ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第103話 二つ名の由来

 リーファは最後の一人に止めをさすと、嬉しそうに二人にかけよってきた。

リーファが手の平をこちらに向けて手を上げていたので、

ハチマンとキリトはリーファとハイタッチをした。

 

「いえ~い!」

「すごかったね二人とも」

「リーファさんこそ、いつの間に敵の後ろに回りこんだんだ?全然気付かなかったよ」

「私の事はリーファでいいよ。二人はハチマン君とキリト君で合ってるよね?」

「ああ。俺はハチマンだ、宜しくな、リーファ」

「俺はキリト、宜しく」

「とりあえず詳しい話は後にしましょう。

ここに来る途中にいくつかサラマンダーのパーティを見かけたわ。

今倒した連中が、そのパーティに連絡をしているかもしれない。

まずは急いでここを離れましょう」

「了解」

「それじゃこっちよ」

 

 リーファはそう言って飛びたった。ハチマンとキリトもその後に続いた。

三人は森を抜け、なおも飛び続けていたが、リーファが下を指差して着地したため、

二人もそれに習ってリーファの横に着地した。

 

「ふう、この辺りまで来れば一先ず安心かな」

「敵が近付いてきたら、私がすぐ分かるので安心して下さい!」

「えっ?え?え?これ、もしかしてプライベートピクシー?」

「私はユイと言います!宜しくお願いしますリーファさん!」

「あ、よ、宜しくね」

 

 リーファは反射で握手をするために手を差し出したが、当然サイズが違う。

だがユイは気にせず、リーファの人差し指を握って上下に振った。

リーファはそんなユイをかわいいと思い、見蕩れていたが、

ハチマンとキリトが自分を生暖かい目で見ている事に気付き、顔を赤くして手を引っ込めた。

 

「プライベートピクシーって、確かALOの販売前の販促キャンペーンで、

抽選で何人かに配布されたんだったっけ?私、始めて見たよ」

「あ、あー……そうだな、うん、その通りだ」

 

 ハチマンはそこまで詳しく知らなかったため、曖昧な返事をした。

 

「って事は、二人はかなり早い段階からプレイしてたのね。

一気にキャラを強くして、しばらく休止してたのかな?それならあの強さも納得かな」

「お、おう、まあそんな感じだ」

「ユキノが初心者って言ってたから、てっきりスキル上げだけ誰かにやってもらって、

そこからキャラだけ引き継いで始めたプレイヤーなのかなとか思ってたんだけど、

よく考えたらユキノはそういうの嫌いだと思うし、シルフ領の初心者って事だったのかな」

「お、おう、まあそんな感じだ」

「おいハチマン、さっきとセリフが一緒だぞ」

 

 ハチマンのセリフを聞いて、キリトがハチマンにそっと耳打ちした。

 

「すまん、そのあたりの設定を何も考えてなかったからちょっと焦った」

「まあ特に問題は無さそうだから、このままの設定でいこうぜ」

「おう」

「二人とも、どうかした?」

 

 リーファが首をかしげながらそう尋ねてきた。

 

「すまん、何でもない」

「それよりリーファもすごい強いんだな。あの太刀筋、びっくりしたよ」

「キリト君、太刀筋とかわかるんだ。でもびっくりしたのはこっちの方だよ。

しゃがむと同時に地面を蹴って敵の後方に回り込んで、

そのまま二人まとめてなで斬りとか、目で追うのが大変だったよ」

「へぇ~、あれが見えてたのか」

「まあすぐ目の前だったしね。

ハチマン君が何をしていたかは、遠くてちょっと分からなかったかな」

「俺はそっと背後から近付いて不意打ちしただけだから、大した事はしてないぞ」

「そうなんだ……でも二人とも、ほぼ一撃で敵を倒してたよね」

「リーファが敵のHPをある程度削っておいてくれたおかげだよ。

むしろ一人で全員にあれだけのダメージを与えてたなんて、すごいと思う」

「あは、死ぬ前に絶対何人か道連れにしてやろうと思って、すごく頑張ったからかな」

 

 それを聞いたハチマンとキリトは、顔を見合わせてリーファに頭を下げた。

それを見たユイも、同じように一緒に頭を下げた。

 

「ちょ、ちょっと、いきなり何?」

「今回は急な依頼を受けてくれて、本当にありがとう。

そして危険な目に合わせて本当に申し訳なかった」

「俺達二人じゃ右も左もわからなかったから、本当に助かるよ。ありがとう、リーファ」

「二人とも気にしないで。ユキノには本当に色々とお世話になってるから、

こういう時くらいじゃないとその恩を返せないのよ」

「恩、か。なあ、一つ聞いていいか?話せるならでいいんだが」

「ん?何?」

「何でユキノの二つ名が、絶対零度になったんだ?」

「あー……」

 

 リーファは少し迷った末に、こう聞き返してきた。

 

「ねえ、何で由来を聞きたいの?」

「まさか悪口じゃないかとちょっと心配になってな」

「……もし悪口だったらどうするの?」

「二つ名を最初につけた奴を潰す。その後広まったルートを辿って、全員徹底的に潰す」

「えっ」

「そうだな、俺も手伝うぜ、ハチマン」

 

 リーファは二人の反応が予想外の物だったので、とても驚いた。

同時におかしさがこみあげてきたのか、腹を抱えて笑い出した。

 

「あはははは、潰すって、全員って」

「一応言っておくけど本気だからな」

「うん、分かってる分かってる。本当に本気っぽかったから、素直にすごいなって思って。

そしたら何かおかしくなっちゃったの。ごめんね?」

「お、おう、そうか」

「別に悪口じゃないから安心して。どちらかというと、畏怖されてる感じかな」

「そうなのか」

「うん。きっかけはね、シルフとケットシーの抗争なんだよ」

 

 そう言ってリーファは、ユキノの二つ名の由来を話してくれた。

 

「同盟を結ぼうとしてるくらいなのに、前は争ってたのか?」

「うん。当初は全部の種族が仲が悪くてね、

隣り合う領地を持つシルフとケットシーも例外じゃなかったの。

その頃はサラマンダーが急速に勢力を伸ばしていてね、

本当ならその時同盟を結べれば良かったんだけど、それまで派手に戦ってたわけじゃない。

なので、とりあえずサラマンダーに対抗するために相談しようって事になってね」

「まあ殺し合ってた二人が直後にすぐ仲良くなるとかは、マンガの世界だけだよな」

「そういう事。それでね、シルフ領主のサクヤさんとケットシー領主のアリシャさんが、

それぞれ軍勢を率いて話し合いをする事になったんだけど、

いわゆるお互いの幹部連中が主導権争いを始めちゃって、

サクヤさんとアリシャさんもそれに乗っかっちゃって、大規模な戦いが始まっちゃったのよ。

私もその場にいたんだけど、雰囲気に呑まれて一緒に戦ってた」

「なるほど」

「で、ユキノはウンディーネじゃない。でもユイユイはシルフ、

イロハとコマチはケットシーだから、三人の頼みで何とか仲裁しようとしてたんだけど、

サクヤさんもアリシャさんも引くに引けなくなっちゃってたみたいで、

領主同士の一騎打ちを始めちゃったのね。それでユキノがね、その、キレちゃったみたいで」

「ユキノをキレさすとか、お前ら色々とすごいな」

 

 リーファはその言葉を聞くと、震えが止まらないという風に自分を抱いた。

 

「その時の事を思い出したらちょっと寒気が……」

「まじか……何があったんだよ」

「ユキノはまず、イロハに頼んで空中に派手な大規模魔法を打たせたの。

で、何事かと一瞬動きが止まったサクヤさんとアリシャさんの頭を掴んで正座させたの。

で、表情をまったく変えないまま延々と説教したの。目がすごく怖かったのを覚えてる。

周りのみんなも割って入ろうとしたんだけど、その目で睨まれて結局動けなかった。

おかげで戦闘は止まり、説教をするユキノの声だけがその場に響いてたわ。

で、二人は何度か反論したんだけど、ユキノは表情一つ変えずに全部秒殺で論破したの。

二人は何も言えなくなって、顔を上げる事も出来ないほど打ちのめされたわ」

「確かにすさまじいけど、それだけだと絶対零度って名前にはならないよな……」

「その後にユキノは大声で叫んだわ。文句がある者は私を論破してみせなさいと」

「ユキノを論破か……そりゃハードルが高いなんてもんじゃないな」

「沢山の人がユキノに挑んだんだけど、全員ユキノに論破されたわ。

ユキノはここまで顔色一つ変えなかった。で、戦いを完全に終わらせようとしたのか、

ユキノは傷ついた者を一箇所にまとめて範囲回復魔法を使ったの。

でもその魔法がなんていうか、ユキノの雰囲気のせいなのか、

周囲が凍りついたように感じられる回復魔法でね」

「ああ……」

 

 ハチマンが、やっと話が見えたという風に頷き、リーファのセリフを引き継いだ。

 

「で、ついた二つ名が絶対零度ってわけか」

「うん」

「すごいな……どんな回復魔法なんだ」

「うーん、今思うと、あれはまったく普通の範囲回復魔法だったと思うの。

でもあの時は何て言うか、ユキノの雰囲気のせいなのか、温度が下がった気がしたんだよね」

「システムの力を超えたのかもな……」

「まあそんなイメージかな。でもそのおかげでシルフとケットシーの戦いが終わったの。

まずサクヤさんとアリシャさんが、論破された者同士の連帯感で親友になって、

で、今度対等の同盟を結ぶって話になったわけ。

だからシルフとケットシーの間では、ユキノは畏怖される以上に尊敬されてるのよ。

その後私はサクヤさんとユキノの間の連絡係みたいな事をやるようになって、

それで私もユキノ達ととても仲良くなれたの」

「そうか、なんていうかやっぱりユキノはすごいんだな」

「俺、ユキノさんだけは絶対に怒らせないようにする……」

「まあそんなユキノの頼みだから、私も二人を全力でサポートするね」

「すまないが、宜しく頼む」

「ありがとう、リーファ」

 

 ハチマンはリーファに頭を下げ、キリトはリーファに微笑んだ。

リーファはそんなキリトを見て、何故か心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。

私が好きなのはお兄ちゃんなのに、この気持ちは何なんだろう。

リーファはそんな困惑を振り払うように、笑顔で言った。

 

「任せといて!まずはシルフの領都、スイルベーンに向かいましょう!」

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