ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

1054 / 1227
せっかくのGWですし、すぐにもう一話投稿します!


第1046話 正しい判断

「ふう、食った食っタ」

「それじゃあ行きましょうか」

「アポはとってあるのかえ?」

「もちろんですわ、きっと()()してくれる事でしょう」

「………陽乃さんは肝が座っとるの」

「ふふっ、彼の望みを叶える為ですもの、これくらいはどうって事ないですわ」

 

 そう、今回の事の発端は、結局八幡がそれを望むから、という事に他ならない。

もちろんいくらソレイユでも不可能な事はあるが、

今回は可能だからやる、ただそれだけなのである。

 

「それじゃあ最初のお宅にレッツゴー!」

 

 そして一同は動き出し、最初の訪問先へとたどり着いた。

そこは郊外にある豪邸であり、門の前をいかつい男達が守っている。

門の横には『藤原』と書いてあった。

 

「いかにもって感じよねぇ」

「気にする事はないぞい、こやつらはただのチンピラじゃ」

 

 車を降りた後、そいつらが絡んでくるかと思われたが、

その男達は意外にも、丁寧な態度でこちらに接してきた。

 

「大変失礼ですが、ソレイユの雪ノ下様で宜しいですか?」

「あら、予想外に礼儀正しい」

「じゃのう、まったく忌々しい」

 

 清盛は何故かその礼儀正しさが気に入らないようだ。

そして陽乃はその男達に笑顔で返事をした。

 

「ええ、それで合ってるわ」

「お待ちしておりました、私共がご案内します、こちらへどうぞ」

「ありがと」

 

 陽乃はその男達の後を、堂々と付いていった。

奥の部屋にでも案内されると思ったのだが、予想に反して男達は、庭の方に向かっていく。

 

「こっちでいいの?」

「はい、会長からは、あそこの縁側に案内しろと仰せつかっています」

「へぇ、面白いわね」

 

 陽乃はその予想外の対応に興味津々な顔をした。

 

「あちらです」

 

 見ると縁側にはこちらに手を振っている老人がおり、

陽乃はそちらに手を振り返すと、その老人に呼びかけた。

 

「こんにちは!」

「これはまたとんでもない美人さんが来たもんだ、こんにちは、ソレイユのお嬢さん」

 

 その老人は実ににこやかにこちらに微笑み返してきた。

 

「あの、ボディチェックとかはしなくていいんですか?」

 

 相手が何も言わず、このまま近くまで行けてしまいそうだった為、

陽乃は逆に自分からその老人に尋ねた。

 

「いらないよ、さあ、これからの話をしようじゃないか」

 

 老人は鷹揚にそう言い、陽乃はその言葉に応え、老人の隣に腰を下ろした。

 

「何か拍子抜けです、もう少し揉める展開を期待してたんですが」

「いや、さすがのうちも、おたくと正面からやりあったら潰れてしまうよ」

「そうですか?案外いけるんじゃないですか?」

「その手には乗らないよ、君達からすれば、出来るだけ多く潰したいというのは分かるがね」

 

 その老人は陽乃の挑発めいた言葉にも笑顔でそう答えるだけで、

決してこちらに敵意を向けようとしなかった。

 

「それじゃあ改めて、私は藤原義経だよ、宜しく」

「雪ノ下陽乃です、宜しくお願いします」

 

 二人は挨拶を交わし、ここでの話し合いは和やかな雰囲気で始まった。

 

「最初にうちが関係しとる者達の移籍の話だが、それは全て無条件で認める事にしたよ」

「いいんですか?」

「ああ、おたくから働きかけたんじゃないって事が分かったからね」

 

 事実、ソレイユは移籍の勧誘などはしていない。

待遇の良さが伝わって、口コミ的にその話が広がっただけである。

 

「それでいいんですか?」

「もちろんだよ、何も言ってないのに出て行かれるってなら、

悪いのは当然出て行かれた方さ。うちとしては、そちらを詰める事になるだろうね」

「なるほど、話が早くて助かりますわ。でもそれじゃあうちがもらいすぎですし、

会場警備や諸々については、今後もそちらにお任せするという事で」

「いいのかい?それは助かるね」

「こちらとしても、禍根を残すのは本意じゃありませんので」

「今後とも友好的でいられればいいね」

 

 そう言って二人は握手をした。拍子抜けするくらい、スムーズな解決である。

 

「なんじゃい、つまらんつまらん」

 

 その時清盛が、いきなり変装を解いて義経の隣に座った。

 

「おや、清盛じゃないか、まだ生きてたのか?」

 

 義経が清盛にそう声をかける。どうやら二人は知り合いのようだ。

というか実は幼なじみの喧嘩友達であった。

そんな関係の者も最悪切り捨てようとしていたのだ、清盛の本気度が伺える。

 

「ふん、お主、今回は命拾いしたのう」

「………もし突っ張ってたらどうなってた?」

「そんなの簡単じゃわい、明日の今ごろは、

ここの敷地内を警察が我が物顔で歩き回ってたじゃろうて。」

「一応うちは、そっちにも顔が利くんだがね」

「それも踏まえて言っとるんじゃ、分かるじゃろ?」

「………なるほど、怖い怖い、うちもそろそろ変わらないといけない時期なのかもなぁ」

「むしろ遅いわい、今のうちの当主は二十二才の若造じゃぞ?」

「若造とか言いながら、随分嬉しそうじゃないかよ」

「ふふん、毎日楽しくて仕方がないわ」

 

 二人の話がひと段落したところで、陽乃は義経に挨拶をした。

 

「それでは細かいところは後日詰めるという事で、今後とも宜しくお願いします」

「おや、もう行くのかい?」

「ええ、この後もう一ヶ所、()()に伺わないといけない所がありまして」

「へぇ、もしかしてあそこかな?」

「ご想像にお任せしますわ」

 

 義経はその言葉に難しい顔をした。

 

「………これは備えておかないといけないな」

「そうじゃな、準備はしておくとええ、勢力拡大の最初で最後のチャンスじゃぞ」

「………分かった、感謝する」

「なぁに、感謝される謂れはないわい、あくまで主の選択の結果じゃ。

あとな、会長なら社長がやってる事くらい把握しとけ。

こっちの部下は教育出来ていても、そっちが駄目なら結局意味無しじゃ」

「………そんなにひどいのかい?」

「もし宜しければ、資料をお見せしましょうか?」

「すまないが、お願いしたい」

 

 陽乃の指示で、アルゴがPCを使って義経に説明を始めた。

 

「これは………」

「どうじゃ、儂が言ってた事の意味が分かったじゃろ?」

「これほどか………分かった、死ぬまでに大掃除してみせるさ」

「おう、主のバックの政治家はもう駄目じゃが、

ライバルも潰れるんじゃ、何とかなるじゃろ、まあ頑張れい」

「ああ」

 

 二人は感慨深げにそう言葉を交わした。

 

「それじゃあまたの、お互い年じゃし会うのはこれが最後になるかもしれんがの」

「ははははは、清盛はまだまだ殺しても死ななさそうじゃないか」

「ふふん、まあ地獄で先に待っとれ」

「ああ、それじゃあまたな」

 

 こうして最初の訪問は大成功に終わった。

義経は正しい状況判断で自らを救ったのだった。

 

「さて、次が本番よ、みんな、覚悟してね」

 

 陽乃は一同にはっぱをかけ、次の訪問先へと向かった。

 

 

 

「何じゃいお前らは」

「アポをとっておりました、ソレイユ社長の雪ノ下と申します」

「ああ、例の………」

 

 その応対してきた男は明らかな敵意をこちらに向けてきた。

 

「フン、こっちだ。おっと、付いてくるのは三人までだ、それ以上は許さん」

「そう、それじゃあ祐吾とレヴィはここに残って頂戴」

 

 陽乃の随員は、清盛とガブリエル、それにアルゴの三名となった。

こちらではボディチェックも行われ、カブリエルの銃が没収されたが、

清盛は仕込み杖を持っており、ガブリエルも特殊警棒は残される事となった。

アルゴのPCに関してはフリーパスである。

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

 そんな四人を出迎えたのは、蛇のような顔をした嫌らしい男であった。

 

「初めまして、ソレイユの雪ノ下と申します」

「私は秦頼朝と申します、宜しく」

 

 二人はにこやかにそう挨拶をし、陽乃は勧められるままソファーに腰を下ろした。

 

「で、早速ですが、今回の移籍の件、こちらとしては、

はいそうですかと認める訳にはいきません」

「まあ当然でしょうね」

「ですが、条件次第では認めてもいいと思っています」

「ほう?」

「条件はこちらに」

 

 頼朝はそう言って、一枚の紙を陽乃に差し出してきた。

そこにはソレイユから巨額の移籍金が支払われる事、

正式な移籍は一年後にもう一度本人の意思を確認してからにする事、

それまでのマネジメントについて、ソレイユが一切口を出さない事、

移籍に際して今の事務所での仕事内容については情報保護の観点から秘密とし、

もし漏れたら巨額の賠償金を支払う義務を負う事、と書かれていた。

 

「その条件で良ければ、うちとしては認めるのもやぶさかではないと思っています」

 

 陽乃はその紙を黙って見た後、じっと頼朝を見つめた。

 

「………何かご不満でも?」

「いいえぇ、ただ、その一年で女の子達にどんな脅しをかけるのかなぁって思いまして」

「脅す事なんてしませんよ、ただ()()()()()はあるかもしれませんが、

それはうちとはまったく関係ない事ですよね」

「そうですね、不幸な事故ってのはよくある事ですから」

 

 陽乃は笑顔を崩さず、懐から一枚の紙をそっと取り出した。

 

「それは?」

「さっきここの入り口で拾いましたの、こちらの落とし物かなと思ってお届けしようかと」

「それはどうも」

 

 そう言って頼朝はその紙をチラっと見て、顔色を変えた。

 

「こ、これは………」

「あら、何か書いてありましたの?」

「………なるほど、そうきますか」

「何の事やらさっぱりですわ」

 

 その紙に書かれていたのは裏帳簿の内容であった。

ただしいつでも切り捨て可能な別会社名義となっており、

こことその会社との繋がりは、巧妙に隠されている。

 

「どうやら何かの帳簿のようですが、まあうちには関係ありませんね」

「あらそうでしたの、どうしてそんなものが落ちてたのかしら」

「さあ、謎ですね」

 

 この時点では、蛇男はまだまだ余裕そうである。

 

「ところであなたに枕営業を強要されたって申し出ている子達がいるんですけど、

何か把握してらっしゃいます?」

「ははっ、支援者の方との懇親会程度でも、そう言って騒ぐ子はいますからね」

 

 一切証拠は残していないという確信があるのだろう、

そう答える頼朝の顔は自信に満ち溢れていた。

 

「ああ、確かに最近の子は大げさですものね」

「そうなんですよ、まったく困った事です」

「お互い苦労しますわよねぇ」

「いや、まったくです」

 

 その時陽乃がチラリと時計に目を走らせ、こう呟いた。

 

「そろそろかしらね………」

「………何がです?」

「いえ、そろそろあなたに電話があるんじゃないかなって」

「え?」

 

 その予言通り、蛇男の携帯が鳴った。その表示されている名前は、

彼の支援者である大物政治家からであった。

 

「どうぞ、遠慮なく出て下さいね」

「い、言われなくても!」

 

 そして蛇男は電話に出たが、相手は一言言って電話を切ったようで、

通話時間は一瞬であり、蛇男は呆然とした顔をした。

 

「お、お前、一体何をした!?」

「さて、何でしょう?」

 

 その瞬間に陽乃の雰囲気が豹変した。




今日は十二時にもう一話投稿します!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。