ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1043話 メイドの会

 次の日は日曜だった為、全員が惰眠を貪っていた。

普段からの八幡との取り決めで、日曜は前日に何か言われない限り、

優里奈も朝九時まで起こしに来る事はない。そして今の時刻は朝の八時五十五分。

早めに八幡の部屋を訪れた優里奈は、ニヤニヤしながら八幡の寝顔を眺めていた。

 

「はぁ………かわいい………」

 

 起こす時間の少し前に部屋を訪れ、八幡の寝顔を堪能するのは優里奈の日常である。

それでも今日のように他の誰かが泊まりに来ている場合は自重していたのだが、

昨日のマッサージで盛り上がってしまったのか、

今日は我慢出来ずに寝顔を堪能していると、まあそんな訳である。

 

「め、めんこい………」

「!?」

 

 突然背後からそんな声が聞こえ、優里奈は大声を出しそうになり、必死で口を押さえた。

 

「あっ、ごめん、驚かせちゃった?」

 

 そうひそひそ声で話しかけてきたのは香蓮であった。

 

「ち、違うんです、私は別に、八幡さんの寝顔を見てニヤニヤしていた訳じゃ………」

「いいからいいから」

 

 香蓮はそんな優里奈を制し、自身もその横で、ニヤニヤしながら八幡の寝顔を眺め出した。

それを見た優里奈も、再び八幡の寝顔を堪能する作業を再開した。

 

「いい………」

「いいね………」

「これ、ちゅぅとかしちゃ駄目ですかね?」

「八幡君は絶対に許してくれると思うけど、でもきっと悲しそうな目をする気がする」

「ですよね………」

「どのくらいまでなら許されるんだろ」

「粘膜同士の接触が無ければいい気もしますね」

「そうなると具体的には?」

「例えば八幡さんの手を取って、私達の胸にこう………」

「いやいや、それはやばい、やばいって!」

「………自分でも言ってる最中に、アウトだって思っちゃいました」

「だよね」

 

 二人の会話は段々熱を帯び、その声も徐々に大きくなっていく。

そうなるとどうなるか、当然八幡が目を覚ます事になる。

というか、もう既に起きていた。具体的には『めんこい』の辺りからである。

故に八幡は、優里奈の危険な言葉に何度も身を固くしていたのだが、

二人が会話に熱中していた為に、その事は気付かれていない。

 

(よし、起きる、起きるぞ………)

 

 八幡は羞恥プレイのようなこの状況に耐えかね、

タイミングを見て起きたアピールをしようとした。

 

「それじゃあちょっと添い寝とかしてみます?」

「それはしたいけど、でもいいのかな?」

「それくらいなら多分………」

「そうなると、やっぱり八幡君の腕を抱え込む感じで?」

「ですね、八幡さんの腕をこう胸で挟んで、足を足で挟み込んで………」

 

 だが一向にそのタイミングが訪れない。優里奈が問題発言を連発してくるからである。

 

(くっ、やはり俺は優里奈の教育を間違っているんだろうか………)

 

 実際のところ、優里奈は八幡から何の影響も受けてはいない。

ただほんの少し、八幡の事が好きすぎるだけである。

更にまずいのは、今優里奈の相手をしているのが香蓮だという事だ。

香蓮は八幡と面と向かって相対すると、どうしても照れてしまう分、

今のように八幡が寝ているとかだと大胆になれてしまうのだ。

 

(こうなったら二人に恥ずかしい思いをさせる事になっても、

本当にやばくなる前にさっさと起きたアピールをするしか………)

 

 八幡がそう決断した時、救いの神は寝室から現れた。

 

「あ、こっちにいたんだ、コヒー、優里奈ちゃん、おっはよ~!」

 

 そう、昨日はほぼいい所が無かった美優の登場である。

美優のその声は意外と大きく、優里奈と香蓮は焦った顔で、

美優に向かってシーッ、シーッ、というゼスチャーをした。

だがその努力も空しく、八幡はそのタイミングを見逃さずに起き上がった。

 

「ふわぁ………もうこんな時間か、おはよう」

「おっ、おはようございます!」

「八幡君、おはよう!」

「おはようリーダー、ごめん、もしかして起こしちゃった?」

「いや、別にそんな事はないから気にしないでいい」

「そっかぁ、良かった!」

「そ、それじゃあ私は着替えてきますね」

「わ、私も!」

 

 そんな二人のやり取りを横目に、香蓮と優里奈はやや欲求不満ぎみに寝室へと戻った。

そして美優も寝室に戻ろうとしたが、そんな美優を八幡が呼び止めた。

 

「おい美優」

「ん?どうしたの?リーダー」

「よくやったぞ」

「へっ?」

 

 美優はいきなり褒められて戸惑ったが、とりあえず笑顔でこう答えた。

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

 その後、すぐに舞も起きてきて、五人はそのまま遅い朝食をとった。

その後、八幡は保と約束があるからと早めに出かけていき、

残された四人は出かける時間が来るまでのんびりとくつろいでいた。

 

「いよいよ本番ですね」

「八幡君のメイド服………一緒に写真を撮れたらいいな」

「まさか書き割りから顔だけ出して、お茶を濁したりはしないよね?」

「八幡さんがそんな事するはずがないじゃない」

「でもどんな感じになるんですかね」

「早めに出たってのが怪しい………」

「まあ行けば分かるよ、もうすぐ時間だし、そろそろ行こうか」

「だねぇ」

 

 四人はいそいそと出かける準備をし、そのまま真っ直ぐ秋葉原へと向かった。

 

「あっ、明日奈、雪乃!それにクルスも!」

 

 メイクイーンが遠目に見えてくる辺りで、香蓮は前を歩く三人に気が付いた。

 

「凄い偶然!」

「あれ、四人とも早いね?」

「そういう明日奈さん達も早いですね」

「私達は、今日の調理の手伝いをする事になってるの」

「ああ、そういう事なんだ」

 

 一同はそのまま連れだってメイクイーンに入り、フェイリスに出迎えられた。

 

「皆様、ようこそお越し下さいましたニャ」

 

 フェイリスの後ろにはキリっとした美人が二人控えており、

フェイリスに合わせておじぎをしたが、その瞬間に明日奈がいきなり咳き込んだ。

 

「ごほっ、ごほっ」

「明日奈さん、大丈夫ですか?」

「ご、ごめん、ごほっ、えっと、何かが気管に入っちゃったみたいなんだけど、もう大丈夫」

 

 明日奈はすぐに落ち着き、そのまま一同は、フェイリスによって更衣室へと案内された。

 

「それじゃあここに飾ってあるうちのどれかのメイド服を選んで着て下さいニャ」

 

 そこには何種類かの貸し出し用メイド服が、各サイズ並んでいた。

種類でいえば、シンプルなヴィクトリアンスタイルのものから、

いわゆるフレンチスタイルの露出がかなり大きいもの、

ジャパニーズスタイルと言われる装飾過多のアニメ風デザインなもの、

他にもゴスロリ調のものや、ミリタリー調、チャイナ風のもの、

和風なものやセーラー服に似たもの、まさかの水着タイプもある。

これらの選択はどうやら早い者勝ちらしく、一同は早めに来て良かったと歓声を上げた。

 

「うわぁ、どれにしようかな」

 

 美優は早速悩み始めたが、香蓮は即座にフェイリスにこう尋ねた。

 

「フェイリスさん、私みたいに身長が高いと、どれが一番似合うかな?」

 

 どうやら香蓮はこういう事はプロに任せた方がいいと判断したらしい。

服のセンスに自信がない舞は香蓮に習い、他の者達は自分で選ぶ事にしたようだ。

 

「レンちゃんはチャイナがいいと思うニャ、

シャリちゃんはミリタリーと言いたいところニャけど、たまにはかわいい格好をするのニャ」

 

 そう言ってフェイリスが差し出してきたのは、フリルがかなり多めのメイド服であった。

 

「こ、これを私が?」

「そうニャ、きっと八幡も褒めてくれるのニャ」

「それじゃあこれにする!」

 

 舞は即座にそう答え、いそいそと着替え始めた。

優里奈とクルスは共に胸を強調したデザインの物を選んだ。

普段は胸を隠している二人だが、こういう時には八幡に見せるためだけに、

そのアドバンテージをとことんアピールしてくるのだ。

雪乃はミニスカではあるが、大人しめのデザインの黒のメイド服を選択し、

明日奈もそれに習おうとしたのだが、そこにフェイリスが待ったをかけた。

 

「明日ニャンは水着タイプなのニャね、他の人には露出が多すぎて、

八幡には目の毒だから、当然の選択だと思うニャ」

「えっ?」

「うん、当然だと思うのニャ」

「えっと………私に先陣を切れ、みたいな?」

「まあ仕方ないからエプロンはつけさせてあげるのニャ」

「選択の余地は無いみたいだね………」

 

 確かに明日奈がいる前で、これを着れる者はいないだろう。

明日奈は、エプロンがあるからまあいいや、等と考えていたが、

逆にその方がいかがわしく見える事に気付いたのはかなり後となる。

それから続々と参加者が到着してきた。

ほとんどの者が、いわゆる日本で一般的なメイド服を選択したが、

エルザは当たり前のようにゴスロリを選択し、千佳はヴィクトリアンスタイルを選択した。

フラウは高校の時の制服に似ているという理由でセーラー服に似たデザインのものを選択し、

アイ&ユウは和風のものを選んだ。詩乃はまさかの水着である。

これはもちろん明日奈の姿を見て決めたのだが、相変わらずの負けず嫌いと言えよう。

あと特殊なのはミリタリー風を選んだ萌郁くらいだろうか、

こうしてほとんどの者が着替えを終えた中、最後に残ったのは薔薇であった。

 

「さて、私も急いで着替えないと」

 

 そう言って薔薇はバッグの中からメイド服を取り出した。まさかの自前である。

 

「薔薇ちゃん、それって………」

「ふふん、自前のメイド服よエルザ、しかももふもふのネコ耳付きよ」

「むむむ、気合い入りすぎじゃない?」

「実はこれ、今年の春に買ったのよ。やっと日の目をみたわね」

「いいなぁ、私も買おうかな」

「買いに行くなら付きあうわよ」

「本当?それじゃあまた今度お願い!」

 

 薔薇が所有しているメイド服は、肩まで大胆に露出してある、

まるで風俗で使われるようなミニスカートのメイド服であった。

こうして全員が準備を完了し、後は八幡と保の登場を待つばかりとなった。

 

「さて、それじゃあメイドの会を始めるとするのニャ!最初の挨拶はアイぽんと………」

「待って待って、八幡と師匠は?」

 

 そこで藍子が焦ったようにそう尋ねてきた。

二人の希望は、あくまでも八幡と一緒にメイドの格好をする事だったからだ。

 

「ニャニャッ?」

 

 その言葉にフェイリスは、何故か首を傾げた。

 

「二人なら最初からずっといるのニャよ?」

「えっ?」

 

 その言葉でほとんどの者が辺りをキョロキョロと見回したが、二人の姿は無い。

 

「八幡?いるの?」

「うん、ずっといるよ?」

 

 その呼びかけに対して返事をしたのは明日奈であった。

その顔は明らかに笑いを堪えている。

 

「ど、どこに?」

「あそこだよ、最初見た時にびっくりしちゃって、誤魔化すのが大変だったよ」

 

 そう言って明日奈が指差したのは、

ずっとフェイリスの後ろに控えていた二人のメイドであった。

二人は化粧の力により、ここまで他の誰も気が付かない程上手く擬態していたのだが、

明日奈だけがその事に気付いていた。さすがの正妻力である。

 

「何だ、明日奈にはバレてたのか」

「僕は明日奈さんの最初の態度で絶対にバレてると思ってたけどね」

「え、マジでか、上手く化けたつもりだったんだがな」

 

 その二人の美女は八幡と保の声でそう言い、

それで明日奈の言葉が真実だと思い知らされた一同は大きく口を開け、

次の瞬間に驚きの叫びを上げたのだった。




小猫がメイド服を買ったのはかなり前、第347話です!
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