レプラコーンのトップ職人達の集まりである小人の靴屋、
そのギルドホームは、アインクラッド第八層の主街区、フリーベンの一角にあった。
その館に今、ギルドマスターのグランゼと共に、七人のプレイヤーが集まっていた。
「で、これが真黄龍から得た素材?」
「はい姉御、黄龍鉱です」
その七人のプレイヤーとは言うまでもなく、
ゴーグル、コンタクト、フォックス、テール、ビアード、ヤサ、バンダナの、
元ロザリアの取り巻き七人衆であった。
要するにこの七人が真黄龍に魔砲で止めを刺した真犯人であり、
その黒幕がグランゼだという事である。
「武器とかは落とさなかったの?」
「いや、あるにはあったんですけどね」
「これです」
そう言ってグランゼに差し出されたのは、
どこからどう見ても黄龍を模したと分かる意匠が施された、一本の剣であった。
「黄龍大剣ねぇ………」
「それにこれですね」
「黄龍光銃………光学銃って奴かしら」
その二つはALO用とGGO用であるらしく、銃の方はここでは使えないようだ。
何故ならここにいる誰も装備出来なかったのである。
「このデザインだと、一発で真黄龍からのドロップ品だとバレるわよね」
「ですね、なのでお蔵入りにするしかありませんぜ」
「残念だけどその通りね、店売りするのももったいないし、そうしましょうか」
こうして武器に関しては小人の靴屋の倉庫の奥に秘匿される事が決定した。
さすがに臆面もなくこの武器を振り回して、
ALOとGGOの全プレイヤーを敵に回す事など出来ないのだ。
真黄龍が悪意を持った何者かの介入によって倒された事は周知されており、
もし犯人が発覚した場合、そのプレイヤーには二度と安息の日々は訪れないだろう。
「一応確認するけど誰にも見られていないわよね?」
「その辺りは上手くやったつもりです、ゴーグル、誰にも姿は見られてないよな?」
「大丈夫だ、それは自信がある。
もし見られていたとしても、最悪あのキャラを削除してしまえばいい」
この七人にとって、メインキャラはこちらであり、
促成栽培で作った七つの大罪のダミーメンバー用のキャラは、
惜しくもなんともないのであろう。
「それもそうね、とにかくよくやってくれたわ、
アスモゼウスには悪いけど、結局無事だったんだし、これくらいは大目に見てくれるわよね」
そう言いながらもグランゼの顔色は僅かに暗い。
実はグランゼは、アスモゼウスを故意に狙ったのではなく、
チャンスを逃さず形振り構わずボスのラストアタックを魔砲で狙うように、
この七人に指示していただけであって、
アスモゼウスが危険に晒されたのはあくまで結果論なのであった。
それでも友達と呼べる者を危険に晒した事で、グランゼは罪悪感を消す事が出来なかった。
「で、姉御、その素材からは何が作れるんですか?」
「今のところ未実装らしいわ、レシピが何も存在しない。
でもおそらくオンリーワンの武器か装備になるでしょうし、
作って披露した瞬間に誰が犯人なのかバレてしまうでしょうね」
グランゼは己の失敗に内心で頭を抱えていた。
とにかくハイエンド素材が欲しいという考えで攻撃を指示したものの、
ここまでのオンリーワンな素材となると、どうやっても製品から足がついてしまうからだ。
こんな事になるなら余計な事はせず、宝くじに当たるのを祈るように、
七人のうちの誰かが運良くラストアタックを取る事に賭ければ良かったのだ。
だが振った賽の目は覆らず、やってしまった事はもうどうしようもない。
(私は別に、ヴァルハラの勢力を少しでも削げればそれで良かったのに、
あそこだけならともかく、他のプレイヤー全員を敵に回すつもりなんか無かったのに!)
グランゼにも同情すべき点はある。
今回のイベントが実装され、ヴァルハラが南門を突破したと報告があった直後に、
スモーキング・リーフに大量のレア素材が持ち込まれたとの情報があり、
グランゼもその情報を受け、小人の靴屋の採掘系メンバーを現地に送り込んだにも関わらず、
大した成果を挙げられなかったという事があったからだ。
これはレア素材を嗅ぎ付けるリナの能力が、
どれほど凄いものかという事の証明でもあるのだが、
同時に落ち着いて採掘活動が行えるような、
雑魚敵相手に無双出来る戦力を確保出来なかった事も大きいのだ。
採掘をしている横に雑魚敵が沸けば、戦闘力が低いキャラは逃げる事しか出来ない。
これは現地が大人数で動く事を想定して設計された、
大規模イベントのフィールドである為に、雑魚敵も一定以上の強さを誇っているからである。
この七人は七つの大罪に潜入させている為、イベント中は戦力としては使えなかったのだ。
「生産系ギルドといえども、やはり戦闘力もある程度無いと駄目という事かしらね………」
その呟きが聞こえたのか、バンダナがこんな提案をしてきた。
「姉御、それなら交代でこっちのキャラを使いましょう、
何、イベントも終わったんだし、しばらくは七つの大罪もまともには活動しないはずです、
なので俺達七人から二、三人ずつ交代で護衛に付き、
そこに俺達の知り合いのある程度強い奴を加えれば、雑魚になら十分対処出来るはずですぜ」
「そういう手もあるのか………分かった、任せるわ」
「分かりました、それで姉御にお願いがあるんですが………」
「何かしら?」
「お揃いの装備が欲しいんです、性能はお任せするんで、正体を隠せるような奴です」
「ああ、なるほどね、それくらいなら………」
その提案をグランゼは認め、護衛用の装備を必要な分揃える事を約束した。
こうして小人の靴屋直属部隊が編成される事となり、
そのメンバーには脛に傷を持つプレイヤーが中心に集められる事となった。
その中にはソロプレイヤーもおり、ギルドに加入しているプレイヤーもいたが、
バイト感覚で参加出来る上に正体バレもしないとあって、
続々とメンバーが集まってくる事となった。
ALOのプレイ人口は多い為、問題児もまた多いのである。
「ありがとうございます、とりあえず知り合いを当たりますね」
「ええ、お願い」
七人は要求が満たされた事に満足し、グランゼの下から立ち去った。
そして十九層のラーベルグに転移した七人は、とあるギルドホームへと入っていった。
「ボス、グランゼに報告してきました」
「そうか………」
この言葉から、この人物がこの七人の上位者だという事が分かる。
他にも室内には何人ものプレイヤーが居り、その中には元連合のプレイヤーが多数いた。
このギルドの名は『ヘルヘイム』といい、ここは、反ヴァルハラ勢力の溜まり場なのである。
だが設定されているのはギルドマスターの名のみであり、他のメンバーは全員脱退していた。
これはギルドの掛け持ちが出来ない為に、
メンバー達が他のギルドに埋伏の毒として潜入する為の措置であり、
そのメンバー達はギルド内で情報操作を行い、
ヴァルハラに対する悪感情を増幅させようと日々努力しているのである。
分かり易く言うと、悪の秘密結社という感じであろう。
「よし、うちから交代で人員を出そう、お前達はグランゼを誘導し、
より良い装備を提供してもらえるように上手く説得するんだ」
「はい、分かりました」
「金と素材が手に入ったら製作の依頼をしてもいい、
とにかく装備さえ充実させれば、俺達はあいつらにだって負けはしない」
そのボスと呼ばれた人物はそう言い、他の者達もそれに賛同した。
「しかし顔が隠せるなら、たまには俺も戦闘に参加してみるか………」
「ボスがですか?」
「ああ、ここにいるのは息が詰まるからな」
そう言ってその人物は立ち上がり、邪悪そうな笑みを浮かべた。
その次の日から、小人の靴屋の採掘部隊と共に、その護衛部隊は活動を始めた。
あくまでも利害関係で結びついている為に、両者は決して親しくはせず、
あくまでもビジネスライクな関係として付き合っていたが、それは今の所上手くいっていた。
護衛部隊が雑魚を狩り、採掘部隊が安心して素材を手に入れる。
数をこなす事で素材も徐々に集まっており、その素材から作られた製品が市場に流れ始めた。
護衛部隊の装備も徐々にランクアップされていき、
同時にプライベートで使う武器や防具のランクも製作依頼によって上がっていったのである。
グランゼは更に、七人に情報収集の依頼も出していた。
これは留守番をしているメンバーが行うだけでよく、
様々な情報がグランゼの下に集まってきた。
だがそうそういい事ばかりが続く事はなく、この大々的な動きは当然のように、
ヴァルハラの情報収集を司るレコンとコマチの下にも伝えられていた。
「小人の靴屋が最近派手に動いてるみたいだね」
「まあ危機感を覚えたんじゃないかな?最近目立ってるのってうちばっかりだしね」
「焦るような事なのかな?だってあっちにはナタクさんクラスの職人が大勢いるんでしょ?」
「それは昔の話だよ、だってあの人達、ちっとも前線に出てこないじゃない、
確かに物作りだけでもスキルは取れるしステータスも上がるけど、
うちみたいに一気に大量の経験値を稼いだ方が全然効率がいいはずだもん。
多分あいつら、今じゃもうスクナさんよりも能力は低いと思うな」
「なるほど、確かに言われるとそうかもね」
二人はそのまま情報収集を続け、馴染みの採掘ギルドから、
ついさっき小人の靴屋の奴らが採掘に来てその場を追い出されたという話を聞いた時、
その様子を伺う為に、トラフィックスへと向かった。
「こういう時、全部の鍵があると便利だよね」
「だねぇ」
「ここからは一応変装しておこっか」
「そうしよっか」
二人はそう言って髪型と髪の色、ついでに肌の色を変え、覆面を被った。
そして二人はその別人のような姿で東門から侵入し、目的地へと向かった。
途中で何度も雑魚と遭遇したが、この二人にとっては何の問題もなく倒せる敵であった。
「いた、あそこだ」
「うひゃ、結構多いね」
「中には手だれもいるかもしれないから気をつけよう」
「うん」
たまに雑魚が沸くが、護衛部隊らしき者達が普通に蹴散らしていく。
大体五人一組くらいで敵に当たっているが、特に危なげな様子はない。
その中で三人、突出して強いプレイヤーがいた。
「ねぇ、あれって確か、ヤサとビアードってプレイヤーじゃない?」
「え、良く分かるねコマチちゃん」
「レコン君と違って、あの動きは何度も映像で見たからね」
外に出る事が多いレコンと比べ、コマチはそういったデータをよく閲覧していた。
その差がここで出た形である。
「一応録画しておこっか」
「うん」
二人はそう言って撮影を始めた。
こうなると気になるのはもう一人の強いプレイヤーが誰かという事である。
「あれ、誰だろ………」
「何者だろうね、例の七人の誰かじゃないんだよね?」
「うん、武器が違うからね」
「でもなぁ、あのプレイヤー、どこかで見た気がするんだよなぁ………」
レコンは何となく見覚えがある気がしており、
それが誰なのかを必死に思い出そうとしていた。
それがハッキリしたのはそのプレイヤーの呪文の詠唱の声を聞いた瞬間である。
レコンはその魔法を得意としていた者に心当たりがあったのだ。
「あれはウィンドアクセルの呪文………それにあの声………まさか!」
レコンは思わず身を乗り出してしまい、その姿がそのプレイヤーに見つかってしまった。
「ちょ、レコン君!」
「誰だ!」
そして誰何の声と共に、護衛部隊の者達がこちらに駆け寄ってきた。
「ご、ごめん!」
「ううん、離脱しよ!」
二人はそのまま全力で駆け出した。
下手に対抗しようとしたら、おそらく囲まれていただろうが、
最初から逃げに徹したのが好判断となり。
その速度に付いてこられる者はおらず、二人はそのまま無事に逃げ切る事が出来た。
自分達の姿は敵に見られてしまったが、
変装していた為に、その正体まではバレていないだろう。
「ふう、ごめんねコマチちゃん」
「ううん、思わず身を乗り出しちゃう程驚いたって事でしょ?
で、あれって一体誰だったの?」
「うん、多分あれ、シグルドだよ」
「えっ、本当に?」
ユキノパーティの一員として名を馳せていたコマチは、当然シグルドとも面識があった。
もちろんシグルドがどうやってシルフ領を追放されたかも熟知している。
「なるほど、あいつが黒幕かな?」
「かもしれないね、根性は腐ってるけどあれでも腕は良かったはずだから、
それなりに成長していると思えば、そこそこ強敵かも」
「とりあえずこの情報を分析して、お兄ちゃんに報告だね」
「だね」
こうしてシグルドの存在がハチマンに伝えられる事となったが、
特にこちらにちょっかいをかけてきている訳でもない為、
いずれシグルドがこちらに敵対してきた時に、
また相手をする事になるだろうという事になり、それでも一応注意という事で、
その事実が全メンバーに周知される事になったのである。
そのシグルドが再び表舞台に登場するのは、次の大型バージョンアップの時であった。
明日は記念という事で、午前0時に投稿しますね!(十二時間後です)