そして次の日も、二人は頑張ってサンタ服を配っていた。
「しかしここまでは、頭のおかしな改造が少なくて本当に良かったよ………」
「クルスさんの全身紐にしか見えないサンタ服には困ったよね」
そう、クルスは肝心な部分だけもこもこで隠し、
他は全部紐というデザインを最初に持ち込んできていたのだ。
それは八幡自身が防いだ為に何とかなったが、
もしそうでなかったら、二人はクルスに押しきられていたかもしれない。
ちなみに説得の結果、クルスが着るのはチアリーダー風サンタ服という事で落ち着いている。
「雪乃のネコサンタとかは簡単だったんだけどね」
「ネコ度が高かったけど、個性的だよねぇ」
「個性的で済めばいいんだけどね………」
だがここからは、その過剰改造組が多く訪れる事となった。
理事長が、『大人の魅力溢れるサンタ服』を、
フェイリスが『悪の女幹部風サンタ服』を、
レヴェッカが『アメリカンポリス風サンタ服』をそれぞれ取りに来た後、
藍子と木綿季が『双子の天使風サンタ服』を取りに来た。
「………今だけでどっと疲れたわ」
「あは、凄かったねぇ」
「えっと、残るは………」
「こんにちは!」
「あっ、いらっしゃい!」
そこにやってきたのは香蓮であった。
香蓮は美優や舞とは別に、一人でコソコソと来たようで、
周囲の目を気にしながら二人に話しかけてきた。
「こ、こんにちは、例の物、どうですか?」
「そんなにこそこそするようなデザインじゃないと思うんだけどなぁ」
沙希は自分と同じ体型という事もあり、香蓮の選択には密かに注目していた。
「で、でも私、普段は普通のミニスカートってあんまり履かないし………」
香蓮は基本、ロングスカートか、タイトスカートのやや長めなものを着用する事が多い。
だが今回香蓮が選んだのは、胴と腕の部分が独立しているオフショルダーのサンタ服と、
下はまったく普通のミニスカートであった。香蓮的にはかなり攻めたチョイスである。
ただサイズの問題があり、こうして直しの依頼があったのである。
「待ってね、今見せてあげる」
沙希は香蓮の想定される姿を画面に映し出した。
「うわぁ」
「こ、これは思ったよりも素敵ね………」
「ほ、本当に?」
そこにはスラッとした肢体を持つ、美しいサンタが映し出されていた。
スカートがやや短く感じるが、足の長さがその分強調されているので、
全体として見れば問題ないレベルだといえる。
「こ、これが私?」
「うん、やっぱり香蓮はスタイルいいね」
「う~ん、個人的にはもうちょっと胸が欲しいんだけど」
「そこまでいったら完璧すぎてやばいって。それなりにあるんだから十分だと思うな」
「あっ、コヒー、ここにいたのか!」
「み、美優!?」
「こんにちは!」
そこに美優と舞がやってきた。
「あれ、コヒーはもう受け取ったんだ、どんな感じにしたの?」
「わ、私のはいいじゃない、美優と舞さんも早く受け取りなよ」
「怪しい………」
そう言いつつも、美優も舞も自分達がどんな格好になるのか気になったようで、
『お姫様に化けられる風のサンタ服』と、『ハンター風サンタ服』の出来栄えに、
二人できゃっきゃうふふしていた。
「それじゃあ私達はこれで………」
「あっ、待てよコヒー、結局コヒーはどんなのにしたんだ?」
「あ、明日になれば分かるから!」
そして香蓮は逃げ出し、二人はその後を追っていった。
「う~ん、ここまででいうと、香蓮がベストドレッサー?」
「それかアスナさん?」
「せめてクルスがまともならねぇ………」
二人はそんな会話を交わしつつ、どんどん服を納品していった。
「さて、後は………」
「ご、ごめんなさい、遅くなっちゃいました」
「あっ、麻衣さん!」
最後に残ったのは、女優の桜島麻衣のサンタ服であった。
そのチョイスはまさかの『バニーガール風サンタ服』である。
「………ねぇ麻衣さん、どうしてこのデザインにしたの?」
「う~ん、咲太がどうしてもこれがいいって言うのよね………」
「うわ、麻衣さん、それは別れる事も検討した方が良くない?」
「そのつもりはないけど、一応いじめておいたわ」
「あは、まあそれならいいのかな」
「でも何となくしっくりくるのは確かなのよね、何でだろ………」
その理由は誰にも分からない。
「それじゃあちょっとこれで見てみる?」
「あっ、ごめん、その前に、突然で悪いんだけど、
友達の服の直しだけお願い出来ないかな?ちょっとほつれさせちゃったみたいなの」
「あ、うん、大丈夫かな」
「良かった、愛ちゃん、こっち!」
そして入り口から一人の女性が姿を現し、沙希とまゆりはあっという顔をした。
「は、初めまして、水野愛です」
そこにいたのは今度ソレイユに移籍する事になり、
同時に佐賀県のご当地アイドルユニットから全国展開する事になった、
『フランシュシュ』のメンバーである、水野愛であった。
「よ、宜しくお願いします」
「あっ、はい」
その隠しきれないアイドルのオーラに気圧されながら、
沙希とまゆりは手渡されたサンタ服を調べ、そのほつれを直していった。
エルザも麻衣も美人だが、アイドルという訳ではなく、
麻衣の妹の豊浜のどかとはあまり接点が無い為、
二人にとって、アイドルのカテゴリーにある者とこうして顔を合わせるのは、
ほぼ初めての事なのである。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃあ麻衣さん、これを見てみて」
「どれどれ………あっ、凄い!」
そこにはバニーガール風サンタの麻衣が見事に映しだされていた。
「これもソレイユの製品?」
「うん、試作品らしいよ」
「へぇ、凄いなぁ」
「あ、試しに愛さんも、この格好をしたらどうなるか見てみる?」
「はい、是非!」
その沙希の勧めに従い、愛の仮想バニーガール姿が画面に映し出される。
「うわぁ、何かエロい」
「麻衣さんの方がエロいです!」
「いやいや麻衣さん、これはかわいいと言うべきだろ」
「う~ん、まあ確かにそうかもだけど………って、八幡さん?」
「八幡?」
「えっ?」
いつの間にか、そこには八幡が立っていた。
音のしない歩き方をするのが癖になってしまっているせいで、その事に誰も気付かなかった。
「き、きゃぁ!」
愛は反射的に八幡の頬をひっぱたこうとし、当然のように、八幡にあっさり避けられた。
そのせいで体勢を崩した愛は、思いっきり前につんのめったが、
そんな愛のお腹の部分を八幡が咄嗟に支え、倒れないように助けてくれた。
「ごめんな、今度はちゃんと叩かれるようにするから」
愛を優しく見つめながらそう言う八幡の姿に、愛は思わずドキリとした。
(私が悪いのに、こんな事言われたの初めて………)
「こ、こちらこそごめんなさい」
「愛ちゃん、こちらはソレイユの次期社長の比企谷八幡さんよ、
八幡さん、こちらはフランシュシュの水野愛ちゃん」
「もちろん知ってるさ、ようこそソレイユへ、
これからはうちがしっかりあなた達のサポートをしますので、
全国の野郎共をどんどん魅了しちゃって下さい」
「あっ、は、はい!」
愛はそれからしばらく八幡の顔を、ぽ~っと眺めており、
麻衣や沙希は、これはまさかかもと内心で思っていた。
「しかし麻衣さん、ちらっと聞こえたけど、咲太ってそういう奴なのか?」
「うん、八幡さんよりずっとエロいんじゃないかな」
「そうかそうか、うん、俺は全然エロくないからな」
「いや、あんたは高校の時からムッツリでしょ」
「何だとサキサキ」
「サキサキ言うな」
「じゃあカワサキサキ」
「それ昨日明日奈がやった」
「マジかよ、ネタをパクられた!?」
「あはははははは」
そんな感じで楽しく会話が続いていたが、その時愛のお腹が鳴った。
くぅ~。
愛は思わず赤面したが、
八幡はまるで自分の腹が鳴ったかのように自分の腹を押さえながらこう提案してきた。
「いやぁ、腹が減ったわ、もうこんな時間だし、
良かったら俺の奢りで飯でも食いに行くか?」
「あ、私達はちょっと約束が………」
「うん、紅莉栖ちゃんと約束があるのです」
「そうか、サキサキとまゆさんは無理か、麻衣さんはどうする?」
「私は行けるかな。愛ちゃんも一緒に行くよね?」
「えっ?よ、予定は無いですけど」
「なら行きましょう、その方がきっと楽しいわ」
「は、はい」
「とはいえ普通の店に行って、おかしな勘繰りをされたら困らない?」
「「確かに………」」
その沙希の言葉に麻衣と愛は頷いた。
「それじゃあ『ねこや』にしない?私もたまに使ってるし、
愛ちゃんもいずれ利用する事になると思うから」
「ああ、確かにあっちの食堂よりもねこやの方が美味いもんな。愛さんもそれでいいかな?」
「は、はい、興味があるのでお供します!」
こうして三人は、ねこやに向かう事となった。
出るとすればうんぬんと俺が言った時は大体出てしまう法則発動………
まあ他のメンバーも出るかもしれませんが、あるとしても愛に突っ込むだけの役という………