ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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あ、明日は二話投稿します!


第1045話 令和事変

 社乙会、メイドの会と、関東で立て続けにイベント事が開催されている頃、

ソレイユ社長、雪ノ下陽乃一行は京都の地を踏んでいた。

主なメンバーは、陽乃、レヴェッカ、ガブリエル、祐吾、アルゴ、ダル、

更にそこに、元ラウンダーのメンバー達が、ソレイユ警備部の格好で加わる。

要するに、ソレイユの非合法活動を支える者達が、萌郁以外は全て一同に会している状態だ。

その最初の訪問先は、結城病院である。

 

「知盛さん、お久しぶりです」

「これは雪ノ下社長、ようこそお越し下さいました、こちらへどうぞ」

 

 陽乃を応接室へと案内する為、知盛自ら先頭に立ったが、

その周りは一見しただけでは分からないが、

見る者が見たら明らかに武装している者達が完璧に固めている。

 

「さすがにものものしいですね」

「ええ、まあ一応ですわ、一応」

「うちの名前もいくらでも出して頂いて構いませんので」

「ありがとうございます」

 

 そんな思わせぶりな会話を交わした後、陽乃は知盛にいくつかのデータを提示し、

それを見た知盛は、一瞬眉をひそめたあと、すぐに明るい顔をした。

 

「なるほど、これなら問題なくいけます、いえ、やってみせます」

「良かった………これでまた一人救えますね」

「いえいえ、もっと沢山の人達が救えますよ」

 

 知盛は嬉しそうにそう言い、陽乃も顔を綻ばせた。

その時部屋の外に立っていたガブリエルがドアをノックし、顔を覗かせた。

 

「どうしたの?」

「社長、ゴインキョがこちらに向かってきています」

「え?ご隠居って清盛さん?」

「はい」

「ええっ?親父が!?」

「中に入って頂いて宜しいですか?」

「もちろんよ、というかどうしてここにいるのかしら」

 

 この話し合いに、清盛の参加は予定されていなかったのである。

そして少ししてからガブリエルが、部屋の前に到着した清盛を室内に招きいれた。

 

「ふむ、訓練されたいい兵じゃの」

「キョーエツシゴク」

「ほっほ、中々の武者っぷりよな」

「じいさん、それはあたしの兄貴だぜ」

 

 そんな清盛に、レヴェッカが気安く話しかけた。

二人はゾンビ・エスケープでチームを組んでいるのでとても仲がいい。

ちなみに今『千葉デストロイヤーズ』に登録されているメンバーは、

ハチマン、モエカ、ラン、レヴィ、ハル、キヨモリの六人である。

 

「ほう?なるほど、それなら納得じゃ」

 

清盛のカブリエルに対する評価は上々のようだ。

そしてガブリエルは一歩下がり、前に出た清盛は、最初に知盛の表情をじっと見つめた。

 

「ふん、その顔だと今回も上手くいきそうじゃの、

いいか知盛、死ぬ気で頑張るんじゃぞ、というか死ね」

「親父さぁ、激励するにしても言い方ってもんがあるでしょう」

 

 知盛が清盛にそう苦言を呈したが、清盛は当然スルーである。

その表情は厳しいものであったが、陽乃に向き直った瞬間に、清盛は顔を綻ばせた。

 

「陽乃さん、元気そうで何よりじゃ」

「清盛さんもお元気そうで何よりですわ」

「ふぉふぉふぉ、小僧が儂をこき使ってくるからの、老け込んでる暇がないんじゃよ」

 

 そう文句のような事を言いながらも、清盛はとても嬉しそうであった。

この清盛、八幡の事が好きすぎである。

 

「親父は絶対に、日本人の最高齢まで生きそうだよね………」

「ふん、それくらいは当たり前じゃ、

小僧の子供達が成人するくらいまでは、毎年お年玉をくれてやりたいからの」

 

 清盛が言うと、本当にそうなりそうなのが恐ろしい。

ちなみにその中には当然優里奈と藍子と木綿季も含まれており、

今年は既にかなりの額を準備済のようだ。スリーピング・ナイツの他の者達に関しては、

まだ親が健在な為、今のところはその数に入っていない。

 

「で、親父は何でこっちにいるの?」

「そんなの決まっとる、陽乃さんの護衛に加わる為じゃ」

「ええっ?」

「そ、そうなんですか?」

「おう、この後色々回るんじゃろ?その時に儂がいた方が、何かと都合がいいじゃろうしな」

「それはそうですが………」

 

 さすがの陽乃もこの事は想定していなかったらしく、やや迷いを見せたが、

どう見ても清盛が引きそうにないので、その申し出を素直に受ける事にした。

 

「分かりました、お願いします」

「おう、任されたわ。というか陽乃さんも遠慮なんかせず、

こういう時はいくらでも儂をこき使ってくれていいんじゃよ?

何せ儂は、もう老い先短い爺いじゃからの」

「さっきと言ってる事が違う………」

 

 知盛は呆れたが、当然それもスルーである。

 

「さて、それじゃあレヴィの嬢ちゃん、それにそっちの………」

「ガブリエルです」

「ガブちゃんな、あとそこのでかいの」

「天王寺祐吾と申します」

「ユーゴな、四人で護衛のフォーメーションを相談するとしようかの」

 

 清盛が最後に声をかけたのは天王寺祐吾だった。

この辺りの実力者の見極めっぷりはさすがである。

四人は部屋の隅で相談を始め、その間に陽乃達も、手術関連の相談を始めた。

そう、今回陽乃が京都の結城病院を訪れたのは、

ノリこと山野美乃里の手術に関する話をする為であった。

先日話題になっていたのが、遂に本格化したという事である。

同時にシウネーこと安施恩の薬に関する状況の説明も行われ、

自分も知らないその情報の緻密さに、知盛は舌を巻く事となった。

 

 

 

「それじゃあそういう事でいこうかの」

「はい、防弾チョッキもすぐに用意させますので」

 

 護衛組の相談が終わったのを見て、陽乃がそちらに声をかけた。

 

「あ、清盛さん、ついでにちょっと変装をしてみない?」

「変装じゃと?」

 

 その陽乃の申し出に、清盛は楽しそうな顔をした。

 

「ほうほう、何の為にじゃ?」

「相手の絶望を深くするには、こっちの鬼札は最初は隠しておかないとでしょう?」

「確かにそうじゃな、それじゃあ適当に見繕ってくれい」

「任されましたわ」

「くっ、くくっ………」

「ふふっ、うふふふふ」

 

 そう笑い合う二人の様子は悪役そのものであったが、

実際この後に訪問する予定になっている場所は敵地な為、

他の者達にとってはその姿は実に頼もしく映った事だろう。

 

「そっちの話し合いも終わりかの?」

「ええ、後はダル君にお任せですわ」

「ま、任されました!」

 

 どうやらダルは、この後行く場所には同行しないようである。

 

「ボス、オレっちは腹が減ったぞ」

「そうね、ちょっと早いけど、お昼にしましょうか」

「場所はもう決まっとるのか?」

「いいえ、まだですわ」

「それなら儂がいい店を紹介しようかの」

「ありがとうございます、お言葉に甘えます」

 

 そして一同は去っていき、残されたダルに、知盛が言った。

 

「それじゃあ僕達もお昼にしようか、

といっても出前にするつもりなんだけど、それでいいかい?もちろん僕が奢るよ」

「ゴチになります!」

 

 二人はそのまま部屋に残り、注文を済ませたあと、

大声を出さないように気をつけながら雑談に入った。

 

「陽乃さん達は、この後何件回る事になってるんだい?」

「今日は二ヶ所です、いきなり本丸を攻める予定ですお」

「本丸………か、攻め手の方は足りてるのかい?」

「余裕ですね、元々芸能関係なんてスキャンダル塗れですし、

お金の流れについてもまあ、裏帳簿から何から全部入手済みです」

「さすがだよねぇ………」

「まあうちはその辺り、かなり増強してますから」

 

 相手が目上の人物な為、ダルはかなりまともな喋り方で受け答えをしていた。

もし八幡がここにいたら、お前、そんな喋り方も出来たのかよ、と驚いた事だろう。

 

「しかし今のソレイユに喧嘩を売るなんて、彼らも馬鹿な事をしたもんだよね」

「まあ来年から、いくつか事務所を買収した事もあって、

大物がかなりソレイユ・エージェンシーに移籍する事になりましたから、

気持ちは分かります」

「へぇ、そんな大物が?例えば?」

「スイートバレット、ワルキューレ、フランシュシュ、イノハリ、

それに御影クリヤ、蛎崎うにとかの若手が続々と移籍を希望してますお」

「うわ、それは凄いね、音楽関係は無敵じゃないか」

「若手俳優さん達もどんどん名乗りを上げてるんで、この流れはもう止まりませんね」

「そりゃ各方面を敵に回す訳だわ………」

 

 そう、今回の陽乃の京都入りのもう一つの目的は、

関東で勢力を伸ばすソレイユにちょっかいを出してきている、

関西の芸能界事務所とその裏に蠢く裏社会の連中を、

まとめて潰す、もしくは()()して穏便に着地させる事であった。

その為の準備は以前から着々と進められ、今はもう完了していたが、

陽乃は八幡に泥を被らせない為、今回この役目を自分が全て引き受ける事にしたのである。

 

「むぅ、でも心配だなぁ、親父はどうでもいいとして、他のみんなが」

「まあ確かにリスクはありますけど、元傭兵もいますし、

ソーシャルカメラも事前に仕込んでおいたんで、大丈夫だと思いますけどね」

「そっかぁ、僕達は吉報を待つしかないね」

「ですね」

 

 この日が、後に令和事変と言われる芸能界の再編成の始まりの日であった。




いや、まあ芸能人関係は出てきませんから!ワンチャンあるのは俺のお気に入りの水野愛くらいでしょうか!

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