ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第992話において、唯花と出海がソレイユを訪れていますが、以前928、929話でソレイユを訪れていた事を忘れていた為、それに合わせて第992話を少し改稿しました!既知の人物に対する反応が若干変わっています!


第994話 勝負の行方は

「ラキアさん、宜しくお願いします」

 

 そう言う出海の目は燃えていた。それも当然だろう、とんでもない願いはNGとして、

この勝負に勝てば、八幡にそれなりの願いを一つ聞き入れてもらえるのだ。

まさに出海にとっては千載一遇のチャンスである。

 

(この勝負、負けられない、つまりゴウキ一択!)

 

 出海はそう考え、最強の呼び声の高い隠しキャラ、

ゴウキを出現させるコマンドの入力を開始した。

一秒ごとにカーソルを指定キャラに合わせ、スタートボタンを押す。

そしてすぐに三つのボタンを同時に押し、見事にゴウキが登場した。

 

(よし!)

 

 出海は出現コマンドの入力に成功し、心の中でガッツポーズをした。

 

(多分ラキアさんもゴウキだろうけど………)

 

 そう思い、横を見た出海は、晶が指定の操作を何も行っていない事に気が付いた。

 

(えっ?どうして………)

 

 そこで晶が選択したのは、まさかのザンギエフであった。

 

(嘘、スパIIXのダイアグラムだと、レートは九対一だよ!?

今でこそザンギエフは強キャラ扱いだけど、この時代は………)

 

 ダイアグラムとは、要するにキャラの相性や性能差が、

どのくらい偏っているかの数値である。

これが九対一まで広がってしまうと、一の側は基本何をやっても勝つ事は出来ない。

 

(ど、どういう事!?)

 

 出海は別の意味で動揺したが、すぐに心を落ち着かせた。

 

(ううん、例え何が相手でも、私はベストを尽くすだけ)

 

 そう思いながら晶の方をチラリと見た出海の視界に、

晶がレバーを左手の親指と人差し指で弾き、くるりと一回転させる姿が飛び込んできた。

 

「むふぅ」

 

 それが何をしているのかは分からなかったが、

出海は何故か背筋に冷たいものが走るのを感じ、自らの顔をパンと叩いて気合いを入れた。

 

「あ、何か懐かしい」

 

 一方それを後ろで見ていた小春は、そんな晶の姿に懐かしさを覚えていた。

 

「あれって何をやってるんですか?」

「あれはね、最近だとコマンド入力受付が緩くなっててあんまり必要な技術じゃないけど、

指弾きの反動でレバーを一回転させて、

キャラが移動中でもジャンプしないようにする技だよ。私も昔、あれでやられちゃったんだ」

「そうなんですか」

「それで私は彼の事を諦めたんだよね、まあ今となってはいい思い出かな」

「プリンさん………」

 

 そう言いながらもプリンは目を潤ませており、八幡はそんなプリンの肩に軽く手を置いた。

 

「何かごめんね、八幡君」

「いえ、俺にはこんな事しか出来ませんけど」

 

 それで小春も気持ちを落ち着けられたようで、二人は出海と晶の勝負に目を向けた。

 

『ラウンドワン、ファイッ』

 

 そして二人の勝負が始まった。

最初出海はジャンプ中に斜めに撃ち下ろす斬空波動拳を放ち、様子見していた。

これを連打されると、初心者は全く敵に近寄れずに封殺される。

 

(近付いてこない?さっき背筋が冷たくなったのは気のせい?)

 

 時代が違うせいで、晶が使っていた弾き技を、出海は知らなかった。

それでも出海は慢心する事なく慎重に勝負を進めていった。

 

(とにかく懐に入られなければいけるはず)

 

 この戦いは最初、誰が見ても晶が負けると思えるほど、一方的に推移していった。

 

「初戦は負けちゃいますね」

「どうかなぁ、ほら、ラキアの表情、全然落ち着いてるでしょ?

多分今、タイミングを計ってると思うから、

そのタイミングを思い出したらすぐに攻撃を始めると思うんだけどな」

「へぇ、何のタイミングですか?」

「まあ見てれば分かるよ、うん」

 

 ザンギエフのHPゲージはどんどん削れていき、

このままでは完封されて終わると誰もが思っていた。

他ならぬ出海でさえも、さすがにここまでくると、そう思ってしまっていた。

既にザンギエフのHPゲージは残り一割を切り、残り数ドットまで落ち込んでいるのだ。

だがそんな出海の顔をチラリと見た晶は、そのまま一気に反撃に移った。

 

「………しまった!」

 

 晶は出海の操作が緩慢になった隙を突いて素早く敵に接近し、

大技を連発しながらも、決して出海を逃がさない。

 

(あと一撃で一本取れるのに何も出来ない!)

 

 出海は焦ったが、ここで晶の更なる大技が炸裂した。

 

「ファイナルアトミックバスター!?」

 

 出海は呆然とそう呟いたが、時既に遅し、その大技は既に発動しており、

それによって出海のゴウキのHPゲージは一気に吹き飛んだ。

この技は、レバーを二回転させる必要がある為にその難易度は激高である。

だが晶はいとも簡単にそれをやりとげ、一本目の逆転先取に成功した。

 

「あは、私の時よりも早かったね」

「そうなんですか?」

「うん、私は一本目は取れたんだ、決して褒められたやり方じゃなかったんだけどね」

 

 小春は昔を懐かしむようにそう言い、憐れむような瞳で出海の顔を見た。

 

「これでアスモちゃんが心を折られてないといいんだけどね」

 

 当の出海は顔を青くし、同時に晶の持つ技術に背筋を寒くしていた。

だがその目からはまだ光が消えておらず、出海は闘志を向き出しにして、二本目に臨んだ。

 

「今度は負けませんよ!」

「むぅ」

 

 だが開始早々、出海の斬空波動拳は晶によって撃ち落とされ、一気に懐に入られた。

そこからはもうワンサイドゲームである。

何も出来ずに出海は一方的に技を極められ、成す術なく二本目も取られる事となった。

終わってみれば、晶の完勝である。

 

「うわ、負けたぁ!」

 

 出海は絶叫したが、その声には悔しそうな響きはない。

笑ってしまう程の完敗だったせいか、悔しいという感情すら沸いてこなかったのだ。

 

「ラキアさん、凄いです、思わず見蕩れちゃいました!」

「むふっ」

 

 晶は得意げに胸を張り、出海を励ますようにその肩をポンポンと叩くと、

振り返って八幡を引っ張り、椅子に座らせてその膝の上に座った。

 

「あ、あの、何でわざわざ俺を椅子に………」

「むん!」

「えっと………」

「褒めて、だって」

「あっ、分かりました」

 

 八幡は小春の通訳によって晶の要求を理解すると、黙って晶の頭を撫で始めた。

どうも晶は八幡が相手だと、大人ぶるか幼児化するかの二択になるようだ。

 

「お~い出海、俺の勝ちだな、何をしてもらうかはよく考えて決めるからまあそのうちな」

「うっ、わ、分かってるわよ!」

 

 出海は悔しそうにそう言い、唯花と詩乃が出海を慰めていた。

そしてここからはフリータイムである。しばらくして結衣達も合流し、

みんな一斉にゲームで遊び始めた。お金を入れなくても遊べるようにしてある為、

どのゲームもやり放題である。

小春も出海と対戦したがり、二人はヴァンパイアというゲームで対戦し、

小春がかつての持ちキャラであるフォボスというキャラで、出海に勝利した。

 

「うぅ………二人とも強いですね………」

「まあ昔とった杵柄って奴だよ」

「ふんふん」

「そっかぁ、私もまだまだ修行が足りないって事ですね」

「お前は別に、それ以上強くならなくてもいいだろ、今でも俺には完勝なんだからよ」

「まあそうだけどさ………」

 

 八幡は、仕方ないなと思いながら、出海の機嫌をとる為に、

何かのゲームで対戦してあげる事にした。

そして立ち上がった瞬間に、遠くから明日奈の声が聞こえてきた。

 

『待って、待ってってば!』

「ん?あの声は明日奈か?」

「えっ、アスナさんも来てるんですか?」

「私、アスナさんにも会ってみたかったんだよね」

「だよねだよね、アスナさん格好いいもん」

 

 どうやら二人はアスナに憧れているらしい。二人もアスナと同じヒーラーな為、

更に近接戦闘でも凄まじい強さを誇るアスナに憧れるのはある意味当然といえる。

 

「まあこっちに向かってるみたいだし、もうすぐ着くだろ、

それにしても何を大声を出してるんだか………」

 

『本当に待って!ちょっと落ち着いて!』

『ちょっ、は、早いってば!』

 

 その時明日奈の声に混じって、麻衣の声も聞こえてきた。

 

「むっ」

「あっ、も、もしかして………」

 

 その時結衣が焦ったような声を上げ、八幡は結衣に駆け寄った。

 

「おいユイユイ、もしかしてあれって………」

「う、うん、私達だけじゃロビンを抑えられる気がしなくてアスナに援軍を頼んだんだけど、

仕事の話が終わった後、ちょっとお茶しようって言って、

アスナとロビンとアサギは社員食堂の方に行ったんだよね。だからもしかしたら、

お茶が終わった後にロビンがヒッキーに気付いてこっちに向かってきてるのかも」

「だよな、っていうか絶対そうだ」

 

 八幡はそう呟くと、全員に向かってこう宣言した。

 

「みんなやばい、もうすぐ変態がここに来る」

「へ、変態?」

「それってアスナさん?」

「んな訳あるか!ロビンの中の人がここに来るんだよ!」

「ああ!」

「ロビンさんか~!」

 

 その反応から、唯花と出海もクックロビンの事を変わった人だと認識している事が分かる。

そして遊戯室のドアが乱暴に開けられ、廊下から弾丸のようにエルザが飛び込んできた。

 

「あっ、やっぱり八幡がいた~!」

「おっと」

 

 こちらにダイブしてくるエルザを、八幡は見事にキャッチした。

実に慣れを感じさせる挙動である。

 

「おいロビン、俺は別に逃げないから、お前は廊下を走るんじゃねえ」

「八幡ってば先生みたい、あははははは!」

 

 八幡はそのままエルザを下ろし、そこに明日奈と麻衣が追いついてきた。

 

「ご、ごめん八幡君、私でも無理だったよ」

「八幡さん、お騒がせしてすみません」

「いやいや、まあここには身内しかいないし別にいいって」

 

 そう言いながら周囲を見回すと、唯花と出海、それに小春がぽかんとした顔をしていた。

晶は何を考えているのか分からないが、もしかしたら驚いているのかもしれない。

麻衣は晶と前からの知り合いな為、晶に駆け寄って挨拶をした。

 

「あっ、大………じゃなくて、ラキアさん、お久しぶりです!」

 

 八幡はそんな麻衣に小春の事をプリンだと紹介した。

 

「麻衣さん、こちらはプリンさんな」

「あっ、プリンさんだったんですか、私、アサギです、初めまして!」

「あっ、う、うん、あの、もしかして桜島麻衣さん?」

「えっと、は、はい!」

「そ、そうだったんだ、ヴァルハラって凄いのね………」

 

 そう言いながら、小春はエルザの方に目を向けた。

そのエルザはきょろきょろと辺りを見回し、見知らぬ者達に挨拶をした。

 

「おりょ、知らない人がいっぱい!初めまして、神崎エルザで~っす!」

 

 八幡はエルザにはハンドルネームで会話するように指示していなかったが、

エルザと麻衣に関しては、知名度が高すぎる為、その必要は全くないだろうと考えた。

事実その宣言を受け、唯花と出海がこちらに突進してきた。

 

「嘘、本物の神崎エルザさん?」

「ロビンさんってエルザさんだったんだ………」

 

 二人はそう言った後、同時に硬直した。

おそらくその頭の中は、あのエルザさんが変態?という疑問が渦巻いているのだろう。

八幡はその硬直をそう判断し、敢えてエルザに声をかけた。

 

「おい変態、ちゃんと仕事してるか?」

 

 その瞬間にエルザは、自らの足の間に手を入れ、もじもじし始めた。

 

「も、もう、八幡ったら、こんな時間から言葉責めなんて………」

 

 そのままエルザはハァハァし出し、八幡は呆れた声で言った。

 

「お前は本当に人の話を聞かないよな」

「あっ、ううん、聞いてる聞いてる、仕事、仕事だよね?

うん、ALOのバージョンアップまでに休みにしたいから頑張ってるよ、褒めて!」

「おう、えらいえらい」

「そこは、エロいエロいって言う所でしょ~!」

「はぁ………お前さぁ………」

 

 そんなエルザを、唯花と出海は呆然と眺めていた。

 

「ほ、本当に変態?」

「うわ、うわぁ………」

 

 そんな二人を見て、エルザはきょとんとした、

 

「八幡、この二人は?」

「ああ、こっちがヒルダでこっちがアスモゼウスだな」

「あっ、そうなんだね!宜しくねぇ!」

「で、あちらにいるのはラキアさんと、プリンさんだ」

「ラキアさん!何か親近感が沸く!」

 

 確かに身長的にはそうかもしれない。

 

「プリンさんの話だけは聞いてました、初めまして!」

 

 エルザはプリンの存在は八幡に聞いて知っていたが、

ALO内で会った事は無かった為、珍しく丁寧に挨拶していた。

その後、エルザもそのまま皆と一緒に遊戯室で遊び、

しばらくして次の仕事があるとかで、麻衣と一緒に風のように去っていった。

 

「な、何か凄かったね………」

「まああいつはああいう奴だよ」

「うぅ、知らなければ良かったかも」

「う、うん………」

 

 この後、晶と小春も帰り、結衣達も今日の顔合わせに関連して少しやる事があるとかで、

三人仲良く帰っていった。晶達が帰った事で萌郁もお役御免になり、

明日奈はどうやら里香達を置いてこちらに駆けつけてきたらしく、

そちらに合流する為に帰っていった。

 

「さて、四人だけになっちまったな、とりあえず飯でも食うか」

「「「うん」」」

 

 こうして四人は八幡の奢りで食事を終え、そのままマンションへと向かったのであった。

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