ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1023話 寮へのお引越し

「八幡とメイド服、八幡とメイド服」

「ついでに師匠にも着させようね」

「そうね、そうしましょう」

 

 そう言ってお風呂で盛り上がっていた藍子と木綿季であったが、

その前に二人にはどうしてもやらないといけない事があった。寮への引越しの準備である。

少し前に八幡から連絡があり、もういつでも入れるという事だったので、

二人は明日、学校が終わったらそのまま寮への引越しを敢行する予定となっているのだ。

 

「ここのお風呂に入るのも今日が最後ね………」

「本当は卒業後に戻ってくる予定だったけど、八幡が家を買ってくれるみたいだしね!」

「私達の未来はピンク色ね」

「そこは薔薇色なんじゃ………」

 

 ちなみに今は、藍子が木綿季の背中を流している所であった。

その後は木綿季が藍子の背中を流す事になっている。

 

「というか、こうして背中の流しっこをするのも今日が最後じゃない?」

「何を言っているのよユウ、引っ越してからも、一緒にお風呂に入ればいいじゃない」

「あっ、そうか!そしたら明日奈とかの背中も流せるね!」

「そういえばそうね、それじゃあうっかり手を滑らせて、明日奈の胸を一緒に揉みましょう」

「うん、揉みまくろう!」

 

 二人はそれが決定事項だという風に、笑いながらそう言った。

どうやら明日奈の胸は、二人によって蹂躙されてしまうらしい。

 

「それにしてもメリダとクロービスがハウスメイドNPCって、

ジュンは一体何を勘違いしたのかしらね」

「何でだろう、う~ん、謎だよね」

 

 二人はそんな会話を交わしながら、この日は一緒に寝る事にした。

そして目覚めた朝、ゲーム内のジュンからメールが届いた。

 

「ユウ、ジュンが今夜私達の引越し祝いをするから都合のいい時間を教えてくれって」

「わ~い!あ、でも明日奈達ともお祝いをする約束だよね、何時からだっけ?」

「引越しが終わり次第って事になってたけど、まあ私達の荷物は少ないから、

多分六時とかになるんじゃないかしら」

「そしたら向こうは何時くらいがいいかな、余裕を持って十時とか?」

「そのくらいがいいでしょうね、それじゃあそう伝えるわ」

 

 そう話し合った後、二人は迎えに来てくれた八幡と共に学校に向かった。

 

「そうか、みんながお祝いをしてくれるのか」

「うん!」

「今日だけでお祝いが二つだよ!楽しみだなぁ」

「新しい部屋も楽しみよね」

「これからは二人別々で寝る事になるから寂しいんだろ?」

 

 八幡のその軽口に、藍子から即座に反撃が飛ぶ。

 

「そう思うなら八幡が一緒に寝てよ」

「え、やだよ」

「相変わらずチキンね、私もユウもどっちもいつでもウェルカムなのに」

「そうだよ、ウェルカムだよ!」

「はぁ、はいはい、俺はチキン俺はチキン」

 

 八幡は藍子のその言葉を軽くいなし、改めて二人にこう提案した。

 

「まあ今日くらいは二人で一緒に寝てもいいんじゃないか?

まだ環境の変化に慣れないだろうし」

「べ、別に必要ないわよ、ねぇ?」

「う、うん、ボク達はもう大人だしね!」

 

 そう言いつつも、二人はやはり寂しいのか、少し間を置いてこう言った。

 

「で、でも私、抱き枕が変わると眠れなくなっちゃうのよね。

あ、ちなみに私の抱き枕はユウと八幡よ」

「俺は泊まらないからな」

「し、仕方ないわね、それじゃあユウで我慢するとするわ」

「そ、そうだね、ボクもそんな感じだし、まあ今日くらいは一緒に寝てもいいかな」

 

 そんな二人の態度に八幡は含み笑いをし、直後にこう尋ねてきた。

 

「どっちの部屋に泊まるんだ?」

「そうねぇ、とりあえず私の部屋かしら」

「あ、明日はボクの部屋だね!」

 

 どうやら一日だけでは二人の寂しさは埋められないらしい。

 

「なるほど、アイの部屋か」

「どうしてそう強調するの?もしかして夜這いしてくるつもり?」

「わっ、わっ、今夜はかわいいパンツをはかなきゃ!」

「鍵も開けておかないとね!」

「いや、しねえから。あと鍵は絶対かけろよ」

「「は~い」」

 

 二人は素直にそう返事をした。

どうやら八幡が本当に夜這いしてくるとは微塵も思っていないらしい。

 

「さて、それじゃあ今日も頑張って勉強するか」

「うん!」

「今日もしっかり学ぶわよ!」

 

 三人はそのまま教室へと向かい、その日一日真面目に勉強をした。

 

 

 

 そして迎えた放課後、一同は二人の引越しを手伝う為、駐車場へと向かった。

同じクラスの七人に加え、今日はひよりも手伝いに来てくれている。

何故駐車場かというと、二人の荷物は少なく、キット一台に積みきれてしまう為、

キットが先行して眠りの森に向かい、経子達に荷物を積み込んでもらったのである。

こういう時にキットの存在は実に便利だ。

 

「お~いキット、それに優里奈、お待たせ」

「優里奈、今日はありがとうね」

「ううん、二人の為だもん」

 

 スリーピング・ナイツの準メンバーである優里奈は、

当然藍子と木綿季とは大の仲良しであり、この日は学校を早退して手伝いに来てくれていた。

八幡はその許可を出すのをやや渋ったが、最後は優里奈が押しきったのだ。

 

「よし、それじゃあ俺達は力仕事だな、家電はもう部屋の中に届いているはずだ」

「八幡、結構お金を使っちゃったわよね?ありがとう」

「ごめんね、八幡」

 

 そう、二人の部屋に置く家電類は、全て八幡が自前で購入していたのである。

 

「気にするなって、お前達の保護者は俺なんだからな」

「この借りは体で………」

 

 藍子はそう言いかけて途中で止め、明日奈の顔をじっと見つめた。

 

「な、何?」

「ううん」

 

 明日奈が無反応だった為、これはいつもの冗談だと思われているなと判断した藍子は、

先ほど言いかけた事をこう言い直した。

 

「この借りは、明日奈と一緒に体で返すわ、もちろんエロい感じで」

「うん、三人でくんずほぐれつでね!」

「えっ?えええええええええ?」

 

 明日奈はそう言われ、思わずその光景を想像してしまい、顔を赤くした。

この時点で藍子の勝利である。もちろんそんな事が実現するとは思ってないが、

少なくとも明日奈の脳裏にその光景を刻み込む事には成功した。

これを繰り返して明日奈の心のハードルを低くしていくのが藍子の作戦である。

だがここで八幡が動いた。明日奈が良からぬ妄想をしている事に気付き、

それを完全に否定しようとしたのだ。

だがその更に先に優里奈が動いた。八幡が口を開く前に、優里奈は明日奈にこう言ったのだ。

 

「明日奈さん、もしかして私は仲間外れになっちゃいますか?」

「いっ!?」

 

 八幡は優里奈に機先を制され、思わずそう叫んだ。

そして八幡が口をぱくぱくさせている間に、明日奈がこう答えてしまった。

 

「そ、そんな事ある訳ないじゃない!」

「明日奈さん!」

 

 優里奈は間髪入れずに甘えるように明日奈に抱きついた。

それによって八幡は介入する術を失い、

藍子と木綿季はそんな優里奈とアイコンタクトをした。

 

((優里奈、グッジョブ!))

(任せて下さい)

 

 そんな四人の様子を見て、里香と珪子、それにひよりはぼそりと呟いた。

 

「あの三人、やるわね………」

「恐ろしいコンビネーションでしたね」

「わっ、わっ、大人だ………」

「ん、何の事だ?」

「今向こうでは、和人には分からない凄まじい駆け引きが行われていたのよ」

「そ、そうなのか………」

 

 和人は関わりたくないと思ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。

そして八幡と和人がキットに積んであったダンボールを二箱ずつ運び、

一同は二人の部屋の前に到着したが、その部屋の前には既に沢山の荷物が置いてあった。

 

「八幡!それにみんな!」

「あれ、小猫さんだ!」

「小猫さん小猫さん!」

 

 藍子と木綿季が無邪気にそう呼びかけ、薔薇は若干頬を引きつらせた。

さすがにこの二人に対しては文句は言えないらしい。

 

「おう小猫、わざわざ悪いな」

 

 もちろん八幡には何を言っても無駄である。

 

「………ううん、私は届く荷物の番をしてただけだしね」

「わざわざ仕事中に悪いな、お前しかパシ………頼れる奴がいなかったんだ」

「今パシリって言いかけなかった!?」

 

 薔薇は目を釣りあがらせたが、当然八幡には何の痛痒も与えられない。

 

「そんな訳ないだろう、いつも頼りにしてるからな」

「そ、そう、それならいいのよ」

 

((((((((ちょろい………))))))))

 

 八幡以外の全員がそう思ったが、

少なくとも明日奈、藍子、木綿季の三人は薔薇と同じくらいちょろい。

優里奈はやや狡猾な所があり、藍子も自分ではそう思っているが、ただの一人よがりである。

 

「それじゃあ私は仕事に戻るわね、みんな、頑張ってね!

それじゃあ預かってた鍵と、はいこれ、差しいれね」

 

 薔薇はそう言って飲み物の入ったコンビニ袋を差し出してきた。

この辺りはさすがである。

 

「お、おう、なんか悪いな」

「別にいいわよ、それじゃあまた会社でね」

「ああ、またな」

 

 そう言って去っていく後姿に、女性陣は憧れの視線を向けた。

 

「薔薇さん格好いいなぁ」

「小猫さん、出来る女って感じ」

「………まあそうだな」

 

 そう答える八幡の視線はとても暖かい物であった。


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