ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1034話 そして新しい生活の始まり

 次の日は、芽衣美が学校に通う準備をする為、

夜には用事があるらしいが、それまでという事で、

放課後に八幡がわざわざ芽衣美の自宅まで迎えに来てくれた。

 

「本当に何から何までごめんね」

「気にするなって、こっちもお前にはお世話になるんだしな」

「お世話って………ねぇ、結局ヴァルハラの目的って何なの?」

「おう、小人の靴屋と小猫の元部下、それにシグルドを、

一旦持ち上げた後にどん底まで落とす事だな」

 

 その言葉の意味が分かった瞬間に、芽衣美は思わずこう口に出した。

 

「うわぁ、性格悪い!」

「ははは、そんなに褒めるなって」

 

 そう言いつつも、そんな事の為にここまでしてくれるなんて、

八幡達は全力で人生を楽しんでいるんだなと思い、芽衣美はとても羨ましくなった。

 

(私もそうあれたらいいなぁ………)

 

 芽衣美はそう思いつつ、次の質問を口にした。

 

「小人の靴屋の事は分かるからいいとして、シグルドって誰?」

「シグルドは元シルフ領の四天王の一人だった奴で、

領主を裏切って自分が領主になろうとした、まあクズ野郎だな」

「ああ、八幡達ってシルフとケットシーとウンディーネの領主と親しいんだっけ」

「サラマンダーの領主の弟とも親しいぞ、

多分領主も会った事は無いが、友好的でいられると思う」

「ああ、ユージーン将軍ね!あの人も昔は強かったんだけどなぁ………」

「あいつは武器さえ代えればまだまだ伸びるさ。ちなみにシグルドはこんな奴だ」

 

 八幡はスマホをいじり、一枚の写真を芽衣美に見せた。

レコンが前回遭遇した時に写真を撮っており、それを送ってもらったのだ。

 

「あ、この人、フードで顔を隠してたけど、

昨日グランゼと一緒にどこかに向かってた集団の中にいたかも!

チラっと見えただけだけど、多分間違いないよ!」

「ほう?いつだ?」

「えっと、私がナーヴギアを使った時かな」

「ほうほう、って事はそれくらいの時間から活動してるんだな、

これはいい情報をもらった、ありがとな、メイミー」

「ううん、どういたしまして」

 

 八幡は、芽衣美に対してちゃんとお礼を言ってくれる。

その事が芽衣美はとても嬉しかった。

 

「ロザリアの元部下って、タイタンズハンドのあの男共だよね?」

「おう、メイミーは面識があるのか?」

「あんまり詳しくは覚えてないけど、名前くらいは分かるよ」

「そうか、それは説明の手間が省けて助かるわ。

実はそいつらが、別キャラで七つの大罪に潜入してやがってな、

そいつらをあぶり出す作業を、今地道にやってる所なんだよ」

「えっ、それは厄介だね」

「一応今度、そいつらのデータもそっちに送っておくわ。

見かけたらとりあえずその場所と時刻を記録しておいてくれな」

「オッケー、私に任せなさい!あ、それでね、一つお願いがあるんだけど………」

「ん、何だ?」

「新キャラ………じゃないけど、そっち用に、新しい武器と防具が欲しいの」

「………ああ!」

 

 そういえばSAO時代のアイテムは全部ゴミになるんだったと思い当たり、

八幡はその芽衣美の頼みを快諾した。

 

「分かった、直ぐに手配が可能だ」

 

 その八幡の言葉に芽衣美は感心した顔をした。

 

「本当に何でも直ぐに出来ちゃうんだね」

「何でもじゃない、出来る事だけだな」

「でも本当に凄いよ、ソレイユのえらい人になってるのもそうだしさ」

「それは俺の手柄じゃない、俺の昔の知り合いが凄い人で、

その人が俺達の為の居場所を作ってくれたのを、俺が受け継ぐ予定なだけだ」

「そうなんだ、でも八幡も十分凄いと思うよ」

「凄いかどうかは分からないが、その為に頑張るつもりではいるさ。

昔は働きたくなくて仕方がなかったんだが、

どうやら俺には残念な事に、社畜の才能があったみたいでな」

「あは、残念なんだ」

 

 そう言って芽衣美はクスっと笑った。

 

「おう、本当に残念だ」

「そんな才能が無かったら、もっと楽が出来たのにって?」

「おう、俺は今からでも可能なら、専業主夫になりたいと思ってるぞ」

「あ、それ分かる、私も専業主婦がいい!」

「だよな、ははははは!」

「あはははは!」

 

 どうやらこの二人、中々気が合うようである。

 

「で、これからどこに行くの?」

「最初は帰還者用学校御用達の服屋だ、制服のサイズをチェックしないとな」

「あ~、そっか、一応お小遣いはおろしてきたけど………」

「気にするな、入学祝いって事でそれくらいは出してやる」

「あ、えっと、あ、ありがと」

 

 ひよりから、八幡相手に遠慮すると、後で逆の意味で倍返しがくると聞いていた芽衣美は、

八幡の行為を素直に受け、基本言われた通りにする事を決めていた。

要するに下手に断ると、後でもっと高い物を奢られてしまうのである。

 

「すみません、先日ご連絡した比企谷と申しますが」

「あ、はい、お待ちしてました!」

 

 服屋に着いてすぐに、芽衣美に合う制服選びが開始された。

芽衣美的には二十歳を超えて制服というのは恥ずかしいものがあったのだが、

帰還者用学校の生徒は全員寮住まいな為、

制服で外に出る機会があまり無いというのが救いであった。

もっとも芽衣美は年と比べてかなり若く見える為、

その心配は実は無いのであるが、それを認めたくないのもまた女心なのである。

 

「それじゃあこれを二セット………でいいよな?」

「べ、別に一セットでも………」

「それじゃあ困るだろ、これを二セットお願いします」

 

 八幡は遠慮するなという風にそう話を進め、無事に買い物を終えた後、

次に二人は寮へと向かう事となった。

 

「足りない物があったら揃えないといけないからな」

 

 とはいえ実は昨日のうちに、家電やら何やらはもう手配してしまったらしく、

八幡がその事を詫びてきた為、芽衣美は逆に恐縮してしまった。

 

「べ、別に好みの家電とか無いから、そんなの気にしないでってば!」

「そうか?ならいいんだが………」

「むしろ高かったでしょ?本当にごめんね?」

「いや、そうでもないぞ、冷蔵庫と電子レンジと乾燥機付きの洗濯機だけだからな」

「そ、そう………」

 

(十分高いと思うんだけどな………)

 

 そして現地に着いた後、部屋には既に全ての家具が運び込まれていた。

中では何人かの生徒が動き回っている。

 

「みんな、悪いな」

「あっ、八幡君、その子が新しいクラスメート?って言っても隣のだけど、えへっ」

 

 そう言った女性の顔を見た瞬間に、芽衣美はドキリとした。

芽衣美もSAOのプレイヤーである以上、強いプレイヤーには憧れがあった。

その対象の一人である閃光のアスナが目の前にいるのだ。

 

「は、初めまして、鶴咲芽衣美です、私の事はメイミーって呼んで下さい!」

「私は結城明日奈だよ、これから宜しくね、メイミー」

「はい!」

 

 それから次々と生徒達が挨拶をしてきた。篠崎里香、綾野珪子、

そして桐ヶ谷和人の時に、芽衣美は再び心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じた。

 

(あ、黒の剣士………この人がSAOで最強だった人なんだ………)

 

 そして親友の柏坂ひよりと、紺野藍子と紺野木綿季である。

同時にALOでのプレイヤーネームも教えられ、芽衣美はずっと驚きっぱなしであった。

 

「覇王に剣王、バーサクヒーラーと神槌に竜使い、そして絶剣に絶刀?

全員二つ名持ちとか、ひより、私達も頑張らないと!」

「あ、あは、そ、そうだね」

 

 芽衣美の興奮っぷりは凄まじく、ひよりはやや気圧されながら、芽衣美に頷いた。

 

「あ、そうだ、おい里香、メイミーはSAOのキャラを復帰させたから装備が無いんだよ、

話を聞いてやって、ひとセット作ってやってくれないか?」

「そうなんだ、メイミー、どんな武器がいいの?」

「あ、えっと、八幡と同じ感じのを前は使ってたの」

「短剣の二刀流って事?」

「うん、その、ちょっと恥ずかしいんだけど、忍者っぽい奴………」

 

 芽衣美は恥ずかしそうにそう言ったが、里香が笑う事は当然ありえない。

 

「別に恥ずかしくなんかないって、オッケー分かった、バランス調整は後でいいとして、

腕によりをかけて作っておくね!」

「あ、ありがとう!」

「あと装備はどんなのがいいんだろ………」

「斥候っぽいのでお願いします!」

「オッケー、スクナに頼んでおくね!」

 

 他にも必要な装備が書き出され、直ぐに作ってもらえる事になり、

里香はそのまま去っていった。

 

「さすが仕事が早い………」

「まあうちはいつもこんなもんだ。

ところでメイミー、何か部屋を見て足りなさそうな物とかあるか?」

「ううん、大丈夫、後は自分で用意できる物ばっかりだから!」

「そうか、それなら良かった」

 

 こうして引越しとも呼べない引越しはあっさり終わり、

歓迎会は後日正式に寮に入った後でという事となった。

八幡はそのまま芽衣美を家まで送っていく予定になっていたが、

その後空港に誰かを迎えに行く必要があるという事で、

ルートの問題で、先に香蓮の家に寄る事になった。

 

「悪いな芽衣美、帰りが少し遅くなっちまって」

「ううん、こっちこそお世話になりっぱなしだから………」

 

 そしてそれなりに高そうなマンションの前でキットが停まり、

中からかなりの長身の、まるでモデルのような女性が姿を現した。

 

(うわ、凄っ、もしかしてスーパーモデル?)

 

 芽衣美はその女性、香蓮に憧れの視線を向けた。

 

「八幡君、わざわざごめんね?もう、美優ったら、本当にいきなりなんだから」

「あいつはそういう奴だから仕方ないさ、それより香蓮、

こっちは鶴咲芽衣美、俺達の新しいクラスメートで新しい仲間だ。

あ、香蓮とは同い年だと思うぞ」

「は、初めまして、鶴咲芽衣美です、メイミーって呼んで下さい!」

「私は小比類巻香蓮だよ、気軽に香蓮って呼んでね、メイミー」

 

 二人は直ぐに打ち解ける事が出来、芽衣美はまた友達が増えたと喜んだ。

そして芽衣美を家に送り届けた後、二人はそのまま空港へと去っていった。

 

「はぁ、今日も凄かったなぁ………」

 

 そして芽衣美は自分の部屋に戻った後に、ひよりに電話をした。

 

『あ、メイミー?』

「ひより、今日はありがとうね」

『ううん、気にしないで、私達、親友だもん』

 

 そして二人はしばらく会話をした。話題は主に八幡の事である。

 

「八幡には本当にお世話になりっぱなしで頭が上がらないわ」

『あはは、私もだよ』

「それでさっき、香蓮と知り合いになったんだけど」

 

 芽衣美はひよりよりはかなりコミュ力が高い為、

基本すぐに名前で呼び合うようになれるようである。

 

「八幡の周りって、どうしてこんなに美人が多いの?」

『そんなの決まってるよ、みんな八幡さんの事が好きなんだよ』

「あ、やっぱりそうなんだ………」

 

 それから芽衣美は八幡を取り巻く女性達の関係を知って、驚愕した。

 

「うわ、そんな感じなんだ………」

『でも勘違いしないでね、みんな仲良しだよ!』

「そっか、まあギスギスしてないならいいのかな」

 

 ひよりはいずれはヴァルハラ入りするつもりらしく、

芽衣美もいずれはそうなるのかもしれないと漠然と考えていた。

そうなった後にギスギスしていたら大変な為、その事に関しては芽衣美は心から安堵した。

 

「それじゃあひより、明日から宜しくね」

『うん、校門の前で待ってるね!』

「ありがとう、それは本当に助かるわ」

 

 そして次の日の朝、校門の前ではひよりだけではなく八幡達も全員待っていてくれ、

芽衣美は心が温かくなるのを感じた。そのままみんなが教室の入り口まで同行してくれ、

その効果が大きかったのか、芽衣美はクラスメート達に大歓迎され、

新たな学校生活の第一歩を順調に踏み出す事となった。

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