ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1026話 続くお祝い

 ALOにログインした二人は、予定時刻の少し前にスリーピング・ガーデンに姿を見せた。

 

「準備は手伝えなかったけど、ちゃんと出来てるのかな?」

「まあみんなで話すだけでも楽しいし」

「それもそうね」

 

 そんな二人に近付いてくる影があった。

 

「ラン様、ユウキ様、お待ちしておりました、さあ、こちらへどうぞ」

「えっ?」

「だ、誰?」

「私はスリーピング・ガーデンのハウスメイドです、今後とも宜しくお願いします」

 

 その男性は、どこかで聞いたような声でそう言った。

その顔にはグロスフェイスマスクが装着されており、どんな顔なのかは伺い知れない。

 

「ハウスメイド!?」

 

 二人は慌ててリビングに駆け込んだ。そこにはつい先ほどまで一緒にいた人物が、

飄々とした態度でその場に座っていた。

 

「よぉ」

「ハ、ハチマン!?」

「ああ、ちょっと用事があったんで寄らせてもらったぞ」

 

 ハチマンの隣はノリとシウネーにちゃっかり占有されており、

ハチマンの斜め後ろには、もう一人のグロスフェイスマスクをつけた女性が立っていた。

 

「そ、そちらの方は?」

「初めまして、スリーピング・ガーデンのハウスメイドです、今後とも宜しくお願いします」

「えええええ?」

 

 その女性もどこかで聞いたような声でそう言い、

二人はこの事態に混乱したが、それに対してはハチマンが説明した。

 

「悪い、この二人は俺の紹介なんだ」

「そ、そうなの!?」

「ああ、だからこいつらを責めないでやってくれ、俺の紹介じゃ断れなかったと思うしな」

「ま、まあそれは別にいいんだけど………」

 

 ランとユウキは二人のグロスフェイスマスクがどうしても気になるようで、

チラチラとそちらを見ている。

 

「そんな訳で、俺はそろそろ落ちるわ、さすがに眠いからな」

「えっ、早くない!?」

「もう少しいてくれても!」

「ん、そうか、それじゃあちょっとだけな」

「「やった~!」」

 

 それに対して喜んだのは、ノリとシウネーの二人であった。

二人は喜びのあまり、そのままハチマンに抱きついた。

 

「ぐぬぬ………完全に出遅れた!」

「もっと早く来れば良かったね」

 

 二人はそんなノリとシウネーに気を取られ、

ハチマンの後ろに立っていた女性が、

何かに耐えるように拳を握り締めている事に気が付かなかった。

 

「そ、それじゃあ会を始めようぜ!」

 

 場の空気を変えようと、ジュンが明るい声でそう言った。

 

「そうね、そうしましょう!」

 

 ランもこの空気はまずいと思ったのか、自分からそう言い出し、

一転して場はお祝いムードになった。

 

「それじゃあ料理と飲み物をお願い」

「分かりました」

 

 ハウスメイドの二人がそう言ってキッチンの方へ行き、料理と飲み物を持ってきた。

飲み物はどうやら街中で売っている物のようだが、

料理は軽目とはいえ、ちゃんと自分で調理したものであるようだった。

 

「うわ、思ったよりしっかりした物が出てきたわね」

「二人はもうお腹いっぱいだろうから、軽い物を用意してもらったよ」

「ちなみにこのメイドさんが作ったんだぜ!」

「そ、そうなんだ、ハウスメイドって料理も出来るのね」

 

 ランは知らないが、普通のハウスメイドはスキルを取らせないと料理は出来ない。

メリダは元々料理スキルを持っていた為、こうして料理が出来るのだ。

 

「兄貴もどうぞ!」

「おう、サンキュー」

 

 ノリが調子に乗って、あ~んをしてきたのを、

ハチマンは何の疑問も持たずにそのまま口にした。

 

「あああああ!」

「ん、何だ?」

 

 そう言いながらハチマンは、次にシウネーが差し出してきた料理を口にした。

 

「あああああああああ!」

「だから何だよラン」

「だっていつも、私があ~んをすると嫌そうにするじゃない!」

「だってお前の場合、何となく下心が透けて見えるんだもんよ」

「な、何でバレてるの!?」

「やっぱりかよ………」

 

 その時ユウキがスッと動き、ハチマンにあ~んをした。

 

「お、サンキュー」

 

 ハチマンはそれも口にし、ランはぽかんとした後、自分も同じ事をしようとした。

だがハチマンは、断固としてそれを拒否した。

 

「何でよ!」

「自分の胸に聞いてみろよ、お前さっき何て言ったよ」

「分かったわ、私の巨乳に耳を押し当てて聞いてみて!それで私の潔白が証明されるわ!」

 

 そんなランを見て、男性陣も苦笑せざるを得なかった。

 

「ランは相変わらずだよなぁ………」

「さっき自白してたよね」

「兄貴がそんな事をするはずがないだろうに」

 

 ランはその声を無視し、ハチマンに詰め寄った。

 

「ほら、これが好きなんでしょう!」

「おわっ、やめろ、俺の顔に胸を押し付けんな!」

「いいじゃない、ほら、ほら!」

 

 その時八幡の後ろに立っていた女性がスッと動き、ランの首根っこを掴んで持ち上げた。

 

「な、何するのよ!」

「ラン、いい加減にしなさい」

 

 その声に懐かしい響きを感じたランは、驚いた顔で動きを止めた。

 

「ラン、どうした」

 

 そんなランにハチマンがそう尋ねてきた。おそらくわざとであろう。

 

「え、だって今の声………」

「私の声がどうかしましたか?」

「メリダの声に凄く似てる………」

「そうか?メリダはもっとかわいい声をしてただろ?」

「メリダの声がかわいい?あれはかわいいというよりは、アニメ声って感じじゃない!」

「誰がアニメ声だって?」

「あっ、ちょっ………」

 

 突然女性のハウスメイドがそう言い、男性のハウスメイドが慌てた声を出した。

 

「ちょっ、待っ………」

「あれ、今の声もどこかで………」

 

 ユウキが何かに気付いたようにそう言ったが、

その直後に女性のハウスメイドがグロスフェイスマスクを外し、

ランの頭にいきなり肘撃ちをした。

 

「ぎゃっ!」

「あっ!」

 

 ランが女の子にあるまじき声でそう言い、

女性ハウスメイドの顔をまともに見たユウキは驚いた声を上げた。

だがランはそんなユウキの反応に気付く事もなく、振り返って女性メイドに抗議した。

 

「何でメイドがこんな事をするのよ!そもそもメイドというのは………って、

え?メ、メリダ!?」

 

 そこにはメリダの般若顔があり、ランは口をパクパクさせた後、ユウキの方に振り返った。

ユウキが驚いた顔のままランに頷く。

 

「え?え?」

 

 そして再び振り向いたランの顔に自分の顔を近付け、メリダがドスの利いた声を出した。

 

「ラン、私がいなくなった後、随分とハチマンさんに迷惑をかけてるみたいね」

「い、いや、違っ………」

 

 メリダの登場に驚く暇もなく、ランはそう言い訳をした。

メリダは実は、ハチマンが絡むとかなり怖いのだ。

さすがのランも、怒れるメリダには敵わない。

 

「言い訳すんな!」

 

 メリダはそう言ってランの頭にまさかの頭突きをかまし、

それでランはその場に崩れ落ちた。

 

「きゅぅ………」

「おい、今こいつ、わざわざ口で、きゅぅ、とか言いやがったぞ!」

 

 ハチマンがそう驚いた声を上げる。

 

「さすがラン………」

「こんな時にもネタを挟んでくるとか………」

「チッ、相変わらずタフね」

 

 最後のセリフはメリダのセリフである。

その言葉通り、がばっと起き上がったランは、今度はメリダに詰め寄った。

 

「ちょっとメリダ、え?え?本物?それとも幽霊?もしかして私、天国に行っちゃった?」

「自分の天国行きを疑わないその態度、相変わらずだね、ラン」

「嘘、本物!?」

「メリダ、メリダ!」

 

 そこに横からユウキがタックルをしてきた。

 

「メリダ!」

「そ、それじゃあそっちは………」

「はぁ、もうちょっと引っ張るつもりだったのにバレちゃったね」

 

 そう言って男性ハウスメイドはグロスフェイスマスクを外し、

その下からクロービスが顔を覗かせた。

 

「クロービス!」

 

 二人は再び驚愕し、ランはハチマンに振り返った。

 

「これはハチマンの仕込みね」

「その前にお前達、その二人にお礼を言った方がいい。

お前達の体を治す薬を作ったのはこの二人だ」

「えっ?」

「そ、そうなの!?」

「ま、まあそうかな」

 

 その言葉に二人は頷いた。

 

「「ありがとう!」」

 

 二人はそのハチマンの言葉に何の疑問も持たず、メリダとクロービスに抱きつき、

わんわんと泣き出した。そこに残りの男性陣も徐々に加わっていき、

ハチマンはその光景を見届けた後、そっと左右にいた二人に耳打ちした。

 

「ノリ、シウネー、それじゃあ俺は帰るからな、後は水入らずで楽しむんだぞ」

「うん、兄貴、ありがとう!」

「ありがとうございます!」

「ノリは来月くらいには手術が出来そうだし、シウネーも多分薬で病気が完治する。

来年四月くらいから、俺がいる学校に通わせる予定だから、

一応準備はしておいてくれよ。具体的には学力の向上だけどな」

 

 そのハチマンの言葉で二人は、メリダとクロービスの言葉は真実なのだと実感し、

その目を大きく見開いた。

 

「分かった、待っててね、兄貴!」

「来年には直接会えるんですね!」

「そうだな、まあリハビリの必要もあるから、それも頑張れよ」

「「はい!」」

 

 そして二人もメリダとクロービスを囲む輪に加わっていき、

ハチマンはそっとスリーピング・ガーデンを後にした。

 

 

 

「そういう訳だったのね」

「まったくもう、ハチマンは秘密主義なんだから!」

「それじゃあこれからはずっと一緒なのね」

「まあそんな感じかな」

 

 その時クロービスが、どこかからの通信を受け取るようなそぶりを見せた。

別サーバーで加速している自分との記憶が同期したのだが、

そんな事はメリダ以外の他の者達には分からない。

 

「あ、ちょっと待って、今新しい情報が来たよ、ノリの薬、完成したって」

「えっ?」

「嘘、昨日から一日しか経ってないのに?」

「さっきの兄貴の情報より更に早い!」

「あ~………詳しい事は言えないんだけど、まあとにかく完成したから、

後は認可が下りるのを待つだけみたい」

 

 凄まじいスピード感ではあるが、

メリダとクロービスにとっては、もうあれから半年が経っているのだ。

 

「えっと、治験とかいうのは?」

「それも理由は言えないけど、もう終わったって」

「えええええ?」

 

 実際は数年単位でかかるのだが、

メディキュボイドとニューロリンカーの機能を組み合わせる事で、

今のソレイユはその期間を相当短縮する事に成功しているのである。

 

「やった~!ノリ、おめでとう!」

「えっ、ほ、本当に?」

 

 ノリは信じられないという顔でそう言った。実際昨日の今日だけに信じられないだろう。

こうして場は更なる喜びに包まれ、本来の目的である二人の引越し祝いと同時に、

ノリの体を治す為に必要な薬が完成したお祝いも行われる事になった。

 

 

 

 そしてお祝いが終わり、ランとユウキは明日の学校に備えてログアウトした。

ジュン達も眠りにつき、残されたメリダとクロービスもスリープモードに入る事にした。

 

「それじゃあ僕は休止しておくね、そっちは頑張って」

「まあ動くのは明日の朝だけどね」

 

 二人はそう言い、その姿を消した。




医学的な事に関しては話の都合でファンタジーが混じってるので流して下さい!

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