ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1019話 三人の質疑応答

 フラウと明日香は顔を見合わせ、質問を考え始めた。

だがさすが蔵人は、考える事なくこちらに質問をぶつけてきた。

 

「室長、雪ノ下建設を傘下に入れるまでの流れは、

メディキュボイド絡みって事で納得出来るんですが、

その後に何故うちは、芸能関係に手を出したんですか?

どう考えてもいきなりという感じがするんですが」

「いい質問ね、ん~、これは個人のプライバシーも関わってくるから簡単に言うけど、

要するに八幡の知り合いに、倉エージェンシーに所属している人がいてね、

その人が八幡に、円満に独立する方法は無いか尋ねてきたのよ」

「ほう?もしかして、神崎エルザですか?」

 

 蔵人はそう、いきなり核心を突いてきた。

 

「あら、どうしてそう思うの?」

「いや、神崎エルザとソレイユは、いきなり蜜月関係になったじゃないですか、

なのでそうかなと思ったんですよ」

 

 その蔵人の推測に、薔薇は感心したような顔をした。

 

「なるほどね、うん、まあそこまで分かったならいいわ、説明してあげる。

エルザは当時、倉エージェンシーの後継者だった社長の長男に言い寄られていてね、

それが嫌で、八幡に相談を持ちかけたの。

その過程でその長男が、SAO時代に八幡を殺そうとして、

八幡に返り討ちにあった人物だという事が分かってね、

八幡が計画を練って、その長男を次期社長の座から追い落とそうとしたんだけど、

その過程でその長男が、再び八幡を殺そうとしたのよ。

もっともそれは八幡の想定内で、あっさり返り討ちにしたんだけどね。

その縁で、倉エージェンシーの社長と次の社長の次男が八幡の事を気に入っちゃって、

いずれうちの傘下になるって言ってたんだけど、それからうちもかなり大きくなった事だし、

そろそろいいかなって事で正式に傘下に入ったと、まあそういう訳。

要するにうちから言い出したんじゃなく先方の希望という事ね」

「馬鹿ですかそいつは。まあでもなるほど、事情は納得しました」

「ちなみに倉エージェンシーは、どちらかというと弱小で、

大きな事務所の理不尽に耐え続けてきた歴史があってね、

八幡の大号令で、可能ならその理不尽を打破しようというのがうちの目的になっているわ」

「ほう、芸能界に喧嘩を売りますか」

「うふふ、楽しそうでしょ?」

「ええ、何かあったら俺にも是非参加させて下さい」

「分かったわ、考えとく」

 

 次に質問してきたのは明日香であった。

 

「あの、室長、さっき諜報部って言ってましたよね?

でもうちの組織図で、それっぽいのを見た記憶がないんですけど」

「馬鹿かお前は、諜報組織がわざわざ諜報部なんて名乗ってる訳がないだろ」

 

 蔵人にそう指摘された明日香は頬をぷくっと膨らませた。

 

「先輩、そのくらい私だって分かってるって、要はどれが諜報部なのかなって気になったの」

「ああん?そんなの見れば分かるだろ」

「あら、分かるの?」

 

 薔薇がそう言いながら、興味津々な顔をした。

 

「もちろんですよ、市場調査部でしょう?」

「正解、さすがね」

「ああ、あそこか~!」

 

 明日香は若干悔しそうではあったが、すぐに切り替えたようだ。

 

「でも諜報部なんてそんな簡単に作れるものなんですか?

もしかしてどこかから引き抜いてきたとか?」

 

 その質問にはまともに答えず、薔薇はまったく関係が無さそうな話題を振ってきた。

 

「あなた達、SERNが最近解体一歩手前まで追い込まれた話って知ってる?」

「それって少し前に報道された、SERNが非合法組織を使ってたっていう………」

 

 さすが、@ちゃんねるの常連であるフラウは、その手には話題に詳しいようだ。

 

「そういえばそんな報道があったな」

「でもあのネタって直ぐに消えちゃったよね」

 

 蔵人と明日香はそう言って、チラリと薔薇の顔を見た。

 

「一応言っておくけど、うちからマスコミには圧力なんかかけてないからね」

「おっと、それは逆に残念ですね」

「違うんだ、意外だなぁ」

「もしかしたら、どこかの国の仕事かもしれないけど、少なくともうちは確認していないわ」

「それは当然。あれが日本で盛り上がらなかった理由は凄く簡単だお」

 

 薔薇のその言葉はフラウが引き継いだ。

 

「へぇ?どんな理由?」

「世界中の先進国に散らばっていたはずのその非合法組織『ラウンダー』が、

スパイ天国なはずの日本にだけ存在しなかったからだお」

 

 フラウのその言葉に、蔵人と明日香は顔を見合わせた。

 

「日本に………だけ?」

「存在しなかった?」

「うん、流出したリストによると、日本にはラウンダーはいなかったってさ、

まああるあ………………ね~よ!」

「無いな」

「無いよね」

 

 三人はそう頷き合った。

 

「いや、でもまさかだろ」

「結局どういう事?」

「おそらくその存在自体が隠されたんだろうな………多分ボスの意向で」

「そんな事可能なの?」

「ふふっ、よくそこにたどり着いたわね、結論から言うと可能よ」

 

 ここで薔薇がそう断言した。

 

「そっちはうちの仕掛けよ、ラウンダーの日本支部を丸ごと傘下に収める為のね」

「うわ、そこまでする?」

「するというか、それが簡単に出来るのがソレイユって事なんでしょうよ」

「まあ非合法組織を潰したんだから、いい事だと思われ」

「そういう事ね。まあ八幡は単に、

そういった仕事から萌郁を解放してあげたかっただけみたいだけどね」

「………そんな理由でそれだけの事を?」

「うん」

 

 三人はその言葉に目を見開いた。

 

「そうやって出来たのが、うちの市場調査部、その実体はソレイユ諜報部『ルミナス』よ」

「それだけの理由でそこまでするとか胸熱」

「げらげらげら、ボスはやっぱり最高だな!」

「で、でもそんな事、どうやって………」

「これは仕事に関係してくると思うから伝えておくけど、

うちには最高峰のハッカーが三人いるわ、開発部のアルゴ部長と岡野舞衣、橋田至よ。

いずれ何か仕事を頼む事もあると思うから、覚えておくといいわ」

「ハッカーって実在するんだ………」

「当たり前だろ、馬鹿かお前は」

「先輩、私にだけ当たりが強い」

「ぜ、全員私の同僚予定ですね分かります」

「覚えておきましょう」

 

 そして最後にフラウがこんな質問をした。

 

「あ、あの、室長はどうやって八幡と仲良くなったんですか?

さ、さっきの話だと、元々は敵だったんじゃ?」

 

 薔薇はその言葉に、うっ、となった。

 

「え~と………聞きたい?」

「あっ、はい」

「………………」

 

 薔薇は躊躇していたが、三人に期待の篭った目を向けられ、やがてその重い口を開いた。

 

「え~っとね、さっきも言ったけど、私ってほら、SAO時代は本当に悪い女だったのよ、

まあその事については今でも悔いているけど………」

 

 薔薇はさすがに自分が殺人を犯した事を何度も強調は出来なかったようだ。

だが三人はそれに突っ込むような事はしない。

今の薔薇がそれを乗り越えてここに立っている事が分かっているからだ。

 

「で、ハチマン達に目を付けられて、キリト君に脅されて監獄送りになったんだけど、

私から情報を得ようと、わざわざ監獄で待ち構えていたのがハチマンだったの。

私は捕まった直後で気が立ってたから、そのままハチマンに襲いかかったんだけど、

攻撃は全部避けられて、その度に思いっきり蹴られたのよね。

HPが減らないエリアだったから死にはしなかったものの、

何度も壁に打ちつけられて、あ、これは反抗するだけ無駄だって心を折られて、

そのままハチマンに屈服させられたってのが、私達の出会いかしら」

「「「………」」」

 

 三人はその話を聞いて、それのどこが仲良くなった話なのだろうかと頭を悩ませた。

 

「で、私はそのままゲームクリアまで監獄にいたんだけど、

どうやら私、外にいたままだと命を狙われる事になってたみたいなの。

だから逆に監獄に入れてもらって良かったっていうか、

ハチマン達のおかげで今こうして生きてるって事になると思うのよね」

 

(………何その理屈)

(メンタルが強いっつ~か何つ~か………)

(これは完全に調教されていると思うべき)

 

 三人はひそひそとそう囁き合った。

 

「で、ゲームがクリアされたじゃない、その後運良くうちの社長に拾ってもらったんだけど、

そこにまさかの八幡登場よ、これはもう運命と言ってもいいんじゃないかしら」

 

 そんな惚気にも似た言葉を発する薔薇を見て、三人は再びひそひそと囁き合った。

 

(あの凛とした室長が………)

(私達もいずれああなる?)

(どうなんだろうね………)

(他の女性陣を見れば分かるでしょうよ)

(………そっか、ああなっちゃうんだ)

(やっぱりボスは凄えな)

 

 こうして三人の脳内には、これでもかというくらい八幡の偉業がインプットされ、

今後はそれぞれの得意分野で八幡を支えていく事になるのであった。


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