ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1054話 クリスマス会~愛side

 明日奈と愛の様子を不穏に感じたのか、

フランシュシュの他のメンバーがこちらに駆け寄ろうとしてくる。

だが愛はそれを制し、差し出された明日奈の手をしっかりと握り締めた。

 

「みんな、平気だから」

 

 そのまま愛は、明日奈に連れられて八幡の姿が見える位置へと移動した。

 

「さてと………」

「あの、教えてくれる事って………」

「ちょっと待ってね、今ガードをつけるから」

「ガ、ガード?」

 

 きょとんとする愛の前で、明日奈はどこかに連絡を入れた。

そしてすぐに、二人の男女がこちらにやってきた。

 

「明日奈、どうした?」

「何か事件かい?」

 

 その二人はいかにも強そうな外人で、愛は圧倒された。

 

「大丈夫だよ」

 

 明日奈は愛にそう言うと、その男女、ガブリエルとレヴェッカにこう言った。

 

「二人とも、この子は新しい子なの。私が説明を終えるまで、少しガードをお願い」

「おう、そういう事か、よし、俺達に任せな!」

「なるほどね、任されたよ」

 

 二人はそう言って、明日奈の左右を固めた。

 

「あの………」

「大丈夫、二人ともあなたの新しい仲間だよ」

「私の………仲間………」

 

 愛はその言葉に納得したような顔をし、三人に向かってこう言った。

 

「私は水野愛です、これからは私の事、愛って呼んで下さい」

「分かったよ、愛」

「オーケー、愛だな」

「愛、今後とも宜しく」

 

 そう宣言してみると、先ほどまで感じられた二人からの威圧感は、一瞬で無くなっていた。

 

(あ、これ、フランシュシュのみんなと打ち解けた時の感覚に似てる)

 

 愛はそう思い、リラックスしながら明日奈の言葉に耳を傾けた。

 

「最初に誰が味方なのか、説明しておこうか、って言ってもここにいる人は全員、

実は八幡君の味方なんだけどね」

「ぜ、全員ですか?」

 

 政財界の大物から、ソレイユの社員、それに八幡の仲間達、

ここにいるのは八幡の味方ばかりである。

 

「うん、だから名前は無理でも、顔くらいは覚えておくといいよ」

「うん!」

 

 愛は頑張ってこの場にいる者の顔を覚える事にした。

 

「さて、次に実際に仲間として動く事になる人達を紹介していくね。雪乃!」

 

 明日奈に呼ばれ、雪乃はこちらにやってきた。

 

「明日奈、どうしたの?」

「雪乃、この子の事知ってる?」

「ええと………ああ、フランシュシュの水野愛さんかしら、

初めまして、私は雪ノ下雪乃よ」

「よ、宜しくお願いします」

 

 その名前から、おそらく社長の一族なのだろうと推測した愛は、

やや緊張しながらそう挨拶をした。

 

「ふふっ、そんなに固くならなくていいのよ、で、明日奈、彼女がどうしたの?」

「うん、彼女、ヴァルハラの新人になる予定だから」

「あら、そうなの?」

「うん、そういう事」

「なるほど………で、私はどうすればいいのかしら」

「みんなの事を紹介しておきたいから、どんどんここに連れてきて欲しいの。

で、同時にALOでの姿を彼女が見られるようにしてほしいんだよね」

「なるほど分かったわ、私に任せて」

 

 そう言いながら、雪乃は最初に自分とアスナの姿を愛に見せた。

 

「これが私、名前はそのままユキノよ、そしてこれがアスナよ」

「あっ、はい!」

 

 次にユキノはレヴィとサトライザーの姿を愛に見せる。

 

「そしてこれがレヴィ、こっちがサトライザーね」

「こっちでの名前はレヴェッカ・ミラー、こっちが兄貴のガブリエル・ミラーだ」

「はい!」

「まあ後で詳しい資料を渡すから、ここで覚えられなくても気にしないで頂戴ね」

 

 それから続々と仲間達がこちらに顔を出した。愛も驚いたが、向こうもこちらを見て驚く。

 

「え、マジかよ」

「和人、いい加減に慣れなさいよ、八幡はそういう生き物なの!」

「あ、あの愛さん、後でサインをお願いしますね!」

「嘘、本物?」

「あら、愛ちゃんじゃない、これからは仲間だね」

「ふふっ、覚悟が出来たみたいね」

「八幡の奴、相変わらずだよなぁ………」

「これから宜しくな」

「お会い出来て光栄です!」

「あ~………まあ、八幡なら当然か」

「さっすがリーダー、まさかのアイドル来たぁ!」

「むむっ、前世の因縁を感じるのニャ」

「ふ~ん、これから宜しくね」

「お、お兄ちゃんはまったく………」

 

 八幡の同級生の三人組を始めとして、

麻衣はともかく、神崎エルザまでもが仲間だったと知った愛はかなり驚いた。

そこから全員に挨拶を終えた愛は、今度はその規模の大きさに驚いた。

 

「あ、あの、ゲームってこんなに大人数でやるものなんですか?」

「ああ、愛はMMOはやった事がないのね」

「えむえむお?」

「ふふっ、まあ後で体験してみればいいわ」

「あっ、はい!」

 

 次に明日奈は自分が知る限りの八幡の人生を愛に説明した。

愛はその凄まじさに慄然としながらも、その全てを事実として、淡々と受け入れた。

合間合間に八幡に今挨拶している者の説明が入る。おかげで愛の脳はオーバーヒート寸前だ。

 

 そしてそこまで説明を終えた頃に、ゲーム大会が始まった。

 

「はい、残りの説明は後で資料を見てね、ここからは本気の勝負だよ!」

「本気!?」

「うん、あの景品の中に、ひとつ特別なものが含まれててね、

ここにいる女の人は、ほとんどがそれを欲しいはずだよ」

「そ、そうなんだ………」

 

 行われたのは普通のビンゴゲームだったが、

当たった者から好きな景品をもらえるシステムとなっており、

景品が順に発表されていくに連れ、場はどんどん盛り上がっていった。

 

「世界一周旅行、最新型のAI家電、超高性能PCに現金百万円に車!?」

 

 愛は景品が公開される毎に眩暈を覚えていたが、

明日奈の反応が鈍い為、特別な景品というのが何なのか、とても気になっていた。

 

「あ、明日奈さん、景品って………」

「しっ、次が最後だよ」

「って事はつまり………」

 

 愛は慌てて景品の目録を読み上げている陽乃の方を見た。

 

「それじゃあ最後の景品の前に………………やりなさい!」

「え?」

 

 陽乃が突然そんな事を言い、愛はきょとんとしたが、

直後に客席から、八幡の悲鳴が聞こえてきた。

 

「おいこら馬鹿姉、何をしやがる!」

「は~い、八幡君の拘束を終えた所で最後の景品を発表しまっす、

それでは景品さん、どうぞ!」

『べ、別に好きで景品をやってるんじゃねえぞ』

「はい、ありがとうございま~す、最後の景品は………」

 

 陽乃は思いっきり溜めた後、拳を突き上げてこう叫んだ。

 

「デレまんくん二号機よ!」

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」

 

 その瞬間に、ビル全体が女性陣の叫び声によって揺れた。文字通り本当に揺れた。

 

「あ、明日奈さん、あれは!?」

「ふふっ、あれが八幡君の人格を模したAI搭載型ぬいぐるみ、デレまんくん二号機だよ!」

「おおおおお!」

 

 愛はよく分かっていなかったが、体の奥から沸きあがってくる興奮を抑えられず、

他の者達同様叫び声を上げた。

男性陣は、そんな女性陣相手にドン引き状態だったが、

この場では完全に女性上位な為、誰も何も言う事が出来ない。

 

「おいいいいいいいい?馬鹿姉、何だそれは!

しかも二号機だと?一号機はどこだ!ってかいつの間にそんな物を開発してやがった!」

 

 ただ一人、八幡だけが絶叫していたが、そんな八幡に救いの手が差し伸べられる事はない。

 

「はい、外野はほっときましょう!それじゃあゲーム開始!みんな、奪い合え!」

 

 こうしてガチで本気のビンゴゲームが始まり、乙女達は目を血走らせながら、

コールされた数字の穴を一つずつ開けていった。

 

「開け、開け!」

 

 今回は中央もフリーではなく、本当にガチの勝負となっていた。

さすがにストレートで開く者はいなかったが、

八個目、九個目と進むに連れ、遂にリーチがかかる者が現れた。

 

「リイイイイイイイイイチ!」

 

 それは黒髪が綺麗な二十代後半の女性であり、愛はかなり焦った。

 

(う………私は早くてもあと二つだ………)

 

 そして次のナンバーがコールされた瞬間に、その女性が叫んだ。

 

「来たあああああ!ビンゴぉ!」

「よし、リーチ!」

 

 愛の目の前は真っ暗になったが、その女性はつかつかと景品に歩み寄ると、

躊躇いなく世界一周旅行を手にした。

 

「新婚旅行、ゲットだぜ!」

「おめでとう!」

「先生、行ってらっしゃい!」

「遼太郎、これで新婚旅行の資金が浮いたな!」

「お幸せに!」

 

 どうやらその女性は結婚間近なようで、

そのお相手は、先ほど紹介された中の男性の一人であった。

 

(あ~、確かクラインさん、だっけ?良かったぁ………)

 

 だが愛はリーチまであと二つもあり、まだ予断は許されない。

ただ先にリーチがかかっているのが男性である為、その点に関しては、愛は安心していた。

 

「さて、次は………十五!十五です!」

「あっ、リーチ!」

「こっちもリーチ!」

「私も!」

 

 ここで一気に三人にリーチがかかった。愛はその中の一人である。

他にリーチがかかっているのは、美しい黒髪でスタイルのいい女性と、

もう一人は………明日奈であった。

 

「さあ、盛り上がって参りました!次の数字は………七、七です!」

「ビンゴ!」

「うわあああああああ!」

 

 愛は思わず叫んでしまったが、明日奈は何故か、平気そうな顔をしていた。

 

「あ、明日奈さん?」

「ああ、大丈夫大丈夫、クルスはもう、同じのを持ってるから」

 

 そう、勝ったのはクルスであった。クルスはつかつかと車に歩み寄り、

躊躇いなくそのキーを手にとった。

 

「この車で八幡様と二人きりでドライブに行くぞおおおおおお!」

 

 クルスは高らかにそう宣言し、場は羨ましそうな雰囲気に包まれた。

だがその時八幡が、クルスに突っ込んだ。

 

「おいマックス、まさかお前………」

「は、八幡様、どうしました!?」

「お前がデレまんくんとやらを選ばないなんて………」

「ギクッ」

「ま、まさかお前、もう既に………」

「うわああああああ!」

 

 クルスはその整った外見とは裏腹に、とても情けない表情で逃げ出した。

 

「あっ、マックス、こら、待て!」

「ごめんなさい、待てません!」

 

 そして場に笑いが起こった。

 

「さて、ちょっとトラブルがありましたが、気にせずいきましょう!

次の数字は………八!八幡君の八です!」

「ビンゴおおおおおおおおおお!」

 

 愛は生まれて初めてそんな大声を出した。

ライブの時に張り上げる声よりもそれは大きく、

フランシュシュの仲間達は、愛が壊れてしまったのかと驚いた顔をした。

 

(やった、やった!)

 

 愛は喜びに胸を焦がしていたが、その視界に落ち込む明日奈の姿が映った。

 

「あ、明日奈さん………」

 

 そんな愛に、明日奈は微笑んだ。

 

「負けたわ愛、あれはあなたの物よ」

「明日奈さん………」

「さあ、いきなさい愛、そしてあれをその手に掴むのよ!」

 

 この明日奈、案外ノリノリである。もっとも明日奈はこの日の会が終わった後、

鬱憤を晴らすかのように、性的な意味で八幡に襲い掛かる事となる。

 

「分かりました、水野愛、いきます!」

 

 愛は明日奈の言葉に従い、景品の前に出ると、躊躇いなくデレまんくん二号機を手にした。

 

「取ったど~!」

「「「「「「「「「「おめでとう!」」」」」」」」」」

 

 女性陣からお祝いの言葉が投げかけられ、愛は喜びに包まれた。

 

「ありがとう!!!!!」

 

 こうして愛は、驚異的な運でデレまんくん二号機を手に入れる事となったのだった。




百万円は誰の手に………?

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