シャルティアのおっぱい探しの旅〜ペロロンチーノを添えて〜   作:アンコール・スワットル

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第01話「シャルティアのおっぱいが大きくなるのか医学的に検証してみた」

「私の胸が無いでありんすー!」

 

「え?」 「え?」

 

 モモンガとペロロンチーノは声のする方向。シャルティアが動き、喋っている姿に驚愕した。

 二人に見つめられハッとした様子のシャルティアは目から鼻から体液を垂れ流し、自らの創造主に抱きついた。

 

「ペ、ペロ゛ロ゛ン゛チ゛ーノ゛さま゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

 抱きつかれたペロロンチーノの服はベタベタに濡れつつも、撥水性に富んだその生地からぽたぽたと滴っている。

 そしてシャルティアの下半身からも――。

 

 混乱から言葉を選べずに居るペロロンチーノは、どうするべきかモモンガに視線を送った。

 

「ペロロンチーノさん、ペロロンチーノさん!」

 

 モモンガの助け舟に胸を撫で下ろしながら、更なる言葉を待った。

 

「シャルティアのおしっこで炊いたご飯が食べられますよ!」

 

「ほっかほかで酸味の効いた味が――って、何言わせるんですか!」

 

「飲尿プレイでありんすね!」

 

 嬉々とした表情でするりとパンツを下ろそうとしたシャルティア。下半身が大洪水なパンツは、絡まるように丸まりながら綺麗な肢体を辿っていく。

 

「ちょ、ちょっとシャルティア!」

 

「待って下さいペロロンチーノさん!」

 

 シャルティアを制止させようと動いたペロロンチーノを慌てて止めたモモンガ。

 まさかそんな趣味が有ったのかとモモンガに憐憫さを向けている。

 

「準備できんした。あ!」

 

 空中で器用に頭を抱え(うずくま)ったシャルティア。手に持ったパンツはもちろん被っている。濡れ濡れだ。

 

「申し訳ございません、先程……その、粗相をしてしまいんしたから直ぐには出せないでありんす」

 

 残念そうにパンツを雑巾絞りし、再び履き直した。

 紳士然としたモモンガは、なにやら納得した面持ちで頷いている。

 

「なる程……そう言うことですか」

 

「はっ! 搾りたてのおしっこが欲しかったでありんすか!」

 

 時すでに遅し。シャルティアの腕力で捻られたパンツからは水滴一つ残されていない。

 

「モモンガさん……スカトロはいかんでしょ……」

 

「だからそうじゃなくって――うわっ!」

 

 慌てて反論をするモモンガ。突然ぷつりと糸が切れたように落下を始めた。〈飛行〉(フライ)の魔法がその効果を終えたのだ。

 

「モモンガさん捕まって!」

 

「私が支えんす!」

 

(両手に花……いや、片方は鳥人(バードマン)だから違うか)

 

 二人に支えられながら、モモンガたちはゆっくりと地上へ降り立った。

 

「コンソール! ……GMコール! …………きょ、強制、ログアウト」

 

「モモンガさんが……消えない……だと!?」

 

「パントマイムでありんすか?」

 

 骨の手を必死に動かして、そして成果が得られずがっくりと項垂れている。

 

「モモンガさんこれって!?」

 

「馬乗りにして欲しいでありんすか?」

 

「シャルティアは少し黙ってて」

 

「ガーン! でありんす」

 

 ペロロンチーノとシャルティアの漫才はさておき、モモンガは今までの行動から導き出される推測を述べた。

 

「何らかの影響で運営が機能してない……いや、それだとシャルティアが動いてる説明が付かないな。やはり……」

 

「神様転生ってやつですか?」

 

「そうとしか思えません」

 

 モモンガは不規則に生えた草原を見渡し、足元の草を千切り言葉を続けた。

 

「風に靡く草、この青臭さ。これはユグドラシルではあり得なかった機能です」

 

「確かに……こんな高度なモーションは見たことがないです。それに匂いもしますし」

 

「私、そんなに臭いんすか?」

 

 くんくんと服をめくり嗅ぎ出すシャルティア。

 だが安心して欲しい。上半身は無臭だ。

 

「いや、そうじゃなくってね、シャルティアは良い匂いだよ」

 

「あ、ありがとうございんす!」

 

 ペロロンチーノは、シャルティアの目の端に溜った雫を指の腹でそっと拭った。胸元で両手を合わせ、感慨に打ちひしがれている。

 モモンガの咳払いにハッとした二人は、慌てて二人の世界から脱却した。

 

「そして、シャルティアのパンツ。これが結論です」

 

「また見たいんでありんすね!」

 

 慌ててスカートをたくしあげ、軽くカーテシーしながらくるりと回転した。反動でスカートがひらりと(ひるがえ)り、奥底に隠された布を(あらわ)にした。

 それは一瞬の出来事だが、人間離れした二人には今もその光景がはっきりと脳裏に焼き付いている。

 

「――はっ! 運営が……見ていない?」

 

「そうです。本来なら確実にBANされる行為が見逃されている。これが確信に至った部分です」

 

 ユグドラシルを始めとし、この手のゲームには風俗法によりエロどころかR-15でさえご法度とされている。

 李下に冠正さず。疑われる行為をする方が悪いのが運営の言い分だ。なのに運対されない。これは運営が見逃しや見落としをしたのではなく、運営そのものが不在だと考えられる。

 まさかとは思うが、そのまさかである。

 

「これが異世界転生ならそろそろ現地ヒロインが出てくるか、なにか事件に巻き込まれる頃ですね」

 

「そうでありんした! 大事件でいんすよ!」

 

 ペロロンチーノの言葉で前回の最後を思い出したかのように、シャルティアは無い胸を突き出して主張を始めた。

 

「私の胸がないでありんす!」

 

 確かにシャルティアの胸はぺたんとしているが、生憎モモンガは元の胸がどうだったのか覚えていない。

 かつてペロロンチーノは「モモンガさん、ロリ巨乳なんて幻想でしかないんですよ。だからと言って無い胸は張れない。胸の小ささを気にしている女の子こそ至高にして最高なんです」と熱く語ってくれた。

 それはモモンガの胸に今なお刻まれているものの、シャルティアの虚勢の大きさまでは覚えていない。平たく言えば今のシャルティアは平たいのだ。

 

「確か来た方向は……あれ?」

 

「どうしかしたんですかモモンガさん?」

 

 きょろきょろと周囲を散策するシャルティア。落とし物を探す時は来た道を戻るのが正当方だと、モモンガはナザリックの方向を見つめ、けれど見渡す限り緑一色。地平線の先まで雑草で役満な光景に顔が青く――引くための血の気など無いが――なった。

 

「パッドがありんしたか?」

 

「ペロロンチーノさん、遠視でこの先を見通せますか?」

 

 超遠距離へ弓を射ることが得意なペロロンチーノであれば、モモンガ以上に遠くまで視線を通すことができる。

 鷹の目(ホークアイ)はペロロンチーノを初めて、猛禽類が修得できるスキルの一つ。常時展開することも可能だが、地平線の先まで見通せる視野は流石に疲れてしまう。こうやって要所要所で発動しているのだ。

 

「いえ、俺もさっきから見ているんですが……何処ですか? ここ」

 

 まるで人間のように動き、会話をするシャルティアに意識を取られてしまい、今の今まで周囲の光景に気付けないでいた。

 本来であればここは湿地帯のはず。なのに草原しかないここは一体何処なのか。

 

「別の場所に転移した……と、言うことですか」

 

「なんかモモンガさん、本格的に神様転生らしくなってきましたね」

 

 神様転生と言いながらも、本心では違うだろうと思っていた。認識阻害への耐性がなければ1m先ですら視線の通らないグレンベラ沼地にナザリック地下大墳墓は存在した。

 だがどうだろう。一面、何処を見ても草原しかなく、遠視を使っても草原。現実を目の当りにしてしまった。

 三人が突然別の場所に飛ばされたとしか思えず、それにしてはゲーム離れした立体感。まるで現実味を帯びたような錯覚感すら抱きかねないくらい。

 

「神様転生ってなんでありんすか?」

 

「えーっと、ですね」

 

 言葉ではなく概念として理解している場合、それを口で伝えるのは困難を極めてしまう。考えるな感じろと言いたいが、感じるべき作品を知らない人にはちんぷんかんぷんだ。

 

「ツー」

 

「カー」

 

 ペロロンチーノにとってシャルティアとは娘に近い存在。ならば長い言葉など要らない、一言あれば十分なのだ。

 

「つまり……私のパッドはこの世界には無いってことでありんすか?」

 

 神様転生。つまり転生したのだ、異世界へと。昨日は花火を打ち上げる時間の関係で最高速度で飛んでいた。それに付いていこうとシャルティアも頑張ったのだ。

 行き先が分かっている二人は良かったが、NPCであるシャルティアは能動的に追い駆けることしかできず、結果として胸部への集中を疎かにしてしまった。背中が巨乳になり、最後はどちらが背中なのかもう分からない。

 シャルティアだから正面が分かるのだ。これがデュラハンなら「男は背中で語ると思ったら正面向いてた」と成りかねない。

 

「うーん、モモンガさん。パッドって持ってないですよね?」

 

 無いものはない。予備のパッドなど持たせておらず、ペロロンチーノもパッドを持ち歩く趣味など無い。

 

「いえ、もしかしたらあるかも……うーんと」

 

 モモンガの右手が何も無い空間に溶け、暫くして何も持たない手を取り出した。

 

「やっぱり無いですね」

 

「っていうか何で探したんですか?」

 

 目的の物は持っていなかったが、探すということは心当たりがある何よりの証明。かも知れないと破断した理由が気になったのだ。

 

「ああ、前にホワイトプリズムさんがメイド服をくれたんですよ。他の服も貰ったので、パッドが付いてないかなと思ったんです」

 

「あー、確か女性の下着にはパッドが付いていたり縫い合わせている物がありましたね」

 

 何処で知ったのか。エロ方向に対する造詣が異常なほどに深い。エロゲーイズマイライフは伊達ではない。

 

「メイド服! 私も着でみたいでありんす!」

 

「シャルティア」

 

「はーい! でありんす」

 

 モモンガは左右に首を振り、シャルティアの肩に手を乗せた。ピクリと反応したシャルティアに気づき、重い口を開けた。

 

「このメイド服、乳袋があるんだ」

 

「ががりんす!」

 

 ショックを受けたシャルティアは、奇妙なポーズをしながら叫んだ。具体的には両手をパーにして、下に突き出して、手を前にやって、そして決め台詞を叫んだ。

 

 乳袋、それは女の子のおっぱいを強調する素晴らしいアイテムな反面、断崖絶壁な斜面。つまり貧乳も強調されてしまう諸刃の剣。収まるべき胸がない乳袋など、ただのぶかぶかな服でしかない。

 胸の大きな女の子が着た後のセーターほど貧乳にとって虚しい物はないと思ったが、乳袋も同様に語れる虚無感を放っている。

 

「ま、まあシャルティア。無いものは仕方がない。今後どうすべきかを考えよう」

 

「はーいはーい! 私に意見がありんす!」

 

 モモンガの提案に、シャルティアは右手を上げてぴょんぴょんと自身を主張している。

 

「はい、シャルティア」

 

「はーい! でありんす」

 

 ペロロンチーノに指名され、元気いっぱいに返事をした。

 

「おっぱいには牛乳がオススメだと聞いたことがありんす!」

 

「ふむ、牛乳か……」

 

 ペロロンチーノは顎の下に手を乗せ、少しだけ考え結論付ける。

 

「残念だけどシャルティア、牛乳で胸は大きくならないんだ」

 

「そう……でありんすか」

 

「え? 牛乳って意味ないんですか?」

 

 おっぱいを大きくするなら牛乳と相場が決まっている。もっとも、モモンガたちが居た世界では遠い昔の話であったが、アニメや漫画では未だに牛乳が代名詞となっている。

 牛のように大きなおっぱいになれる。子牛は親牛の乳を飲んで成長する。乳の出が悪い乳牛は居れど、貧乳な乳牛など見たこともない。

 それが牛乳を巨乳たらしめる要因と繋がったのだ。

 

「えーっとですね、モモンガさん。牛乳は確かに栄養が豊富なんですけど、おっぱいを成長させる医学的な効果はないんですよ」

 

「騙された! ペロロンチーノさんに貸してもらったエロゲに騙された!」

 

 そんな二人のやり取りを微笑ましく思ったシャルティアは口元に手を当て、クスクスと笑っている。

 

(かわいい)

 

 良く見ると女神のようにかわいい。何処かの世界では女神はパッドを付けていると耳にしたが、なるほどと思ってしまう。可愛いと美しいは違う。確かに子供のような可愛いさのシャルティアに巨乳は似合わない。だがシャルティアとて女の子。豊満な肉体に憧れ、背伸びをしているのだ。

 確かに、たわわと実った乳を持つ女神も居るだろう。だが夢も希望も胸に吸われてしまった哀れな女神。

 こうして見ていると天使にも女神にも受け取れる神々しさを感じてしまう。それほどまでにシャルティアの姿は整っている。

 

「どうしたでありんすか?」

 

 そんなモモンガを不思議に思ったのか、きょとんとした表情をしながらシャルティアは覗き込んでいる。

 

「かわいい」

 

 ハッとしたモモンガは慌てて口を塞いだが、一度放たれた言葉が消えるわけではない。

 

「モモンガさん……」

 

(ペロロンチーノさん! そんな遠い目で見ないで!)

 

 平面の世界でしか女の子を知らないモモンガは、今の状況を打破する算段を持たない。確かにアインズ・ウール・ゴウンには女性も所属していた。だが異形種である彼女たちを異性として見るには些か、いやかなり無理があると言えよう。

 

「シャルティアがかわいいのは当たり前ですよ!」

 

「そうでありんす。わらわが見目麗しゅうあるのは当然の(ことわり)でありんす」

 

(よかった、馬鹿しか居なくて助かった)

 

 馬鹿しか居ない。つまり()()()そこに含まれるのだが、モモンガは気付いていない。

 ふと、モモンガはシャルティアが先程発した言葉に違和感を覚えた。はっきり言ってどうでも良いことだが、捻れたコードを戻すように、気になる人には何時までも頭の片隅に残り続けるのだ。

 

「そう言えばシャルティアって一人称わらわなの? さっきまでは私だった気がしたけど」

 

 シャルティアは首を傾げた。暫く考え込み、その意味が伝わったのかぽんと手を鳴らした。

 

「えーっと、今日はまだ“わらわ”と言いせんしたから言っただけでありんす」

 

「シャルティアは日に一度“わらわ”と言わなきゃいけないジンクスがあるんだよ」

 

 補足したペロロンチーノを聞いて、なんだそれと思わず笑いそうになったモモンガ。フレイバーテキストの量ではウルベルトには敵わずとも、パンドラと肩を並べる文量だろう。

 

「そう! それでありんす! 理由までは知りんせんが、ペロロンチーノ様が仰るんでありんす。それが正しいんでありんしょう」

 

「あ、うろ覚えで答えたけど合ってたんだ」

 

 いくら製作者とは言え、長らくユグドラシルにログインしていなかったのだ。モモンガにもNPCを作った経験があるが、その詳細までは……。

 

(いや、あいつのことは今でも覚えてるぞ。動く黒歴史、連れてこなくて正解だったなぁ)

 

 そう思うと、ペロロンチーノが羨ましく思えてきた。自身が作ったNPCと仲睦まじく接しており、これがモモンガが作ったNPC――パンドラズ・アクターであれば、恥ずかしさのあまり穴に入りたい思いだったろう。

 穴に入ったガイコツなど、傍から見れば墓でしかない。うっかりパンドラを連れてきたのなら、それは墓穴を掘ることとなっただろう。居ない者は居ない。無いことは良いことだ。シャルティアのことではないぞ。

 

「パッドの代わりは無いけど……じゃーん!」

 

 ペロロンチーノは何もない空間から升を取り出した。そこには溢れんばかりの豆が入っている。

 

「これって節分祭のイベントアイテムですよね」

 

「ええ、豆は栄養満点な上にですね」

 

「イソフラボンボンでありんすね!」

 

 割って入るように答えたシャルティア。その表情はキラキラと輝いている。

 

「そう、それです!」

 

 ピシッとシャルティアに人差し指を向ける。ペロロンチーノは猛禽類、ならば鳩に豆鉄砲を食らわせる側である。豆を持っているのも道理だろう。

 

「これをたくさん栽培すれば、大豆イソフラボンでボイン血鬼航空ですよ」

 

「おっぱいは水に浮かぶ……超越したおっぱいは宙を舞い、空をも制するでありんすね」

 

 意味が全く分からない二人に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情となるモモンガ。膨らんだ胸部など、空気抵抗が増して飛行速度が鈍るのではないだろうか。そして残念な事実に気づいてしまう。

 

「ペロロンチーノさん、これ炒った豆ですから植えても生えてきませんよ」

 

〈生命力持続回復〉(リジェネート)!」

 

 シャルティアの魔法によりカラカラのパリパリだった豆が瑞々しさを取り戻していく。肥らせた米粒のような豆が、丸みを帯びて立派な弾のように戻っていく。

 確かに豆鉄砲とは言い得て妙だ。

 

「これで植えられるでありんしょう」

 

「流石はシャルティアだ! あったまいい!」

 

「えっへん! でありんす!」

 

 夫婦漫才を見ている気分、と言いたいが鳥人(バードマン)吸血鬼(ヴァンパイア)。どうしても親子が仲睦まじく遊んでいるようにしか思えない。

 もしモモンガが人間であれば別の感想を抱いたであろう。今は骸骨でありアンデッド。骨抜きならぬ肉抜き、肉が無いから憎めないのだ。

 

「農業かぁ……そう言えば、前に貰ったアイテムが使えるかも知れませんよ」

 

 モモンガは何もない空間から巨大な巻物を取り出した。

 土色のそれは文字通り土で出来ており、草原に広げるとあら不思議。二十五平方メートルの立派な畑が誕生した。

 ご丁寧にも土が盛られた場所、水が捌ける場所と区切られており綺麗に耕されている。

 

 ――と、そこに! 野生の豚鬼(オーク)子鬼(ゴブリン)たちが現れた!!

 

「モモンガさん、敵襲です! 気をつけて!」

 

 ペロロンチーノにより敵を発見したモモンガは詠唱の構えを取った。

 

「先手必勝と言いますからね。《魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)――」

 

「グハァァアアアアアア!」

「グハアァァアアアアア!」

「グハアアァァアアアア!」

 

 必中魔法の一つ魔法の矢》(マジック・アロー)を唱えようとしたモモンガ。

 だが矢は放たれることなく、一時の静寂が周囲を襲った。

 

「あれ?」

 

 気まずそうに頬をぽりぽりと掻くモモンガ。何かに気づいたように、ペロロンチーノはぽんと手を叩いた。

 

「モモンガさん、モモンガさん」

 

「なんですか?」

 

「絶望のオーラ(即死)、切り忘れてますよ」

 

「あー……ああ!」

 

 モモンガはなる程と思った。即死とは言いながらも低レベルの生物にしか効果がない。ペロロンチーノは効かないし、シャルティアは既に死んでいる。訛った言い方をすると死んでらぁ。シャルティアは死んでらぁ。シャルティアはシンデレラ。

 話は変わるがオーロラプリンセスのオーロラとは、太陽からの放射線が塊となって視認できる状態になったものだ。長時間眺めるのは健康に悪く、寿命を縮めかねないと言われている。オーロラのように美しいシャルティアであれば、(絶望のオーラ)(オーロラ)がぶつかり合い中和されるのだ。たとえシャルティアが1lvであっても絶望のオーラ(即死)の影響を受けなかったに違いない。

 

 慌ててモモンガは絶望のオーラを解除した。これがモンスターではなくプレイヤーであれば敵対行動と捉えられかねない。まだ知らぬ情勢で敵を作るなど御免被りたい。

 

「あ、そうだ!」

 

 既に死体となったモンスターたちに〈第1位階死者召還〉(サモン・アンデッド・1rd)を唱え、スケルトンを召喚した。

 召喚と言うよりは媒体や触媒と例えたほうが良いだろうか。死体はどろりと溶け出し、コールタールのように硬質感の高い暗黒色となり、それぞれが人のようなシルエットとなっていく。

 染み込むように吸収され、骨だけとなったモンスターたちは眼窩に光を灯し、その場に佇んでいる。

 

「どうせならこいつらに農業させましょうよ」

 

「そんなことできるんですか?」

 

 ペロロンチーノの疑問はもっともだ。召喚されたモンスターたちは単純な命令しか出来ず、例えば目の前の敵を倒せ、マスターを守れなど分かりやすい行動しか取れない。

 これはモンスターの知性に関係なく、複雑なAIが使えないためだ。傭兵NPCならまた違っただろう。即戦力として使われる召喚モンスターでは、使い捨てを前提とした用途となるのも仕方がない。

 

 モモンガの脳裏に魔法の使い方が伝わってくる。〈飛行〉(フライ)などコンソールが出現する魔法では、その代わりとして飛び方を予め知っているし、問題なく飛ぶことができる。

 どういった原理かは分からないが、その魔法の使い方を知っているのだ。召喚魔法も同じことが言え、目の前の死体を使えることも、命令ができることも知っている。

 流石にユグドラシルと効果が異なる場合は別となり、ユグドラシルでの知識を活かせるまでに過ぎない。

 

 ユグドラシルで召喚したモンスターに農業をさせるなど普通であればあり得ない。そもそも種を植え、農業をする職業(ジョブ)されあれば勝手に育っていく。

 現実世界では実現しなかった自然の実り。自分たちで食べ物を作り、それを食べる喜び。

 味は分からないものの、不可能を可能にできるのがゲームの利点だろう。農業をするAIを組み込み、若い女性NPCと共に(くわ)を握ったプレイヤーが一人だけ存在した。

 若い女性NPCに深い意味は無いものの、ユグドラシルで使えた選択肢であれば異世界であっても問題なく使うことができる。

 

 ペロロンチーノから大豆を受け取ったスケルトンたちは指で穴を掘り、ぱらぱらと種を撒いていく。

 あとは待つだけだ。待つと言っても半年にも満たないほんのひと時。不死である彼らにとっては一瞬の出来事だろう。

 

〈要塞創造〉(クリエイト・フォートレス) ここをキャンプ地としましょう」

 

「流石はモモンガさん! 俺たちにできない魔法を唱えてくれる」

 

「惚れ惚れする魔法でありんすぇ」

 

 絶賛の嵐を聞き、うんうんと頷くモモンガ。敵が来ればスケルトンから伝わってくるだろうし、要塞であれば簡単な攻撃は防げてしまう。

 どうしてスケルトンが消えずに残っているのかは疑問であったが、再び召喚する手間が省けたと考えれば利点でしかない。喜んで受け入れよう。

 

 

「よし! 残りのカードは1枚だ」

 

「モモンガさん、ウノって言わなかったからドローですよ」

 

「これで私にも勝機が見えてきたでありんす!」

 

 暇潰しにとUNO®で遊んでいた三人。残り1枚の人はそれを宣言しないと追加ドローで手札が増えてしまうのだ。

 

「モモンガさん、それにしても芽が生えてきませんね」

 

「ちょっと様子を見に行きますか」

 

 よいしょと立ち上がり、三人は畑へと足を運んだ。

 

「ん? なんですかこの穴は?」

 

 よく見ると突いたような穴が無数に広がっており、鳥のような足跡も付いていた。

 スケルトンの話を聞くと、鳥が突いていたようだ。

 

 鳩に豆鉄砲。これは大豆を植えても翌日には鳩が綺麗に探し当て食べてしまうことが由来とされている。

 そうだ、鳩が全部食べてしまったのだ。当然ながらユグドラシルでは害虫、害獣の被害どころか設定そのものが用意されていない。

 そのためスケルトンに農作業を命令しても害獣対策までは対応してくれないのだ。これはスケルトンが悪いのではなく、基本的に単純作業しかできないスケルトンの性質を理解していないモモンガたちの責任と言えよう。

 

「うーん、なら死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を召喚しましょうか」

 

 モモンガはその辺を歩いていた子鬼(ゴブリン)をとっ捕まえ、そのまま〈心臓掌握〉(グラスプ・ハート)をした。

 

「モモンガさん、どうせなら次はスキルを試してみましょうよ」

 

「ナイスアイデアですよ、ペロロンチーノさん。えっと――」

 

 一日に使用回数の限られたアンデッド創造であるが、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)程度なら経験値の消費も無く手軽に作ることができる。

 モモンガの脳裏に浮かんだ通りに唱えるだけで、死体となった子鬼(ゴブリン)はその姿を変えていった。

 

「流石はモモンガ様! 惚れ惚れする死者の大魔法使い(エルダーリッチ)でありんすぇ」

 

「あ、そうですか? いやー照れますね」

 

 頬を赤く染めた――頭蓋骨のみでどうやったのかは分からないが――モモンガは、照れ笑いをしている。

 

「今思い出したんですけど、大豆だけじゃ胸って大きくならないんですよ」

 

「ガガりんす!」

 

 髪の毛をサラサラにしそうな驚き方をしたシャルティア。モモンガも知る由もなく、軽く驚いている。そのことではなく、ペロロンチーノが知っていた事実への驚きであったが。

 

「この……えーっと、あった!」

 

 何も無い空間から探るように取り出したそれはブルーベリーの一種、ベリー科のチェストベリーだ。胸だけでなく目にも優しい二度美味しい効果を保有している。

 なお、個人の感想であり医学的効能を示唆するものではない。

 

「胸を大きくするならチェストベリーでチェックメイト! ってね」

 

「モモンガさん……」

 

「チェックメイトってなんでありんすか?」

 

「やめて! ただの冗談だから流して!」

 

 恥ずかしがるガイコツは置いておいて、シャルティアの魔法により活力溢れるチェストベリーを植え始めた。その横にはリベンジ大豆だ。

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の指示の元、スケルトンたちは丁寧に種を植えていく。

 

「よし、これで完了チェックメイトですね」

 

「掘り返さないで!」

 

「モモンガ様、鳩は居ないでありんすよ?」

 

 ペロロンチーノとシャルティアの息の合った――シャルティアは天然だが、二人のツッコミによりモモンガは穴があったら入りたい気分となった。流石に鳩が掘り返した穴は小さすぎて入れない。

 

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は周囲に何かが来たら報告するように」

 

 頷く死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を見届けて、三人は再び要塞で待機することにした。

 流石にチェスのルールはちんぷんかんぷん、遊べないにチェックメイトだ。

 

 月日は流れ、実りの季節。収穫の秋がやってきた。チェストベリーが秋に実るかは知らないが、この世界では秋に実っている。魔法が使える世界で現実世界の法則など通用しなくて当然と言えよう。

 

「これを食べれば……わらわは巨乳……シャルティア・オッパイ・デカ美でありんすね」

 

「おいおいシャルティア、ちゃんと日を分けて食べるんだゾ」

 

「はーい、でありんす!」

 

 可愛く片手を挙げたシャルティア。なんにせよ、この二人が望むのであれば、それを見届けるのがギルドマスターモモンガの義務であり責務だろう。

 半年の間に夫婦漫才に慣れてきたモモンガであった。

 

 

 

 

 ――そして、月日は流れ、百年が経過した。

 

 

 

 

「のう、ペロロンチーノ様や、おっぱいはまだかのう」

 

「シャルティアおばあちゃん、さっきもう食べたでしょう」

 

「誰がおばあちゃんでありんすか! それよりもおっぱいはまだでありんすの?」

 

「おかしい……なにかがおかしい」

 

 目をぱちぱちとさせ、ペロロンチーノは一冊の本『おっぱい覚書』を取り出した。

 

「おっかしいなぁ、確かにこの本では卵胞ホルモンと黄体ホルモンを摂取すると理論上は巨乳になれると書いてあるのに」

 

 首をひねるペロロンチーノ。モモンガは一体どんな本だと興味が湧いてきた。

 

「ちょっと見せてもらっても良いですか?」

 

「お、モモンガさんも好きですねぇ」

 

「違いますよ! いや、確かにおっぱいは好きですけど、でも違いますよ!」

 

 まるで思春期の男子がエッチなことを隠すように必死になるモモンガ。

 モモンガはページをぱらぱらを捲っていき、ある項目に目が止まった。

 

「乳腺を蓄える働きを持つ黄体ホルモンは、肝臓を経由し血液を通って胸までたどり着く」

 

「……」

 

「つまり……どういうことでありんすか?」

 

 無言となり、血の気が引いたペロロンチーノ。シャルティアは既に血の気が引いているので引きようがない。

 

「血の通っていないシャルティアは医学的にも巨乳にならないってことかな」

 

「そんな血も涙もない話がありんしょうか? いや否! ありんせん!」

 

「なんで演劇風なんですか?」

 

 無慈悲なモモンガの一言を食らってもなお、現実を直視できないシャルティアはドラマへと現実逃避をした。

 

「じゃ、じゃあ……この一世紀、私たちがやっていたことは」

 

「モモンガさん……じゃなかった、無駄骨になるのかな」

 

「何気にペロロンチーノさん、私のことディスってる回数多くないですか」

 

 百年間も気が付けないのかと言いたいが、骨と鳥とシャルティア。むしろたった百年で気づけたと褒めてあげるべきだろう。

 

 顔がなければ正面かどうか分からない胸をペタペタと触り、シャルティアは百年ぶりに叫んだ。

 

「私の胸は永遠のゼロでありんすーーー!!!」

 

 それは要塞の中で反射し、こだました。




 
 余談ですが男性が黄体ホルモンを摂取しても肝臓で無毒化されるので効果はありません。
 粘膜摂取をしても血液は肝臓を通るので同じことです。肝臓に負担がかかるのでやめましょう。
 女性の方でも、ホルモンバランスが崩れてしまうのでサプリメントでの摂取は望ましくありません。ピルには黄体ホルモンが多く含まれており、過剰摂取することで体を妊娠状態だと勘違いさせる効果があります。
 日本では卵胞ホルモンである大豆イソフラボンやプエラリアしか市販されていないのは、上記による生理不調を引き起こすことが理由だとされています。
 そもそも胸の大きさは遺伝が大きいとされ、貧乳の家系は末代まで貧乳です。巨乳の家系であれば、男性でも大豆イソフラボンにより大きくなれる可能性があります。
 大豆イソフラボンには乳腺を作る働きがあり、それを蓄えるのが黄体ホルモン。ワイルドヤムやチェストベリーに多く含まれています。大豆イソフラボンを摂取し続ければ、乳腺が作られ続け胸が大きくなる可能性があります。しかし蓄積はされないので、いつかは無くなります。
 シャルティアには血液が存在しないので、胸まで黄体ホルモンを届けることができません。なので、()()()()()()()シャルティアを巨乳のメロンちゃんにできないこととなります。
 次回は別の視点から考えてみましょう。
 
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