ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1002話 悪の天敵の悪だくみ

「しかしハリュー、お前、ここにいるメンバーとは面識は無いはずだよな?

それでこれだけのメンバーって、何か感じるものでもあったのか?」

「ボス、そんなの見れば分かるでしょう、ここにいる全員、

全身からオーラが溢れてるじゃないですか、

これならいずれ世界征服も出来たりするんじゃないですかね?」

「一応そのつもりでやってるぞ」

 

 八幡はあっさりとそう答え、蔵人は益々ご満悦になった。

 

「さすがボス、ははっ、ソレイユを紹介してくれた明日香には感謝しないとだな!

まさかこんな会社だったとは思ってもみなかった」

「それじゃあ今度場を設けるから、一緒に飲みにでも行くか」

「おっ、話せるねボス、それじゃあ喜んでご相伴に預かりましょう」

「はいはい、そこまでそこまで」

 

 紅莉栖がそんな二人の会話を止め、本題へと持っていく。

 

「最初に事情を知らない人への説明が必要よね、雪乃、頼める?」

「ええ、分かったわ、順を追って説明させてもらうわ」

 

 そこから雪乃が今のALOの状況を、

プレイしておらず詳しく知らない者達にも分かり易いように説明していった。

セブンスヘヴンランキングの誰が味方で誰が敵か、その実力はどれくらいかから始まって、

ヴァルハラ、七つの大罪、他の主だったギルドについての説明が続けられ、

そして話は職人の世界にまで及び、最後に過去にどんな争いがあったかで話は締められた。

 

「どうだ?今の雪乃の説明で、大体の所は分かったか?」

 

 八幡は薔薇、萌郁、フラウ、蔵人の四人に向けてそう問いかけたが、

四人は問題ないという風に頷いた。さすがは選ばれし者達である。

細かい用語はともかく、大雑把に何が起こっているのかは完全に理解してもらえたようだ。

 

「で、次に最近レコンとコマチが掴んでくれた大ネタな」

 

 八幡は先日レコン達が遭遇した、小人の靴屋の連中の事を、皆に説明した。

 

「あら、あいつらがそこにいたのね」

「そういう事だ、ついでにシグルドもな」

 

 八幡はシグルドの説明を軽く行い、続けておもむろに一同にこんな質問をした。

 

「で、みんな、誰がこの話の糸を引いてる黒幕だと思う?」

「状況から考えると、小人の靴屋のリーダー、グランゼだったかしら、

もしくはシグルドのどちらかよね」

「と、特定は無理だと思われ」

「情報がちょっと足りないわよね」

「どっちがどっちに利用されてても違和感ない………と思う」

「案外どっちも自分が黒幕だって思ってて、

お互い相手に利用されてるって事もあるんじゃないですかねぇ」

「確かになぁ、人は自分の見たいものだけを見るものだしなぁ」

「でもただ倒せばいいってものじゃないわよね?」

 

 雪乃のその言葉に八幡は頷いた。

 

「そうだな、結局相手を特定して、

お前の正体を知ってるぞと脅しをかけるのが一番だろうな」

「それじゃあシンプルに特定の方法を考えましょう、ボス」

「表に出てきた以上、シグルドの方は放置しておいていいと思うわ、

いざとなったら公衆の面前で思いっきり情けない負け方をさせればいいだけだもの」

「さすが雪乃嬢、姉君と同じで容赦がない」

 

 蔵人は楽しそうにそう言い、雪乃も平然とした笑顔でそれに応じた。

 

「でも効果的でしょう?」

「話に聞く限り、そこまで自尊心が肥大した男なら、まあ効果的でしょう」

「ねぇ雪乃、その人ってそんなに自信過剰の勘違い野郎なの?」

 

 その時クルスが更に辛辣な質問を雪乃に投げかけた。

そもそもこのメンバーの中で、シグルドの事を知っているのは八幡と雪乃しかいない。

 

「というか、生理的に好かない男というのが正しいのではないかしら」

「げらげらげら、そりゃ最悪だな」

「あなたも一歩間違えればそうなるかもしれないわよ」

「おっと、そうならないよう心に留めておきましょう」

 

 もっとも蔵人の場合、その言動からは仲間に対するリスペクトが感じられる為、

そのような事にはならないと思われる。

 

「で、でもそいつらって雑魚なんでしょ?

い、いくら暗躍しようと結局プチっと潰せるんじゃない?」

 

 フラウのその問いに、八幡は頷いた。

 

「ああ、問題ないぞ」

「じゃ、じゃあどうしてそんなにそいつらを気にするんだお?」

「それは簡単だな、安易に俺達に手を出すと後悔するぞって魂に刻み込んでやる為だ」

「抑止力は必要」

 

 珍しく萌郁がそんな事を言い、八幡も同意した。

 

「ある程度の人数がいればどうとでもなるが、

少人数で動いてる時に毎回襲われでもしたら、さすがにだるいからな」

「正々堂々と挑んできてくれるなら大歓迎なんだけどね」

「お、理央も言うようになったな、まあそういうこった、

正々堂々と挑んできた相手には遺恨は残さん。

だが裏でこそこそ動いて味方ごと敵を攻撃してボスのドロップを持っていくような奴は、

あらゆる手段を使って叩き潰す、まあそれがうちの方針だ」

「何その悪の天敵、テラワロス。だが嫌いじゃない、むしろ好き」

「うちは正義の味方じゃないしね」

「という訳でお前達、複アカを特定する知恵を出せ」

 

 その八幡の命令に従い、一同はどうすればいいか真剣に考え始めた。

とはいえレコンとコマチの手柄によって、

小人の靴屋の護衛部隊に例の七人が参加している事が分かったのだ、

そうなるともうやれる事は一つである。

 

「護衛部隊とやらに誰が参加しているかを見極めて、

同時にアスモさんにその時いないメンバーをチェックしてもらって、

それを延々と繰り返すしかないわね」

「やっぱりそうなるよな」

「でもそれだと効率が悪いわよね、

せっかくだし、うちにとってはあまり重要でない採掘場の情報を流して、

そこに行かせるように仕向けない?そうすれば張り込みの人数も最低限で済むし、

場合によっては七つの大罪のメンバーが多い時を狙って行かせられるかもしれないし」

「紅莉栖のその意見、採用だな。雪乃、採掘場の選定を頼む」

「分かったわ」

「ついでにそのシグルドって人の本拠地も探っておきたいところだよね」

「小人の靴屋にも人を置いておきたいですね」

「逆に言えば、そこだけ抑えておけばオーケーでしょう」

「デュフフフフ、捕獲完了」

「気が早いなおい」

 

 今まで停滞していたのが嘘のように、計画は着々と立案されていく。

それほどまでに、例の七人がメインキャラで活動し始めたのは大きい出来事であった。

 

「で、ボス、特定を終えたら奴らにどんな天罰をくれてやるつもりで?」

「そうだな、きっと向こうも色々頑張ってるんだ、

その計画が成就出来るようにうちも陰ながら手伝ってやろう。

で、得意の絶頂を迎えたところでプチっと潰す」

 

 八幡のその言葉に専属達は頷いた。

 

「そうね、演出としてはベストなのではないかしら」

 

 雪乃がニコニコしながらそう言った。

 

「私の元部下ながら、哀れね」

 

 そう言いつつ薔薇の表情はまったく可愛そうだと思っているようには見えない。

 

「まあ因果応報よね」

「喧嘩の売り方がもう少しまともなら良かったのに」

 

 紅莉栖と理央はさすがにまともな事を言う。

 

「全てにおいて八幡様に負けているのに対抗しようと思うのが間違いです」

 

 クルスは相変わらずクルスであった。

 

「………私も見張る」

 

 萌郁はALOにキャラを持っていないにも関わらずそう言った。

おそらくゾンビ・エスケープ辺りからコンバートさせるつもりなのだろう。

あれからもたまにソロで遊んでいるらしく、

八幡が受けた報告によると、かなりキャラも育っているようだ。

 

「げらげらげらげら、あ~腹痛ぇ、さすがはボス、

さあ、パーティーの始まりだ!みんなで仲良くガキの頃に戻ろうぜ!」

「ついでに監禁して陵辱で手を打とう、それなんてエロゲ?デュフフ、いいぞもっとやれ!」

 

 それに対して新しく加入した二人は無茶苦茶である。

もっとも八幡が気に入っているようなので問題ない。

 

『悪だくみをしている君達は本当に楽しそうだね』

 

 アマデウスの茅場晶彦がそんな感想を述べ、

それに対して一同は、とてもいい笑顔で口々にこう答えた。

 

「悪の天敵は、やっぱり悪だくみしないとな」

「いいぞ、もっとやれ」

「げらげらげら、悪だくみが仕事とか最高じゃねえか!」

「まったくこの人達は………でも正直私も嫌いじゃないわ」

「八幡様、最高です!」

「元部下に引導を渡すのは私の役目ね」

「これが大人になるって事なのかな………」

「まあ今回は私も止める気はないわよ、アスモを巻き添えにしようとした事、忘れないわ」

 

 この後、更に踏み込んだプランもいくつか立てられ、

その日遅くまで白熱した議論が繰り広げられる事になった。


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