「ここが八幡さんの寝室?」
「共用の寝室ね、今日は私達だけど、誰かが泊まりに来てる時はその人が使うのよ。
当然男女別で、そういう時は八幡は外のソファーベッドで寝てるわ」
「え?それじゃあかわいそうじゃない?自分の部屋なのにさ。
私は別に八幡さんと一緒に寝ても構わないよ?」
「残念だけど、八幡と一緒に寝ていいのは明日奈だけってのがここのルールなのよ」
「ちぇっ」
唯花は舌打ちしながらもそれで引き下がり、
そのままベッドに倒れ込んで、シーツに顔を埋めてその匂いを嗅ぎ始めた。
「あっ、こら唯花、ベッドをくんかくんかしないの!」
「詩乃って時々そういうおかしな表現をするよね」
「えっ?ダル君って友達に教わったんだけど、おかしいかしら?」
「う~ん、女の子が使う表現じゃないと思うけど………」
そういった方面にも詳しい出海は控えめな表現でそう言ったが、
詩乃は全く気にした様子もない。
「別にいいわよ、かわいいから使ってるだけだし」
「まあ詩乃がいいならいいけどね」
そして唯花は、ため息をつきながらシーツから顔を上げた。
「う~ん、八幡さんの匂いじゃなく、干した洗濯物の匂いしかしない!」
「そりゃまあ、優里奈がまめに干してくれてるもの」
「そっかぁ、あ、後で八幡さんにしばらくここで横になってもらおうよ!」
「あら、それはいい考えね、後でそうさせましょうか」
(頼んでみる、じゃなくそうさせる、なんだ………)
もっとも八幡はその申し出を断固拒否した為、この計画が実現する事はなかった。
ちなみに合法的にその行為を行える者が明日奈を除いて一人だけ存在するが、
三人はその事には気付かなかった。
「それじゃあ着替えちゃいましょうか」
「うん、そうだね」
「やっと制服が脱げるね」
唯花と出海は持ち込んだバッグをごそごそし、そのまま着替え始めたが、
詩乃はクローゼットを開け、そこから着替えを取り出した。
「………あれ、詩乃は着替えをここに置いてるの?」
「ええそうよ、このクローゼットは要するに会員用の設備なの」
「会員?会員って何!?」
「えっと、この部屋を自由に使える人に与えられた権利みたいな?
要するにこれは、個人用アイテムストレージみたいなものね」
咄嗟にそういう表現が出てくる辺り、詩乃はもう完全にゲーム脳になっている。
「「私も会員になりたい!」」
「ごめん、それは無理なの」
「「何で!?」」
「二人ともハモりすぎ、理由は簡単、二人がまだ未成年だからよ。
ここを使う為には特殊な儀式が必要なんだけど、
その儀式を行う為には、親の影響が強い未成年だとちょっとまずいのよ」
「えっ、それじゃあ詩乃は?」
「親の影響が強い、って言ったでしょ?私はほら、一人暮らしだし、
色々あって、八幡に保護者をやってもらってるくらいだから………」
その詩乃の言葉で二人は、以前進路相談の時に、
八幡が詩乃の保護者として来校していたという話が、
一時期学校中の話題になっていた事を思い出した。
「あ、ああ~、確かにあったかも」
「そういえばそうだったね」
「それじゃあここに名前が書いてある人達が、そのメンバーって事?」
「まあそういう事ね、もっともここには未成年者の名前も何人かあるけど………」
そう言いながら詩乃は、フェイリスの名前を指差した。
「フェイリスも、両親がいなくて八幡が名目上だけらしいけど保護者をやっているわ」
「そ、そうなんだ………」
「優里奈もそうだし、紅莉栖も片親で、しかも親との縁はほとんど切れているみたいよ。
逆にあれだけ八幡と親しいのに、理央の名前は無いでしょ?」
「あっ、本当だ!」
「そういう事かぁ………」
二人はそれで、ここのルールに納得してくれたらしい。
「ちなみにもうすぐランとユウキもここのメンバーになると思うけど、
二人とも身寄りはいないわ。当然保護者は八幡よ」
「八幡さん、凄いなぁ………」
「完全に足長おじさんだね」
二人は詩乃のその説明を聞き、八幡への尊敬を新たにした。
「まあ高校卒業までの我慢だから、それまでに何かやらかさないようにしなさいね」
「う、うん!」
「そう考えるとあと一年ちょっとだね!」
二人は卒業までは、とにかく問題は起こさないようにしようと心に誓った。
どうやらこの部屋に居場所を確保する気が満々のようだ。
「しかし凄い人数だよねぇ」
「女の人ばっかり」
「あら、一応キリトの荷物もあるのよ、居間の隅にだけどね」
「あっ、そうなんだ」
「ちなみに八幡に男友達が少ないって事じゃなくて、いや、まあ少ないんだけど、
この部屋に招けるような男がキリトしかいないってだけな話だからね」
「二人ってそんなに仲がいいんだ?」
「ええ、あの二人と明日奈を含めた三人の絆は特別なの、私でも入り込めないくらいにね」
「へぇ」
「じゃあ師匠は?」
出海が突然そんな事を言い出した為、詩乃はきょとんとした。
「師匠?ああ、優里奈の事?」
「うん」
「優里奈もある意味特別ね、多分八幡は優里奈の事を、
本当の身内みたいに思ってると思うわ」
「そっかぁ」
「確かに八幡さん、師匠に頭が上がらなさそうだったしね」
二人はそう言って何気なく優里奈の名前が書かれた収納を見て、ピタッと動きを止めた。
「どうしたの?」
「あ、いや、あれ………」
二人が指差す先に見えたのは、優里奈のブラであった。
「これ、絶対メロンとか入ると思うんだ」
「あはははは、確かにそうね、まあ私はそこまで胸にこだわりはないけど、
二人とも興味があるなら試着させてもらえば?丁度優里奈もいる訳だしね」
「いいの?」
「ええ、ちょっと優里奈を呼んでくるわね」
詩乃はそう言って部屋の外に出ていき、すぐに優里奈を連れて戻ってきた。
「連れてきたわよ」
「どうしたんですか?」
「いやね、優里奈にちょっとお願いが………」
「あっ、はい」
そして事情を聞いた優里奈はその頼みを快諾した。
そして最初に唯花がチャレンジしてみたが、当然の如く、胸がスカスカ状態となった。
「うん、私にメロンは無理!」
「凄いサイズよね………」
「ほら、出海も試してみなよ」
「う、うん」
続けて出海がチャレンジしたが、当然の如くスカスカ状態となった。
「うん、私にスイカは無理!」
「スイカは言いすぎです!」
「世の中にはスイカップって言葉もあるけどね」
「これで同い年なんだよね………」
「はぁ、羨ましい羨ましい」
「ねぇ師匠、参考までにスリーサイズは?」
「あっ、はい」
優里奈は正直にサイズを申告してくれたが、
ウェストの数値を聞いた瞬間に、二人はまた動きを止めた。
「えっ?嘘!?」
「本当に?」
「本当ですよ?」
「えっと………」
唯花は優里奈と自分のウェストのサイズを実際に触って比べ、盛大に落ち込む事となった。
「私より細い………」
「わ、私も多分負けてる………」
数値で判断したのか出海も唯花同様落ち込んでいた。
「しかもこのお尻は………」
「きゃっ」
唯花は落ち込んだ気分のまま優里奈のお尻をまさぐり、優里奈は思わず悲鳴を上げた。
「うん、いい子が産めるね………」
「あ、あは………まあ八幡さんによく似た元気な子を産みたいとは思ってますけど」
「まあそうよね、私もどちらかというと安産型だし、とにかく健康な子供を産むつもり」
優里奈のその言葉に詩乃があっさりと同意し、さすがの二人も仰天した。
(わ、私達と覚悟の方向性が全然違う気が………)
(二人の愛が重い………)
二人がひそひそとそう言葉を交わし合ったその時、部屋のドアがノックされた。
「あら?八幡かしら?」
八幡はドアを開けず、そのまま外から声をかけてきた。
「お~いお前達、早く着替えないとお茶が冷めちまうぞ」
「あっ、そうでした!」
「そういえばそうね」
「ごめん、すぐ着替えるから!」
「おう、頼むな」
その言葉から、八幡が四人を待ってくれている事が分かる。
そして部屋を出た四人はテーブルに座り、お茶をすすった。
「ふう、まだ温かいわね」
「間に合ったね!」
そしてお茶会という訳ではないが、雑談が始まった。
「ところで八幡、出海への罰ゲーム的なのはどうするつもり?」
「まあぼちぼち考えるさ」
「お、お手柔らかに………」
「えっ?何ですかそれ?」
唯一事情を知らなかった優里奈にそう尋ねられ、
詩乃は今日あった事を優里奈に話してきかせた。
その瞬間に優里奈は出海の方に身を乗り出してきた。
「うわ、ボーナスゲームじゃないですか、羨ましいです!
上手く八幡さんの思考をそっち方面に誘導しないとですね!」
それを聞いた八幡は、とても情けなさそうな表情をした。
「や、やはり俺の優里奈への教育は間違っているんだろうか………」
「そんな事ないですよ、私、八幡さんと一緒にいられてとっても幸せですから!」
実際八幡の教育は優里奈に影響を与えてはいない。
与えているのは八幡が知らない所で泊まりに来ている不特定多数のお姉様方である。
「そ、そうか、まあそれならいいが」
八幡は頬をポリポリと掻き、優里奈はニコニコと微笑んでいた。
そんな二人の様子を見て、三人はひそひそと囁き合っている。
「なんかもう、着々と外堀が埋まってない?」
「優里奈、恐ろしい子………」
「こういうのも女子力って言うのかな………?」
その後四人は少し狭かったが、一緒にお風呂に入り、
その後は部屋で八幡トークで盛り上がった。
次の日の朝、三人は優里奈に見送られ、そのまま学校まで八幡に送ってもらい、
八幡も学校があるので急いで帰還者用学校へと向かった。
「優里奈にまた友達が増えたか、まあいい事だな」
優里奈は夜の間に仲良くなったのか、唯花と出海をちゃん付けしており、
口調も詩乃に対するのと同じような感じとなっていた。
八幡はそんな優里奈の交友関係の充実を嬉しく思いつつ、帰還者用学校へと登校した。
そして昇降口に向かった八幡は、そこで意外な人物と遭遇する事となった。