「二人とも、こっちに。八幡君も来て」
「お、おう」
「「は、はい」」
明日奈はそう言って寝室に入っていき、三人もその後に続いた。
「さて、最初に聞きたいんだけど、八幡君はどう思う?」
「そうだな、う~ん、二人とも、ちょっと焦りすぎな気もするかな」
「まあ確かにそう思うよねぇ」
実際問題フラウと明日香の八幡に対する忠誠心は未知数であり、
付き合いも短い為、とても信頼出来るレベルではない。
だが明日奈はそんな二人にもチャンスを与えるつもりでいた。
ここでただ門前払いをするのは、今後の為にも良くないと思ったからだ。
「でも私はこの二人にチャンスをあげようと思うの。
八幡君だって、自分は役に立てると思ってる時に、
はなから戦力外通告されるのは嫌でしょう?」
「まあ確かにそうだけどな」
八幡はその明日奈の言葉に頷いた。
確かにチャンスくらいは与えられてもいいと思ったからだ。
そもそもこの部屋の住人になる事と、八幡の事を好きでいる事はイコールではない。
何故なら里香や小町、直葉に紅莉栖もメンバーに入っているからだ。
「そんな訳で、二人には今から殺し合いをしてもらいます」
「ええっ?」
「ファッ!?」
いきなり明日奈がそんな事を言い出し、明日香とフラウは目を剥いた。
「そ、それは一体どういう………」
「それは二人で考えて」
「あっ、はい………」
いくらなんでもバトルなロワイアル的な事をさせられるはずもない為、
二人はどうすればいいのか二人で相談を始めた。
明日奈は八幡の肩に頭を乗せ、その光景を興味深げに眺めていた。
明日奈は何か深い考えがあって二人にそう指示をした訳ではなく、
とにかく何かしらの二人の覚悟が見たいだけだった為、
二人が何を思い付き、何をやってくるのか、とても楽しみにしていたのである。
「成り行きとはいえおかしな事になっちゃったけど、頑張ろうね相棒」
「まったく無茶振りにも程があるお、だがそれがいい!」
「正妻様は殺し合いって言ってたけど、フラウはどう思う?」
「こ、ここは何をさせたいかではなく、クリア条件を考えるべき、
多分八幡への愛を証明しろとかそういう事ではないはず、ソースは八幡の親友の和人君」
「確かに女の子だけじゃなく親友も常駐可能なら、求められる要素はそれじゃないよね」
「も、もっとも愛を証明しろという事でも私は良くってよ」
「いいんだ………まあでも私もいいかなぁ、正直次期社長は私の好みにドストライクだし、
あのオレオレだけど優しいところはポイント高いかなぁ」
「分かる………」
「でもまあここは正妻様が審査員なんだし、そっちに働きかける方向で」
「イグザクトリー、その通り」
二人はそんな会話を交わしながらチラっと明日奈の方を見た。
当の明日奈は興味深々にこちらを見ており、目が合った二人は慌てて目を逸らした。
「さて、どうする?」
「わ、私が思うに、この場所で求められるのは会社への忠誠心じゃない、
八幡個人への忠誠心だと思う」
「その心は?」
「会社イコール八幡じゃない、今の八幡が社長ならイコールかもしれないけど、
少なくとも現時点では違う」
「なるほど、ここにいる人達は、今じゃなく将来の次期社長を支えるメンバーって事だね」
二人は難しく考えているようだが、当の明日奈はそこまで深く考えてはいない。
八幡を裏切る可能性だけが無くなればそれでいいのだ。
「って事は、次期社長への忠誠心を示さないといけないね」
「それが見せかけだけじゃないように、ほんの少しの、あ、愛情をスパイスにしないと」
「なるほど………それにはどうすればいいか………」
「とりあえずシンプルに逆から考えよう、どうすれば他人に言う事をきかせられる?」
「それはえっと………弱味を握るとか?」
「ガタッ!」
フラウは、それだ!といった感じでそう口に出した。
明日香は感覚で同意を得られたのだと思い、その方策を必死に考え始めた。
「つまり次期社長に私達の弱味を差し出せばいいのかな?」
「しかも愛情のスパイス的に、適度に性的な感じのがいい」
「でもあんまり過激だと、正妻様がよく思わないんじゃない?」
「た、確かに匙加減が重要」
「そうすると………」
二人はそのまま熱心に話し合いを続けた。
明日奈的にはその真摯な姿を見せられただけで、もう許可しても良かったのだが、
何か思い付いたようなので、それを是非見てみたいと思い、
そのまま黙って二人の様子を眺めていた。
「せ、正妻様、一つお願いが」
そして遂にどうするのか決まったのか、フラウが明日奈にそう尋ねてきた。
「うんいいよ、なぁに?」
「は、八幡に目隠しを付ける許可をお願いします」
「分かった、目隠しね!それじゃあ丁度いい布は………、
う~ん、さすがに私の下着って訳にはいかないよね」
「お、おい!」
さすがの八幡も、それは勘弁してくれと思ったのか、慌ててそう突っ込んだ。
「う~ん、それじゃあこうしよっか、えい!」
「おわっ!」
明日奈は自分が着ていた白いオフショルダーのセーターを脱ぎ、八幡の頭にかぶせた。
そして黒のサイドレースアップのタンクトップ一枚になった明日奈は、
少し寒そうなそぶりを見せると、部屋の温度を上げながら言った。
「はい、これでいい?」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ遠慮なく………」
そう言って二人は着ている衣服を脱ぎ捨て、全裸になった。
「ファッ!?」
明日奈はフラウの口癖が移ったのか、驚いたようにそう言ったが、
八幡の視界が塞がっている為に、それを途中で止めたりはしなかった。
「は、八幡、失礼するお」
「うひゃ、く、くすぐったい」
フラウはそう言って八幡の足を持ち上げ、明日奈からよく見えるようにした。
「正妻様、八幡の正体が分からないように、さ、撮影をお願いします。
私達の顔は普通に写る感じで」
「えっ?あ、うん、分かった」
明日奈はどういう事だろうかと悩みながらもそのフラウの頼みを聞き、
スマホを二人に向けて構えた。
それを合図にあろう事か、フラウはその場に四つん這いになり、
いきなり八幡の足の裏をペロっと舐めた。
「うひゃっ、な、何だ今の」
(きゃああああああああ!)
明日奈はその光景にドキドキし、心の中で嬌声を上げたが、
頼まれた事はしっかりこなし、その光景を撮影した。
「そ、それじゃあ私も同じ事を」
「あっ、う、うん」
次に明日香がフラウと同じ事をした。
「ま、またか、一体何なんだよ!」
そんな八幡に詳しい説明をする事もなく、
二人は明日奈の前に正座し、自分達の考えを述べ始めた。
「こ、これでもし私達が何か悪い事をしたら、
せ、正妻様自らその写真をSNSにアップして、私達を女として殺す事が可能」
「ご命令通り、これで私達は死にました、これでどうでしょうか」
「………おお!」
明日奈はその二人の考えに感心した。
もとより明日奈がそんな事をするはずはないが、抑止力としては確かに有効だ。
別にこのこの写真をとっておく必要もなく、
持っているよというフリだけで、こっそり消してしまっても何の問題もない。
八幡の顔を映さない事で、八幡に迷惑がかかる事が無いようにも配慮しているし、
最初に八幡に目隠しをしたのは、自分達の全裸姿を八幡に見せないのと同時に、
明日奈に配慮してのものだろう。
「うん、いいんじゃないかな、ここまで体を張ってもらったんだから、
私としては特に何も言う事はないよ」
「や、やった!」
「ミッション、コンプリート!」
二人は手を取り合って喜び、明日奈も嬉しそうにうんうんと頷いた。
そこに八幡が、こう声をかけてきた。
「お、おい明日奈、決着したならそろそろこの目隠しを外していいか?
これ、明日奈の匂いが凄くてさ………」
八幡はもちろんいい匂いというつもりでそう言ったのだが、絶望的に言葉が足りない。
「ええええええ?も、もしかして匂う?」
「匂うというか………」
八幡のその答えもきかず、明日奈は慌てて八幡の頭に被せてあったセーターを奪い取った。
「いや、そんなに慌てなくても………」
「で、でも匂うって………」
「お、おう、いい匂いすぎてクラクラするというかだな………」
その八幡の言葉に明日奈はホッとし、そのままセーターを着てしまった。
「う………」
「せ、正妻様!」
「えっ?」
「ん?」
フラウと明日香が焦ったようにそう呼びかけてきた為、
明日奈はそちらに振り向き、当然八幡も反射的にそちらに目を向けた。
そこにあるのは当然二人の全裸であり、八幡は完全にフリーズした。
「あっ!だ、駄目ぇ!」
明日奈はそう叫び、そのまま八幡に飛びかかった。
八幡の顔は明日奈に押し潰され、呼吸をする事が出来ない。
「あ、明日奈、苦し………」
「駄目、もうちょっと待って!」
その言葉を合図にフラウと明日香も慌てて服を着始めた。
悲鳴を上げなかったのは立派である。
もしかしたら、八幡に全部見られる覚悟も事前にしていたのかもしれない。
「正妻様、オ、オーケー」
「こっちも大丈夫です!」
「う、うん分かった、ごめんね二人とも」
「む、むしろ逆に、何かサーセン」
「わ、私も別に気にしてないので!」
「うぅ………本当にごめんね………」
そして明日奈は立ち上がったが、当の八幡から反応がない。
「あれ?八幡君、八幡君!」
明日奈は八幡の頬をペチペチと叩き、それでやっと覚醒した八幡は、
だがまだ少しぼ~っとしているようであった。
「ご、ごめん、大丈夫?」
「お、おう、大丈夫だ、一瞬視界が肌色に染まった気がしたんだが、
あれは何だったんだろうな………」
「そ、そう、きっと疲れてるんだね、とりあえず儀式を終わらせちゃって、
今日はゆっくり休もうね?」
「そうだな、そうするか」
そして優里奈が寝室に呼ばれ、そのまま聖布収納の儀が行われた。
「い、いちごパンツだと………明日香はこういうかわいい系が好きなんだな、
まあしかし、イメージに合ってていいと思うぞ」
「ん、実にフラウらしいな、これは自分のじゃないって言ってたが、この平凡さが実にいい」
明日香とフラウの聖布に対する八幡の評価はそんな感じである。
二人の場所は、今日の試練を共に乗り越えたせいで友情が芽生えたのか、
二人一緒に仲良く六段目の一番左と決定された。
こうして八幡の部屋は、益々賑やかになっていくのであった。