ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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大雪です四~五十cmいきそうですやばいです!ちょっとそれに対する対応で、明日は投稿出来ないと思います、すみません!


第1010話 当社比三倍

 日付は変わって日曜日の朝となった。

目が覚めた後、理央はねぼけまなこを擦りながらのそりと起き上がり、

自分の部屋にいるつもりで毎朝している通りに顔を洗う為に部屋を出た。

眼鏡をかけていなかった理央は、部屋の外に覚えがない事に気が付き、

ここはどこだろうと思いながら目を細め、きょろきょろと辺りを見回した。

 

「お、早起きだな理央、昨日はよく寝れたか?」

 

 そう毎日でも聞いていたいような心地よい声が聞こえ、

理央はそちらを見たが、眼鏡をかけていない為にその人物がぼやけて見えた。

 

「ん、ん~?」

 

 理央はごしごしと目を擦り、目を細めたままその人物に近付いたが、

何故かその人物は慌てたような感じで後退りしていく。

当然理央は、もっとよく見ようと更に前に進み、遂にその人物を壁際まで追い詰めた。

 

「い、一体なんなんだ、っておい、近い、近いから」

「………あれ、八幡?」

 

 理央は唇が触れそうになる距離まで顔を近付けて、

やっと相手の正体を理解する事が出来た。

眼鏡かコンタクトがないと、どうやらかなり視力が低いようだ。

 

「何故疑問系………」

「え、だって、何で八幡が私の部屋に?」

「ここがお前の部屋じゃなく、俺の部屋だからだな」

「あ、ああ~!」

 

 それで理央は、昨日自分が初めて八幡の部屋にお泊りした事を思い出した。

 

「あ~、そっか、そうだったそうだった」

「分かってくれたならいいんだが、とりあえず少し離れような」

「あっ、ご、ごめん」

 

 理央はそう言って、慌てて後ろに軽くステップした。

その瞬間に八幡が、焦ったような声を上げる。

 

「いいっ!?」

「え?いきなり何?」

 

 理央は何故八幡が焦っているのか分からず、再び八幡に近付いた。

 

「ま、待て、あまり激しく動くんじゃない、あ、危ないからな」

「んん~~~?」

 

 その瞬間に理央は、八幡からの視線が自分の胸に向いているのを感じ、

まあでもいつもの事だよねと思いながら、何気なく自分の胸を見た。

一応断っておくが、別に八幡がいつも理央の胸を見ているという事ではない。

理央が言ういつもの事とは、あくまで世間一般の男性諸君の話である。

 

(も、もしかして今の私、ラッキースケベ状態だったり!?)

 

 どうやら八幡に胸を見られる事は、理央的にとってのラッキースケベ扱いらしい。

だが何度見ても、理央のパジャマの胸が大きく開いているという事もなく、

ボタンも全てキッチリ止まっている。

理央はその事を残念に思い、深いため息をついたが、

その瞬間に、理央の胸が当社比で二倍くらいの揺れ方をした。

同時に理央は、再び八幡の視線が胸に向いているのを感じた。

 

「………ああ!」

 

 何かに気付いた理央は、そのまま一歩後ろに下がったが、

その瞬間に理央の胸が、当社比三倍くらいの揺れ方をした。

そう、寝起きなので当然だが、今の理央はノーブラなのである。

 

「なるほどなるほど、だから八幡が私の胸ばっか見てたんだ」

「い、いきなり何を言い出すんだ、別に俺は、お、お前の胸なんか見ていない」

「だからそういうの、女の子は分かるんだってば。

へぇ~、そっかぁ、いつもクールぶってる割に、やっぱり見たいんだ?」

「調子に乗るな!」

「きゃっ!」

 

 八幡は理央の頭をがしっと掴み、腕の力に任せて理央を一回転させた。

 

「いいからさっさと顔を洗って着替えてこい、ついでに明日奈と優里奈も起こしてな」

「い、痛い痛い、分かった、分かったから!」

 

(ちょっとやりすぎちゃったかな、失敗失敗)

 

 八幡は理央をぐいぐい押していき、そのまま洗面所に叩き込んだ。

 

「やれやれ、まったく暴れすぎだっての」

 

 その八幡の発言が、理央本人に対するものなのか、理央の胸に対するものなのか、

どちらなのかは神のみぞ知るである。

 

「さて、今日はどうするかな」

 

 八幡はそう言いながら窓の方へと向かい、カーテンを開けた。

 

「いい天気だな、どこかに出かけるのもありか」

 

 そう呟いた瞬間に、八幡のスマホが鳴った。

 

「ん、こんな朝早くから誰だ?」

 

 八幡がスマホの画面を見ると、そこには『腐ラウ』と表示されていた。

 

「あいつか………」

 

 八幡は、部屋に忘れ物でもしたのかな、などと思いながら電話に出た。

 

「フラウか?どうした?」

『今日はとてもいい腐女子日和です』

「………まあいい天気ではありますね」

 

 八幡はのっけから放たれたそのパンチに対し、防御を固めるべく敬語で対応した。

 

『ところで八幡とは約束があった訳だが』

「………約束?」

『プリンセス』

「う………要するに今日紹介しろと?」

『イグザクトリー、その通り』

「………分かった、約束だしな、一旦切るぞ」

『おなしゃす!』

 

 どんな約束でも約束は約束だ、そう考え、八幡は仕方なく姫菜に電話をかけた。

 

(頼む、寝ててくれ!出来ればそのまま夜まで気付かないでくれ!)

 

「………」

『………』

「………あれ、呼び出し音が鳴らないな」

『それはもう出てるからかな、やっはろ~!』

 

 だがそんな八幡の願いも空しく、姫菜はノーコールで電話に出た。

 

「うわっ、び、びっくりした………」

『そっちからかけてくるなんて珍しいね、誰か私に紹介したいボーイズでも見つけた?』

 

 これはもちろん姫菜に恋人候補を紹介するとかそういった話ではない、念のため。

 

「すみません、紹介したい奴がいるのは合ってますが、女の子なんです」

『えっ?どういう事?私、そういう趣味は無いんだけど』

「実は先生の大ファンだという部下にせがまれまして、

もし宜しければ会ってやって頂けないかと………、

あ、もちろん俺はそいつを届けたら帰りますので、

そいつの事は煮るなり焼くなり好きにしてもらえれば………」

『な~んだ残念、せっかく新しいネタが仕入れられるかと思ったのに』

 

(仕入れられてたまるかよ!)

 

 姫菜はとても残念そうにそう言った。

八幡は背筋が寒くなったが、何とか堪える事に成功した。

 

「で、いかがでしょうか」

『う~ん、まあ布教活動だと思えばいいかな、別に構わないよ、朝ご飯で手を打とうか』

「喜んで奢らせて頂きます。ところで冬コミの原稿とかは大丈夫ですか?

もしかして凄く忙しかったりしませんか?」

『あれ、心配してくれるの?』

「いえ、全然全くこれっぽっちも。一応時期的に厳しいかなと思いまして」

 

 もちろん姫菜を心配している訳ではなく、

冬コミが近いという理由で断ってくれないかなと思っただけである。

 

『基本日曜は休もうって事にしてるの。根を詰めすぎてもまずいしね』

「………了解です、それじゃあそっちの都合のいい場所に行くから指定して下さい」

「オッケー、それなら………」

 

 姫菜が指定してきたのは、秋葉原の駅前にあるカフェであった。

 

「分かりました、それじゃあまた後で」

『ずっと敬語だった意味が分からないけど、うん、また後でね』

 

 そして八幡はフラウに電話を掛けなおした。

 

「プリンセスは、お前とお会い下さるそうだ」

『ふおおおお!神!』

「で、待ち合わせだが………」

 

 八幡が店の名前を告げると、フラウは近いから直接行くと言い出した。

 

「分かった、それじゃあ後でな」

 

 電話を切った後、八幡は後ろから声をかけられた。

 

「何の電話?」

「うわっ、びっくりした」

 

 そこにいたのは明日奈と優里奈、それに理央であった。

三人共、当社比で三倍状態である。

 

(こ、この野郎………)

 

 理央は顔を洗い終えた後、言われた通りに寝室に戻って二人を起こしたようだが、

胸に関しては普通にスルーしたようだ。

おそらく明日奈と優里奈も同じ状態なら、八幡は文句を言えないと考えたのだろう。

そしてその考えは正しく、八幡は苦情を言う事が出来ない。

八幡は理央を睨んだが、当の理央はどこ吹く風であった。

 

「………実はさっきフラウから連絡があってな、海老名さんを紹介して欲しいそうだ」

「えっ?ああ、そういう………」

 

 フラウが腐女子だと理解している明日奈は、事情をすぐに理解した。

 

「まあ今日は他に男はいないし、俺絡みの変なスイッチも入らないだろ。

俺はあの二人が盛り上がるのを適当に聞き流して、適当な所で逃げ出すつもりだ」

「ああ、それじゃあ理央ちゃんに一緒に行ってもらえば?

そしたら逃げる為の言い訳がしやすいんじゃない?」

「ん、確かにそうだな………」

 

 先ほどから理央にやられっぱなしだった八幡は、

ここぞとばかりに目に力を込め、じっと理央の顔を見た。

 

「う………ま、まあ別にいいけど………」

 

 理央はそっち方面には興味が無い為、あまり気乗りはしないようだったが、

八幡からのプレッシャーに押され、断る事は出来なかった。

 

「それなら私も行きましょうか?」

「いや、優里奈は駄目だ、教育に悪いからな」

 

 優里奈がそう提案してきたが、八幡は即却下した。過保護、ここに極まれりである。

 

「はぁい」

 

 優里奈は苦笑しながらその八幡の指示に従った。

 

「わ、私の教育は!?」

「お前はうちの子じゃないからな、問題ない」

 

 八幡は即座にそう答え、理央はイラっとしたのか、八幡の背中をバチンと叩いた。

 

「痛ってぇな、少しは手加減しろよ!」

「フン」

 

 とにもかくにもこうして理央が、八幡に同行する事が決定した。


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