という訳で、またおかしな話になりました!
その日、萌郁は八幡に対して反乱を起こした。
とある日の夕方、八幡はソレイユで、八幡専属の者達を集めて会議を行っていた。
参加していたのは薔薇小猫、雪ノ下雪乃、間宮クルス、牧瀬紅莉栖、双葉理央、桐生萌郁、
この六人が以前までの専属メンバーである。そして新たに加わった者が二名いた。
神代フラウ、針生蔵人の二人である。この針生蔵人は、八幡の専属初めての男性であった。
神代フラウと共に採用されたこの男性は、能力はあるのだが、
問題児として各企業の間では有名な男だった。
曰く、面接の時に態度の悪かった面接官に説教を始め、そのまま正論で論破した。
曰く、面接の時に強そうな面接官に手合わせを挑み、打撃で勝利した。
曰く、面接官と趣味の話で意気投合してしまい、面接の時間中ずっとその話に明け暮れた。
等と挙げていけばきりがなく、本気で入社するつもりも無いように感じられた為、
主だった会社にはブラックリストが回ってきているような人物なのである。
それでは彼の面接の様子を現場からお届けしよう。
「では、我が社を志望した理由をお聞かせ下さい」
薔薇のその言葉に、本人はいたって真面目にこう答えた。
「旧知の間柄だった者に誘われたからです、
その人物から御社は何か面白そうだ、と言われました」
「面白い、ですか?」
「はい、その人物は外面だけはいい、他人と接するのが実は苦手な人物ですが、
そういった勘は良く当たるんで、それで興味を持ちました」
「厳しい事を仰いますね、
その人物がうちに採用された事がおかしいと言っているように聞こえますが」
「そこまでは言いませんが、意外なのは確かですね」
「という事ですが、採用なさった本人はどうですか?」
そう薔薇に振られ、その採用した本人~八幡はこう答えた。
「俺が採用した?ああ、もしかして渡来明日香の事か?俺が採用したのはあいつだけだしな」
その言葉に蔵人は目を見開いた。どう見ても一番若く、雑魚にしか見えなかった八幡が、
薔薇に向かってそんな口調で話しかけたからである。
「へぇ………」
蔵人は意外そうな口調でそう言い、八幡を眺めたが、
八幡はまったく動じずに蔵人の目を真っ直ぐに見ながらこう答えた。
「俺はあいつの歯に衣着せぬ物言いが気に入ったんだ、
あいつなら、俺が間違った時に追従なんかせず、それをキッパリ否定してくれるだろうさ」
「へぇ………」
蔵人は先ほどと同じセリフを口に出したが、そのニュアンスはまったく違っていた。
今度は多分に感心したような響きを伴っていたからだ。
「って事は、あんたはあの明日香の素顔を引き出したって事か、これはそそるねぇ………」
蔵人は丁寧な言葉遣いをやめ、舌なめずりをしながら八幡に言った。
「素顔を引き出したっていうか、
あいつが纏ってた強化外骨格に気付いてそれを指摘してやっただけだぞ」
「強化外骨格ときたか、それってそこの社長さんと同じって事でしょう?」
「あら、よく分かるわね」
そう答えたのはもちろん陽乃であった。その顔は実に美しい笑顔を保っている。
「お褒めに預かり光栄です、姫」
姫と呼ばれた陽乃は、その言葉にパッと目を輝かせた。
「八幡君、この子正直な子みたいよ、採用しましょう!」
「待て待て、決断するのはまだ早いって、それに姉さんも分かってるだろ?
あいつ、まだこっちを値踏みしてやがるぞ。
ここで採用とか言っても逆に断ってくるのがオチだ」
「あら、残念」
その二人の会話に蔵人は、ヒュゥ、と口笛を吹いた。
「おやおや、ここには化け物しかいらっしゃらないようで」
「で、どうすれば納得してくれるんだ?」
蔵人のその言葉には構わず、八幡はそう尋ねてきた。
「ふむ………私めに関する噂はご存知で?」
その妙に芝居がかった言い方に、八幡は淡々とこう返した。
「噂ねぇ、どれでもいいならそうだな、お前が面接の時に、
面接官に手合わせを挑んでボコボコにしたってのを
「ほうほう、いいねいいね、選ぶときましたか、それでどうしますか?ここでやりますか?」
「まあ待て、それに対してこっちが出せるのは俺か姉さん………社長だ、どっちがいい?」
「選ばせて頂けるとは光栄の至り、それじゃあ両方という事で宜しいか?」
「別に構わないぞ、おい小猫、俺がやり合ってる間にマットを一枚持ってこい」
そう言いながら八幡は蔵人の前に出た。
「マットをどうするので?」
「床に敷くんだよ、お前が怪我しちまうからな」
その八幡の言葉に蔵人は心の底から面白いという風に笑い転げた。
「げらげらげら、その凄い自信、実にいいじゃない、ファッキンボーイ!」
そう言っていきなり蔵人は八幡の喉元目掛けて手刀を繰り出してきたが、
八幡は更に踏み込んでそれを同じく手刀で弾き、
蔵人の体勢を崩した後、もう片方の手で目突きを放った。
一歩間違えたら蔵人の目に指が飛び込むような距離であったが、
八幡は正確に蔵人の目の一センチ手前でその指を静止させた。
「で?」
「ひゅぅ」
蔵人は口笛を一つ吹くと、降参だという風に両手を上げながら立ち上がった。
「参った、参った、あんた一体何者………だっ!」
蔵人はそのまま回し蹴りを放ったが、八幡はそれをも読んでいた。
八幡はそのまま軸にしている蔵人の足を払い、
蔵人をその場で転倒させ、その上に馬乗りになった。
「ファック」
「ふう、狂犬みたいな奴だなお前、でもその目からは理知的な光は消えていない、か。
そんなお前に質問だ、自分の女と自分の子供、お前ならどっちを選ぶ?」
その言葉に蔵人は聞き覚えがあった。
自分も高校時代にむかつく女性に向けてだが、同じ事を言った記憶があったからである。
「………子供と答えたら俺の顔を、女と答えたら俺の腹を攻撃すると?
まあ男女差があるからちょっとおかしな事になってますがねぇ」
「ははっ、自分が昔言った事を覚えてるのか?」
「その事を調べてあるあんた達のが俺は怖いね」
「違いないな、俺でもそれはびびっちまうわ」
そう笑い、八幡は立ち上がって蔵人の手をとった。
「どうだ?うちは面白いだろ?」
「実に面白いね、興味が尽きない」
蔵人はそう言って立ち上がり、
八幡に対し、その場で臣下の礼としか呼べないポーズをとった。
「あなたが何者かは存じませんが、私めの忠誠を貴方に捧げましょう」
「俺か?俺はここの次期社長だ、という訳で姉さん、こいつは俺がもらうぞ」
「え~?それ、私も欲しいんだけど………」
「忠誠を捧げられたのは俺だから諦めてくれ」
「仕方ないなぁ、でもせっかくマットを持ってきてもらったんだし、私とも手合わせしよ?」
その陽乃の言葉に蔵人はとても楽しそうに大笑いした。
「まったく楽しませてくれる、こんなのは高校以来ですよ」
「ほらほら、早くやろ?」
「それじゃあ挑戦させてもらいます………よっと」
蔵人はそう言っていきなり陽乃に襲いかかった。
蔵人は本気で陽乃の顔面にパンチを入れるつもりであったが、あっさりその手を捕まれ、
気が付くと蔵人は薔薇が二メートル先に慌てて敷いたマットの上に、
正確に投げ飛ばされ、背中から落下していた。
「………ファック」
「おいおい、姉さんは相変わらず容赦ないな」
「ふふん、このくらいは軽い軽い、
ねぇ八幡君、もし私の手を掻い潜って私の胸に触れられたら、結婚してあげてもいいわよ」
「え、やだよ、どうせその勝負を受けたら、姉さんはわざと負けるじゃんかよ」
「何よ、意気地無し」
「そういう問題じゃねえよ」
蔵人はそのやり取りがとても楽しかったらしく、床に投げ飛ばされたまま大笑いしていた。
そして一人冷静だった薔薇は、そんな三人を見てため息をついた。
「はぁ、また変なのが入っちゃったか………」
それが神代フラウが面接を受けたのと同じ日の話である。
この日八幡が直接採用したのは、結局この三人だけであった。
その中で渡来明日香は秘書として採用されたが、
専属にはならなかった為にこの場にはいない。これは単にバランスを保つ為である。
薔薇とクルスが既に専属な以上、秘書が八幡の専属だらけではまずいのだ。
「それじゃあ顔合わせからな、現在の俺の正式な専属はこの三人、
秘書室長の薔薇小猫、次世代技術研究部の牧瀬紅莉栖、
そしてうちの情報部ルミナス所属、桐生萌郁だ」
その言葉を受け、最初に蔵人が八幡にこう尋ねてきた。
「ボス、ちょっと質問いいか?」
「何だハリュー、何でも答えてやるぞ」
どうやら八幡は、蔵人をそう呼ぶ事に決めたらしい。
「その牧瀬紅莉栖は本物ですか?」
「おう、バリバリの本物だ、それだけでうちに入った甲斐があるだろ?」
「ワオ、これはそそるねぇ、お嬢さん、今度是非、相対性理論についてご教授願えますか?」
「八幡、この子、何者?」
「この子ってお前な………」
「私なぞは、『ハリューのおっさん』で十分ですよ、リトルガール」
「はぁ、またおかしなのを入れたものね、で、何が目的?」
「目的………さて、何の事やら」
蔵人は本当に分からないという風にそう答え、紅莉栖はぽかんとした。
「悪い紅莉栖、こいつはもの凄く知的好奇心が旺盛な奴なんだ、
悪いが今度時間をとって、色々教えてやってくれ。
多分教えれば教える程、こいつはその知識を吸収していくはずだ、
まあある程度学んだら飽きるみたいだけどな」
「そうなの?他には何を学んだの?」
「そうですね、大仏、バードウォッチング、ダム、ギャルゲー、特撮、妹萌え、とか?」
「………なるほど、とにかく興味が出たら片っ端からってタイプなのね」
蔵人は紅莉栖の口調に否定的なニュアンスが無かった事に驚いた。
「へぇ、いくつかは否定されるべき要素があったはずだけどねぇ」
「そんなものは無いわ、どんな物でも知識は知識よ」
「さすが、世界一の天才は言う事が違うねぇ」
「残念、うちにはもっと上が存在するのよ」
「この中にそんな大人物が?」
「いいえ、八幡のスマホの中にいるわ」
「………スマホ?」
さすがの蔵人もポカンとし、八幡は黙ってスマホを起動させ、
アマデウスのアイコンをクリックした。
「それは?」
「アマデウスだ、そしてその中身は………」
直後にスマホの中から聞こえてきたのは、当然の事ながら茅場晶彦の声であった。
「八幡君、何か用事かい?
ん?随分と知らない人が多いみたいだが、僕を呼び出すって事は
「ああ、
「なるほど、ここにいるのが君の懐刀って訳だ」
「そ、その声………」
蔵人はどうやら茅場晶彦の声を知っていたようだ。その目が驚愕に見開かれている。
「君はどうやら僕の事を知っているみたいだね、初めまして、僕は茅場晶彦さ、
もっとも今の僕は、本当の僕の影………ただの虚像だけどね」
「ボス、これがソレイユの躍進の秘密か?」
「いや?これはただの話し相手だぞ?」
「そ、そうなのか?」
「おう、今ソレイユが大躍進してるのは、大体俺の手柄だな、ほれ、尊敬しろ尊敬しろ」
「レッツ・パーリィ!俺の選択は間違っていなかった!あはははははは!」
そんな蔵人に、一同は呆れたような目を向けていた。
「八幡って本当に変わった人材が好きよね」
「栗カメ、お前が言うな」
「何よフロ工事、私に何か言いたい事でもあるの?」
「フヒヒ、中二秒乙」
「ぐぬぬ………」
「ほい、とりあえずそこまでな、
今日集まってもらったのはとりあえず顔合わせの為なんだが、
せっかくだし、仕事を離れて一つ知恵を出して欲しい事がある」
そんな纏まりの無い状況を八幡が止め、一同はそちらに注目した。
「仕事は関係なし?つ、つまり遊びか何か?」
そう確認するように尋ねてきたのはフラウであった。
「そうだ、お前の得意なゲームの話だ、ALOだな」
「ふ、ふむ、続けて」
「簡単に説明すると、俺達に喧嘩を売ってきてる勢力がある、
だがそいつらは複数のキャラを駆使するなどして、中々こちらに尻尾を掴ませない。
そいつらを表に引っ張り出し、ボコボコにするいい知恵があったら教えてくれ」
その瞬間に蔵人が大笑いを始めた。
「げらげらげら、これだけの人材を集めて最初に話すのがゲームの話とか、
やっぱりボスは最高だなおい!」
「仕事も遊びも本気でやらないとな、だろ?ハリュー」
「はははは、違いない、それじゃあ精一杯考えさせて頂くとしましょうか」
こうして無駄に豪華なメンバーを集めた状態で、
ALOの影で暗躍する勢力をあぶり出す為の話し合いが開始された。