ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1029話 専属達、ALOの地へ

 保に土下座された日の前日の夜、

八幡は年末のイベントに備えての仕込みをいくつか行っていた。

 

 帰ってすぐに()()()()()()()()()にコンバートし、ログインしたハチマンは、

以前ランが使用していたレンタルスペースへと足を踏み入れた。

この部屋はランが去った後も、何かに使えるかと思い、

ハチマンがモエカに占有させ続けていたのだが、今日はそこに、六人の人物が集まっていた。

 

「悪い、待たせたな」

「まったく相変わらずの重役出勤ね」

「お、ボス、今丁度ひと狩り終わった所ですよ」

「デュフフ、や、やってみると、案外楽しかった」

「私ってば専属じゃないんだけどなぁ、まあこれも仕事だよね、うん」

「まったく老人をこき使いおってからに」

「………………」

 

 六人の名はコピーキャット、ハリュー、フラウボウ、アスカ、キヨモリ、モエカという。

コピーキャットは通称CC、以前ロザリアが戦争の時に、

サブキャラとして平家軍を偵察する為に使用していたキャラである。

ここに集まった六人中身は当然の事ながら、

薔薇小猫、針生蔵人、神代フラウ、渡来明日香、結城清盛、桐生萌郁の六人であり、

最初にハチマンは、キヨモリに軽く手を上げた。

 

「じじい、パワーレベリングを手伝ってもらって悪いな」

「儂もこのゲームは好きじゃから、別に気にする事は無いぞい、

まあたまには主も付き合うんじゃぞ」

「分かった、暇になったらな」

「それじゃあ儂はこれでお役御免じゃな、また誘ってくれい」

「この礼はまた今度な」

「おう、またな小僧、それにみんなもまた遊んでくれい、今日までとても楽しかったぞい」

 

 そう言ってキヨモリはログアウトしていった。

 

 

 

 要するに八幡は、薔薇、蔵人、フラウ、明日香の四人がALOで使うキャラを、

キャラ育成速度業界ナンバーワンと言われるゾンビ・エスケープで促成栽培する為に、

今回清盛と萌郁に協力を頼んだと、まあそんな訳である。

薔薇は最悪ロザリアを使用すればいいのだが、今回は相手が自分の元部下なだけに、

名前から正体がバレるのを避ける為にコピーキャットを使う事にしたのだった。

 

 

 

 キヨモリを見送った後、ハチマンは次にモエカの方に振り返り、その頭を撫でた。

モエカに対しては余計な言葉は必要なく、これだけで事足りるのである。

その姿をコピーキャットが羨ましそうに見ていたが、

今回は育成してもらう側だった為、そういったおねだりは自重したようだ。

もっともねだったからといって、ハチマンが素直にその頭を撫でてくれる事はないのだが。

そしてハチマンは、多少なりとも強さの判定が出来るであろう、

コピーキャットとモエカにこう尋ねた。

 

「CC、モエカ、二人から見て三人の成長具合はどうだ?」

「そうね、ALOの中堅プレイヤークラスには育っていると思うわ」

「うん、もう十分だと思う」

「そうかそうか、それじゃあこのままALOに移動して、期間限定のギルドを作っちまうか」

 

 その言葉に一同は頷き、装備類を預り所に預けた後、

そのままALOへとコンバートを行う事になった。

 

 

 

「よし、全員いるな、一応拠点はこちらで用意しておいた、こっちだ」

 

 ハチマンはそのままフードを被り、第八層の主街区であるフリーベンへと向かった。

 

「ここだ」

 

 ハチマンが指し示したのは、

『小人の靴屋』のギルドホームが見える位置にある部屋であった。

さすがに仮のギルドの為に家を買う訳にもいかず、

敵の動きを一番掴み易い場所はどこかと考えた結果、

ここが最適だろうという事で、この部屋をしばらく借りる事にしたのである。

 

「ここは入り口が小人の靴屋とは反対側で、更に袋小路にあるからな、

人の出入りを気にされる事もないだろう」

「相手の動きは丸見え、これはもう丸裸と言っていい」

 

 窓の外を見ながら、フラウがデュフフと含み笑いをした。

 

「自分達が監視されてるなんて、思いもしないだろうな」

「とりあえずそんな訳で、この部屋の内部は好きにいじってもらっていい。

その為の金をハリューに渡しておくからな」

「お預かりします。で、ボス、このギルドの名前は何にしますか?」

「それも好きにしてくれていい」

「それじゃあ『ハイアー』で決まりね!」

 

 いきなりコピーキャットがそんな事を言い、一同は頷いた。

おそらく事前に話し合って決めてあったのだろう。

 

「ふ~ん、ハイアー?」

「ハチマン・インテリジェンス・エージェンシーでHIA。だからハイアー」

「それならハイエー………は、さすがに駄目だな」

 

 そのハチマンの言葉に一同は頷いた。さすがにそれは、車の名前として有名すぎる。

 

「よし、それじゃあ今日からお前達はハイアーだ、

後は前に話し合った通りに事を進めてくれ。

ヴァルハラのメンバーも協力するからな」

 

 こうして期間限定ギルド『ハイアー』の活動が始まった。

その目的は、『ヴァルハラの敵を持ち上げて落とす』である。

 

「よし、それじゃあお前達、アルンに戻るぞ」

「おっ、いよいよ………」

「スカイハイ!」

「おう、頑張って飛べるようになってくれよ」

「「「「「おお~!」」」」」

 

 五人は思わずそう快哉を叫んだ。基本無表情のモエカですらそうなのだから、

飛ぶという行為がどれだけ人を惹きつけるのかがよく分かる。

 

「よ~しお前ら、さっさと移動しようぜ」

「うわぁ、楽しみだなぁ」

「悔しい、でも感じちゃう、ビクンビクン」

 

 新人三人は大はしゃぎである。

コピーキャットとモエカはそうでもないように見えるが、内心はウキウキである。

五人はそのままぞろぞろと八幡に付いていき、アルン郊外で空を飛ぶ訓練を始めた。

 

「今俺は確かに飛んでいる!レッツフライパーリィ!ヒャッハー!」

「いやハリュー、あんた、慣れるの早すぎでしょ」

「そういうフラウボウだって、上手に飛んでるじゃない」

「あ~、私はほら、ゲーム感覚で出来るからまあそれなりにはね?」

「まあ上には上がいるけどな………」

「モエカは何であんな速度で飛べるの………」

 

 モエカの飛行技術は既にベテランの域に達している。恐ろしく適応が早い。

ハリューも随意飛行に手を出しており、その順応性はかなりのものだ。

フラウボウはコントローラーに頼ってしまうところがあり、

そこまでの域に達するまでには逆に時間がかかるかもしれないが、

少なくとも自由自在に飛ぶ事は出来ている。

まあこの三人はいいとして、問題は残りの二人である。

 

「おいCC、お前は何故ふらふらとしか飛べないんだ」

「そ、そう思うならアドバイスしてよ!」

「ハ、ハチマンさん、私にも!」

「アスカはセンスがありそうだと思ったが、気のせいだったか」

 

 CCとアスカはどうにもバランスをとるのが下手らしく、

飛べてはいるが、その速度はゆっくりであり、基本真っ直ぐに飛ぶ事が出来ない。

コントローラーの扱いが下手なのかもしれないが、正直ハチマンには原因が分からなかった。

 

「ううむ、お前ら謎すぎだぞ、飛んだ後にコントローラを倒すだけだろ?」

「仕方ないじゃない、胸が大きいんだから!」

 

 CCのその逆セクハラめいた言い訳を、ハチマンは即座に叩き潰した。

 

「モエカが飛べてる、ほれ、やり直し」

「くっ………」

 

 そう言われ、CCはそれ以上何の言い訳もする事が出来なかった。

ちなみにこの時点でハチマンは、

それしか言い訳が無いのかこいつは、と心の中で盛大に突っ込んでいる。

 

「う~む………もしかしてお前達、びびってるのか?」

「「………」」

 

 二人はその言葉にあからさまに顔を背けた。

 

「そういう事か………」

 

 それで原因を理解したハチマンは、二人の首根っこを掴んで空に舞い上がった。

 

「ちょっと、何するのよ!」

「荒療治だ」

「ま、まさか!?ちょ、ハチマンさん、私は大丈夫、大丈夫だから!」

「大丈夫なら大丈夫だな、ほ~れ行くぞ~」

 

 ハチマンはのんびりとした口調でそう言うと、そのまま二人を下に放り投げた。

 

「「嫌あああああああああ!」」

 

 二人はそのまま自由落下していったが、さすがに身の危険を感じたらしく、

地面が迫ってくるスレスレで必死にコントローラーを操作し、そのまま宙へと舞い上がった。

 

「ちょっと、何するのよ!」

「ハチマンさん、ひどい!」

「あ~ん?文句があるなら俺に直接言ってみろ、もっとも俺は捕まらないがな」

 

 そう言ってハチマンは逃げ出し、二人は鬼の形相でそれを追いかけた。

先ほどまでとはうってかわった見事な飛行っぷりである。

 

「ありゃ、もうあんなに飛べるようになってる」

「さすがはボスだな」

「結局二人はビクビクしていただけ」

 

 そして全員が自由自在に飛べるようになったのを確認したハチマンは、

そのまま五人を連れ、トラフィックスへと向かった。

 

「さて、予定通りお前達にはこれから採掘のやり方を覚えてもらおうと思う」

 

 五人はどの門の鍵も取得してはいなかったが、

イベントのクリア後に全ての門が解放されていたのでそれは問題ない。

 

「とりあえず近場のマイナーなスポットで練習だ、

道具は全部用意してあるからこれを使ってくれ」

 

 そのまま五人はハチマンのアドバイスを受け、

それなりに見られるような採掘技術を会得した。

 

「よし、今日はここまでだ、明日から作戦開始だから、

無理な日を除いてみんな、宜しく頼むぞ」

 

 その言葉に五人は頷いた。ハチマンが専属達と立てた作戦がどんなものかは、

いずれ分かる事になるであろう。

 

 

 

 この時点でめりだちゃんの事をすっかり忘れていた為、

八幡は次の日の朝、気まずい思いをする事になったのである。


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