「近いうちにまた社乙会があるんですか?」
「ええ、多分クリスマス会の後にイベントが始まって、
それが終わったら忘年会があるでしょう?
そこまでいっちゃうともうスケジュールに余裕がなくなるから、
今のうちに社乙会としての忘年会をやっちゃおうと思うの」
「確かにそうかもですね」
「という訳で、今週末を目安にメンバーに連絡を回すわ」
「はい、お待ちしてますね」
こうして社乙会の開催が決まり、薔薇は仕事の合間を縫って、
ACSを使い、メンバー達に招待メールを送った。
「これでよし、と。後は口頭で………」
薔薇はそう呟くと、隣で仕事をしている南とクルスに話しかけた。
「二人とも、ちょっといい?」
「あ、はい、どうかしましたか?室長」
「二人とも、今週末に社乙会の忘年会をやるけど参加出来る?」
「「もちろん参加で!」」
二人は即答し、参加の意思を表明した。
「うんうん、そう言ってくれると思ってたわ、それじゃあ南、
遠くにいる人達が、社乙会のアドレスに参加の可否をメールしてくると思うから、
たまにそっちのチェックもお願いね」
「分かりました!うちにお任せを!」
南は秘書として、自分の事を私と呼ぶように気をつけているのだが、
こういう時はたまに昔の言い方が出てしまう事がある。
そういう時に指摘してくれるよう、南はクルスに頼んであった。
「南、一人称」
「あっ、また出ちゃってた?ありがとうクルス」
「ううん、どういたしまして」
そんな二人を微笑ましく思いながら、薔薇は立ち上がった。
「ふふっ、私はちょっとスカウトに行ってくるわ」
「スカウト?誰か新規加入するんですか?」
第八回時点での社乙会のメンバーは十四人。
薔薇小猫、相模南、間宮クルス、折本かおり、仲町千佳、岡野舞衣、朝田詩乃、雪ノ下雪乃、
由比ヶ浜結衣、三浦優美子、一色いろは、栗林志乃、黒川茉莉、双葉理央である。
その後に桐生萌郁、川崎沙希、秋葉留未穂、レヴェッカが加わり、
今日までで、既に第九回から第十一回までの社乙会が開催されていた。
「最大で八人ね。もう声をかけて、今回加入が確定しているのが六人、
ただしそのうちの三人はまだ来れるか分からないわ。
そして残りの二人には、今から声をかけてくるつもり」
「うわ、一気にそんなに!」
「凄い………」
「という訳でクルス、この六人をリストに加えておいて頂戴」
「分かりました………ああ、なるほど」
クルスはそのリストを見て、薔薇が来れるか分からないと言った者が誰なのか理解した。
そこに書かれていたのは、紺野藍子、紺野木綿季、小比類巻香蓮の三人はいいとして、
残りの三人は、篠原美優、霧島舞、そして神崎エルザだったのである。
南もそれを覗きこんで、ああ、と呟いた。
「北海道組とエルザさんは確かになんとも言えないね」
「まあそうは言ったものの、今回はエルザは絶対に来ると思うけどね」
「そうなんですか?」
「ええ、今回は八幡の着替えシーンの下着姿の盗撮動画が公開されるのよ」
「えっ、それって………」
犯罪じゃ、と南が言いかけたのは当然だろう。
普通の人の感覚だと、それは明らかに犯罪であり、
南は八幡の周りだと、一、二を争う常識人だったからだ。
だがクルスはそうではなく、南は隣から荒い息遣いが聞こえてきた為ギョッとした。
「は、八幡様の着替え………生パンツ………はぁ、はぁ………」
「ちょ、ちょっとクルス、クルスってば!うぅ、室長、それはさすがにまずいんじゃ………」
南は頭を抱え、これはさすがに止めないといけないかなと思ったが、
そんな南に薔薇が諭すようにこう言った。
「いい南、ソレイユではセクハラは即解雇まであるけど、
女子社員が八幡にセクハラをしても無罪放免よ」
「えっ?あっ、た、確かに………」
以前薔薇が冗談めかして理央に言ったその言葉は、
女子社員の中では実は裏ルールとして深く浸透していた。
さすがに表立って八幡にセクハラする者はいないが、
大体の事は許されるという風潮が広がっているのだ。
ちなみにその旗を先頭に立って振っているのは誰であろう、陽乃である。
「た、確かにそうですね、それならいいのかな………」
これで納得してしまう辺り、南もかなりソレイユに毒されている。
「それじゃあ私は行ってくるわ、といっても隣の部屋だけどね」
「隣?ああ、そういう………」
隣の部屋は八幡の部屋である。
「南、多分もう乙女達からの連絡が殺到してきてるはずだから、チェックをお願いね」
「あっ、はい!ほらクルス、起きてってば!」
「う、う~ん………はっ、私は一体何を………」
「リストの入力をお願い、私は参加の可否をチェックするから!」
「そうだった、任せて!」
そして薔薇は出ていき、クルスは隠しファイルからメンバーリストを呼び出して、
そこに六人の名前を追加した。
南はメーラーを開き、社乙会のアドレスのメールを確認している。
「本当だ、メールがいっぱい………」
南は目を見開き、そんな南にクルスは言った。
「オーケー、参加の可否をお願い」
「う、うん、順番に読み上げるね。
雪乃は、『別に八幡君の下着に興味がある訳じゃないけど、喜んで参加します』だって」
「珍しいツンデレ乙?」
「優美子は、『藍子、やるじゃん。もちろん参加で』って………、
そっか、盗撮したのって藍子だったんだ」
「グッジョブ、藍子!」
「結衣も参加だね、『えっ?何それ恥ずかしい………でも参加します』」
「ムッツリか」
「いろはちゃんはっと………『何ですかそれ、ハッ!?先輩はわざと私に裸を見せて、
責任をとれと脅すつもりですね!私がそんな罠にはまると思われたなんて心外ですが、
でも参加しますごめんなさい』」
「いろはってこの芸風をやめれば高校の時ワンチャンあったんじゃ」
「あ、志乃さんと茉莉さんは無理みたい、任務で海外だって………」
「いつも日本を守ってくれてありがとう、お二人に敬礼!」
「け、敬礼!」
クルスがふざけた様子も見せず、真面目な口調でそう言った為、南もビシっと敬礼した。
「かおりは………『何それウケる、でも行きま~す』だって』」
「いや、ウケねえから」
「あっ、その八幡の真似、凄く似てる!」
「ふふん、日々のストー………観察の賜物よ!」
「今何て言いかけた!?」
「気のせいだって、ほら、続き続き」
「う、うん、え~と、千佳もオーケーみたい、
『私なんかが見てもいいものなのかな?いいなら参加をお願いします』だって。
はぁ、何か安心するなぁ………」
「千佳は毎月八幡様と、合法的にデートが出来て羨ましいよね」
「うん、それは本当に羨ましい」
「沙希は………う~ん、これ、多分参加だよね」
「何て?」
「えっと、『高校の時の事をそれでチャラに出来るかどうか、試してみてもいいかな』、
って、これ、何の事かな?」
「ああ、確か高校の時、八幡様は沙希の黒のレースのパンツを、
思いっきり下から覗き込んだ事があるって聞いた」
「そうなの!?」
「まあ参加でしょ、沙希も丸っと」
「あ、レヴィも無理だって、その日は社長と一緒に関西に出張だって」
「あっ、そういえば結城病院の知盛さんに大事な話があるとか………」
「もしかしてまた誰か治るのかな?」
「そうだといいね、絶対に全員助けたいし」
「だね!」
「舞衣も無理みたい、ああ~、同じ日にG女連の打ち上げがあって、
さすがにそっちに行かないといけないんだって」
「そっか、それじゃあ仕方ないね」
「理央ちゃんも参加だね、『参加します』ってシンプルだなぁ」
「きっと恥ずかしかったんでしょ、きっと心の中では妄想が捗ってるはず」
「理央ちゃんにひどい風評被害が!?」
「ううん、あの子は相対性妄想眼鏡っ子だから、基本脳内はピンクのはず」
「そ、そうなんだ………」
「あ、詩乃ちゃんだ、『喜んで参加させて頂きます』………え、何かイメージが違う」
「詩乃は八幡様以外には常識人だから………もし本人が相手なら、
『し、仕方ないわね、行ってあげるから八幡はちゃんと私をもてなすのよ』くらいは言う」
「あ~………た、確かに」
「フェイリスは相変わらずだねぇ、
『まさか生きている間にホーリー・ランジェリーを見る事が出来るなんて驚きニャ!
万難を排して是非ともその儀式に参加しますニャ!』だって」
「フェイリスはうちじゃ、一、二を争うお嬢様なんだけどなぁ………」
「萌郁さんもオーケーみたい、返事は『行く』だけだけど」
「萌郁さん、でも最近は結構話してくれるようになったよね」
「うん、私、今度一緒に買い物に行くんだ!」
「そうなの?」
「クルスも一緒に行く?」
「うん、行く行く、萌郁さん、たまに凄くかわいいから好き」
「あっ、香蓮からも返事が来た、え~と、『ちょ、ちょっと恥ずかしいけど、うん、
出来れば参加したいです』だって」
「こっちはムッツリじゃなくて本当に恥ずかしがってるんだよね、
さすがは八幡様のお気に入り、ぐぬぬ………」
「クルスだってそうじゃない、私は出遅れちゃってるから二人が羨ましいよ」
「その自覚はあるけど、その中でもやっぱり序列があるのよ、
一番が明日奈として、二番は優里奈、三番は多分藍子と木綿季だけどまあ、
この辺りは八幡様が保護者をやってるから仕方ないね。
次が詩乃、その次が香蓮で私はその次かな、その後ろは多分理央だね。
その次に雪乃や結衣、優美子、いろはが来るのかな、この四人は正直未知数。
フェイリスも被保護者だからその次くらいにに入るね。
社長はちょっと分からないけど、多分番外」
「そうなんだ………うわぁ、私も頑張らないと」
「うん、頑張れ南」
「ところで藍子と木綿季にはメールを送ってないみたいなんだけど、
これって参加でいいんだよね?」
「そうなの?まあでも藍子の持込みは確定みたいだし、丸でいいね」
「だね!二人も参加で!」
「あっ、舞さんも来れるって!
『何ですかその素敵イベント、絶対に行きます!』」
「舞さんは八幡様の大ファンだから、こういう時の為にきっとお金を貯めてるはず」
「美優も来るって、二人とも頑張るなぁ。
『是非お願いします、リーダーは全裸ですか?全裸ですよね!?』って、
下着までって言ってるのにね」
「美優は欲望がだだ漏れすぎ………まあエルザと同じ人種だから仕方ないか」
「あ、あは………だね」
「き、来たああああああ!エルザさんも来るって」
「仕事は大丈夫なのかな?」
「『はぁ、はぁ、薔薇ちゃん、私をあんまり興奮させないでよぉ………、
今から四徹で年内の仕事を全部終わらせるから待っててね!』だって………」
「八幡様の為なら当然かな」
「当然なんだ………」
こうして社乙会の忘年回の参加者が決定される事となった。
女子社員が八幡にセクハラ云々の話が出たのは628話ですね!