ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1041話 反省しました?

 香蓮、美優、舞の三人は、

社乙会の興奮も冷めやらぬまま、八幡のマンションへと帰還した。

 

「いやぁ、今日は楽しかったねぇ」

「明日はいよいよメイドの日………」

「リーダーのメイド服もいいけど、単純にメイド服を着るのが楽しみだなぁ」

「あ、それはあるかも。私ってばそういう格好には全く縁がないから………」

 

 舞の仕事柄、それは仕方がない事だろう。

 

「いやいや舞さん、その分この旅行で色々チャレンジしてみればいいじゃん!」

「でもそんな格好が私に似合うかどうか………」

「いやいや、謙遜しすぎだって、舞さんはスラっとしてて凄く美人だぜ!」

「そ、そう?」

「そうそう、きっとリーダーもそう思ってるに違いないって」

 

 舞は戸惑ったように香蓮の顔を見たが、香蓮が笑顔で頷いた為、

舞は頬を赤らめながら下を向いた。

 

「そ、そっか」

 

 三人はそのまま仲良くエレベーターに乗り、八幡の部屋がある階へと到着した。

ここまでの流れがあまりにも楽しかった為に、美優はこの時点ですっかり忘れていた。

出かける前に、自分が八幡に何を残していったのかを。

 

「あ、あれ?ドアが開いてる?」

「無用心だなぁ………」

「八幡君?優里奈ちゃん?」

 

 三人はそう言って室内に入り、ドアを閉めようとした。

その瞬間にドアの背後から何者かが現れ、一緒に室内に入ってきた。

 

「きゃっ!」

「だ、誰!?」

「あれ………リーダー?」

 

 そこにいたのは八幡だった。おそらく開いていたドアの陰にでも潜んでいたのだろう。

 

「おう、三人ともお帰り」

「うん、ただいま」

「ただいまです!」

 

 香蓮と舞が笑顔でそう答え、同じように美優もそう答えようとしたが、

その前に八幡が、部屋の鍵を後ろ手でガチャッと閉めた。

同時に八幡はもう片方の手を伸ばし、美優の頭に手を乗せた。

 

「リ、リーダー?えっと、その………た、ただいま?」

「本当に、本当に待ちくたびれたぞ、よく帰ってきたな、美優」

 

 その言い方は、美優の帰りを喜んでいるようなニュアンスではなく、

例えて言うなら『よく平気な顔で帰ってこれたもんだな』というような感じであり、

美優は背筋がゾクッとし、カタカタと震え出した。

 

「おいおい、どうして震えてるんだよ」

「さ、さあ、どうしてですかね………」

 

 そう言いながら美優はそっと振り返ったが、そこには香蓮も舞ももういなかった。

不穏な気配を察知して、逃げ出したのである。

 

「あっ、コヒー?舞さん?」

「他人の事なんか気にしないでいいだろ、

お前も『YES』らしいし、二人で楽しい事をしようじゃないか」

「………ああっ!?」

 

 それで美優は、自分が何をしたのか思い出した。

 

「え、えっと、リーダー、ちょっと確認させてください………」

「おう、何だ?」

「その楽しい事というのは、性的な意味で気持ちいいって事で合ってますか?」

「おう、合ってる合ってる、人によってはそう思うらしいぞ、エルザとかがそうだ」

「そ、それ駄目な奴じゃ………」

 

 美優はその言葉に絶望した。もちろん今名前が出たエルザだったら大歓喜だっただろうが、

そもそもエルザを相手に八幡はこんな事はしない。喜ばせてしまうだけだからである。

 

「さて、居間でのんびりしよう、今日は特別だ、お前は俺の膝の上に座るといい」

「あっ、はい………」

 

 そのセリフを合図に、八幡の手に力がこもっていく。

それは要するに、美優の頭が八幡の手によってギリギリと締め付けられるという事であった。

 

「リ、リーダー、これは気持ちいい事じゃないのでは………」

「そんな事ないだろ、お前、こういうのは大好きだよな?」

「あっ、はい………」

 

 そのまま美優は、八幡に引きずられるように連行されていった。

そして居間に入ると、果たして机の上には美優が置いたYESパンツが、

夕方の位置から微動だにせずそのまま置いてあった。

香蓮と舞、それに優里奈は三人仲良くソファーに座っており、

美優はそちらに助けを求めようと手を伸ばしたが、

三人はそれに対して露骨に視線を逸らした。

 

「う、裏切り者!」

「っていうか美優、いつの間にこんな事を………」

「ちっとも気付かなかったわ」

「い、いや、そりはその………」

 

 その言葉から、香蓮と舞はやはり何も知らなかったのだと八幡は確信した。

実は予想していた通りである。もし美優がこんな事をしたのを見ていたら、

香蓮なら絶対に止めるはずだからだ。

 

「まあ別に悪気があってやった訳じゃないんだろうけどな」

 

 そう言いながら八幡は、残ったソファーに座り、そのまま美優を自分の膝の上に乗せた。

 

「え、えっと………」

 

 美優は許しを請うように八幡の顔を見たが、そんな美優に八幡は明るい声で言った。

 

「いやぁ、そんなに喜んでもらえると、

俺もお前に膝を貸してやってる甲斐があるってもんだ」

「あっ、はい………」

 

 そう言った八幡の目がちっとも笑っていなかった為、美優はそう言う事しか出来なかった。

 

「ちょ、ちょっと羨ましい気も………」

 

 その時香蓮がボソリとそう言い、それが聞こえたのだろう、

八幡は一瞬顔を赤くしてからごほんと咳払いをした。

 

「おい美優、香蓮が羨ましいってよ、良かったな」

「じゃ、じゃあ代わってくれよコヒー!っていうか代わって下さいむしろお願いします!」

「あはははは、おかしな奴だな、なぁ香蓮」

 

 美優にそう言われ、香蓮は一瞬頷きそうになったが、

ここで八幡の邪魔をする訳にはいかない為、

駄目元で後で頼んでみようなどと考えつつ、香蓮は美優に首を振った。

 

「い、いいよ美優、せっかくだし、八幡君にいっぱい甘えればいいんじゃないかな」

 

 そう言った香蓮は美優の方を全く見ていない。

 

「うぅ………」

 

 それで美優は絶望し、その体の力がぐにゃりと抜けた。

 

「おっと、危ない危ない」

 

 八幡はそんな美優のお腹に手を回し、美優が倒れるのを防いだ。

これが別のシチュエーションだったら美優は大歓喜だっただろうが、

今の状況ではそんな気分にはまったくなれなかった。

そうこうしている間に、美優のお腹の部分が徐々に圧迫されていく。

どうやら八幡が、徐々に力を入れていっているようだ。

 

「リ、リーダー、ちょっと苦しい………」

「ん、そうか?ちょっとお腹にお肉がついたんじゃないのか?

昔のお前だったらこのくらい、全然平気だったはずだぞ」

「う………あながち間違ってないだけに何も言えない………」

 

 それはどうやら事実だったらしく、美優は泣きそうな顔でそう言った。

その間にも、お腹への圧力はどんどん増大していく。

 

「リ、リーダー、フカちゃんの中身が出る、出ちゃいます!」

「そうか、お前の中のピンク色の部分が全部出ちまうといいな」

「イ、イエスリーダー………」

 

 だがあまりにやりすぎて、食べた物をリバースされても困るので、

八幡は適度なところで美優の腹に回していた手を肩へと移動させた。

 

「………何だ、随分と肩が凝ってるみたいじゃないか、

これじゃあつらいだろ、俺が揉み解してやろう」

「だ、大丈夫!別に肩は凝ってないから!

ほら、私ってば別におっぱいが大きい訳じゃないし?」

「ははははは」

 

 美優の自虐ネタを八幡は笑い飛ばし、否定も肯定もしない。

だがその肩に添えられた手には、確実に力が加えられていった。

 

「う………」

「ふむ、せっかくだから本格的にやるか」

「あ、遊び程度でいいってば!先っぽだけ、先っぽだけでいいから!」

「ここでそのセリフが言えるなんて、やっぱりお前、メンタル強いよなぁ」

 

 八幡はそう言いながら、美優の肩に指を当て、ぐいっと押した。

 

「ふはぁ………」

 

 そのツボはまったく痛くなく、美優は気持ち良さそうにそんな声を上げた。

 

「ちっ、外れか」

「当たりだって、リーダー、大当たりだってば!」

「それじゃあここだ」

「ふわぁ………」

「また外れか………」

 

 八幡は、美優が不健康な生活をしていた場合、絶対に痛くなるツボを選んで押したのだが、

その成果は芳しくなく、こいつ、意外と健康的な生活を送ってやがるなと少し驚いた。

 

「って事は………まさかここか?」

「ひぎいっ!?」

 

 そのツボは大当たり?大外れ?であり、美優は悲鳴を上げた。

 

「むっ、ここに反応しちまうのか………これはまずい、非常にまずいな」

 

 そう言いつつも、これは実はまったくまずくはない。

ただ誰もが痛がるツボだというだけだ。

 

「まっ、まずいですか!?もしかしてフカちゃん、どこか悪いんですか!?」

「おう、ここが痛いって事はつまりだな………」

「………つ、つまり?」

「もう手遅れなくらい、お前の頭が悪い」

「あっ、はい………」

 

 ここまでくると、さすがの美優も反省しようという気になっており、

何度もごめんなさいと口に出しそうになっていたのだが、

そうすると八幡の膝の上という特等席を失う事になる可能性が高く、

美優は痛みと欲望の狭間で揺れ、内心でどうしようかと激しく葛藤していた。

だがその時八幡が、美優をあっさりと横に下ろした。

 

「ほええ?」

「お前は重いから膝の上に乗せ続けるのも疲れるし、美優で遊ぶのにももう飽きたな………」

「飽きられた!?ってか重いの!?」

「結局リアルだと、お仕置きの手段もかなり限られてきちまうんだよなぁ………」

 

(え?そ、そう?)

 

 かつてDV男とも付きあった事もある美優は、探せばいくらでもあるよねと首を傾げた。

だがもちろん八幡は、そんな暴力的な事はしない。唯一例外があるとすれば………。

 

「もういつものこれでいいか」

「へっ?」

 

 その瞬間に、美優の頭に拳骨が落とされ、美優は涙目になった。

 

「ぎゃっ!」

「………………で?」

 

 そう言われてじっと八幡に見つめられた美優は、涙目になりながら八幡に謝った。

 

「ご、ごめんなさい………」

「おう、それじゃあお仕置きはここまでだな」

 

 八幡はあっさりとそう言い、それ以上美優をとがめるそぶりは一切見せなかった。

 

「こ、これで終わり?」

「何だ?不満なのか?」

「いいえ、何の不満もないです!今回は本当に反省しました!」

「ならいい」

 

 この時美優が、確かに自身の行いを反省していたのは間違いない。

 

(やっぱりぱんつはやりすぎだったか………今度はブラにしよう。

でもYES、NOブラなんて売ってるのかなぁ?)

 

 ただその反省の方向が思いっきり間違っている事を、八幡はまだ知らない。


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