「あれ、一度ソレイユに戻るんだ」
「いや、こっちだこっち」
ソレイユの駐車場にキットを停めた後、四人は正門の方へと歩いていった。
そして横断歩道を渡り、目の前にある豪華なマンションの前で、八幡は立ち止まった。
「え、もしかしてここなの?」
「おう、そうだぞ」
「ち、近い………」
二人はどんな部屋なんだろうとかなり緊張していたが、
部屋に到着し、中に入ると、思ったより内装が女性的な事に驚いた。
「これ、本当に八幡さんの部屋?」
「いや、まあみんなで色々いじってくれてるからな、すっかりこんな感じになっちまった」
壁紙が薄いピンクだったり食器棚の中身が花柄だったり、
どうやら八幡の部屋は女性陣にいいように改造されているようだ。
「そっかぁ、しかし凄い設備が充実してるよね」
「まあ居心地重視だからな、俺にとっては仮眠所みたいなもんなんだけどな」
「それにしては豪華すぎでしょ!」
唯花がそう突っ込んだ丁度その時、玄関の方からガチャガチャと音がし、
誰かが入ってくる気配がした。
「八幡さん、今日は泊まりですか?あっ、詩乃ちゃん!」
「ハイ優里奈、今日はお世話になるわね」
「そうなんだ!あ、えっと、そちらの方々は………」
「私と同じ学校の唯花と出海よ、ALOのプレイヤーで、もちろん八幡とも顔見知りよ」
「そうなんですか!こんばんは、初めまして、櫛稲田優里奈です!」
「あ、こ、こんばんは!」
「初めまして!………って」
優里奈が笑顔でお辞儀をしたのと同時に、
唯花と出海は、ぽよよん、という音が聞こえた気がした。
「ちなみにここにいるみんな、同い年よ」
「そうなんですか?わぁ、嬉しいです!」
優里奈は天使のように無邪気に微笑んだが、
当の二人はず~んと落ち込んだような顔をしていた。
「あら?どうしたの?」
「う、ううん、世の中の理不尽さがちょっとね………」
「これが胸囲の格差社会なのね………」
「あんた達はまったく………」
詩乃はため息をつき、優里奈は何と言っていいのか分からず苦笑していたが、
それでも優里奈は場を落ち着かせる為の努力を始めた。
「とりあえず私、お茶でも入れますね」
「それじゃあ私達は、楽な格好に着替えましょっか」
「待って待って、櫛稲田さんって、確か八幡さんが親代わりをしてるっていう………」
「ええそうよ、前に話したわよね?」
詩乃はその唯花の質問に頷いた。
「それって足長おじさん?それとも光源氏計画!?」
「ああ、出海は前もそんな事を言ってたわね………」
「私と八幡さんの関係ですか?」
「うん」
「よくぞ聞いてくれました!私と八幡さんの関係は………」
いつ突っ込もうかとタイミングを計っていた八幡は、
その優里奈の反応に不穏なものを感じ、慌てて会話に割り込んだ。
「優里奈は俺の被保護………」
その瞬間に優里奈と詩乃はアイコンタクトを交わし、詩乃が八幡の口を手で塞いだ。
「むごっ………」
その隙に優里奈は二人に向かってこう宣言した。
「パパです!」
「もがっ、むがががが………」
「八幡さんは私のパパです!」
「「パパ!?」」
マンションでパパという単語から二人が連想したのは、当然愛人という言葉である。
というか常識的にそれ以外はありえない。
「ま、まさかあのたわわな果実で毎日フィーバーフィーバー!?」
「わ、私も、私も囲ってみませんか?八幡さん!」
「お前らトチ狂ってるんじゃねえ、優里奈は俺の被保護者だ、
身寄りのない優里奈を知り合いに頼まれて俺が引き取ったんだ。
住んでるのもここじゃなく隣の部屋だしな」
いつの間にか詩乃を後ろ手に拘束していた八幡が、二人にそう説明し、
唯花と出海はその迫力に負けて無言で頷いた。だが負けない者もいる。
「ちょっと、痛いじゃない、責任取りなさいよね」
当然拘束されたくらいで大人しくなる詩乃ではない。
だが八幡はすぐには反論せず、痛いと言われたからか、すぐに詩乃を解放した。
「あら、殊勝じゃない」
(あっ、すぐに離してあげるんだ)
(八幡さん、優しいね)
唯花と出海がひそひそとそう囁き合う。
その言葉が聞こえていたのか八幡は一瞬赤面したが、
すぐに平常心を取り戻し、詩乃に反論した。
「先に手を出してきたのはお前だ、俺がやったのは単なる正当防衛だ、だから俺は悪くない」
「正当防衛?そんな事言って、本当は私の手を握りたかっただけなんでしょう?」
(何そのエクストリーム反論)
(相変わらず強気だよね)
「お前の手にわざわざ握るような価値があるとでも?」
(うわ、八幡さん容赦ない!)
「あら、やっぱり手より足の方がいいのね、八幡は私の足が大好きだものね。
ほら、好きなだけ握っていいわよ」
(えっ、そう返すの?)
(というか八幡さんって足フェチ?)
「風評を撒き散らすな、お前の恥ずかしい写真をバラまくぞこの野郎」
(八幡さん、子供みたい!)
「あら、そんな物があるなら見せて欲しいわね」
「これだ」
そう言って八幡が見せてきたのは、
この部屋のソファーで詩乃がうたたねし、盛大によだれを流している写真であった。
(本当にあるんだ………)
(詩乃、かわいい………)
「あら、今更私の事が好きアピールをしなくてもいいのよ?
寝顔の写真くらいベッドの中でいつでも撮れるでしょうし、
いくらでもコレクションするといいわ」
(これは完全に誘ってますね………)
(というか詩乃って八幡さんと一緒だとこんな感じなんだ)
(詩乃ちゃんは大体こんな感じですよ)
(そうなんだ?学校だとここまでじゃないのになぁ)
「いやいや、本当に好きなら誰にも見せないさ、
要するにこれは、誰かに見せても構わない程度の写真ってこった」
「そんなにいつも私が自分の物だってアピールしてるの?
随分と健気じゃない、その健気さに免じて、
仕方ないからクリスマスイヴの夜は、うちに泊まりに来てもいいわよ」
((超強引な誘いきた!))
(あはははははは)
「お前の部屋に?俺なんかの為に大掃除をさせて、
部屋に足の踏み場を作らせるなんて、そんな苦労はかけられないな」
「そう?残念ね、いつもは掃除しない高い所も綺麗にするつもりだから、
下から私の生足が見放題で、八幡にとっては天国じゃないかと思ったんだけど?
それにもしかしたら、他のものも見えるかもよ」
(とことん足で押すよね………)
(でも確かに詩乃の足はなんかエロい)
(ですよね、細すぎず太すぎずスラっとして羨ましいです)
「はっはっは、そりゃ天国だな、アニマルプリントのお子様用じゃなければな」
「あら、さっき私のスカートの中身を思いっきり目に焼き付けて、
一人になった時にその記憶で楽しもうとしてる癖によく言うじゃない」
「ストップ、ストップです!」
そこに優里奈が割って入った。
「さすがにそれは聞き捨てなりません!
八幡さん、いつ詩乃ちゃんのスカートをめくったんですか?」
「優里奈、めくってない、めくってないからな。
今日はこいつら、スカートの丈を思いっきり短くしてきてやがってな、
そのせいでさっき床に座らさせられた時に、偶然見えちまったんだよ、偶然」
八幡は、偶然の部分を強調しながらそう言い訳をした。
「なるほど………詩乃ちゃん達はどうしてそんな事を?」
「だってそうでもしないとあのお色気軍団には敵わないじゃない」
「みんな戦闘力が凄かったもんね………」
「う~ん………」
その説明を受け、優里奈は顎に手を当て、何か考え始めた。
その仕草は妙に八幡に似ており、詩乃は思わず目を見開いた。
(長く一緒にいると、やっぱり似るものなのかしら)
やがて優里奈は顔を上げ、詩乃に質問してきた。
「ねぇ詩乃ちゃん、その時八幡さん、すぐに目を逸らさなかった?」
「え?ああ、うん、凄い早さだったわよ」
「やっぱり。ねぇ詩乃ちゃん、ちょっと八幡さんの様子をじっと観察しててくれる?」
「え?」
「八幡さんは、私の足をよく見てて下さいね?」
「へ?」
そして優里奈はスカートを徐々にたくし上げていき、本当にギリギリの所で止めた。
八幡の目はそこに釘付けになり、まったく目が離せない。
「むむむむむ」
「ほら詩乃ちゃん、八幡さん、目を離せなくなってるでしょ?
男の人ってハッキリ見せちゃうと、逆に目を背けちゃうんだよ」
「た、確かに………」
「ポイントは、妄想をかき立てるギリギリのラインを攻める事かな」
「「おお!」」
唯花と出海も思わずそう声を上げた。
「後、胸に拘ってたみたいだけど、胸の谷間ってそんなにいいものじゃないんだよ、
男の人は基本、見てる事をこっちに気付かれてるって思ったら目を背けちゃうし、
好きでもない人にもアピールする事になっちゃうよね?
その点足なら他の人からの視線はカバンとかでガード出来るし、結構応用がきくんだよ」
「な、なるほど………」
「ゆ、優里奈、お前、どこでそんな知識を………」
「駆け引きって奴です、私にはそういうあざとい知識を教えてくれる師匠が沢山いますから」
「あざと………そ、そうか、あいつか!」
八幡の脳裏に浮かんだのは、そういう事に長けた後輩の顔であった。
「勉強になるわね、でも優里奈、それじゃあ学校ではどうしてるの?」
「え~?私、学校だといつもこんな感じだよ?」
そう言って優里奈が見せてきたのは、友達と一緒に撮ったらしい、
胸元をキッチリ閉め、丈の長いスカートを履いた、地味な優里奈の写真であった。
「ふ、普段は本当にこの格好なの?」
「うん、八幡さん以外にちょっとでも気を持たれるのは嫌だしね」
(て、徹底してるね………)
(私も見習おうかしら………)
(でもあれ、持つ者にしか言えないセリフだと思う………)
三人がひそひそとそう囁く中、優里奈は八幡に向き直った。
「だから」
「ん?」
優里奈は再びスカートをたくし上げ、胸のボタンを大胆に開けた。
「この姿が見られるのは、世界で八幡さんだけですよ」
八幡は何も言えず、盛大に目を泳がせるばかりであり、
さすがの詩乃も、ううむと唸る事しか出来なかった。
「「師匠!」」
唯花と出海はどうやら優里奈を師匠認定したらしく、尊敬の目を向けている。
「あは、私はそんな柄じゃないよ、それじゃあお茶を入れてくるね」
優里奈はそう微笑み、台所へと向かった。
「それじゃあ私達も着替えてきましょうか」
「あっ、そ、そうだね」
「こっちよ」
詩乃はそのまま二人を寝室へと案内した。
そこで更なる衝撃を受ける事になろうとは、二人は想像してもいなかったのであった。