壁なので中止。そうなると下にしか活路はない。だが――

 

(北上はスカートなのか……)

 

 布団の中を潜るのはいいのだが、必然的に北上の身体の横を通る形になる。先ずは、胸だろう。布団を捲り確認してみるが、北上は意外と胸がデカい。接触は危険だ。次に問題なのは、北上はスカートなのだがその横を通る事になる。確実に変態だろう。

 

「だが、他に道もない」

 

 横になっている体勢では、催眠術どころではない。先ずはここから脱出することが先決だ。

 

「起きるなよ、北上」

 

 覚悟を決め、ゆっくりと身体を下へと動かす。北上を起こさないように慎重に。胸に気を――近い! 近いぞ! 目の前に胸が近づいて来た。

 

(煩悩退散! 心頭滅却!)

 

 布団の中と言う密閉された空間故に北上の匂いが充満している。これからそこに潜るわけだが……ええい、静まれ! 昨日、静めたばかりだろう!

 

 己が意志では制御できない事もある。それでも今はいけない。身体の中心にあるソレは、行動に影響が出る。下にズレる動きすら今はまずいのだ。

 

(よし……視覚はこれで問題は無くなったな)

 

 未だ危険な状況に変わりはないが、それでも布団に潜った為に視界が黒に染まる。しかし、代わりに北上の匂いが強まりクラクラする。ここから更に下へと移動する。私は、耐えられるのだろうか?

 

(一気に行くか)

 

 既に下半身は外に出ている。こう、スッと落ちるように上手くすれば行けるのではないかと淡い期待を抱いてしまう。

 

(いや、急いては事を仕損じる)

 

 罠だ。勢いで布団が捲れてしまえば北上が起きる可能性がある。軍法会議はこの際甘んじて受けよう。しかし、自分たちの上官が変態だったなどと言うのは彼女達にとって不名誉であり、また心に傷を残す事になるかもしれない。それだけは避けたい。

 

(神よ、私に力を)

 

 ゆっくりと下に移動する――移動する……移動……これは!?

 

 北上が動き、頬に触れる。温かく、柔らかいそれが。形状から瞬時に頭が答えを導き出す。太ももだ。すぐそこに太ももがある。否、太ももだけではない。これは、内ももの可能性が高い。

 

(士官学校時代を思い出せ! あの地獄のような日々を思い出せ!)

 

 意識し始めるとまずい! 非常にまずい! 試練としてはあまりにも厳し過ぎではありませんか神よ?

 

(負けて……負けてなるものか!)

 

 下に移動しようとすると頬に太ももが擦れ、感覚がより強く伝わる。これを無事に終えた頃には悟りが開けそうだ。

 

「任務遂行……」

 

 疲れた。主に精神的にドッと疲れた。今は、床に座り込んでいる。もう何もしたくはないが行動に移さなければならない。まだまずい状況に変わりはないのだから。

 

「さて、北上に催眠術を掛けなければ」

 

 催眠術の掛けやすい位置に移動――ん?

 

「箱?」

 

 机に置いてある箱に気づく。それは、本土からの密書が納められている箱だ。もしかしたら何か新たな力がそこにあるのではと思い開けてみる。……入っていた。前のよりも薄いが催眠術の本が。

 

「僥倖。いや、試練に打ち勝ったからこその奇跡だ」

 

 試しに読んでみる。そこには、今までに無かった艦娘達の情報が書かれている。幸運な事に金剛達のもある。

 

「これは、後で改めて読むとしよう。今は、こちらの問題を解決せねばなるまい」

 

 本を箱に丁寧に納め、北上の方へと戻る。

 

「……なんだか赤いな?」

 

 提督の代わりにベッドで眠りにつく北上は顔を赤らめている。もしかして風邪か?

 

「風邪をひいており、部屋を間違えてしまった可能性が? うむ、よくよく考えれば私も北上も服は着ているしな。それに……」

 

 自分の身体だから分かる。たぶん何もなかったはず。そうでないならこんなに元気ではないはず。確かにすっごく興奮はしたけど。

 

「とにかくやってみよう」

 

 気合いを入れ、北上の方を向く。

 

「北上……あなたはだんだん眠くな~る。眠くな~る」

 

 既に眠っている相手にどうかと思うが他の方法を知らないので手順通りに行う。

 

「よし、これでいいはず。では、北上。私の言葉を理解できるか?」

 

「……はい」

 

 思わずガッツポーズをとる。これで上手く行くはずである。

 

「北上、なぜお前は此処に居るのだ?」

 

「……トイレに行った後に自分の部屋に戻ってきました」

 

「そうか。やはり間違えたか。確か今日は夜勤だったか? 後で誰かに変わるように私から言っておこう。北上、此処での事は何もなかった、いいな?」

 

「……はい。なにもなかったです」

 

「北上。今は此処を使え。後で人を此処に寄越す」

 

 布団を掛け直し、着替えを済まして部屋から出る。着替えている間中視線を感じた気もするが、北上が居るからそう感じたのだろう。とりあえず無事に全てを終える事はできた。

 

「ごめん、提督。体調悪いみたいでさ」

 

「なに、私が起きている時に北上が来た時は驚いたが何も問題はない。吹雪、後は頼む」

 

「はい。お任せください」

 

 吹雪に事を伝え、北上を任せる。吹雪なら私の言葉をそのまま受け止めてくれるだろう。私が起きている時に北上が来た。それで、安全を考え私のベッドに緊急的処置として北上を寝かせたと。

 

「提督? 本当になにもありませんでしたよね?」

 

「……ある訳ないだろ?」

 

「そうですか……。私は、提督を信頼しています。ですが、北上さんに手を出すのはダメ……ですからね? いくら提督でも?」

 

 いつの間にかそこに居た大井に問いかけられる。普段は丁寧な物腰の良い子なのだが北上に関しては少し怖い表情を見せる。軍法会議とどちらが怖いかは言うまでもないだろう。

 


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