ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第104話 翡翠の都

「ここがスイルベーンか……」

「でかいな……」

「ええ、ここが私達シルフの領都スイルベーン。別名【翡翠の都】よ」

 

 ハチマンとキリトは関心したように、辺りをきょろきょろと見回していた。

本来領都に別の種族が訪れた場合、攻撃される可能性もあるのだが、

幸い名の通ったプレイヤーであるリーファが一緒だったせいか、

特に絡まれたりするような事は無かった。

ハチマンとキリトは、リーファに聞こえないようにヒソヒソと言葉を交わした。

 

「何か、SAOの街と全然違うよな」

「これぞファンタジーって感じだな」

「ん?何か言った?」

 

 ハチマンは慌てて誤魔化そうとした。

 

「いや、何ていうか、すごく綺麗な街だなって」

「中央にある塔が一番高いみたいだな」

「あの塔は風の塔って言うのよ。長距離を移動する時は、

必ずあの塔から飛び立って距離を稼ぐの」

「周りにも小さな塔が沢山あるんだな。あの塔と塔を繋いでる部分は通れるのか?」

「ええ、あそこが通路になってて、自由に通行出来るようになってるの」

「なるほどな。何か圧倒されちまうな……」

「スプリガンの領都は古代都市がモチーフなんだっけ?そんなに違う?」

 

 二人はその質問に少し慌てた。当然行ったことが無いからだ。

ハチマンはとりあえず、無難な返事を返す事にした。

 

「ここと比べると規模は変わらないが、まあここよりはちょっと地味な感じだな」

「なるほどね。いつか行ってみたいなぁ。機会があったら案内してくれない?」

「お、おう、機会があったらな」

「その時は宜しくね」

 

 リーファはそう言って微笑んだ。ハチマンとキリトは少し罪悪感を感じていたが、

それを察したのか、目立たないようにハチマンのポケットに入っていたユイが、

こっそりと二人に耳打ちしてきた。

 

「パパ、キリ兄、近くまで行く事が出来れば私が案内出来るので、心配ないですよ」

「おお……さすがユイ」

「とりあえず機会があるかどうかはわからないけど、すごい助かるよ」

「任せて下さい!」

 

 おそらく行く機会は無いだろう。有ったとしても、全てが終わった後の話になると思うが、

とりあえずリーファの期待は裏切らなくてすみそうだと、二人は安堵した。

 

「それじゃ、まず装備を揃えましょう。店に案内するけど、予算はどれくらい?」

「あー、とりあえず無制限で」

 

 その言葉を聞いて、リーファはポカンとした。

 

「二人ともお金持ちなんだ。休止する前に相当やりこんでたのね……」

「まあそんな感じだな」

「それじゃ、一番高性能な装備が置いてある店に案内するね」

「ありがとう、リーファ」

「二人はユキノの友達なんでしょう?という事は、もう私とも友達って事じゃない。

だからお礼なんか言わなくていいよ。友達の頼みなんだしね」

「まあでもお礼くらい言わせてくれよ」

「そう?それじゃ、どういたしまして」

 

 三人は連れ立って、装備を売っている店へと向かった。

ハチマンとキリトもやはり男なので、こういった店に行くとテンションが上がるようだ。

あーでもないこうでもないと、色々な装備を手にとって楽しそうに選んでいた。

リーファも装備を見るのは大好きなようで、楽しそうにそこに参加していた。

 

「二人とも決まった?武器は一応あっちのスペースで試し振りが出来るけどどうする?」

「そうなのか。どうするキリト、ちょっと振ってみないか?」

「そうだな、いくつか試しに振ってみないと、後で違和感が出たら困るしな」

「それじゃ行きましょう」

 

 リーファは二人を、店に併設された広場のような所に案内した。

 

「それじゃ、二人ともご自由にどうぞ。私は防具のコーナーにいるね」

「悪いな、あまり待たせないようにするからちょっと我慢しててくれ」

「大丈夫よキリト君。こういうのはしっかりと時間をかけて、

自分にピッタリ合う武器を選ばないといけないしね」

 

 そう言ってリーファは店の中へと戻っていった。

 

「それじゃ、ちょっと振ってみるか」

「エリュシデータとダークリパルサーに似たバランスの武器を選んだつもりだけど、

こればっかりはなぁ……スターバーストストリーム、システムアシスト無しでやってみるか」

「丁度誰も見てないし、やるなら今のうちだぞキリト。

もし誰かに見られたら、悪目立ちしちまうかもしれないからな」

「よし……」

 

 かつてキリトは少しでも剣を振る速度を上げるために、システムアシストに頼らずに、

何百回、何千回と色々なソードスキルの型を練習していた。

その経験があったためか、体が技をしっかりと覚えていたようだ。

キリトは問題なく、スターバーストストリームの太刀筋を再現する事が出来た。

 

「おお、さすがはキリト。特に問題は無さそうか?」

「ALOにはソードスキルは無いから、まずスムーズに攻撃と攻撃を繋げる事を重視して、

後は敵の動き次第で臨機応変に変化させてく事になりそうだ」

「攻撃力とかの補正が無いのが痛いくらいか。バランスはどうだ?」

「武器の重さのバランスもいいと思う。すごく懐かしい感じがする」

「あの頃と比べても、見ていてほとんど違和感を感じなかったな」

「ハチマンの方はどうなんだ?」

「俺の場合は、あまり重さとか関係無いからまあ問題ない。

左だけ敵の攻撃に力負けしないように、やや重いのを持つくらいだな」

「その短剣に決めるのか?」

「そのつもりだ。しかしキリトの武器、ちょっと大きくないか?」

「いやー、重さで決めたらちょっとサイズが大き目になっちまったんだよな。

まあリーチが伸びた事だけしっかりイメージしとけば大丈夫だと思う」

「なるほどな。でもそれだと、一本しか背中に背負えないな」

「まあ仕方ないさ。本番の時はあらかじめもう一本出しておくよ」

 

 そう言ってキリトは、支払いを済ませた後に片方の剣をストレージに収納し、

もう片方の剣を背中に背負った。

 

「でも二人とも一発で決まるなんて、お互いそういう感覚は錆び付いてないみたいだな」

「体が覚えててくれて良かったよな。それじゃリーファの所に戻ろうぜ」

「了解」

 

 二人はリーファと合流し、今度は防具を選び始めたのだが、

二人ともデザインよりは、動きやすさと色を重視で選んだため、

こちらはあっさりと決まった。言うまでもなく二人とも黒い装備を選んでいた。

 

「二人とも、防具は黒いのを選んだのね」

「キリトはともかく、俺は実用性も考えて黒にしたんだけどな。基本暗殺タイプだしな」

「暗殺タイプ、ね……」

「さっき俺の戦闘スタイルは見ただろ?」

「確かにはっきりと目撃したわけじゃないけど、闇にまぎれて敵を討つみたいな、

そんな感じだったねハチマン君は」

「キリトは基本ガチンコタイプだから、色が黒なのは完全に趣味だよな、趣味」

「そうなんだ」

「ま、まあそれは否定出来ない……」

「ふふっ、それじゃ装備も整ったみたいだし、風の塔にでも行ってみましょうか」

「おう。出来れば一度飛んでみたいところだな」

「男の子なんだから、二人とも高さにびびったりしないでよね」

「だってよキリト。びびるなよ」

「ハチマンこそびびるなよ」

「あは、それじゃこっちよ」

 

 二人はリーファに案内されて、風の塔を上っていった。

頂上に着くと、そこにはまさに絶景と呼べる景色が広がっていた。

 

「うわ、さすがにここまで来るとすごい景色だな」

「翡翠の都か……名前の通り、美しい街だよな」

「自慢の都だからね!」

「ああ、確かにこれは自慢していいな……ん?」

「ハチマン君、どうしたの?」

「誰かがこっちに近付いてきてるぞ」

 

 その言葉を聞いたキリトとリーファは、先ほど上ってきた階段の方を見た。

人影は見当たらなかったが、しばらくすると、数人の男が階段を上ってくるのが見えた。

 

「驚いた、随分遠くからわかるのね、ハチマン君」

「まあ、それが取り柄だからな」

「リーファちゃ~ん!」

「あれ、レコン?シグルド達も一緒なのね」

 

 どうやら上ってきたのはリーファの知り合いのようだった。

ハチマンとキリトは会釈をして、後方へと下がった。

 

「リーファちゃん、ここにいたんだね」

「レコン達はこれから狩り?」

「うん、まあそんな感じ」

「おいリーファ、お前俺達の誘いを断って、スプリガンごときと一緒に何をしてるんだ?」

 

 リーファはその言い方にカチンと来たが、とりあえず事情を説明しようとした。

 

「これはユキノの……」

 

 そんなリーファの返事を待たずに、シグルドは言葉を被せてきた。

 

「お前は俺のパーティメンバーだ。いつも勝手な事ばかりしてんじゃねえよ」

「なっ……」

 

 場の雰囲気が険悪になりそうなのを察知して、レコンが慌てて割って入った。

 

「リ、リーファちゃん、明日は狩りに参加出来るんだよね?」

「……ごめん、明日もこの二人を案内しないといけないの」

 

 その返事を聞いたシグルドは、苛立たしげにリーファに向かって言った。

 

「おいふざけるなよ。お前は黙って俺の言う事を聞いてりゃいいんだよ」

 

 この言葉にはさすがに頭にきたのか、リーファはシグルドに食ってかかろうとした。

だがそのリーファとシグルドの間に割って入った者がいた。それはキリトだった。

 

「キリト君、危ないから下がってて」

「大丈夫だ」

 

 キリトはリーファにそう声をかけると、シグルドに向かって言った。

 

「そっちこそふざけるな、リーファはお前の道具じゃないぞ」


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