ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1005話 一年後

「それでは聖布収納の儀を開始したいと思います、

見届け人は私、結城明日奈が務めさせて頂きます」

「またそれをやるのか……」

 

 前回のこのセリフは単なる明日奈の悪ノリであったが、今回は確信犯的な悪ノリであった。

 

「それでは巫女………はいないので私が代わりに………聖紙と聖筆を」

 

 そう言って明日奈は紙とペンを取り出し、紙を萌郁へ、ペンを八幡に渡した。

本来は優里奈に巫女役をさせるところだが、

さすがにお客様三人を放置は出来ないと判断したのだ。

 

「では桐生萌郁よ、聖布を前へ」

「は、はい」

 

 そう言って萌郁は用意してきたパンツを白い紙の上に乗せ、恭しく八幡の前に差し出した。

八幡はいつも通り羞恥心を外面に出さないように強化外骨格を駆使し、

萌郁が差し出してきたピンクのサイドストリングショーツを手に取った。

 

「………会ったばかりの時は、

ちゃんと一人で生きていけるのかなと心配だったもんだが………成長したな、萌郁」

「い、今の私があるのは全部貴方のおかげだから」

 

 以前の萌郁は八幡の前でも平気で着替えたりしていた為、

実は八幡は萌郁の下着姿を何度か見てしまっていたのだが、

その頃のコンビニで買ったような野暮ったいデザインの下着と比べると、

今の萌郁のチョイスは明らかに聖布力が上昇していた。

最近は恥じらいの気持ちが芽生えたのか、八幡の前で着替える事も無くなっており、

これならもう一人でも生きていけるなと八幡は心の底から安心した。

もっともそう思っただけで、もちろん萌郁を放り出すような気は一切無い。

 

「それでは名札の作成を」

 

 八幡は下着の乗っていた紙に『桐生萌郁』と記入し、

最下段の右から三番目に貼り付け、萌郁のパンツをその中に入れた。

 

「これで萌郁さんも、ここの正式な住人だね」

「うん、す、凄く嬉しい。私には本当の意味での帰る家が無かったから………」

 

 萌郁のその言葉で八幡と明日奈は、萌郁がここに来る事に拘っていた理由を知った。

だが同時に別の問題も発生する。

 

「あ、あ~………すまない萌郁、

実はこのマンションな、一年を目安に引き払う事になってるんだ」

「………………えっ?」

 

 萌郁はこの世の終わりが来たような表情をし、そんな萌郁を二人は慌ててフォローした。

 

「待って萌郁さん、大丈夫、大丈夫だから!

今度八幡君が家を買う事になってるから、萌郁さんもそこに引っ越すってだけだから、ね?」

 

 八幡は萌郁をどうするべきか、明日奈と三人でこの場で話そうと思っていたのだが、

明日奈が八幡に先んじてそう決断したようなので、大人しくそれに従う事にした。

優里奈、藍子、木綿季のケースとは違い、

成人女性を家に入れるというのは確かに色々問題があるのかもしれないが、

常にボディガードが近くにいるようなものだと思えば悪い選択肢ではないだろう。

 

「い、いいの?」

「うん、もちろん!八幡君もいいよね?」

「もちろんだ、そもそも萌郁を勝手に助けたのは俺なんだから、

ちゃんと最後まで面倒を見ないとな」

「うんうん、私達は家族なんだしね」

 

 明日奈のその言葉に、萌郁の目からぽろりと涙がこぼれた。

明日奈はそんな萌郁の頭を胸に抱き、よしよしとその頭を撫でた。

 

「大丈夫、大丈夫だからね、みんなで幸せになろうね」

「うん、うん………」

 

 明日奈は萌郁にそのまま好きにさせておき、

やがて萌郁は泣き止むと、少し恥らったように頬を染め、そっと八幡の服の袖を掴んだ。

 

「こ、これからも宜しく、パパ」

「ぅぉぃ、待てコラ!さすがにそれはちょっと無理があるだろう!」

 

 八幡はさすがに突っ込み、萌郁は何が?という風に首を傾げた。

 

「あはははは、あはははははは」

 

 明日奈はそれに対し、楽しそうに笑うだけだった。完全に見守るモードである。

 

「いいか萌郁、さすがにお前が俺をパパと呼ぶのは無理がある」

「どうして?」

「どうしてって、年齢的にだな………ん、あれ、そういえば萌郁、お前、今いくつなんだ?」

「えっと………二十歳?」

「え、お前、俺より年下だったのか!?」

「そうなの!?」

 

 これには明日奈もびっくりである。大人びている萌郁は二十代半ばくらいに見えるからだ。

 

「そ、そうか、年下か………なら別にいいのか?いやいや、良くないな、

ここはやはり、お兄ちゃんという事で………」

「パパ」

「いやいや、だからお兄………」

「パパ」

「………家長命令だ」

「だが断る」

「あああああああ、まったくもう!」

 

 八幡は萌郁の頑なさに押され、そう絶叫した後、渋々それを認める事にした。

 

「分かった分かった、ただし認めるのは、家族しかいない時だけだぞ」

「うん」

「よし、それじゃあこの話はこれで終わりだ、これからも頼りにしてるぞ、萌郁」

「うん、二人の子供のベビーシッターは任せて」

 

 いきなりの萌郁のその言葉に二人は顔を赤くした。

 

「………まったくお前は」

「ふふっ、驚かされた仕返し」

 

 それはどこからどう見ても、年相応の女性の微笑む姿であった。

 

「さて、他にも八幡君にやってほしい事があるんだよね」

「ん、何だ?」

「実は何人かと話し合って、このクローゼットの整理をしようって事になったの。

ほら、滅多に来れない人とかも多くて、

一人が一つの場所を使うのは無駄な場合も多いでしょ?」

「それはまあ、確かにな」

「なのでいくつか場所を統合して、移動もさせようって事になったの。

統合は里香と珪子、姉さんとめぐりさん、小町ちゃんと直葉ちゃん、小猫さんとイヴかな。

移動は色々だから、八幡君にやってもらう所は私が指示するね」

「ああ、なるほど、オーケーだ、それじゃあとりあえず俺は、

めぐりんの荷物だけ移せばいいか?」

「話が早くて助かるよ、実は珪子は、

自分の分は八幡君に移動させてもらっていいって言ってたんだけど、

移動先が里香の所だから、ちょっと問題があるしね」

「さすがに和人に怒られちまうからな」

「それじゃあ二人で移動させちゃおうか」

「だな」

「私も手伝う」

 

 こうしてロッカーが整理され、スペースがいくつか開く事になった。

もっとも今のところ、そこに誰かの荷物が入る予定はない。

ちなみに現在の使用状況はこんな感じである。全部で八段あるのだが、

一番上の段の左から、明日奈、里香&珪子、小町&直葉、陽乃&めぐり。

二段目は雪乃、結衣、優美子、いろは。

三段目は詩乃、クルス、フェイリス、紅莉栖。

四段目は全空き。

五段目は小猫&舞衣(イヴ)、南、美優&舞(シャーリー)、かおり&千佳。

六段目も全空き。

七段目は香蓮、レヴェッカ、沙希、優里奈。

八段目はエルザ、萌郁、茉莉、志乃である。

 

「何かスッキリしたな、あとはアイとユウくらいか」

「藍子と木綿季もだけど、それにひよりもかな」

「えっ?ひ、ひよりもなのか?」

「うん、里香と珪子がうっかり漏らしちゃったみたいで、熱心に希望されたとか………」

「おいおい、親父さんにバレたらどうするんだよ、俺は国家権力を敵に回したくはないぞ」

 

 八幡のその心配は杞憂であった。何故ならルクスことひよりの父、

厚生労働大臣の柏坂健は、八幡の事を心から信頼しており、

何か間違いが起こるとは微塵も思っていないからだ。

同時に間違いが起こる事を期待しているまであるのが、政治家と言う職業の業の深さだろう。

 

「さて、それじゃあクローゼットの整理も終わったし、居間に戻るか」

「結構時間がかかっちゃったね、早く戻らないと」

「あの三人の相手をするのは優里奈にとっても負担だろうからな………」

「ん、確かに大変」

 

 三人はそう会話を交わしながら、居間へ続く扉を開けた。

 

「………………ん?」

 

 寝室を出てすぐに、八幡はテーブルに優里奈と蔵人の姿しかない事に気が付いた。

 

「あれ?フラウと明日香はどうした?」

「こ、ここ」

「そ、そのまま踏んでくれてもいいんじゃよ、デュフフ」

「おわっ!」

 

 いきなり足元からそんな声が聞こえ、八幡は慌てて飛び退いた。

 

「八幡君、どうしたの?」

「いや、こいつらがよ………」

 

 見るとそこには土下座しているフラウと明日香の姿があり、八幡達はぽかんとした。

 

「え、何これ、どうなってるの?」

「えっとですね、お二人とも、二十分間ずっとそんな感じで………」

「え、そんなに!?」

 

 ここで二人が顔を上げ、驚いた明日奈にこう訴えた。

 

「正妻様、何とぞ、何とぞお願いします!」

「わ、私達も是非ここの住人に!」

 

 よく見ると二人の手には、聖布だと思わしき物が握られており、

それで明日奈は事情を悟った。

 

「あ、そういう………」

「お、お前ら………あ、いや、何でもない」

 

 八幡は何か言いかけたが、途中で止めた。

ここにただ遊びに来る事の是非ならともかく、ここの住人にという話であれば、

それは八幡ではなく明日奈の管轄となるからである。

八幡は全権を明日奈に委ねるように二人をスルーし、蔵人の隣に腰掛けた。

 

「ハリュー、あいつら本気なのか?」

「みたいですよボス、まったく退屈しないですね」

「お前はそう言うがな………」

「聖布の奉納とやらは、さすがのボスも精神に負担がかかると?」

「お?お前、その事を優里奈に聞いたのか?」

「ええ、おかげで益々ボスへの尊敬を深めましたよ、やはり貴方は凄い」

「い、いや、褒められるような事じゃないし、結構恥ずかしいんだが………」

 

 そこに優里奈が横から会話に入ってきた。

 

「あ、あの、八幡さん、もしかして説明しちゃまずかったですか?」

「ああ、いや、こいつら相手になら別にいいぞ、

全員俺の懐刀だし、おかしな隠し事は無しだ」

「それなら良かったです」

 

 優里奈はほっとしたが、当の八幡は苦笑していた。

それでピンときたのか、蔵人が八幡に耳打ちしてきた。

 

「ボス、本当はそこまで言わなくてもいいかなって思ってましたね?」

「お、おう、分かるか?まあ分かるよな、

さすがにこれは仕事絡みとは言えないし、明日奈達の好きにさせているとはいえ、

普通に考えれば完全に事案だからな」

「確かにそうですが、信頼の証だと思えば嬉しいもんです」

「そ、そうか、そう思ってもらえるならまあいいか」

「はい、出会って日が浅いのにここまで懐に入れてもらってるんです、

一生付いていきますよ、ボス」

「おう、これからも頼むぞハリュー」

「必ずご期待に応えてみせます」

 

 そして二人はどういう沙汰が下されるか、興味津々で明日奈達の方を見た。

明日奈は腕組みして考え込んでいたが、しばらくしてから顔を上げ、口を開いた。




すみません明日の投稿はお休みさせて頂きます!
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