シャルティアのおっぱい探しの旅〜ペロロンチーノを添えて〜 作:アンコール・スワットル
モモンガ様が異世界へと転移するまでの話です。
「またこの話かよ」と辟易している方は読み飛ばしてください。
「ヘロヘロさん……」
モモンガは空を見上げた。空と言っても照明が眩しく発光しているだけだが、それでも見上げずには居られなかった。
(もしよろしかったら、最後まで一緒に居ませんか? ……言えなかったな)
言える筈がない。心も身体もヘロヘロな彼を繋ぎ止められるほど、このゲームの束縛力は高くない。残り数時間で終わってしまう関係よりも、生きていく為の生活が大事なのだ。
モモンガも分かっている。頭では分かっているのだが、心が付いていけない。未だに未練がましく、過去の栄光に縋り続けている。
あの頃の、楽しかったあの頃を想像し、仲間たちで賑わう円卓を空想した。
『ペロロンチーノさんがログインしました』
独りで迎える終焉。ヘロヘロに伝えたかった言葉を繰り返すように口にする。
「もしよろしかったら、最後まで一緒に居ませんか?」
返ってこない独り言に虚しく思い、顔を沈ませようとした。
「もちろんですよ、なによりもそのつもりで来ましたからね」
ピコンと笑顔のアイコンを浮かべ、バードマンが手を振っている。
「ペ、ペロロンチーノさん!?」
「そうですよー、おひさーです」
上の空なせいで、ログインを知らせるポップアップウィンドウを見逃したのだ。
慌てふためく骸骨は、傍から見ればスリラーな光景だろう。バードマンは懐かしい光景を見るように暖かく見守っている。
「積もる話もあるんですが、ごめんなさいログインするのが遅くなって」
「いえいえ、顔を見れただけでも十分過ぎるほど嬉しいですよ!」
しょんぼりしたアイコンに対し、モモンガは笑顔のアイコンで応えた。
来ないと思っていた。もう誰も来ないと思った矢先に差し込んだ光。嬉しい以外の言葉が見つからない。
「そうだ! 大量の花火を買い込んであるんですよ。一緒に見に行きませんか?」
「男二人で花火観賞。なにも起きない筈も無く――」
「起きませんから! 俺たちノンケですから!」
バンバンと突っ込むように机を叩いた。
ピコンと“0”のマークが浮かび上がる。
「残り少しとは言え、この装備で外出するのは心許ないなあ」
ペロロンチーノは引退組の一人。アカウントは消さなかった物の、基本的な装備以外はモモンガに渡している。
モモンガ一人であれば不意の敵襲にも対応できた。だがペロロンチーノは違う。そんな装備で大丈夫ではない。
迎撃だって射程距離の短い弓しか装備していない。これでは射てても百mが限界だろう。
「いやあ、ここが残っていたのには驚きましたけど、装備とかを売って金策にしたんですか?」
ナザリック地下大墳墓は中規模拠点地。高くはないが、それでも一人で維持し続けるのは大変だろう。
「ははっ、まあ、色々と頑張りましたから」
笑顔のアイコンを浮かべているものの、声のトーンは笑っていない。
「やっぱり、モモンガさんがリーダーになってくれて良かったなって思いましたよ」
モモンガは何も言わない。ペロロンチーノの言葉を待っているからだ。
「色々あってログインできませんでしたけど、それでも最後に
「ふっ……はははっ! もう、ペロロンチーノさんったら、ヘロヘロさんとおんなじこと言ってますよ」
モモンガは心から嬉しかった。ああ、今まで頑張ってきて良かったなと、実感できたのだ。
「電子嫁を愛する者同士、似たところがあるんですかね?」
「――と、もっと話したいところですけど残り時間も差し迫ってますし装備を取りに行きましょうか」
「――と、言いますと?」
モモンガは天の声、神様のアイコンを浮かべた。
「そんな装備で大丈夫か?」
「一番良いのを頼む!」
殆ど同じ間隔で笑顔のアイコンを浮かべ、顔を見合わせた二人は笑っている。
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い、第十階層が隠し部屋。宝物庫へと転移した。
「この場所に来るのも久し振りだなあ」
ペロロンチーノは文字通り山のように積まれた金貨を一望し、慎重よりも遥かに高い棚の数々を眺めている。
「
モモンガは魔法を唱え、宝物庫を軽く俯瞰できる高さまで上昇した。ペロロンチーノは種族特性により魔法を唱えずとも飛行ができる。モモンガとペロロンチーノは並行して移動を開始した。
器用なもので、並びながら飛んでいるのにぶつかる様子が全くない。息の合ったチームワークは今も健全だ。
毒素を孕んだ霧が視界を遮るも、フレンドリーファイアによりダメージを受けない。苦もなく進んでいき、巨大な扉の前で立ち止まった。
黒よりも深い。漆黒よりも更に深い扉は、周囲の光を吸収し黒々と佇んでいる。
空気さえも光を失い、扉の周囲だけ温度が下がったような錯覚さえ覚えた。
「ヴァンタブラック……でしたっけ?」
「ですです。ペロロンチーノさんよく覚えてましたね」
ヴァンタブラックとは、ほぼ全ての光を吸収し完全な黒さを生み出す物質だ。世界で最も黒い物質とも言われ、立体的なVRMMOでさえ二次元的な空間と錯覚しかねない。
何も認識できない。そこに扉があると分かってはいても、ぽっかりと空いた穴のような不気味な感覚を抱いてしまう。
「えーっと……」
扉の前でモモンガは思考した。ここは宝物庫。その扉が素直に開く筈もなく、当然のように鍵がかけられている。
(うん、忘れたわ)
当たり前だ。
こう言ったギミックはナザリックの各所に設置され、よく行く場所であればまだしも、滅多に行き来しない場所など覚えている訳がない。
全盛期であれば手に入れたアイテムや作ったアイテムを嬉々として並べたのだが、ログインするメンバーが一人になってからは入り口の金貨の山を補充して終わっていた。
宝の持ち腐れと思うだろう。モモンガにだってそれは分かっていた。だが、死んでしまった家族の部屋を何時までも残しておくのと同じで、気持ちの整理がつかなかったのだ。
帰ってこない。戻ってこないと分かってはいても、輝かしい想い出を汚したくはないのだ。
だけど今は違う。サービス終了までの一時ではあるが、仲間が居る。たった一人ではあるが、それでもモモンガにとってこれ以上ない喜びであった。
「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ」
モモンガの言葉に連鎖され、湖面に何かが浮かび上がるように、漆黒の扉から文字のような物が浮かんだ。
視認できない空間に浮かび上がる文字に異質な不気味さを感じつつ、その文字を読んでいく。
『Ascendit a terra in coelum、iterumque descendit in terram、et recipit vim superiorum et inferiorum』
「パスワードのヒントでしたっけ?」
ひょいとペロロンチーノが顔を出し、文字を覗き込んだ。
「まったく、タブラさんは凝り性ですからね」
「厨ニだとモモンガさんと一二を争うレベルですからね」
「卒業しましたから! もうその話は忘れてください」
頭を抱えるアイコンを浮かべ、応えるようにペロロンチーノが微笑したアイコンを浮かべる。
「『かくて汝、 全世界の栄光を我がものとし、 ゆえに暗きものはすべて汝より飛び去らん。』……でしたっけ?」
「なんか……違う気がしますよ」
適当なアイコンを浮かべたペロロンチーノに、モモンガは首を傾げるアイコンで応える。
「あ! 危ない!!」
「おわっと!」
視認できない扉から現れた無数の槍に、反射的に飛んでしまった。
普通の槍なら良かった。だがここはナザリック、一度発動したトラップからは逃れられない。
待ち構えるように触手が落下し、逃がすものかとモモンガたちを束縛した。
これが女アバターであれば眼福だが、骨と鳥だ。これで中身がリアルJKならギャップ萌えの需要もあっただろう。
この世界でJKなど二次元でしかお目にかかれない。上流階級か、一部のお金持ちしか高校など入れるはずもなく、住む世界の違う人たちを町中で見かけることなどあり得ない。
二人が動けなくなると、触手は動きを停止させた。
「ロスタイムですよモモンガさん!」
「え? えーっと、『かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう』でしたっけ」
手足が束縛され、アイコンを浮かべられないままモモンガは答えた。
触手が消え、モモンガたちは重力に晒された。
器用に体制を取ろうとするも、久し振りなペロロンチーノは転んでしまった。被さるようにモモンガが着地する。
「お、俺を踏み台にしたぁ!?」
「下敷きになるのはエロゲ主人公の宿命ですよ」
「あと……その、ごめんなさい」とアイコンを出しながらモモンガは謝罪を口にした。
「それだとモモンガさんがヒロインになりますよ」
「あ!」
しまったと驚いたアイコンを出したモモンガ。
これではお骨様モモちゃんの誕生だ。何処かの世界線では、そんな世界もあったのかも知れない。だが今はペロロンチーノと二人。ユグドラシルが終わるまでの僅かな時間では、そんな設定を入れる余地などないのだ。
「うっかりしてましたー、てへぺろ」
斜めに舌を出したアイコンを浮かべ、モモンガはなんとか誤魔化そうとした。
「モモンガさんやめて! 俺のひよっちが穢される!」
実に失礼なバードマンである。
そんな二人を尻目に、立ち塞がっていた扉はブラックホールのように吸い込まれ、最後にボールのような塊がふよふよと浮かんでいる。
「おっ開いてんじゃ〜ん」
「開けたんだよなぁ」
やれやれと頭に手を置いたペロロンチーノ。
二人は更に奥へと進んで行く。
先程までの棚を一望するだけでも言葉にならない素晴らしさだが、ここからは見る者全てを圧倒させる努力と課金の結晶。
アイテムは武器や装備品など大まかなジャンルに別けられ、配置されている。モモンガたちが通る扉は武器が並べられている。
枝分かれしているものの、辿り着く場所は一つ。何処から入ろうと奥の院へ行き着く仕組みだ。
距離にして百メートルほど。陳列された武器の数は数千ぐらいだろうか。考えるだけでも気の遠くなるような武器の数々が並んでいた。
武器だけでこの数なのだから、全盛期のアインズ・ウール・ゴウンがどれ程までに凄いのか物語っているだろう。
棚を抜けると、そこには長方形の部屋があった。待合室も兼ねているのか、がらんとした部屋にはソファーとテーブルが置かれている。
左右を見渡すと、ここまで来た道と同じような、通路の出口らしきものがあった。
ここまでの光景を博物館と例えるなら、この先は古墳。亡くなった――引退したメンバーたちが遺した装備を納めている。
モモンガは“
当たり前だ。ピラミッドに入ったファラオがその中を知る訳がない。ギルドメンバーたちが死んだ訳ではないが、引退した後のことなど知る由もない。
――と、そこに赤黒く蠢く何かを発見した。
それは男性のシンボルを象徴するかの如くご立派で、近づこうものなら容赦なくBANされ兼ねない恐怖すら覚えた。
「ぶ、ぶくぶく姉!?」
その物体に真っ先に反応したのはペロロンチーノだ。男性のシンボルなのに姉とは、ギャップ萌えもこれにはビックリだ。
そこに居るのが当然の如く、モモンガは冷静に前へ出て、その立派なスライムに話しかける。
「パンドラズ・アクター、変身を解除しろ」
モモンガの言葉に反応し、赤黒い粘液はどろりと溶け出した。溶け出した粘液は形を変え、脱皮したてのツルツルたまご顔が登場し、仰々しく畏まった。
これは意思を持って行動したのではなく、そのように設定されたAIが組み込まれたからに過ぎない。パンドラズ・アクターと呼ばれた彼は、中身の無い人形のような存在。かつてのギルドメンバーを外装とし、霊廟を死守することが彼に与えられた役割だ。
(ここに来る度に仲間の顔を見れるようにとランダムに変身させてたけど、変に思われなかったかな。知られると恥ずかしいから、変身は解除させたけど)
「もう、びっくりさせないで下さいよ! 姉ちゃんかと思ってドキッとしましたよ」
縦に三本、棒が書かれたアイコンを浮かべ、ペロロンチーノは心底驚いていた様子だった。
「いやー、ごめんなさい。まさかぶくぶく茶釜さんになってるとは想像だにしなかったので」
左右に
「四十一分の一を引くとは……なんて言うか、エロゲでは姉ちゃんを回避できたと安心してたらアニメで待ち構えてたって言う、二段構えだった時を思い出しましたよ」
「ただでさえ少なくなったエロゲ原作のアニメだったのに……」と溜まった物を吐き出すように小声で呟いていた。
姉の居ないモモンガはペロロンチーノの気持ちが分からないが、母親の下着で興奮できないのと同じことだろう。血の繋がらない家族であれば別だろうが、例外を上げていてもキリがない。
「いやー、その……。これで最後ですし良い思い出にしましょうよ」
「ですね。しおらしい最後なんて俺たちに似合いませんよね」
モモンガの励ますアイコンに笑顔で対応したペロロンチーノ。
二人は長方形の小部屋の出口に近づいた。
「あ、ちょっと待ってください!」
先に進もうとしたペロロンチーノを止めるようにモモンガは骨の手を前に出した。
行く手を阻まれたペロロンチーノは驚きながらも、納得したアイコンを浮かべている。
「ん? トラップでも設置されてるんですか?」
モモンガは指輪――リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを外すと、ペロロンチーノに渡した。
「この指輪をはめたまま入ろうとすると、中のゴーレムから攻撃されるんですよ」
「うわぁ……なんとも陰湿なトラップですね」
この指輪が無いと宝物庫へ入れないのに、その指輪を持っていると攻撃を受けるなど誰が想像できるだろうか。
じゃあ捨てれば良いと思うだろう。それでは帰ることが出来ない。手放したら脱出が出来ないのに、それを持つと先へ進めないとは初見殺しもいいところだ。
モモンガたちは攻撃を食らってもダメージを受けないが、回避策があるのにわざわざトラップを発動させる必要がない。
「じゃあペロロンチーノさんの装備を取ってきますね」
「厳重に保管してあるんですか?」
気まずそうな態度をした――実装されていないので表情は出ない――モモンガは、意を決して答えた。
「中のゴーレムに装備させてるんですよ。これ以上ない最高の装備ですから」
「なるほど……確かにワールドアイテムを守るなら万全を期しても不足ですからね」
このゲームに二百存在する反則的な力を孕んだアイテムたち。極一部の例外を除いてオンリーアイテムなそれは、このゲーム上に一つしかない。
誰しもが欲する垂涎物なだけに、最強の装備を身に纏ったゴーレムに守らせているのだ。その真相は違うものの、モモンガの心を吐露するほど辟易していない。モモンガは嫌味など決して零さないタイプだ。故に、ペロロンチーノが真実に辿り着くことは決してない。
モモンガは中へ入ると、手慣れた様子で進んでいき河童のようなゴーレムの前で立ち止まる。
(流石にこれを見られるのは恥ずかしいよなぁ……)
モデリングに不慣れなモモンガが少しでも仲間たちに似せようと試行錯誤したゴーレムたち。
くちばしの大きな河童のようだが、れっきとしたバードマン。ペロロンチーノである。
ゴーレムの前でメニューを表示し、次々とアイテムボックスへ収めていく。今は少しでも時間が惜しい。足早に霊廟を出たモモンガは、ペロロンチーノに装備を渡した。
「お待たせしました。これが装備です」
「うわー、懐かしいなぁ。これですよこれ、やっぱり苦労して作った装備は一味も二味も違いますね」
ペロロンチーノはメニューから装備を交換していき、決定を押した。一つづつ変えてもいいが、それだと外した際に下半身がおっぴろげとなる。
もちろんそうならない様に対策はされているが、李下に冠を正さず。怪しい行動を取ったばかりにBANされては元も子もない。
「おお! カッコイイですよペロロンチーノさん!」
「ははっ、そうですか? ありがとうございます」
頬をポリポリと掻きながら、満更でもなさそうに笑顔のアイコンを出した。
「じゃあ戻りましょうか」
「あ、待ってください!」
ペロロンチーノに呼び止められ、モモンガは軽く傾げた。
「どうせならシャルティアも連れて行って良いですか? 外では攻撃とか出来ないですけど、折角ですから」
「もちろん良いですよ! じゃあ第二階層へジャンプっと」
自身が手掛けたNPCに愛着を持つペロロンチーノを見て嬉しくなったモモンガは、自分もパンドラズ・アクターを連れて行こうか逡巡し、その考えを棄却した。
(流石にギルドメンバーの想い出が詰まったパンドラを外に出すのはなぁ。今更襲撃はされないと思うけど、それでも想い出は綺麗なまま残しておきたいし)
「行き先は――第二階層死蝋玄室!」
モモンガは指輪をはめた指を真っ直ぐ伸ばし、腕を頭上へ掲げた。
何もない指に気が付き、「はっと」思わず声が漏れてしまう。誤魔化すように苦笑いのアイコンを浮かべ、後ろ髪をかくように――髪など無いが――手を後部へと動かした。
「……これ笑うところですか?」
汗マークの付いたアイコンを浮かべ、ペロロンチーノは指輪をアイテムボックスから取り出した。
モモンガは両手で顔を覆い、やっちまったアイコンを浮かべた。
「むしろ忘れて!」
◆
「うわ! 死体臭っ!」
転移した途端、ペロロンチーノは鼻に手を当てた。
「何気に俺のことディスってます?」
臭いなど実装されておらず、
「いやぁ、名古屋に来たら『味噌臭っ!』とツッコんでた漫画を思い出しまして」
「味噌なんて見たことすら無いですよ」
「かなり昔の漫画でしたからねぇ」
話しながらも歩みは止めず、シャルティアが待機する部屋へと進んでいく。
まるで西洋人形のように整った顔立ち。白蝋じみた肌が、この世のものとは思えない美しさを醸し出している。
「えーっと、待機モードから変更っと」
ギルドへの襲撃に備えていたシャルティアを同伴モードへと変更する。ギルド内ではペロロンチーノを守るように動くが、ギルドから出てしまえば木偶となる。
これはギルドの拠点地ポイントで作成したNPCであることが原因であり、傭兵NPCであればチームを組み狩りに出掛けることも可能だ。逆に傭兵NPCを拠点地の防衛として使うことはできない。用途が違うのだ。
そんなNPCを連れ出すことに対した意味などない。明日になれば消えてしまう。それなら最後の想い出にと思った次第だ。
「ふと思いましたがペロロンチーノさん、シャルティアみたいな女の子が好きだから彼女が出来ないんじゃないですか?」
モモンガはシャルティアの幼い姿を見て思った。誰が見ようと結婚可能な年齢に達しているようには思えない。唯一達している胸でさえ作り物。
こんな女の子がリアルペロロンチーノの横に居たら、逮捕間違いなしの状況。現行犯は免れないだろう。
「結婚かぁ……いつかはしなくちゃとは思いますけど、給料の面で難しいですから」
結婚をして子供を作る。人として、いや生命として当たり前の行為だ。だが子供一人を育てるのに必要なお金や、妻を養っていくお金。
今のご時世、結婚なんて富裕層か比較的裕福な人にしか叶わない夢物語。モモンガたち貧乏人が結婚したが最後、夫婦揃って死ぬまで働き続けなければ共倒れになってしまう。
モモンガは必死の思いで学校に通わせてくれた両親を想い、世が世なら今も明るい笑顔を浮かべてくれただろうと想像した。
「なんか、その、しんみりさせちゃってごめんなさい」
折角の思い出を暗いまま終わらせたくないと、モモンガは謝罪のアイコンを浮かべた。気にした様子もなく、ペロロンチーノは笑顔のアイコンで対応する。
「さ、それより外へ出ましょう。花火が待っていますよ」
「そうですね、折角買ったのに見れなかったんじゃ悔やんでも悔やみきれませんから」
モモンガとペロロンチーノは指輪を弄り、メニューを出した。どうして一番上が自室なのかと苛立ちながら、必至にスクロールしていく。
ペロロンチーノは地表部の最寄りの転移先を見つけ、準備に入った。
モモンガも項目を見つけ、お互いに準備万端だと顔を合わせた。
「じゃあ行きますか」
「案外、出入り口を傭兵NPCで塞がれてたりして」
過去にされた襲撃を思い出したペロロンチーノはポツリと呟いた。
フラグを立てたなと思ったが、サービス終了日にわざわざ攻略不可能なダンジョンを挑戦する人などついぞ現れず、無事に大きな広間へと転移する。
モモンガはふと時計を見た。時計が示す時間は―― 23:58:03 ――無いなんてものではない。
「ちょ、ペロロンチーノさん! もう時間がないですよ!」
「やっべ! 急ぎましょうモモンガさん!」
モモンガは慌てて
「行きますよ!」
「どこへでも付いて行きますよ!」
モモンガに誘導され、ペロロンチーノは飛び立った。その横をシャルティアが飛んでいる。
あまりに急いでいたため、随伴するシャルティアが必死になって追い掛けていた。
終了日と言うこともあり、湿地帯のモンスターたちは待機状態となっている。全てのエリアのモンスターは攻撃を受けない限りは反撃をしてこない設定だ。
(普段なら来るだけで大変なナザリック地下大墳墓なだけに、今日は侵入者がやって来ると思ったんだけどなぁ)
モモンガは最後まで攻略されなかったダンジョンを誇らしく思いながら、どこか悲しくも思った。
暫く飛んでいくと、沼地に浮かぶ島へと到着した。円筒状の筒のような物が大量に置かれ、高齢者の誕生日を祝うケーキよのような奇妙さが残っている。
モモンガは空間から一つだけボタンの付いた棒を取り出した。
「一体何が始まるんですか?」
「第三次打ち上げ花火だよ」
モモンガは普段らしからぬ強い口調で「行くぜ!」とボタンを押し込んだ。
その瞬間、下の島に所狭しと配置された筒から煙りが上がった。最後と言うことで製作者が安く販売していた花火。それを約五千個も買い込んだのだ。
白い塔のような巨大な煙が上空へと立ち上り、爆炎を上げた。あまりにも密集していたため、それは爆音を上げて昼間のような眩しい輝きを放っていた。例えるなら超位魔法が一つ
「流石はモモンガさん、豪快ですねぇ!」
「いやー、なんと言うか、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。今までモモンガさんが居てくれて良かったと感謝してますよ」
モモンガは無理をしてでもナザリックを維持したことを誇らしく思い、これが骸骨でなければ涙しただろう。
残り数秒となった時計を確認し、モモンガはそっと目を閉じた。
(明日は四時起きか……)
モモンガはログアウトされてからも、暫くは余韻に浸っていたい気持ちとなった。
「……ぃで……んす」
横から聞こえる女性……いや、女の子の声に疑問を抱いたモモンガは、余韻を消されたことに目を細め――
そこに――まな板のように平たい胸に絶望した一人の少女が居た。
「私の胸が無いでありんすー!」
――シャルティアのおっぱい探しの旅〜ペロロンチーノを添えて〜の幕開けである。