読んで下さっている方々に心から感謝し、今後ともしっかりと書いていきたいと思います。
「まあ、やっぱりそうだよな」
「ええ。私達も一度だけあの戦闘に参加した事があるわ。あれは異常よ。
まるで無限に湧く敵を相手にしているような、そんな感じだったわ」
「そこまでか」
「ええ、そこまでの敵よ。とにかく数が多いのよ」
「なるほどな、だが引くわけにはいかない。そうだよな、キリト」
「ああ。俺の目的を達成するためにも、アスナは必ず救い出す」
「……二人の決意は固いのね」
「ああ」
「無駄だとわかっていても?」
「条件が整えば可能性はゼロじゃない。俺はそう思ってる」
雪乃はその言葉に、どうやら意表をつかれたようだ。
「何か作戦があるの?」
「その前にな、おそらくグランドクエストは未実装だと思うぞ」
「……何ですって?」
「ヒッキー、それってどういう事?」
「そうですよ先輩、さすがにそんな事あるわけが……」
「何か根拠はあるのか、八幡」
「よく考えてもみろよ。今のアスナはティターニアなんだぜ。
もし万が一にでもグランドクエストをクリアされちまったら、
プレイヤーの前にアスナが姿を現す事になるんだぜ?
あの須郷がそのリスクを考えないわけがないだろう?」
「でも……そんな……」
「もしクリア可能な仕様になっているとしたら、アスナをティターニアにする意味は無い。
そんなの自分の身を危なくするだけだ。もし俺が須郷だったら、心配で夜も眠れないだろう。
だがあいつはそんな心配をしているようにはまったく見えなかった。
それどころか絶対の自信があるような態度をとっていたからな」
他の者は、それぞれ今の八幡の言葉について考えているようだったが、
誰もその考えを否定する事は出来なかった。
「確かにその推測はありうるわね」
「それに前菊岡さんにも言ったけどな、クリア報酬の設定がおかしい。
最初に到達した種族だけが無限に空を飛べるようになるなんてクソ仕様、
商業的には絶対に成り立たない。何故なら一度グランドクエストがクリアされてしまったら、
その後ほぼ全てのプレイヤーが、そのアルフとやらでプレイを開始する事になるからだ。
他の種族でプレイしているプレイヤーも、ほとんどが種族を変更するだろうな。
そうなったらALOの存在価値は、空を飛べる事だけだ」
「それについては疑問を持つ事すら無かったけど、言われてみれば確かにそうね……
でもそれだと、アスナさんを助ける手段は存在しない事になるのではないかしら」
一同はその雪乃の言葉にうんうんと頷いた。
「そうだな、基本的にはゲームの中からアスナを解放するのは不可能に近いと思う。
だが、材木座が上手くやってくれれば多少は勝算が出てくる」
「材木座君?彼がどうしたの?」
「今あいつは、レクト・プログレスでバイトをしているんだ」
「え?あの材木座君が?」
「よく面接に受かったわね……」
「陽乃さんに裏から手をまわしてもらった」
「あ~」
キリト以外の者は、その言葉を聞いて納得したようだ。
キリトはよくわからないので黙っていた。
「材木座には少しでも高位のIDを探り出してもらう。そして次はユイの出番だ」
「私!?」
結衣は急に自分の名前が出たので驚いたようだ。
「すまん、ユイってのは俺達の切り札だ。
今はナビゲーションピクシーとして俺達と行動を共にしているんだが、
具体的にはSAOのメンタルケアプログラムであり、俺とアスナの娘でもある」
「えっ……」
「娘!?小町もうおばさんなの!?」
「先輩!どういう事ですか?」
「そうだな、ちょっと長くなるが、とりあえず説明する」
そう言って八幡は、ユイとの出会いから別れを経て、再び出会うまでの説明をした。
「結婚だけならまだしも娘もいたんだ……」
「ますます勝ち目が無いですよぉ」
「まあ娘うんぬんはともかく、いまいちピンとこない説明ね」
「まあわからなくても仕方がないよな。あれは一種の奇跡みたいなもんだ」
「管理者IDさえあればGM権限を行使できる仲間がいる、って言えば分かるか?」
「それならなんとなく分かるかも!」
「そうね、それならなんとなくだけど理解出来るわ」
「あともう一つ確認しておきたいんだが、空高く飛んだらアスナが見えた、
って事で間違いないんだよな?」
「そうだよお兄ちゃん」
「って事は、エリア的にはアスナのいる場所と通常フィールドは恐らく地続きだよな?」
雪乃は少し考えていたが、それを肯定した。
「そうね、飛んでる最中にエリアチェンジしたという事も無かったし、その通りね」
「って事は、アスナのいるエリアと通常エリアは、単純に世界樹の内部に壁があって、
そこで仕切られているだけなんじゃないか?」
「……その可能性は高いと思うわ」
「それなら、その壁に近付く事が出来れば今のユイの力でもIDさえ手に入れられれば、
おそらくその壁を抜ける事は可能だ。近付ければだが……」
「そこでグランドクエストに戻るわけね」
「ここにいるメンバーでその戦闘フィールドの天辺に行くだけなら可能か?」
雪乃はまた考え込んだが、今度はそれを否定した。
「無理ね。おそらく途中で力尽きる事になるわ」
「そうか……」
八幡は落胆したが、雪乃の言葉はそこで終わりでは無かった。
「でも、可能性が無いわけじゃないわ」
「まじか。何か手があるのか?」
「サラマンダーに与するか、シルフとケットシーに与するか、二つに一つね」
「どちらかの種族の力を借りるって事か」
「実は私達は、今度開かれるシルフとケットシーの同盟の護衛依頼を受けているのよ。
もしあなた達がその同盟の力を借りる事が出来たら、可能性は格段に上がると思う」
「なるほど」
「顔繋ぎだけは出来るのだけれども、そこからはあなた達次第という事になるわね」
「サラマンダーの方はどうなんだ?」
「そちらには伝手が無いわ。だから実現性の高いのは、
どちらかというとシルフとケットシーの同盟の方ね」
八幡は、考えるまでもないという風に即答した。
「それじゃそれでいこう。キリトもそれでいいよな?」
「ああ。というかそれしか選択肢は無さそうだ」
「味方につけられる勝算はあるの?」
「わからん、が、俺もキリトも金ならあるぞ」
「え?」
「実はな、SAOのアイテムで、唯一所持金だけは持ち越されてたんだよ。
ALOだとユルドって言うんだったか?それがかなりある」
「どれくらいあるのかしら」
「んんー足すと数億ユルド?」
「ええええええええええええ」
「成金お兄ちゃん?」
「先輩すごいです!それならいけるんじゃないですかね?」
「そうね、それだけあれば確実に交渉材料になるわ。どうやら可能性が見えてきたわね」
「材木座待ちになるんだけどな。正直そこが一番のネックだ」
「それならこっちにも手が無いわけじゃないわね」
それまで静観していた陽乃が、ここで口を開いた。
「何か手があるんですか?陽乃さん」
「私っていうより菊岡さんがね、そっち方面に強い人物に協力を依頼してるみたい」
「おお」
「でもその人との交渉がちょっと難航してるみたいなんだよね」
「そうなんですか……まあそっちは菊岡さんに任せましょう」
「そうね、あの人そういう交渉事は得意そうだしね」
「それじゃ明後日合流した後は、シルフとケットシーの同盟締結現場に向かいましょう」
「ああ、それで頼む。あと陽乃さん、別にもう一つお願いがあるんですが」
八幡は陽乃にもう一つ、戦力増強の可能性に賭けて頼み事をする事にした。
「ん?何?」
「菊岡さん経由で連絡をとって欲しい仲間がいるんです。
もちろん俺の携帯番号を渡してくれればそれでいいんですが、
出来れば俺の名前を出した上で陽乃さんの連絡先を教えてもらって、
反応があったら説明をしてもらえればと。
俺達が潜ってる間に連絡があったら困るんで……すみません。
名前はクライン、エギル、シリカ、アルゴです。
本当はダイシーカフェって所に集まる予定だったんですけど、
そうも言ってられない状況になっちゃったんで……」
(本当はネズハにも声をかけたいんだが、視覚の問題があるしな……
ALOに同じような投擲武器があるかどうかわからないし、今回は無しか……)
「なるほど、八幡君の頼みなんだからもちろん受けるわ。どーんとお姉さんに任せなさい!」
「ありがとうございます。経過の説明と、
出来ればALOに来られるかどうかの確認をお願いします」
「もし了解が得られたら、ナーヴギアでログインしてもらえばいいのよね」
「はい。もし処分しちゃったようなら諦めます。
ナーヴギアをかぶる事に抵抗があるかもしれないんで、無理強いは無しでお願いします」
「分かったわ。ログイン位置は全員二人と同じ所なのかな?」
「クラインとエギルは上空で、シリカとアルゴはその近くの地上だと思います。
まあクラインとエギルにその事を教えてもフォローは出来ないんで、
対応はあいつらに任せるしかないんですけどね」
「それじゃあそこらへんは調整しておくわ。案内役にも心当たりがあるから任せておいて」
「さすが陽乃さん、話が早くて助かります」
「それじゃ、菊岡さんに連絡するわね」
そう言って陽乃は、菊岡に電話をかけた。
「はい、菊岡です」
「あ、もしもし菊岡さん?ちょっとお願いがあるんだけど。
八幡君が何人かのプレイヤーに至急連絡を取りたいらしいのよ。
名前はクライン、エギル、シリカ、アルゴね」
「あー……そういう事ならちょっと待って下さいね、
今ハンズフリーにするんで……お待たせしました」
陽乃は菊岡に事情を説明し、協力を依頼した。
「事情はわかりました。それくらいおやすい御用ですよ。至急手配しますね」
「ありがとう菊岡さん。ところで協力を依頼した人との交渉はまとまったのかしら?」
「あ、それなら今まさに交渉中だったんですけど、今の電話の間に話がまとまりました」
「え、交渉中だったの?」
「ええ。あ、はい、ありがとうございます。やっぱり聞かせたのは正解でしたね」
菊岡はその人物と何か話した後、そんな事を言った。
「無事交渉成立です。これからすぐに行動を開始するとの事です」
「やった!八幡君、さっき言ってた人、交渉成立だって。
今あっちはハンズフリーらしいから、お礼を言っておくとよいよ」
「あ、そうなんですか?ありがとうございます。必ずこの恩はお返しします」
八幡は携帯に向けてお礼を言った。
そして陽乃が通話を終わらせ、今日の話し合いはそこで終わりとなった。
夜のログインに向けてみな自宅に戻る事になり、
八幡とキリトもログインの準備をする事にした。
そしていざログインするという時になって、不意に八幡がキリトに尋ねた。
「なあキリト、そういえばリズへの連絡はどうなってるんだ?」
「ああ、それなら菊岡さんに頼んで、
俺の名前と携帯番号を書いたメモをリズの枕元に置いてもらってるよ」
「そうか……早くかかってくるといいな」
「ああ」
それを聞いてキリトは、少し照れながら同意した。
「それじゃ、大切な人を取り戻すための戦いを始めようぜ」
「そうだな、今日からが本格的なスタートだ。死ぬ気でいくぞ、キリト」
「おう!」
「「リンク・スタート!」」