ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1040話 社乙会(十二回目)後半戦

「同人誌?」

「これ、十八禁の奴じゃない!」

「うわ、うわぁ………」

「どうしてこれを私達に?」

 

 その参加者達の疑問はもっともである。

この中には未成年も沢山おり、その者達にこういったものを見せるのは、

あまり褒められた行為ではないからだ。

 

「室長………」

「さて、誰が最初に気付くかしらね」

 

 その薔薇の期待に応えたのは、やはり才女として名高い雪乃であった。

 

「ちょっと待ってみんな、もしかしてこれ、私達の本なんじゃないかしら」

 

 その言葉に参加者達から小さな悲鳴があがった。

 

「た、確かに………」

「この円盤猫ってフェイリスだよね?」

「幾何学魔女?ロジカルウィッチ?」

「氷の魔女ってもう雪乃で確定じゃん………」

「妖精弓手?ふ~ん、へぇ~」

 

 事情を知るフェイリスと理央は無反応だったが、

雪乃と詩乃は、当然のように怒りの波動を発散させた。

だがその流れが変わったのは、こういう時は案外冷静な優美子が発言してからである。

 

「いや、待ちなって、ねぇ薔薇さん、もしかしてこの雪乃を陵辱してるのって………」

「………そこで敢えて私の名前を出すのはどうしてかしら」

「最後まで聞きなって、もしかしてこれ、八幡なんじゃね?」

「えっ?」

 

 雪乃はそう言われ、驚いた顔で『神々の庭の戦い』を手に取った。

 

「この文字………影?銀?もしかして銀影?」

「うん、それにこの、『覇覇覇覇覇!』って笑い声、覇王のもじりっしょ。

『支配支配支配!』ってのは、ザ・ルーラーみたいな」

「ほ、本当だ、よく見ると顔もそれっぽい!」

「って事はこの同人誌は………」

 

 乙女達は顔を見合わせた。

 

「私が八幡に陵辱されるっていう嬉し恥ずかし本!?」

「あ、あたしは?あたしは出てないの?」

「くぅ、GGO組はこういう時に不利すぎる………」

「いや、あれ?でもそしたらこっちの本は?」

 

 誰かがそう言い、『十字架女王』の検証が始まったが、これはすぐに結論が出た。

 

「これって………薔薇さん?」

「そうだね、この顔は普通に間違いない」

「遂にその事に気付いてしまったのね」

 

 そう言った薔薇の声はかなり得意げであった。

 

「これで会長としての面目が保たれたわ、

まあ理由はおそらく私の事を恨んでるからでしょうけど、

とにかく私はあいつらのおかげで、丸々一冊分八幡と絡む事に成功したのよ!」

 

 その言葉に乙女達は、悔しそうな表情をした。

 

「くっ、ホームタウンディシジョン………」

「くぅ!私も八幡に陵辱されたいのに!」

「エルザ、落ちついて?」

「あ~そっか、あの日にこれを見つけたんだ」

 

 沙希は先日の事を思い出してそう言った。

 

「さて、みんなにこれを見せたのは、これが是か非か問う為よ。

みんな、これについてどう思うか意見を述べて頂戴」

 

 そして乙女達はそれぞれの意見を述べていったが、驚くほど否定する意見は少なかった。

この相手の男が他のプレイヤーならともかく、八幡である以上、これは当然だろう。

当然その事も指摘され、乙女達はこれに関してどうすればいいか、真面目に話し合った。

 

「ここまでの意見をまとめると、

このままの路線でいくなら黙認していい、という感じかしらね」

「ただしそれには、このままの路線でずっといくという保証が必要ではないかしら」

「確かに!気が付いたら他の男に襲われてるとかは容認出来ない!」

「一応この人達、年末の冬コミに参加が決まってます」

 

 そこで理央からそう報告があった。

 

「なるほど………日程は?」

「二十八日から三十一日までだお」

「あ、そこってばうちらはソレイユの企業ブースに行かないとだ」

「だねぇ………」

「私達もALOのイベント消化で忙しいはずだよね」

「三十一日ってリアル忘年会だよね?」

「まあ初日に捕まえれば問題ないっしょ」

「となると適任は………」

 

 社乙会の中では二番目に発言力のある雪乃がそう言って乙女達を見渡し、

乙女達の中から何人かが手を上げた。

 

「私、そういう所に行った経験って全然無いけど、行けます!」

 

 最初にそう言ったのは千佳であった。千佳はゲームとは全く無縁であったが、

少なくとも社乙会のメンバーとしては古参であり、

仲間達がどれだけ八幡の事を思っているのか知っている為、

常日頃から、仲間達の為に自分に出来る事は何でもやりたいと思っていたのだった。

 

「私も大丈夫、荒事なら任せて」

 

 続けて舞が手を上げた。こういう時は何とも頼りになる。

 

「私も行く。多分そこまでいけば、もうALOにログインする必要はないはず」

「私とフラウも大丈夫だよね?」

「フヒヒ、どうせ言われなくても行くつもりだったし問題ない」

 

 続けて萌郁、明日香、フラウが手を上げた。

この三人には別の使命が与えられていたが、年末のその時期にはもう終わっているはずだ。

 

「わ、私も行くよ!私に何が出来るか分からないけど………」

 

 最後に香蓮が手を上げ、こうして六人の勇者が決定した。

それをまとめるのは薔薇である。

 

「私は基本、ソレイユのブースに詰めてないといけないんだけど、

元部下の事だし、私が行かないと始まらないわよね」

 

 これで捕獲メンバーの選抜は終わり、続けて議題はその後の話に移った。

 

「で、やめさせた場合は何の問題も無いとして、

存続させるとなった場合の話をしておかないといけないでしょうね」

「私、私もリーダーと絡みたい!」

「そ、それなら私も………」

「今からゲームを始めるべきかな………?」

「千佳、それには反対しないけどちょっと落ち着いて!」

 

 そんなかおりはいざとなったらソレイアルをコンバートさせればいいので案外余裕である。

 

「みんなの意見を総合すると、存続させるにしても、

しばらくは私達に似せたキャラを書かせるって事でいいのかしら」

「賛成!」

「それしかない!」

 

 それに付随して、別の意見もまた登場してきた。

 

「というか、捕獲出来るなら年末の作戦を進める意味が無くない?」

「あいつらがリアルで一緒にいたのは確認されてるけど、

お互いのプライバシーについてどこくらい知っているのか分からない以上、

こっちはあくまで保険と考えておいた方がいいと思うわ」

「なるほど、確かに!」

「まあ捕獲してみた後に、身柄を押さえてどの程度までこちらのいいように使えるか、

色々とごうも………じゃない、お願いしてみてから考えた方がいいのではないかしら」

「今拷問って言いかけなかった!?」

「さっすがゆきのん………」

「こういう時は頼りになる!」

「ただし、犯罪行為にはならないように、みんな、注意しましょうね」

「「「「「「「「は~い!」」」」」」」」

 

 こうして『セブンスヘル』に関する話し合いも終わり、今日の議題は全て終わった。

次はいよいよ八幡の着替えシーンの上映会である。

 

「それじゃあ藍子、木綿季、お願い」

「「はい!」」

 

 二人は薔薇に名前を呼ばれ、乙女達の前に立って、

どういう経緯で八幡の着替えの盗撮に成功したのか熱く説明した。

 

「おお」

「苦労したんだね………」

「よくやったわ!」

「あのヒッキーを出し抜くなんて凄いね二人とも!」

 

 ここで、これは犯罪なのでは?という意見が出ない辺り、

乙女達は八幡に関しての倫理観が麻痺していると言わざるを得ない。

八幡にとってはとんだ災難である。ドンマイ、八幡。

 

「それでは上映を開始します」

 

 それからしばらく、遊戯室は乙女達の嬌声で溢れかえった。

 

 

 

「ふう、心のフォルダに保存完了っと」

「これでまた寿命が延びたわえ、ふぉふぉふぉ」

「いい物を見させてもらいました、ありがとうございます!」

「わ、私なんかが見ちゃって良かったのかな?」

「みんな、そろそろ落ち付いて!

それじゃあ次は一部の人にしか恩恵が無くて申し訳ないんだけど、

今日最後になるわ、先日のトラフィックスのイベントの時の写真の先行配布よ!」

 

 該当するメンバー達は、その言葉に盛り上がった。

 

「存在する全ての写真の中から、

本人が写っている全ての写真をデータにしてそれぞれの携帯に送るわ。

見る場合はACSを起動して頂戴」

 

 その言葉で乙女達の一部が、いそいそとスマホを取り出した。

 

「さあ、ご覧あれ!」

 

 そして薔薇が持ち込んだPCを操作し、乙女達のスマホが一斉に鳴った。

 

「さて、それじゃあ堅苦しい話はここまで!ここからはフリータイムよ、

みんな、自由に飲み食いして今送った写真も見たりしながら、

八幡に対する不満をぶちまけましょう!」

 

 そこからの乙女達の醜態はこれ以上お見せする事は出来ないが、

もし八幡がここにいたら、確実にその貞操は奪われていた事は間違いない。

こうして社乙会の忘年会は、盛況のうちに幕を閉じる事となったのである。




集団心理って怖いですよね!

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