ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1007話 暴走エイティーン

 その日の夜、明日奈、優里奈、萌郁、フラウ、明日香の五人は、

寝室で仲良く八幡トークに勤しんでいた。

もっとも主に語るのは明日奈と優里奈である。萌郁は元々口数が少ないし、

フラウと明日香は語れるような八幡エピソードを持っていないからだ。

 

「でね、でね、その時私は言ってやったの、

『そんなの、私と彼が夫婦だからに決まってるでしょ。彼のいる所には、常に私がいるのよ』

ってね!」

「「「「おお~!」」」」

 

 今の話題はどうやら、SAOでハチマンがクラディールに襲われた時の話らしい。

 

「SAOってやっぱりハードな世界だったんですね………」

「そのクラディールっての、テラワロス、男として終わってる」

「まあ実は彼、芸能プロの社長の息子で、

こっちに戻ってきた後も私達にちょっかいを出してきたんだけどね」

「え、本当に?」

「うわ、まんどくせ」

 

 やはりクラディールは誰にその話を聞かせても、嫌悪の対象になるようだ。

今はどうしているのだろうか、清盛は何も言ってこない為、

おそらくまだ結城塾でしごかれているのだろう。

 

「それと一番参ったのが、やっぱり須郷さんの事件かな………」

「須郷?どこかで聞いた名前のような………」

 

 どうしても思い出せないらしい者達に、優里奈が助け船を出した。

 

「須郷さんってのは、残された百人事件の主犯ですよ」

「あ、ああ~!」

「そうだそうだ、あの蛇みたいな気持ち悪い奴だ!」

「まだ裁判中だっけ?」

「え、正妻様、あいつにもストーカーされてたの?」

「その正妻様ってのはそろそろやめてよ、私の事は明日奈でいいから、ね?」

 

 明日奈はそう言うと、残された百人事件について語り始めた。

 

 

 

「って訳なんだけど、えっと、う~ん、こうして思い返すと、

私って実はストーカーされやすい体質とかなのかな………?」

 

 明日奈は語り終わった後、

思ったよりも自分の周りに頭がおかしい男が多かった事を再確認し、

どんよりとした表情をしていた。

 

「明日奈………」

「ド、ドンマイだお」

 

 フラウと明日香は、慰めるように明日奈の肩をポンと叩いた。

 

「でも明日奈さんの傍にはずっと八幡さんがいたじゃないですか!大幅プラスですよ!」

 

 優里奈が慰めるようにそう言い、萌郁もそっと明日奈に寄り添ってくれた。

 

「う、うん、それが救いだったよね、もし八幡君がいなくて私一人だったら、

多分私、絶対に二人のうちのどっちかに陵辱されてたよね………」

 

 その重い言葉に誰も何も言えなかったが、明日奈はすぐに表情を改め、

明るい口調でこう続けた。

 

「あっ、でもその前にSAOで死んでたかも、えへっ」

 

 そんな明日奈に四人が一斉に抱きついた。

 

「デュフフ、無意味な妄想乙」

「そんな仮定の話は必要ない、今明日奈はここにいる」

「そうそう、こうして私達と一緒にきゃっきゃうふふしてる訳だしね」

「明日奈さん、もう結婚しちゃえばいいんじゃないですかね?」

「え~?そ、それはさすがに、ね?」

 

 明日奈はもじもじしつつ、それでも満更でもないように照れた表情をした。

 

「でもさ、確かにハードな人生を送ってるよね………」

「まあ人生の中で、合計たった三年くらいの間だけどね」

「い、今が幸せなら、そ、それで良かろうなのだ!」

「うん、そうだね」

「もう変な男に絡まれる事はないでしょ」

「その為に私もいる」

「うん、萌郁さん、頼りにしてるね」

 

 明日奈は困った時に助けてくれる仲間がどんどん増えていく事に喜びを感じていた。

自分達の努力が身を結びつつある事を再確認出来たからだ。

 

 その後も明日奈は専属なら知っておくべきだという考えの下に、

ソレイユ成立の背景にある八幡の過去話を熱く語った。

中には胸ヤケする程ののろけエピソードもあったが、

その話を聞いた一同は、それだけの絆がある以上、

正妻の座を明日奈から奪う事などしてはいけないと思い、

八幡に対するアピールは度が過ぎないようにしようと心に誓った。

ここで大人しく身を引くような者は八幡の周りにはやはりいないらしい。

同じ頃、蔵人も八幡から色々な話を聞かされていたが、

女性陣に対するほど熱いトークではなかったらしく、

次の日の朝、明日香からその話を聞かされた蔵人は、思わず明日奈の方を見て、

その口の端が僅かに持ち上がっている事を確認し、

さすがは正妻様、凄まじい政治力だと、尊敬を新たにしたのであった。

 

「さて、それじゃあ家まで送ってくから、三人とも、今日はゆっくり休んでくれ」

 

 この日は土曜日であったが、ソレイユはお休みである。ちなみに学校も休みである。

 

「萌郁はどうするんだ?」

「このまま寮に戻るつもり、家事とかしないと」

「おおそうか、明日奈は?」

「えっとね、私は雪乃に誘われてるから寮の部屋を見に行こうかなって、

遂に理想の部屋が完成したから是非、だって」

「理想の部屋か………」

 

 八幡は、さぞ猫々しい部屋なんだろうなと遠い目をした。

同時に横で明日奈の予定を聞いていた明日香が、ハッとした顔をした。

 

「そうだよ、寮の部屋!私達も間取りくらいは見ておきたいよね」

「ああ、明日香にしちゃいいアイデアだな、

ボス、空き部屋でいいから俺達にも見せてくれないか?」

「先輩、一言多い」

「確かに図面だけだと分からない事も多いしな、それじゃあそうするか」

 

 フラウも特に反対しなかった為、四人はソレイユに向かい、

そこで空き部屋の鍵を受け取って、寮に見学に向かう事にした。

 

「あ、一階はコンビニなんだ、って、コンビニにしては品揃えがいい………」

「フランチャイズじゃないうちの運営だからな、

社員の要望に合わせてかなりカスタマイズさせてもらったわ」

「へぇ~、ちょっと寄ってみてもいい?」

「ああ、別に構わないぞ」

 

 そのままコンビニに向かった一同は、ドリンクの棚に、

千葉県民のソウルドリンクと選ばれし者の知的飲料が沢山置かれている事に驚いた。

 

「ボ、ボス、これは?」

「………ああ、俺の趣味だ」

「なるほど、しかしこんなに置いてあって、ちゃんと売れるんですか?」

「おう、一、二を争う人気商品だぞ、うちは頭脳労働が多いしな。

ついでに言うと、俺の布教活動が実を結んでいるという証拠だ、ふふん」

 

 八幡の言う通り、八幡が飲んでいるからという理由で買っていく社員が多いらしい。

事実、今も一人の女性が二本セットで買おうとしているところであった。

 

「ほらな、あんな感じで人気が………あれ?理央か?」

「へっ?」

 

 その女性は、まさかの理央であった。

理央は今まさに自分が手にしている二本のドリンクに目をやった後、

八幡と自分の手を交互に見て、迷うようなそぶりを見せたが、

結局その二本とも、買い物カゴに放り込んだ。

 

「べ、別に八幡の真似してるとか、そういうんじゃないから」

「いや、俺は何も言ってないんだが………」

「でも今絶対思ってたでしょ!こいつ、俺の真似してやがるって!」

「どんだけ妄想が逞しいんだお前は、さすがは相対性妄想眼鏡っ子だな」

「そ、その呼び方はやめて!」

 

 理央は悲鳴を上げたが時既に遅し、蔵人はクールにスルーしてくれたが、

明日香とフラウが猛然とした勢いでその言葉に食いついてきた。

 

「え、何その呼び方、どんな由来?」

 

 明日香のこの馴れ馴れしさ、どうやら二人はもう面識があるらしい。

 

「今の反応だと、きっとエロい由来だと思われ」

「ああ~、確かにそんな感じだったね、そっかぁ、確かにこの我侭ボディは………ごくり」

 

 明日香にそう言われ、理央は慌てて自分の胸を隠した。

 

「べ、別にそんなんじゃないから!」

「え~?私的には褒めたつもりなんだけどなぁ」

「う、うぅ………絶対に褒めてないよね………」

「いっそ殺せ!って奴ですね、分かります。おっと、ついでに私もこれを買っておかないと」

 

 そう言いながらフラウが手に取ったのは、コンビニ仕様の量産型パンツであった。

昨日マンションの部屋で優里奈から予備を購入した為、その補充のつもりなのだろう。

そしてフラウはその量産型パンツをレジに持っていき、

何の躊躇いもなく男性店員に差し出した。他には何も買っていない。

更に店員が袋にいれようとするのを、フラウは秒で制した。

 

「サーセン、袋はいいです、自分、このままあの人に視姦されるつもりなんで」

「おいこらてめえ、俺を巻き込むな!」

 

 八幡は顔を真っ赤にして抗議し、理央は毒気を抜かれ、その度胸に目が点になった。

 

「フ、フラウ、凄いね………でも何でそんな物を買ったの?」

「デュフフ、昨日持ち合わせが無かったから、

優里奈ちゃんに部屋のストックのパンツを売ってもらってそれを奉納したわけだが、

まあその補充、みたいな?」

「ほ、奉納ってまさか………!?」

 

 そのフラウの言葉に理央の目が大きく見開かれ、理央は猛然と八幡に詰め寄った。

 

「は、八幡!」

「おわっ!ど、どうした?」

「ず、ずるい!」

「何がだ?」

「私だってもう十八なんだし、正式な入社まで家に戻る事もほとんど無いし、

マンションの部屋に迎えてもらってもいいんじゃないかな、ってか入れろブタ野郎」

 

 そう言う理央の目は完全に座っており、八幡はそのまま一気に壁際まで追い詰められた。

 

「ち、近い、ってか当たってる、当たってるから!」

「当ててるんだから当たり前でしょうが!」

「なっ………」

 

 そう言い切る男前な、いや、女前な理央相手に、さすがの八幡もどうする事も出来ない。

 

「わ、分かった、分かったから、今から一緒に明日奈の所に行って相談しよう、な?」

「絶対だからね!」

 

 理央はそう言って、買う予定だった物を素早く買い物カゴに放り込み、

速攻で会計を終え、八幡の所に戻ってきた。

 

「荷物を置くから先に私の部屋ね、ほら、行くよ」

「あっ、はい………」

 

 最後の望みとばかりに八幡は蔵人達三人に目を向け、視線で助けを求めた。

 

「げらげらげら」

「いいぞ、もっとやれ!」

「あ、八幡さん、私達、寮の部屋を見にいってますね」

 

 三人はそう言って八幡に手を差しのべる事なく去っていき、

八幡はそのまま理央に腕を組まれ、理央の部屋に連行される事となった。


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