ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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このエピソードは五話構成でお送りします!


第1030話 グウェン

 次の日からALO内では、

ヴァルハラのホームページに関する話題が爆発的に広がっていた。

 

「おい聞いたか?ヴァルハラが、ハイエンド素材の採掘場の情報を公開したらしいぞ」

「おう、見た見た、まさかあんな所になぁ」

「よく調べたよな、どうやったんだろうな」

 

 その全てがトラフィックス内の情報であった。

トラフィックスはいずれ前回イベントの舞台から離れる為、

ヴァルハラがその事を公開する事で不利益を得る可能性は限定的なのだ。

 

「それに採掘ギルドがいくつか乗ったらしいな」

「おお、それも聞いた、随分と早い動きだよな」

「持ち回りで各採掘場を回って、一般プレイヤーにもいい素材が回るようにしたいとか」

「そうなったら俺達にもいい装備が回ってくるかもな」

「ヴァルハラ様々だな!」

 

 同時にいくつかの中堅職人ギルドがその採掘系のギルドと提携を結び、

プレイヤーに安価で製品を供給出来る体勢を構築すると宣言した。

その動きはとても早く、小人の靴屋は完全に出遅れていた。

 

「どういう事?うちには素材は卸せないとでも言いたいの?」

「そうではなく、提携先を優先しないといけない契約になってるって事です」

「それじゃあハイエンド素材は全部そっちに行っちゃうじゃない!」

「すみません、そういう事になりますが、

ヴァルハラに仲介してもらってるんでうちとしてもどうにも………」

 

 どの採掘系ギルドの反応も、大体こんな感じであり、

小人の靴屋のリーダーであるグランゼはイライラしていた。

これがハチマン達が打った、最初の仕掛けである。

ナタクとリズベット、それにスクナが少し前から積極的に中堅職人ギルドに技術指導をし、

今まで小人の靴屋にいいように利用されてきた採掘ギルドも今回の流れに乗ったのだ。

 

 ALOにおいては戦闘系プレイヤーの職人活動はほぼ行われていない。

ハチマンもユキノに剣を作ってあげた辺りでは、スキルをそちらに振ったりもしていたが、

今は完全に戦闘主体のスキル構成に変更しており、

プレイヤー間で完全に棲み分けがされている格好となっている。

ハチマン製作の唯一の武器を持っている事によって、

ユキノは他の仲間達に羨ましがられているのだが、その事は一旦横に置いておく。

 

 採掘・採集系と職人系を両立させる事は可能だが、その為には莫大な経験値が必要になり、

現状それを成しえているのは、ヴァルハラの三人しかいない。

スモーキング・リーフにおいても、リツ、リナ、リョクの三人は戦えはするが、

その戦闘力は他の三人よりは劣る。

それは採掘・採集系のスキルを多く所持している為であり、

採掘を行う三人を、残りの三人が護衛するという形態をとるのが基本なのだ。

リクは簡単な職人活動もしており、リンも調理などの生活系のスキルを充実させている為、

唯一戦闘系に特化したスキル構成になっているリョウだけが、

セブンスヘヴンランキングに名を連ねる事になったというのが実際のところであった。

 

「フン、まあいいわ、とりあえずうちは今回の発表には乗らないと表明しておきましょう。

中堅ギルドには最先端の装備は作れないんだがら、

そのうちあいつらもこちらに擦り寄ってくるはずよ」

 

 グランゼはそう考え、そうするように指示を出したが、

当然グランゼはこの時点で、ヴァルハラが他の職人ギルドの手助けをしている事を知らない。

当然他のプレイヤー達もその事を知らない為、

ALO内の世論は割れる事になり、グランゼはそれで満足した。

いざとなったらどこで何が採れるかの情報はあるのだ、

密かに小人の靴屋の採掘部隊を動員すればいいだけである。

だがその日の午後になって、いきなり状況が変わった。

早速採掘出来たハイエンド素材を利用して、

サクヤとアリシャが新しい剣を手に入れた事が発覚したのである。

しかもその武器は、ヴァルハラの職人の手によるものではなく、

他の中堅ギルドのギルドマスターの手によるものだという。

当然グランゼは、何が何だか分からずに焦る事になる。

もっともこれは嘘情報であり、実際に作ったのはリズベットとナタクなのだが、

グランゼはその事を知る立場にはなく、簡単に信じてしまった。

これももちろんハチマン達の策であった。

 

「どういう事なの………こうなったら仕方ない、うちも採掘部隊を出しましょう。

グウェン、そんな感じで手配して頂戴」

「うん、分かった」

 

 グランゼは自分の子飼いのプレイヤーであるグウェンにそう伝え、

グウェンはその命令を果たす為にコンソールから他のメンバー達に連絡を取り始めた。

このグウェンというプレイヤーの事は、グランゼは詳しくは何も知らない。

たまたまモブ相手にグウェンが狂ったような戦い方をしている所に遭遇し、

興味を持ったグランゼが、グウェンに居場所と装備を提供すると申し出たのだ。

それ以来グウェンは、グランゼの秘書のような事をやっているが、

忠誠心のようなものは何もない、ただの相互利益の為の関係である。

 

「ん」

 

 突然グウェンがそんな声を上げ、グランゼの方を見てきた。

 

「どうしたの?」

「グランゼ、ヴァルハラがまた声明を出してきた」

「どんな?」

「今動画を見せる」

 

 グウェンはそう言ってギルドハウスの機能を利用し、

そして画面にはハチマンの顔が映し出された。

その脇にはまるで秘書のように付き従うアスナとキリトの姿がある。

 

『今回のうちの行動に驚いた人もかなりいると思うが、

うちの目的はあくまでより多くの人達にいい武器を行き渡らせる事であり、

そこには特に他意はない。いや、完全に無いとは言いきれないな、

もっと戦いを楽しめるように、強いライバルが現れてくれればいいなという気持ちはある。

なのでこの動画を見ているみんながそうなってくれれば、うちとしては嬉しい』

『この前出来たデュエル・ステージの事は知ってるよね?

私達相手にいい戦いが出来たら、その人をヴァルハラにスカウトする事も検討します』

『もっともそう簡単に俺達に挑戦出来ると思ってもらっちゃ困るけどな!』

 

 ハチマンに続き、アスナとキリトが笑顔でそう言った。

 

『もちろん公開した採掘場には誰が行ってくれても構わない、

ただしそれなりの強さの敵が出る所も多いから、あくまで自己責任で頼む。

その問題さえクリア出来るなら、この機会に採掘をやってみたいという初心者でも大歓迎だ。

だがその事で懸念される問題が指摘されたので、今日はその事について話そうと思って、

こんな風に動画を作る事にした』

 

 ハチマンはそこで一息つき、話を続けた。

 

『その懸念される問題ってのは、現地でのプレイヤー同士の諍いについてだ。

こういった素材の採掘に関しては、昔から色々な問題が起こっている。

ポイントの奪い合いや、現地での戦闘、モンスターのトレインによるライバルの排除等、

枚挙に暇がないのはみんな知っての通りだ。

なのでそういった事を無くす為に、今回はルールを設けさせてもらおうと思う。

今回はうちが提供した情報だから、それくらいは勘弁してくれ』

「ルールですって?」

 

 グランゼは一人そう呟いた。この時点で嫌な予感がしまくりである。

 

『そのルールとは、現地での録画の推奨、そして自己紹介だ。

相手に何かされたり怪しいなと思ったら、その動画をこのアドレスに送って欲しい。

そうしたら問題を起こした奴をうちがとことん追い詰める。

もっともここまで言って、諍いを起こすような奴はALOにはいないと思うけどな』

「何ですって!?」

 

 その言葉にグランゼはそう言って立ち上がった。

 

「それじゃあ今回の件に関わらないと言ったうちのメンバーは採掘に行けないじゃない!」

「まあそういう事になるね、私以外のみんなは普通に公開されてるし」

 

 グウェンは今回の事を、タイミングが良すぎると訝しんだが、

今回のグランゼとロザリアの元部下との事に関しては関わっていない為、

さすがにこれが、小人の靴屋がヴァルハラに目を付けられた結果だとは想像出来なかった。

 

「一体どうすれば………」

「とりあえずALO方面で地道に採掘するしか?」

「くっ、あっちのいい採掘場の情報なんてほとんど無いのに………」

 

 実際今までグランゼが投入した採掘部隊は、

その全てがハイエンド素材を獲得出来ていなかった。

曖昧な情報が元とはいえ、トラフィックス方面に派遣した部隊ですらそうなのである、

ましてや採掘ギルド頼みであったALOの採掘場の情報を、

嫌われていた小人の靴屋が持っているはずがない。

グランゼのイライラは日を追う毎に増大していく、ハチマンの手の平の上で。

 

 

 

 小人の靴屋のメンバーとして、唯一そのギルドのページに名前が載っていないグウェンは、

その隠密性を生かし、ヴァルハラが公開した採掘場に偵察に出ていた。

 

「ここも駄目、ここも人がいる、これは駄目ね、全部の場所が人で溢れてる」

 

 グウェンは万が一カメラに捕らえられていた時の事を警戒し、

その度に変装してその姿を変えていた。

中にはヴァルハラのメンバーが常駐している所もあり、

グウェンは自分が偵察に来ている事を悟られないように、かなり慎重に行動していた。

正体が知られていないからといって、捕まったりすると面倒だからである。

 

「やっぱり無理か………まあそれならそれで、別に私が何か困る訳じゃないし」

 

 グウェンはそう呟き、小人の靴屋のギルドホームに戻ろうとした。

その矢先、前から人の来る気配がした為、グウェンは慌てて物蔭に隠れた。

そんなグウェンの耳に、相手の会話が飛び込んでくる。

 

「ここも盛況だな」

「これで皆さんが強い武器を手に入れられればいいですね!」

「そうだな、やっぱりそれなりの奴が相手じゃないと張り合いがないからな」

「でも今回の事があったせいで、みんな味方になっちゃうかもしれませんよ」

「それでも俺達が気に入らないって奴は、まだかなりいるだろうさ」

 

(会話からするとヴァルハラのメンバーかしら)

 

 グウェンはそう思い、そっとそちらの方を覗き込んだ。

その視界に入ってきたのは、昔SAOで自分と付き合いがあった、一人の少女の姿であった。

実はグウェンはラフィンコフィンの下部組織のメンバーであり、

当時はオレンジプレイヤーとして、お尋ね者扱いとなっていたが、

そんな彼女達に上からの指示を伝えていたのがその少女であった。

グウェンと少女はその境遇が近い事もあって仲良くなり、

親しく友達付き合いをしていたのだが、

ラフィンコフィンが壊滅したその日にその少女はグウェンを裏切った。

血盟騎士団の急襲を受け、牢屋に連行されようとするグウェンを見殺しにしたのだ。

そしてグウェンは牢屋に入ったまま、SAOのクリアの時を迎える事となった。

SAOから解放された後も、当時の事を悪夢という形でグウェンは何度も見ていたが、

その度にその悪夢に登場してきた一人の少女、恨み重なるその相手が今目の前にいる。

グウェンはそれが分かった瞬間に、後先考えずにその少女の前に飛び出した。

 

「ルクス!」




関連する話は第726話です。あ、でも人物紹介には昔から名前が出てましたね!
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