ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1044話 俺の男になりやがれ

「えっ、嘘………」

「八幡君と保君………なの?」

「どうしてそんな格好を?」

「俺が保に出した条件がこれだからな、どうせやるなら笑われる事のないように、

メイクとかも本気でやるっていう条件だ」

「そういう事だったんだ」

「ふふん、フェイリスにメイクしてもらったんだ、どうだ?よく化けただろ?」

 

 その言葉で女性陣は一斉に八幡に駆け寄った。

 

「これ、私よりもかわいくない!?」

「中性的っていうか、どうしよう、ちょっと変な気分になってきた………」

「は、八幡、ちょっとその格好で、私を罵ってみない?」

 

 こんな調子で女性陣は文字通りに浮き足立っていた。

その光景を眺めながらうんうんと頷いていた保の横に、フェイリスが立った。

 

「保君、どうやら大成功みたいだニャ」

「ああ、苦労した甲斐があったね。みんなが楽しそうにしてくれて、僕も嬉しいよ」

 

 保はこの日の為に何度もメイクイーンを訪れ、準備に奔走していたのだ。

その顔は満足感に満ちており、フェイリスはそんな保を素直に尊敬した。

一方八幡は、詰め寄ってくる女性陣を何とか押し返し、落ち着かせようとしていた。

 

「おいお前達、とにかく落ち着け。まだ会は始まってないんだぞ、アイ、開会の挨拶だ」

 

 それで場は落ち着きを取り戻し、指名された藍子が前に出て挨拶を始めた。

 

「みんな、今日は私とユウの希望を叶える為の会に集まってくれてありがとう!

まず最初に私達の為に走り回ってくれた師匠に拍手~!」

 

 一同は保に向け、惜しみない拍手をした。保はフェイリスに押し出されて前に出ると、

藍子からマイクをもらい、おずおずと語り出した。

 

「きょ、今日はこんな変わった会だけど、楽しんでいってもらえると嬉しい………です」

「保君、ありがとう!」

「とっても楽しいから心配しないで!」

「そ、そっか、それなら良かった」

 

 保はホッとしたような顔をし、そして会が始まった。

飲み物が回され、今度は木綿季が乾杯の音頭をとるように指名される。

 

「ボクがやるの?分かった、それじゃあみんな、かんぱ~い!」

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」

 

 直後に八幡がどこからかカメラを取り出して一同に言った。

 

「それじゃあ俺がカメラマンをやるから、順番に写真を撮るぞ」

「え~?それじゃあヒッキーと一緒に撮れないじゃん!」

「それは後のお楽しみニャ!

みんな、カメラに写る時は、八幡に見られてるってちゃんと意識するのニャよ!」

 

 これは保の提案であった。参加者達の一番いい表情を写真に残せるように、

敢えて八幡にカメラマンを頼み、フェイリスが言うように、

それぞれの一番いい表情を引き出そうとしたのだ。

その狙いは見事にはまり、まるでグラビアのような素敵な写真が量産されていく。

まあこれはある意味モデル達の質が良すぎるせいもあるので当然かもしれない。

 

「ハイ八幡、私と明日奈をちゃんと綺麗に撮るのよ」

「………お前さ、何でその格好を選んだんだ?」

「何よ、八幡が私の足を見たがってるって思ったからサービスしてあげたんじゃない」

「ほらほらしののん、八幡君が困ってるからそのくらいにして、早く写してもらお?」

「べ、別に困ってなんかないぞ、うん、二人とも、

メイドとしてはどうかと思うが、よく似合ってるぞ」

「ふふん、当たり前じゃない」

「ほらしののん、ポーズポーズ!」

「そうね、それじゃあ大胆にいくわよ!」

「きゃっ!」

 

 詩乃はいきなり床に仰向けになり、明日奈を自分の方へと引っ張った。

そのまま詩乃は八幡に蠱惑的な視線を向け、

明日奈はその上で女豹のようなポーズをとる事となった。

 

「八幡、シャッター」

「お、おう………」

 

 詩乃にそう言われ、八幡は慌ててシャッターを押した。

 

「し、しののん!」

「きっとかわいく撮れてるわよ………って、明日奈、痛い、痛いから」

「もう、もう!」

 

 明日奈は詩乃をぽかぽか叩き、詩乃は笑いながら逃げていく。

次に八幡の下を訪れたのは、総武高校の四人娘である。

 

「それじゃあ次はあーし達ね」

「ヒッキー、お願い!」

「先輩、私の事、ちゃんと見て下さいね」

「ご主人様、シャッターをお願いします」

 

 他の三人と比べ、雪乃だけが思いっきりメイドになりきっていた。

ご丁寧に伊達眼鏡までかけるこだわりっぷりだ。

 

「分かった分かった、ほれ、並べ並べ」

 

 四人は固まって上目遣いになり、うるうるとした瞳で八幡を見つめた。

 

「何か懐かしいな」

 

 八幡はそう言いながらシャッターを切り、

次にクルスと南の秘書コンビが、薔薇と共にやってきた。

 

「うぅ、やっぱりクルスも室長も凄いなぁ………」

 

 二人に挟まれて悲しそうな顔をしている南の頭に、八幡はそっと手を置いた。

 

「そんな事気にするな、南もちゃんとかわいいメイドさんになってるぞ」

「う、うん………」

 

 南は顔を赤くし、はにかんだ笑顔を見せた。

 

「八幡様、私は今日、料理も頑張りました!」

「おう、えらいぞマックス」

「えへへ」

「八幡、私の格好にもその、何か一言欲しいの………ニャ」

 

 薔薇が精一杯アピールしながらそう言い、八幡はスッと目を細めた。

 

「さっきから思ってたけどよ、それ、自前だよな?」

「う、うん」

「いつ買ったんだ?」

「えっと、源平合戦の頃………ニャ」

 

『そういうのは実際に俺の目の前でネコ耳メイド服を着た上でやれってんだよまったく、

そしたらさすがの俺もちゃんと褒めてやるんだがな』

 

 それと同時に八幡の脳内で、かつて自分が言った言葉が蘇る。

 

「やっぱりか、そういえばそんな事を言った気がしたんだよな」

 

 薔薇は八幡があの時の事を覚えていてくれた事に胸を熱くした。

 

「まあその、なんだ、そのメイド服、似合ってると思うぞ。

ちょっと派手なのがまた、お前らしくていいな」

「あ、ありがと………ニャ」

「………これからも俺の役にたつんだぞ、小猫」

「もちろんよ、一生役にたつ………のニャ!」

 

 さりげなく一生という言葉を付け足した薔薇の表情は、充足感に満ちていた。

その後も次々と八幡の下にメイドが訪れ、記念写真をねだっていった。

かおりは千佳と共に訪れ、八幡の自分への扱いが千佳よりも低いと頬を膨らませていた。

美優、舞、香蓮の三人は、美優の扱いだけが明らかに雑であった。

珪子は珍しく沙希と行動を共にしていた。

どうやら珪子は裁縫が得意な沙希を尊敬しているようで、最近色々と教わっているらしい。

フェイリスは、遠慮がちな萌郁をフォローするかのように明るく振る舞っている。

どんな時でも気配りを忘れない、メイドの鏡のような行動である。

明日香とフラウは場の雰囲気に圧倒されていたが、

どうやら仲間意識が芽生えたようで、二人仲良く色々な人に話しかけていた。

そして理央と優里奈が八幡の下を訪れた。

 

「八幡さん、私達もお願いします」

「せっかくだし、き、綺麗に撮ってね」

「お、おう、もちろんだ」

 

 この二人はここぞとばかりに胸をアピールしており、

八幡はどぎまぎしながらシャッターを押した。そして遂に、奴が姿を現した。

もはやラスボスと言っていい、神崎エルザである。

 

「はっちま~ん!」

「おう、やっぱりお前はゴスロリか」

「丁度いいや、優里奈、理央、一緒に写真撮ろっ!」

「あっ、はい!」

「うん」

 

 エルザは二人の間に立ち、営業スマイルではない本物の笑顔を作った。

八幡は、楽しんでもらえてるようで何よりだと思いながらシャッターに指を伸ばしたが、

ボタンが押されるその直前に、あろう事かエルザは二人の胸をわし掴みにした。

「「きゃっ」」

 

 そしてパシャッという音がし、エルザは二人にペロっと舌を出した。

 

「ナイスおっぱい!」

 

 エルザはそのまま風のように去っていった。

 

「まったくあいつは………」

 

 そんな光景を、時には目を逸らしつつ、保も楽しそうに眺めていた。

 

「保君、保君も一緒に撮ろうよ!」

「えっ?」

 

 そう声をかけてきたのは、顔見知りではあるがあまり接点が無い南であった。

 

「えっと………僕なんかの事はいいから、他の子達と一緒に撮ってくるといいよ」

「いいからいいから、ほら、こっちこっち」

 

 南は強引に八幡のところに保を引っ張っていき、

普通に写真を撮ってもらった後に、八幡に自分のスマホを差し出した。

 

「八幡、これにもお願い!」

「オーケーだ」

 

 そして撮影が終わった後、南はスマホをいじり始めた。

 

「保君、今の写真、ゆっこと遥にも送っとくね」

「いいっ!?ちょ、ちょっと待ってちょっと待って、それは………」

 

 保は焦ったが、時既に遅しである。

 

「ふふん、もう送っちゃった!」

「ああっ、ちょっと………」

 

 南は舌を出しながら逃げていき、直後に保のスマホにメールが届いた。

 

『ゼクシードさん、美人すぎてちょっと引きます』

『ま、まあ楽しそうで何より………かな?』

 

 保はそのメールを見て、今度二人にどんな顔で会えばいいのかと頭を抱えた。

その直後に保の両手が誰かに引かれた。藍子と木綿季である。

 

「師匠、一緒に写真を撮ろうよ!」

「あ、ああ」

「八幡、お願い!」

「おう」

 

 二人はもうとても元気そうであり、保は目頭が熱くなるのを感じた。

 

「………保、泣いてるのか?」

「えっ?」

「し、師匠?」

「え?あ、あれ、本当だ、おかしいな、ははっ………」

「………まあ気持ちは分かる、そのまま笑ってくれ。アイ、ユウ、お前達もだ」

「「うん!」」

「あ、ああ」

 

 保はその言葉に従い、泣きながら笑顔を作った。

 

「師匠、本当にもう私達は大丈夫だからね?」

「ほら、もっと笑って笑って!」

「ああ、分かってる」

 

 そして八幡は、その光景をカメラに収めた。

 

 その後、今度は女性陣が八幡と一緒に写真を撮るターンになり、

保は涙を拭き、喜んでカメラマンを努めた。

ファインダーに写るみんなの顔は満面の笑みを浮かべており、

保はその笑顔を浮かべさせている八幡に、改めて尊敬の念を抱いた。

 

「僕もいつか、誰かにあんな顔をしてもらえる男になれれば………」

 

 最後に全員で集合写真を撮った後、保はぼそりとそう呟いた。

そしてPCが持ち込まれ、撮影した写真の配布が行われた頃に終了予定時刻となり、

保はフェイリスに、そろそろ会を閉めようと提案した。

 

「フェイリスさん、それじゃあ今日の会はこれくらいで………」

「もう少しだけ待ってニャ」

「え?あ、うん」

 

 フェイリスがバックヤードを気にしながらそう言うのを見て、

何かサプライズでもあるのかなと思い、保はとりあえず壁の花となって待つ事にした。

そしてフェイリスが全員に話しかける。

 

「宴もたけなわですが、そろそろお開きの時間となりますニャ!

でもその前に、ここで一つ、八幡からのサプライズがありますニャ!」

 

 その言葉に一同はざわっとした。

 

「そのお相手は………今回一番頑張ってくれた、保君ニャ!」

「へ?」

 

 保はその言葉に間の抜けた声を上げた。

直後にバックヤードから、一人の男性が中に入ってくる。

否、よく見るとそれは、男性ではなく男装をしたえるであった。

 

「た、保さん!」

「え?えるさん?」

 

 二人はそのまま見つめ合い、一同は何かを期待するような雰囲気になった。

そしてえるは、真っ赤な顔をしながら保に言った。

 

「お………」

「お?」

「お、俺の男になりやがれ!」

「「「「「「「「きゃあああああ!」」」」」」」」

 

 その瞬間にギャラリーから大歓声が上がった。

保とえるは、もう何度も食事を共にしており、付き合うのは時間の問題だと思われていたが、

まさかこのタイミングで、しかもえるから行動を起こすとは思っていなかった為、

場は最高に盛り上がっていた。

 

「こ、こういうのは僕の方から………」

「こ、細かい事はいいんだよ!」

 

 プライベートでは男前だと言われているえるの、そんな姿を見るのは初めてだった保は、

その言葉に思わずこう答えていた。

 

「は、はい、喜んで!」

「「「「「「「「おめでとう!」」」」」」」」

 

 その場にいた全員から祝福の言葉が投げかけられ、

そんな二人の写真は南の手によって、ゆっこと遥にも送られた。

即座にお祝いのメールが保に届く。

 

『ゼクシードさん、おめでとう!』

『お幸せに!これからは男の甲斐性を見せるんだよ!』

 

 こうしてメイドの会は大成功に終わり、ひと組のカップルが誕生する事になったのだった。




死を回避し、遂に彼女まで出来ました!おめでとうゼッ君!
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