「あっ、クルス、ここは?」
「そこは雪乃が行くような店、私達はこっち」
「むむむむむ、分かった!」
四人の女子達は、仲良く店へと向かっていた。
「さあ、ここよ」
「おお、いかにもそれっぽい雰囲気!」
案内された店はビルの中の一テナントだったが、
高級すぎる事はなく、さりとて安っぽい感じでもなく、絶妙なバランスを誇っていた。
「よ~し、選ぶぞぉ!」
「わ、私も!」
「私はどうしよっかなぁ、一応色々見てみるか………」
「私もさっきの話で思うところがあったし、この機会に新調しよっと」
「あ、美優、ちょっとこれ、見てくれない?」
「アイアイサー!」
香蓮にそう言われ、美優は試着室の外から中を覗き込んだ。
「どれどれ………むむむ、おいコヒー、ちょっと興奮してきた、一発ヤらせろ」
「もう、何言ってるのよ、で、どう?」
「おう、最高だぜ!」
美優はお世辞でも何でもなくそう言い、香蓮は嬉しそうに頷いた。
「そっか、それじゃあこれにしよっかな」
「リーダーが見たら、興奮する事間違いなしだぜ!」
「そうなったらいいんだけど………」
香蓮は反射的にそう呟き、慌ててそれを否定した。
「やっ、冗談、今のは冗談だからね?」
美優はそんな香蓮を見ながら、プークスクスと含み笑いをしていた。
「このムッツリスケベめ!」
「そ、そんなんじゃないってば!」
香蓮は慌てて言い訳をしたが、そんな香蓮の肩を、美優はポンと叩いた。
「いやいや、コヒーはそれくらいでいいと思うぞ、お前は私と一緒でいい女だ、自信を持て」
「美優と同じって、それ駄目な奴なんじゃ………」
「何だとぉ!」
美優は香蓮に抗議しようとしたが、その時隣の試着室からクルスが顔を出した。
「美優、こっちもお願い」
「おおっと、アイアイサー!」
美優はすぐに切り替えて、クルスのいる更衣室に顔を突っ込んだ。
この辺りはさすがと言えよう。
「こんな感じでどうかな?朝言ってたのに近い?」
「どれどれ………おおおおお?」
そこには凄まじいプロポーションを誇る美女がおり、美優は思わずそう絶叫した。
「どうしたの?美優」
そこにささっと着替えを終えた香蓮がそう尋ねてくる。
「い、いや、悪いコヒー、つい鼻血が出そうに………」
「え~?」
そう言いながら香蓮もクルスのいる試着室に首を突っ込み、そこでカチンと固まった。
「うわ………」
「二人とも、あんまり見られるとさすがに恥ずかしいんだけど………」
「いやいやいや、何この破壊力、とても同じ日本人とは思えないんですけど?」
「うぅ………どうやっても勝てない………」
「そんな事はないでしょ、香蓮は多分私よりも上だし」
「な、何が?」
「八幡様の中での重要度?」
「そんな事無いと思うけどな………」
香蓮は謙遜したが、以前クルスが付けた女子の中のランキングはほぼ合っていた。
「あるって、だからもっと自信を持った方がいい」
「そ、そうなのかな?」
「うんそう、ほぼ間違いない」
「わ、私は?」
そんな二人の会話を聞き、美優が慌ててそう尋ねてきた。
そんな美優の肩をポンと叩きながらクルスは言った。
「ドンマイ」
「きいいいいいいい!こうなったらコヒー、リーダーの寵愛を賭けて私と勝負だ!」
「そんな事をしても八幡様の評価は何も変わらない、やる意味がない」
「くっそおおおおお!」
美優は絶叫したが、それが厳然たる事実である。その評価を覆すのは正直不可能だ。
「まあペット枠としては美優の方が評価が上だと思うから、頑張れ」
「ペット枠!?具体的には?」
「う~ん、美優、エルザは絶対にその枠だね、まあ他に該当する人はいないけど」
「色物かよ!」
美優はそう言って頭を抱えたが、すぐに立ち直った。
「でもよく考えてみたら、ペットに注ぐ愛情って結構凄かったりするよね」
「………ポジティブね」
「さすが美優………」
二人は美優のタフさに感心した。
「よ~し、私もいいのを選ぶぞぉ!」
「あ、私も手伝うよ、美優」
「私もこれに決めるから手伝う」
香蓮とクルスにそんな感じで気を遣われつつ、
美優は無事に自分用のニューパンツの確保に成功した。
ちなみに舞は、わが道を行くかのように自分で気に入ったデザインの下着を確保していた。
こちらはこちらでその自立っぷりが半端ない。
「さて、そろそろ約束の時間だな」
「約束?誰との?」
「ヤミヤミとたらお」
「あ~、そうなんだ、まあ合流するまでは付きあうよ」
「うん、ありがと!」
四人はそのまま待ち合わせ場所に移動した。
そこには既に二人が談笑しながら待っており、女性を待たせないその姿勢は好感が持てた。
「あの二人、こういう所はえらいのに、どうしてモテないんだろ」
「クルス、それは言いっこなし!」
「日本の七不思議だぜ!」
「美優、それは言いすぎ」
そんな会話を交わしながら風太と大善の所に行こうとした四人の前に、
いきなり複数の男性が立ちはだかってきた。
「おい風太、そろそろ時間だな」
「おう、しっかり案内しないとな!」
二人は待ち合わせ場所に早めに来て、どういった順番でどこに案内するか相談していた。
ちなみに軍資金は、密かに八幡の懐から出ている。
風太と大善は、自分達もそれなりに稼いでいるから問題ないと言って断ろうとしたのだが、
それに対して八幡の言い分はこうであった。
「それはガード料も含むと思ってくれればいい。
いいかお前ら、香蓮と舞さんに近寄るゴミは絶対に排除しろよ」
「そういう事かよ………あれ、じゃあフカは?」
「あいつはタフだから大丈夫だ、お前達がガードする必要は多分ない」
「そ、そうか………」
「まあでも、もし本当にやばそうなら助けてやってくれ。もっともその為の金は出さんがな」
そう言いながらも八幡が二人に渡してきた金額はどう考えても三人分あり、
二人は密かにほくそ笑んだものだった。
「お、来た来た………って、クルスも一緒かよ」
「予定が変わったのかな?まあ別に構わないけどよ」
「って、やべ、行くぞ大善!」
「おお?」
風太にそう言われ、改めて四人の方を見た大善は、すぐに状況を理解した。
ナンパのつもりなのだろう、四人の前に、いかにもチャラい感じの複数の男が立ちはだかり、
必死に四人に声をかけていたのだ。
「マジか、これが八幡にバレたら後でドヤされるな」
「まあ仕方ないさ、あの四人は目立つからな」
二人はそう言いつつ四人の方に駆け出した。
そして後ろから男達に声を掛けようとした瞬間に、
クルスがいきなり先頭の男の腕を捻り上げた。
「い、痛てててて!」
「気持ち悪い手をこっちに伸ばしてこないで」
「な、何だと!?」
「ああもう、こうしてるだけでも気持ち悪い、後で念入りに手を洗わなきゃ」
「ふ、ふざけんな!」
残りの男のうちの一人がその言葉でエキサイトし、舞の方に手を伸ばしてくる。
だが現役のハンターである舞は、そんな男は歯牙にもかけず、その手をバシっと振り払った。
「何?何のつもり?死にたいの?」
その口から発せられる言葉はどう考えても女子のセリフではなかったが、
それにはかなりの迫力が伴っており、男達は思わず後ずさった。
香蓮はうざそうに男達を見下ろしている。
普段は嫌で仕方がない身長の高さが、こういった場合には有効に働く。
結構武闘派であるはずの美優は、案外役立たずであった。
何故ならこの三人に先を越され、前に出そこなったからだ。
「おい大善、これって俺達がガードする必要無いんじゃね?」
「まあそう言うなって、多分こうなる前に防げって事なんだろ」
「ああ、確かにそう言われるとそうか」
そして二人はその間に割って入り、四人をガードするようにその前に立ち塞がった。
「悪いな、この四人は俺達のツレなんだ」
「そうそう、女の子が嫌がってるんだ、もっと周りの目も気にした方がいいぜ」
その言葉で周囲を見ると、やじ馬達の中には動画をとっている者もおり、
男達は慌ててその場から逃げ出した。こういった時はSNS社会万歳である。
「ふう、悪い、気付くのが遅れたわ」
「無問題、対処余裕」
いきなりクルスがGGOでの昔の口調でそう言った。
「………何でいきなりそんな話し方になるんだよ」
「回想、GGO」
「ああ、確かにGGOの時は確かにそんな感じだったけどよ」
「二人の顔を見てたらつい………、
それにしても相変わらず八幡様と比べると、二人は平凡だね」
「いやいや、あいつと比べるなよ!」
「平凡で悪かったな!」
「そもそも比べる事自体が八幡様に失礼だった、ごめんなさい」
「謝られるともっとみじめになるだろうが!」
「本当に変わらないよなぁ………」
二人はクルスの顔を見ながらそうため息をついた。
「それじゃあ後は二人に任せた、私はソレイユに戻らないといけないから」
「お、そうなのか?オーケー、任されたぜ」
「またな」
「うん、またね」
クルスはぶっきらぼうにそう返事をしたが、
実はクルスは学校の同級生などには絶対にそんな事は言わない。
二人を友人だとしっかり認識しているが故の、またね、なのである。
「さ~て、それじゃあ改めて、三人とも、ようこそ!」
「今日はしっかりと観光の手伝いをさせてもらうから」
「うん、宜しくね、ヤミヤミ、たらお」
「宜しくお願いします」
「舞さん、もっとフランクな感じでいいから」
「そうそう、俺達は八幡ファミリーみたいなもんなんだからさ」
「そう?ありがと」
「私も案内に協力するね、今日はどこに行くつもり?」
「お、すまねえ香蓮さん、えっと、今日の予定は………」
こうして合流した五人は、社乙会の時間まで観光を楽しんだ後、
クリスマスにまたねと挨拶をし、別れる事になった。
香蓮と美優、そして舞は、一度マンションに戻った後、
ちょうど帰ってきた優里奈に帰宅予定時間を伝え、そのままソレイユの遊戯室へと向かった。
「………で、優里奈、これは?これって女物の下着だよな?」
遅れてマンションに到着した八幡は、テーブルの上に置いてある下着を前に戸惑っていた。
「あ、それ、美優さんが今日買った新品の下着らしいです」
「あの野郎………一体何のアピールだよ」
その下着は美優がギャグで買ったものだが、そのお尻の部分には、
『YES!』の文字が描かれていたのだった。
この置き土産のせいで、美優は後で八幡にお仕置きされる事となる。