社乙会、メイドの会と、関東で立て続けにイベント事が開催されている頃、
ソレイユ社長、雪ノ下陽乃一行は京都の地を踏んでいた。
主なメンバーは、陽乃、レヴェッカ、ガブリエル、祐吾、アルゴ、ダル、
更にそこに、元ラウンダーのメンバー達が、ソレイユ警備部の格好で加わる。
要するに、ソレイユの非合法活動を支える者達が、萌郁以外は全て一同に会している状態だ。
その最初の訪問先は、結城病院である。
「知盛さん、お久しぶりです」
「これは雪ノ下社長、ようこそお越し下さいました、こちらへどうぞ」
陽乃を応接室へと案内する為、知盛自ら先頭に立ったが、
その周りは一見しただけでは分からないが、
見る者が見たら明らかに武装している者達が完璧に固めている。
「さすがにものものしいですね」
「ええ、まあ一応ですわ、一応」
「うちの名前もいくらでも出して頂いて構いませんので」
「ありがとうございます」
そんな思わせぶりな会話を交わした後、陽乃は知盛にいくつかのデータを提示し、
それを見た知盛は、一瞬眉をひそめたあと、すぐに明るい顔をした。
「なるほど、これなら問題なくいけます、いえ、やってみせます」
「良かった………これでまた一人救えますね」
「いえいえ、もっと沢山の人達が救えますよ」
知盛は嬉しそうにそう言い、陽乃も顔を綻ばせた。
その時部屋の外に立っていたガブリエルがドアをノックし、顔を覗かせた。
「どうしたの?」
「社長、ゴインキョがこちらに向かってきています」
「え?ご隠居って清盛さん?」
「はい」
「ええっ?親父が!?」
「中に入って頂いて宜しいですか?」
「もちろんよ、というかどうしてここにいるのかしら」
この話し合いに、清盛の参加は予定されていなかったのである。
そして少ししてからガブリエルが、部屋の前に到着した清盛を室内に招きいれた。
「ふむ、訓練されたいい兵じゃの」
「キョーエツシゴク」
「ほっほ、中々の武者っぷりよな」
「じいさん、それはあたしの兄貴だぜ」
そんな清盛に、レヴェッカが気安く話しかけた。
二人はゾンビ・エスケープでチームを組んでいるのでとても仲がいい。
ちなみに今『千葉デストロイヤーズ』に登録されているメンバーは、
ハチマン、モエカ、ラン、レヴィ、ハル、キヨモリの六人である。
「ほう?なるほど、それなら納得じゃ」
清盛のカブリエルに対する評価は上々のようだ。
そしてガブリエルは一歩下がり、前に出た清盛は、最初に知盛の表情をじっと見つめた。
「ふん、その顔だと今回も上手くいきそうじゃの、
いいか知盛、死ぬ気で頑張るんじゃぞ、というか死ね」
「親父さぁ、激励するにしても言い方ってもんがあるでしょう」
知盛が清盛にそう苦言を呈したが、清盛は当然スルーである。
その表情は厳しいものであったが、陽乃に向き直った瞬間に、清盛は顔を綻ばせた。
「陽乃さん、元気そうで何よりじゃ」
「清盛さんもお元気そうで何よりですわ」
「ふぉふぉふぉ、小僧が儂をこき使ってくるからの、老け込んでる暇がないんじゃよ」
そう文句のような事を言いながらも、清盛はとても嬉しそうであった。
この清盛、八幡の事が好きすぎである。
「親父は絶対に、日本人の最高齢まで生きそうだよね………」
「ふん、それくらいは当たり前じゃ、
小僧の子供達が成人するくらいまでは、毎年お年玉をくれてやりたいからの」
清盛が言うと、本当にそうなりそうなのが恐ろしい。
ちなみにその中には当然優里奈と藍子と木綿季も含まれており、
今年は既にかなりの額を準備済のようだ。スリーピング・ナイツの他の者達に関しては、
まだ親が健在な為、今のところはその数に入っていない。
「で、親父は何でこっちにいるの?」
「そんなの決まっとる、陽乃さんの護衛に加わる為じゃ」
「ええっ?」
「そ、そうなんですか?」
「おう、この後色々回るんじゃろ?その時に儂がいた方が、何かと都合がいいじゃろうしな」
「それはそうですが………」
さすがの陽乃もこの事は想定していなかったらしく、やや迷いを見せたが、
どう見ても清盛が引きそうにないので、その申し出を素直に受ける事にした。
「分かりました、お願いします」
「おう、任されたわ。というか陽乃さんも遠慮なんかせず、
こういう時はいくらでも儂をこき使ってくれていいんじゃよ?
何せ儂は、もう老い先短い爺いじゃからの」
「さっきと言ってる事が違う………」
知盛は呆れたが、当然それもスルーである。
「さて、それじゃあレヴィの嬢ちゃん、それにそっちの………」
「ガブリエルです」
「ガブちゃんな、あとそこのでかいの」
「天王寺祐吾と申します」
「ユーゴな、四人で護衛のフォーメーションを相談するとしようかの」
清盛が最後に声をかけたのは天王寺祐吾だった。
この辺りの実力者の見極めっぷりはさすがである。
四人は部屋の隅で相談を始め、その間に陽乃達も、手術関連の相談を始めた。
そう、今回陽乃が京都の結城病院を訪れたのは、
ノリこと山野美乃里の手術に関する話をする為であった。
先日話題になっていたのが、遂に本格化したという事である。
同時にシウネーこと安施恩の薬に関する状況の説明も行われ、
自分も知らないその情報の緻密さに、知盛は舌を巻く事となった。
「それじゃあそういう事でいこうかの」
「はい、防弾チョッキもすぐに用意させますので」
護衛組の相談が終わったのを見て、陽乃がそちらに声をかけた。
「あ、清盛さん、ついでにちょっと変装をしてみない?」
「変装じゃと?」
その陽乃の申し出に、清盛は楽しそうな顔をした。
「ほうほう、何の為にじゃ?」
「相手の絶望を深くするには、こっちの鬼札は最初は隠しておかないとでしょう?」
「確かにそうじゃな、それじゃあ適当に見繕ってくれい」
「任されましたわ」
「くっ、くくっ………」
「ふふっ、うふふふふ」
そう笑い合う二人の様子は悪役そのものであったが、
実際この後に訪問する予定になっている場所は敵地な為、
他の者達にとってはその姿は実に頼もしく映った事だろう。
「そっちの話し合いも終わりかの?」
「ええ、後はダル君にお任せですわ」
「ま、任されました!」
どうやらダルは、この後行く場所には同行しないようである。
「ボス、オレっちは腹が減ったぞ」
「そうね、ちょっと早いけど、お昼にしましょうか」
「場所はもう決まっとるのか?」
「いいえ、まだですわ」
「それなら儂がいい店を紹介しようかの」
「ありがとうございます、お言葉に甘えます」
そして一同は去っていき、残されたダルに、知盛が言った。
「それじゃあ僕達もお昼にしようか、
といっても出前にするつもりなんだけど、それでいいかい?もちろん僕が奢るよ」
「ゴチになります!」
二人はそのまま部屋に残り、注文を済ませたあと、
大声を出さないように気をつけながら雑談に入った。
「陽乃さん達は、この後何件回る事になってるんだい?」
「今日は二ヶ所です、いきなり本丸を攻める予定ですお」
「本丸………か、攻め手の方は足りてるのかい?」
「余裕ですね、元々芸能関係なんてスキャンダル塗れですし、
お金の流れについてもまあ、裏帳簿から何から全部入手済みです」
「さすがだよねぇ………」
「まあうちはその辺り、かなり増強してますから」
相手が目上の人物な為、ダルはかなりまともな喋り方で受け答えをしていた。
もし八幡がここにいたら、お前、そんな喋り方も出来たのかよ、と驚いた事だろう。
「しかし今のソレイユに喧嘩を売るなんて、彼らも馬鹿な事をしたもんだよね」
「まあ来年から、いくつか事務所を買収した事もあって、
大物がかなりソレイユ・エージェンシーに移籍する事になりましたから、
気持ちは分かります」
「へぇ、そんな大物が?例えば?」
「スイートバレット、ワルキューレ、フランシュシュ、イノハリ、
それに御影クリヤ、蛎崎うにとかの若手が続々と移籍を希望してますお」
「うわ、それは凄いね、音楽関係は無敵じゃないか」
「若手俳優さん達もどんどん名乗りを上げてるんで、この流れはもう止まりませんね」
「そりゃ各方面を敵に回す訳だわ………」
そう、今回の陽乃の京都入りのもう一つの目的は、
関東で勢力を伸ばすソレイユにちょっかいを出してきている、
関西の芸能界事務所とその裏に蠢く裏社会の連中を、
まとめて潰す、もしくは
その為の準備は以前から着々と進められ、今はもう完了していたが、
陽乃は八幡に泥を被らせない為、今回この役目を自分が全て引き受ける事にしたのである。
「むぅ、でも心配だなぁ、親父はどうでもいいとして、他のみんなが」
「まあ確かにリスクはありますけど、元傭兵もいますし、
ソーシャルカメラも事前に仕込んでおいたんで、大丈夫だと思いますけどね」
「そっかぁ、僕達は吉報を待つしかないね」
「ですね」
この日が、後に令和事変と言われる芸能界の再編成の始まりの日であった。
いや、まあ芸能人関係は出てきませんから!ワンチャンあるのは俺のお気に入りの水野愛くらいでしょうか!