ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1025話 引越し祝い(リアル)

「よ~し、それじゃあ行くぞ、アイ、ユウ」

「「「「「「引越しおめでとう!」」」」」」

「「ありがとう!」」

 

 八幡が音頭を取り、そして引っ越し祝いが始まった。

 

「よ~しみんな、食え食え、どんどん食え!」

「藍子、木綿季、お皿を貸して!取り分けるね」

「うん、ありがとう!」

「私は肉、肉が食べたい!」

 

 場は盛り上がっており、主役の二人はとても楽しそうにしていた。

 

「遂に私達も、初めての一人暮らしかぁ………」

「おいアイ、ちゃんとまめに部屋は掃除しろよ」

「も、もちろんよ!実は私は綺麗好きなのよ!」

「こいつはそう言ってるが、ユウ、本当か?」

「う~ん、アイはそういうのはあんまり………」

「ユ、ユウ、裏切ったわね!」

「いやあ、こういうのは正直に言わないとだし?」

「キーッ!」

 

 藍子はどこからか取り出したハンカチを咥え、悔しそうな顔をした。

 

「お前、それ、リアルでも普通にやってんのな………」

「これが私の芸風よ!昭和がジャスティスなのよ!」

「まあその意見を否定する気はないけどよ………」

 

 八幡は呆れたようにそう言い、他の者達にも二人の事をお願いした。

 

「みんなも二人の事、宜しく頼むな。多分何かしら見落とすと思うんだよな」

「もういくつか足りないものが出てきてるわ、後で近くのコンビニに行ってくるつもり」

「そうか、それくらいは俺が付き合ってやろう」

「ふふっ、ありがと」

 

 八幡はあんな事があったにも関わらず、藍子に優しかった。

それとこれとは別だと考えているのだろう。

 

「そういえばひよりは最近ALOはどうなんだ?」

「そうですね、アインクラッドの下の層を散歩したりしてますよ、

何か懐かしいなって思って」

「そうかそうか、うちはいつでも歓迎してやるからな、いつでも声をかけてくれ」

「はい、その時は宜しくお願いしますね!」

 

 ひよりは嬉しそうにそう言った。

 

「お、ひよりはうちに入るのか」

 

 和人も嬉しそうにそう言ってくる。仲間が増えるというのは喜ばしい事なのだ。

その相手が学校で親しくしている相手であれば、尚更だろう。

 

「いずれはそのつもりです、す、すみません」

「何で謝るんだっての、うちは大歓迎だって、なぁみんな?」

 

 その言葉に女性陣も嬉しそうに頷いた。

そして八幡が、二人にとってはとても喜ばしい話を振ってきた。

 

「そういえば今週末に姉さん達が京都の知盛さんの所に行く予定なんだが、

そこで先行してノリの手術についての話し合いをする事になってるんだよな」

「えっ、そ、そうなの!?」

「おう、手術の時に必要な薬がもうすぐ出来るらしいんだが、

その手術自体の成功した動画はもうあるらしくてな、

難しい手術らしいが、知盛さんなら完璧にトレースしてくれるだろうさ」

「そっか、今度はノリが………」

「次はシウネーだな、シウネー用の薬は多分もうすぐ完成だ。

かなり効果が高いというデータが上がってたから、おそらくそれだけで治せるはずだ」

「やった~!」

「この調子で絶対に全員助けるからな」

「うん!」

「八幡、本当にありがとう」

「いや、みんなの努力のおかげだって、俺は大した事はしてないから」

 

 八幡はそう謙遜したが、そもそも八幡がいなかったら、

スリーピング・ナイツはほぼ壊滅状態に追い込まれていたはずだ。

 

「あ、でも二人は学校は?」

「当然うちに来る事になる、もっとも来年の四月から一年間って事になるんだろうが、

基本学力が足りている事は既に確認済みだ」

「えっ、そ、そうなの?」

「おう、二人は夜とかにちゃんと勉強してたみたいでな、

高校二年の範囲まではほぼバッチリいけるらしい」

「そ、そうなんだ………」

「お前達も負けるなよ」

「だ、大丈夫、私達もクリスティーナにちゃんと教わってるから!」

 

 そう、二人の所には紅莉栖のアマデウスがいるのである。

 

「まあ確かにあいつに任せれば安心だな」

 

 前回試験の時にその事を思い知った明日奈も、その言葉にうんうんと頷いた。

途中で八幡が、スマホをいじってどこかに返信したりもしていたが、

そんな明るい話題も交えながら、その後も一同は楽しくお喋りし、

存分に飲み食いし、そろそろ八時になろうかという頃、

ここで会を閉めようという事になり、みんなで仲良く片付けに入った。

そんな中、八幡と藍子、木綿季の三人は片付けを免除され、

今のうちにコンビニに買い物に行く事になった。

 

「よし、足りない物のリストは出来たか?」

「うん、バッチリよ!」

「というか、そもそもゴミ袋が無いからそれまで片付けが終わらないんだよね」

「ああ、そういうのはさすがに事前に準備はしないよな」

 

 三人はそんな会話を交わしながら、コンビニへの道を仲良く歩いていった。

 

「二人とも、もうすっかり元気になったな」

「うん、今こうして八幡と一緒に街を歩いてるのが夢みたい」

「だね!毎日凄く楽しいよ!」

「そうか、それなら良かった」

 

 二人はそのまま八幡の左右の腕に嬉しそうにすがりついた。

 

「お、おい、歩きにくいだろ」

「そのくらい我慢しなさい」

 

 そんな三人とすれ違う時に、二人の顔を見て驚く者が意外と多い事に八幡は気が付いた。

この辺りの歩道は広く、六人くらいがすれ違っても十分余裕がある。

 

「ん、何でみんなお前達を見て驚くんだ?」

「双子だからじゃ?」

「ほとんど同じ顔だからね、そりゃ驚くよ」

「ああ、そういう事か、確かにな………」

 

 そう言って八幡は二人の顔をじっと見つめた。幼くもキリっとした木綿季と比べ、

藍子はややのんびりとした顔つきをしているように見えるが、その性格は真逆なのが面白い。

 

「よ~し、それじゃあ買い物を済ませてさっさと帰るか」

「うん、みんな待ってるだろうしね!」

「私達を、じゃなくゴミ袋をだけどね」

「あははははは、それじゃあ急ぐか」

「「うん!」」

  

 二人は他にも必要な物を選び、それぞれの部屋用に分けて購入した。

それなりの金額になったが、どちらも八幡が会計をした事で、

店員の若い女性が羨ましそうな顔をしたのが印象的であった。

 

「二人とも、荷物は俺が持つぞ」

「ううん、そうしたら腕が組めないからいいわ」

「そうそう、ボク達が持つって」

「まあそんな重いものじゃないから大丈夫よ」

「そうか、まあそれならいいんだが………」

 

 そのまま二人は八幡と腕を組み、もう片方の手にコンビニ袋を持って歩き出した。

 

「さすがに十二月も半ばだとかなり寒いな」

「ボク達は温かいよ!」

「八幡と一緒だしね」

「………そうだな、温かいな」

 

 それは単純な温度の問題だけではなく、心の温度の問題もあるのだろう。

今確かに三人は幸せであった。そして寮に戻った後、ゴミを分別してビニール袋に分け、

それは明日の朝に藍子が捨てる事となり、そこでリアルでの引越し祝いは終了となった。

続々と一同は自分の部屋に戻っていき、一応最後まで残っていた八幡は、

くれぐれも戸締りをしっかりして、火の元に気をつけるようにと二人に念押しし、

ついでに薔薇の忘れ物は後日取りにくるからと藍子に告げ、去っていった。

 

「小猫さん、何を忘れていったのかしら」

「気になるけど、勝手に開ける訳にもいかないね」

「さて、それじゃあ次は十時の予定だったわね、今のうちにお風呂に入っちゃいましょうか」

「それじゃあボクは、パジャマを持ってくるね!」

「ユウ、言われた通り、戸締りを忘れないように気をつけるのよ」

「うん!」

 

 そして二人は藍子の部屋に集まり、お風呂の準備をしている間、色々と話をした。

それは主にこれからの生活をどうするかという話であったが、

あまり八幡に負担をかけるのは申し訳ないので、基本頑張って節約しようという事になった。

 

「色々とみんなに教えてもらわないといけないわね」

「だね!」

 

 しばらく話していると、風呂場からお湯が沸いた音が聞こえ、

二人はその場で全裸になって風呂場へと移動した。

当然服は脱ぎ散らかしたままであるが、ここにはそれを怒る者はいない。

 

「さて、背中の流しっこね」

「今日はボクが先ね!」

 

 二人は仲良く風呂に入り、そのまま外に出てくると、

何故か二人が脱ぎ散らかした服が綺麗に畳まれていた。

 

「あ、あれ?ボク達脱いだ服をこんなに綺麗に畳んだっけ?」

「ま、まさか侵入者!?」

 

 二人は焦り、素早くパジャマに着替えた後に、慌てて戸締りの確認をした。

 

「戸締りはちゃんとしてるわね」

「窓とかも鍵がかかってるし」

「隠れられるような場所には誰もいない………」

「って事は………」

 

 二人はそう言って顔を見合わせた。

 

「「無意識に自分で畳んだんだ!」」

 

 二人はそう言って笑い合った。確かにそれ以外には考えられないのだ。

その為に二人は気が付かなかった。

薔薇が忘れていったというダンボールの口のガムテープが、不自然に破かれている事を。

 

「さて、そろそろALOにログインしましょっか」

「うん、みんな待ってるだろうしね!」

 

 二人はアミュスフィアを被り、そのまま手を繋いでベッドに横たわった。

 

「「リンク・スタート!」」


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