この日、美優と舞は東京へと向かう為、空港で待ち合わせをしていた。
「舞さん、お久~!」
「美優、今回も宜しくね」
今回は長期滞在になるという事で、二人とも大きな荷物を持参している。
「お互い大荷物だよね」
「まあ半月も向こうにいる事になるから仕方ないよ」
二人はそのまま搭乗口へと向かい、機内の客となった。
「早速明日は社乙会、明後日はメイドの会だっけ?」
「うん、そこから三日開いて、二十四日がソレイユのクリスマス会、
次の日がALOのクリスマス会、その次の日がバージョンアップで年末が忘年会だねぇ」
「来週の頭はどうしよっか」
「基本観光かなぁ?それまで会えない人にもクリスマスに会えるだろうしね」
「八幡さんも一緒に来てくれるかな?」
「う~ん、どうだろう、忙しそうだしねぇ。今日も多分、迎えには来れなさそうだし」
「そっかぁ、まあ平日だから、それは仕方ないわね」
「うん………」
二人はこの時点で、八幡と香蓮が空港に向かっている事を知らない。
今日東京に向かうと八幡に連絡した時、八幡が『そうか』の一言で済ませたせいである。
八幡にしてみれば、迎えに行くのは当然だという意識がある為、
わざわざ口に出すような事はしなかったというだけなのだが、
さすがの二人もそこまでは読めなかったようだ。
「さて、そろそろ時間かな」
「リーダー、美優はもうすぐあなたの所に参ります!」
「ちょ、美優、恥ずかしいから!」
到着時刻が近付いてくるに連れ、美優のテンションはどんどん上がっていった。
邪険にされるのは分かっているだろうに、やはり八幡の傍にいたいのだろう。
「とりあえず向こうに着いたら八幡さんのマンションに向かって、ソレイユに挨拶?」
「挨拶は明日でいいんじゃないかなぁ、多分もうほとんど人はいないだろうし」
「それもそうだね、そうなると八幡さんに会えるのは明日かぁ」
「まあそこらへんは我慢だねぇ」
そして飛行機が空港に到着し、二人は久しぶりに東京の大地に立った。
「さて、行こっか」
「うん、ああ、早く八幡さんに会いたいなぁ」
この時点でここにいたのがもしエルザなら、直ぐに八幡の接近に気付いたであろうが、
舞はもちろん美優もまだそこまでの域に達してはいない。
「むっ」
「どうしたの?」
「いや、いつもの私なら、
あの遠くにいるカップルの仲睦まじさにイラっとしたと思うんだけどさ、
今日はこれからリーダーに会えるんだって思ったら全然平気で、
ああ、私ってば成長してるなぁって思ったみたいな?」
「それは成長って言えるの?」
「もちろんだよ!今までの私なら、
リーダーを見たら反射的にジュ・テームして………あ、あれ?」
「ん?」
突然美優が目をごしごしし始め、舞は首を傾げた。
「な、なぁ舞さん、多分気のせいだと思うんだけど、
あのカップルって、リーダーとコヒーなんじゃ………」
「えっ?嘘?」
舞はそう言われ、
笑顔で談笑しながらこちらに歩いてくるカップルらしき男女の方をじっと見つめた。
まだハッキリと顔は確認出来ないが、そのカップルは女性の方が身長が高く、
確かにその可能性が高いように思われた。
「本当だ、何かそれっぽい」
「い、行こう!」
「うん」
二人はそのカップル目掛けて走りだした。
距離が近付くに連れ、やはりそのカップルが八幡と香蓮だという事が分かり、
美優のテンションは一気に上がった………別の意味で。
「やっぱりそうだ!コ、コヒーめ、絶対に許さん!」
「えっ?何でそうなるの?」
「だって遠くから見てカップルに見えるほどいちゃついてやがったんだよ!
コヒーめ、抜け駆けしやがって!」
「いや、まあ前からあんな感じじゃ?」
舞の記憶だと、八幡は誰かと一緒に歩いている時は結構無防備であり、
案外簡単に距離を詰める事が可能だというイメージがあった。
実際舞も、八幡と肩が触れ合う程の距離で並んで歩いた事がある。
これは単純に他の女性陣によって、八幡がその距離感に慣らされてしまっただけなのだが、
とにかく今の八幡と香蓮くらいの距離感は、案外普通であるように思えた。
「いやいやいや、私があのくらい近くまで行くと、
絶対リーダーに、しっしっって距離を離されちゃうからね!」
「………………あっ」
舞は、それは美優とエルザだけじゃないのかと気付いてしまったが、
さすがにその事を本人に直接言うのは憚られた為、それ以上は何も言わなかった。
「くそ、こうなったら必殺のジュ・テームを………」
「そういえばさっき聞きそびれちゃったけど、そのジュ・テームって何?」
「ジュ・テームはジュ・テームだよ!こう口を前に突き出して、
リーダーに向かってダイブするのさ!」
「………さっき成長したって言ってなかった?」
「う………」
その言葉に珍しく美優がその足を止めた。
(あ、止まるんだ、そういうところは確かに成長してるかも)
その頃には八幡と香蓮も美優と舞に気付いたようで、
こちらに手を振りながら仲良く歩いてきた。
その事実が更に美優をぐぬぬ状態にしたが、さりとてここから八幡に飛びかかっても、
今まで通りに普通に避けられてしまうのがオチであろう。
そんな感じでジレンマに陥った美優は、完全にその動きを止めた。
舞も美優に付き合って足を止め、そこに八幡と香蓮が合流した。
「八幡さん、お久しぶりです!」
「舞さん久しぶり。半月もこっちにいるなんて、随分思いきったなってちょっと驚いた」
「ふふっ、たまにはそういう年があってもいいかなって」
「まあゆっくりしてってくれ、出来るだけの事はするから」
「ありがとうございます!」
八幡は美優相手には若干警戒しているようなそぶりを見せたが、
舞に対しては変わらぬ優しさを見せ、舞は感動した。
その頭からはもう美優の事はすっぽりと抜けている。
そんな舞の代わりに美優の事を気にかけたのは香蓮であった。
「美優、久しぶりだね」
「コ、コヒー、それにリーダー、迎えに来てくれたんだ?」
はっきり約束していた訳ではない為、美優は驚きを隠さずにそう尋ねてきた。
「ん?当たり前だろ?何でそんな事を聞くんだ?」
「えっ、あ、当たり前なの?」
「何で驚くんだお前は、意味が分からん。それにしても今日は大人しいんだな、
やっとお前も落ち着いてくれたんだと思うと、結構くるものがあるな」
八幡は穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
どうやら八幡にとっては二人を迎えに来る事は、言うまでもなく当然な事だったようで、
美優と舞はとても嬉しそうに顔を見合わせた。
そこから四人は仲良く駐車場へと向かう事となったが、
美優の目から見て、今の八幡はややガードが甘いように見え、
正直今すぐジュ・テームすれば、簡単に八幡を押し倒せそうな雰囲気があった。
(でもこれ、私を信頼してるって事なんだよね?
さすがの私もこの状況でリーダーに手出しするとか無理無理無理!)
その事自体はとても嬉しいとはいえ、
どうしても物足りなさを感じてしまうのは仕方がない事だろう。
八幡にちょっかいを出して撃退されるまでが、美優の生きがいなのである。
「夕飯はまだなんだよな?このままどこかに寄っていこう」
「リーダー、それじゃあ私、サイゼがいい!」
「そうだね、サイゼってほとんどが札幌にあるから、
帯広の美優や、北見の私には無縁だもんね」
「あ~、そういえばそうだったね、まあ私はこっちに来てからはそれなりに行ってるけど、
確かに二人は行く機会が無いかもね」
「それじゃあそうするか」
「うん!」
「はい!」
そのままサイゼに向かった四人であったが、
密かに勝負した結果、八幡の隣の席は香蓮が、正面は舞が確保する事になり、
そのせいで美優のもやもやがまた増大する事となった。
そんな状態のまま八幡のマンションに向かい、優里奈に出迎えられた一行は、
しばらく寛いだ後に寝る事になった。
香蓮は泊まる予定は無かったのだが、美優がだだをこねた為、結局一緒にいる事になった。
部屋の利用のルール上、今日は泊まる必要が無い為、
優里奈は明日の朝にまた来てくれるという事で、今は自室に戻っている。
八幡は少し疲れたらしく、三人が寝室に入る時はまだ起きていたが、
おそらくもう寝てしまっただろう。
「美優と舞さんは明日はどうするの?」
「ヤミヤミとたらおに色々案内してもらうつもりだぜ」
「風太君と大善君も久しぶりよね」
「あっ、そうなんだ」
「コヒーも一緒に来るよな?」
「………別にいいけど」
その美優の強引な誘いに、香蓮は苦笑しながらそう答えた。
「そういう所はいつもの美優だね」
「いきなりどうした、親友」
「いや、今日は随分大人しかったなって思って」
「確かに八幡さんに飛びかからないように、よく我慢してたよね」
「舞さんの中でも美優ってそんなイメージなんだ」
「それなぁ………」
美優はそう言ってため息をついた。
「今日はそういう雰囲気じゃなかったからなぁ………」
「自分で成長したって言った後に、落ち着いたって言われちゃったもんね」
「そうなんだ、この機会に美優がもう少し大人になってくれればいいのに」
「言うじゃないかコヒー、でも私はもう大人だ!その証拠にこんな事も平気で出来る」
そう言いながら美優は、香蓮の胸を鷲掴みにした。
ここまでの鬱憤を晴らす為でもあっただろう。
「きゃっ」
「ほれほれ、ここがいいのか?」
「ちょ、やめて美優!」
「むむ………」
美優は険しい目でそう唸り、手を止めた。
「どしたの?」
そんな美優に、舞がそう尋ねてくる。
「コヒー、お前、ちょっと胸が大きくなってないか?」
「あ、そういう」
「わ、分かるの?」
香蓮は驚いたように目を見開いた。
「ぐぬぬ、やっぱりか!この裏切り者!」
「たまたまだってば、美優だって多少サイズが前後するでしょ?」
「それは確かにそうだけど」
「もしかして身長も伸びてたり?」
「う………怖い事を言わないで下さい舞さん」
さすがにこれ以上身長はいらないと思い、香蓮は苦い顔をした。
「ところで美優、そろそろその手を離して欲しいんだけど」
「いやいや、私に揉まれる事で、もっと胸が大きくなるかもしれないだろ?」
「!」
その美優の言葉に香蓮は思いっきり惹かれ、一瞬動きを止めた。
その隙を見逃さず、美優が再び香蓮の胸を揉み始める。
「あっ、やっ、ちょっ!」
「くぅ、リーダーはこの胸をいつも揉んでるのか………」
「八幡君に胸を揉まれた事なんかないから!」
「本当か?それにしちゃあ、今日空港でメスの顔をしてやがったみたいだが………」
「そ、そんな顔してないから!」
「え?してたわよね?」
「ええっ!?」
美優ではなく舞がそう言った為、香蓮は驚きつつも、盛大に顔を赤くした。
「ほ、本当に?」
「うむ、事実だな」
「う、嘘………」
香蓮はもじもじしたが、そんな香蓮に美優があっさりとそう言った。
「大丈夫大丈夫、舞さんもそんな顔だったから」
「ええっ?でも美優もそんな感じだったよ?」
「えっ?」
三人は顔を見合わせた後、一瞬置いて笑い合った。
「あはははは、それじゃあ全員じゃん!」
「そういえばすれ違う男の人が、凄い目でこっちを見てた気もする」
「やだ、どうしよう、恥ずかしい………」
最後のセリフは舞のものである。
舞は普段は男勝りだが、八幡が絡むとかなり乙女度が増すようだ。
「「なまらかわいい………」」
「か、からかわないでってば」
「っていうか美優、いい加減にその手をどけて」
「だが断る!このおっぱいは今日は私のものだぜ!まあいつもはリーダーのものだけどな!」
「美優、声が大きい!八幡君に聞こえちゃうじゃない!」
香蓮はそう心配したが、八幡は熟睡している為にその心配はない。
こうして三人娘のかしましい夜は更けていき、
そのまま三人は順に寝落ちしていったのだった。