「明日奈の奴、一体どうしたんだ………?」
クリスマス会が始まった直後、八幡は明日奈の不審な様子に気付いていた。
だがこの場から動く事は出来ず、陽乃と一緒に来賓への対応をしていた。
「八幡さ~ん!」
「お、唯花か、化けたもんだなぁ」
「ふふっ、かわいい?」
「おう、かわいくていいな」
唯花は特に改造を施す事なく、黒サンタの格好で八幡の前に現れた。
その後ろにはファーブニルこと雨宮龍も居り、居心地が悪そうにしていた。
「龍は疲れた顔をしてるな」
「はい、庶民の僕にはちょっときつくて………」
「まあドンマイだ、とりあえず楽しんでくれよ」
「は、はい」
そして今度は出海が八幡にアピールを始めた。
その格好は唯花とお揃いの黒サンタであった。
「うふん、私はどう?」
「あ~、はいはい、かわいいかわいい」
「適当!?」
と言いつつも、出海も上機嫌であった。
そもそも二人はこういった大きな会に参加するのは初めてであり、
その豪華さに、心が沸き立つのが抑えられなかったのである。
「比企谷部長、お久しぶりです」
「あっ、山花専務、ソレイユへようこそ!」
続いて現れたのは、まさかの出海の母、レクトの専務である詩織であった。
その後ろには、明日奈の両親である彰三と京子、その息子の浩一郎がいた。
「彰三さんに京子さん、それに浩一郎さんまで、ようこそお越し下さいました」
「お義父さんと呼んでくれてもいいんだけどね」
「いやぁ、ははっ」
「私は理事長でもいいわよ、ふふっ、春から宜しくね」
「京子さん、気が早いわね」
「あら、朱乃さん」
そこに現理事長である朱乃が乱入してきた。
「理事長、その格好は………」
「あら八幡君、どう?大人の色気が凄いでしょ?」
「理事長にはサンタのカタログは送ってないはずなんですけどねぇ………」
「意地悪しないの!陽乃を脅し………じゃなくて、お願いして送ってもらったのよ」
「おい馬鹿姉、そうなのか?」
「お母さん、向こうでお父さんが寂しそうにこっちを見てるわよ」
陽乃が露骨に話題を逸らしにかかる。
「あらやだ、ちょっと失礼」
そう言って朱乃は夫である純一の所に走っていった。
「ははっ、それじゃあまた後でね、八幡君」
「はい、またです!」
続けて仲間達が、八幡にアピールしに現れた。
「せんぱ~い!」
「あれ、なぁいろは、それってうちの制服に似てないか?」
「ふふん、正解です!制服好きな先輩の好みに合わせてみました!」
「風評広げんなコラ」
「え~?じゃあ好みじゃないんですかぁ?」
いろははそう言って、目をキラキラさせながら八幡の顔を覗き込んだ。
「あ、あざとい………」
「もう、どうしていつも、そうやってはぐらかすんですかぁ!はっ、もしかして今の先輩、
素直になれなくて好きな子をいじめちゃう小学生状態ですか!?
小学生の先輩を私色に染める………うん、ありなのでそれでお願いします!」
「ごめんなさいはどこいったごめんなさいは!」
「やぁん!」
いろははそう言ってあざとく逃げていき、代わりにいかにも女王様な優美子が現れた。
「八幡、さっさと跪けし」
「いや、意味不明すぎるだろ!」
「くっ、この路線も違う………」
優美子は一瞬で去っていき、その行動の謎さに八幡は頭痛がした。
「しばらくこういうのが続くのか………」
八幡は、人が途切れたのを見計らって近くのソファーに座った。
横にはビンゴの景品なのだろうか、プレゼント用の箱が沢山置かれている。
「こういうのって?」
「うわっ」
そんな中、近くに誰もいないのに誰かに話しかけられ、八幡はビクッとした。
「だ、誰だ?」
だがやはり近くには誰もおらず、八幡は首を傾げた。
「何なんだ………」
直後にいきなり八幡は、プレゼントの箱の方にぐいっと引き寄せられた。
「うおっ」
そして視界が暗くなり、八幡の顔が、微妙に柔らかいような固い物に押しつけられる。
「何だこれ!?」
「うふふふふ、やだなぁもう八幡ったら、そんなに私の胸に顔を押し付けたかったんだ?」
「その声、エルザか!?っていうか胸?どこが胸だ?」
八幡がそう言った瞬間に、その柔ら固いものがビクンと震える。
「そ、そこでそうくるなんて、反則だよぉ………」
「だから何なんだよ!」
そう言って八幡は体を起こした。背後で何かが開くような感触がし、
頭を振って前を見ると、そこにはプレゼント用の箱に埋まっているエルザの姿があった。
「な、何だこれ!?」
「ふふん、私インサンタボックス?」
「意味が分からん………あ」
よく見ると確かに、今八幡の顔があった辺りには、水着を着たエルザの胸があった。
そしてエルザは顔を紅潮させ、ハァハァしている。
「そういう事か、さっきのあの平らな感触は、お前の胸だったのか………」
「んんっ!」
それでエルザの顔はだらしなく弛緩し、八幡の腕を握っていたエルザの手から力が抜けた。
「………………見なかった事にするか」
そう言って八幡は箱のフタを閉め、必ず近くにいるだろう、豪志の姿を探した。
「………お、そこか、お~いエム、こいつを片付けといてくれ」
「はい、いつもの事ながら何かすみません」
「いやいや、まあお前にこいつは止められないだろうし仕方ないさ」
豪志はぺこぺこしながらエルザインサンタボックスを引きずっていき、
八幡は疲れた顔で、再びソファーに座った。
「はぁ………」
「ヒッキー、大丈夫?」
「おう、まあいつもの………」
そう話しかけられて顔を上げた八幡の目に、
今度は正真正銘顔を埋めるのが可能な二つの盛り上がりが飛び込んできた。
「………事だから」
「あはぁ、まあエルザだしね」
結衣は上から八幡を見下ろしているせいか、八幡と目が合う途中に、
自身の胸がある事を意識していないようで、まったく恥ずかしそうな顔をしなかった。
そのせいで八幡も、逆に視線を外す事が出来ず、そのまま固まってしまう。
「八幡様、それに惑わされてはいけません」
その時八幡は、再び背後から引っ張られ、その後頭部が柔らかい物に沈んだ。
見上げるとそこにはクルスの顔がある。
「おわっ!」
八幡は慌ててクルスの胸から頭を離したが、
勢いあまって今度は結衣の胸に顔を埋めてしまう。
「きゃっ!」
さすがの結衣も、そのダイレクトさに驚き、八幡を突き飛ばしてしまう。
「うおっ!」
八幡は再びクルスの胸に突っ込むのは避けたかった為、慌てて体を捻った。
だがクルスの隣には、別に二つの隆起があり、八幡はそちらに思いっきり顔を突っ込んだ。
「うがっ、わ、悪い、これはわざとじゃ………」
「は、八幡君?大丈夫?」
その声で、八幡は今自分が誰の胸に顔を埋めているのか理解した。
「あ、明日奈?」
八幡は顔を上げ、こちらを見ている明日奈と目が合った。
「うん?」
そんな八幡に、明日奈は首を傾げてくる。
「ああ、死ぬほど落ち着くわ………」
八幡はそのまま明日奈の胸に再び顔を埋め、逆に明日奈の方がテンパる事になった。
「ふえっ?は、八幡君、みんなが見てるから!」
「えっ?あっ、うおっ………」
八幡は慌てて顔を起こし、きょろきょろと辺りを見回した。
そこにはニヤニヤしている嘉納や朱乃、それに明日奈の両親の姿があった。
「おう八幡君、随分大胆だな」
「あらあらあら、まあまあまあ、明日奈ちゃん、羨ましいわぁ」
「八幡君、私、そろそろ孫の顔が見たいわ」
「もういっそ、出来ちゃった婚でもいいんじゃないか?」
「は、はは………」
八幡は乾いた笑いを浮かべる事しか出来なかった。
そして少し休んだ後、八幡は再び来客達の相手を再開した。
藍子と木綿季が天使の格好で八幡に祈りを捧げ、
レヴェッカはおもちゃの銃(多分)を取り出し、『ホールドアップ!』と八幡を驚かせ、
フェイリスは、『ま、まさかあなたが敵だったニャんて!』
などと思いっきりなりきりプレイをしていた。
その後、香蓮にばかり見蕩れて沙希に思いっきり足を踏まれたり、
留美を雪乃だと本気で間違えて、留美に思いっきり蹴られたり、
戸塚との再会に暴走しかけ、葉山と戸部に本気で止められたり、
里香の格好を褒められずにもじもじしている和人にガチ説教をし、
珪子やひより、芽衣美に慌てて止められたり、
早く結婚しろと遼太郎にエギルと二人で説教し、顔を赤くした静に拳骨を落とされたり、
フランシュシュのメンバーを愛に紹介され、全員から思いっきり訝しげな目で見られたり、
蔵人とフラウが暴走するのを必死に止める明日香の頭を撫でてあげたり、
舞の格好良さばかり褒めて美優を思いっきりスルーしていた為に美優が泣き出して慌てたり、
(もちろん嘘泣きであったのだが)
麻衣と一緒に訪れた咲太の性癖を散々からかったり、
直葉と慎一をからからかいすぎて、顔を赤くした直葉にぶっ飛ばされたり、
駒央と進路の話で普通に盛り上がったり、
変わらない癒しを提供してくれるめぐりにめぐりっしゅされたり、
かおりが妙にアピールしてくるので千佳に助けを求めたり、
えるにデレデレする保に風太と大善が本気でキレそうになるのを慌てて止めたり、
あまりにも似合いすぎるダルのサンタ姿に本気でプレゼントをねだったり、
いきなりジョジョとレスキネンのトナカイバトルが始まって呆気にとられたり、
真帆と紅莉栖が理央の胸を恨めしそうに見ている事に背筋を寒くしたり、
アルゴと舞衣の普通さに感動して涙を流し、逆に二人が落ち込んで宥めるのに苦労したり、
無言の詩乃に前をうろうろされたり、雪乃がニャァしか言わない為、途方に暮れたり、
晶と小春に左右から本気の引っ張り合いをされて、
春雄と勇人に助けを求めたのにスルーされたり、
楓が八幡の膝の上から離れてくれず、清盛に本気で嫉妬され、経子に助けを求めたり、
さりげなく優里奈が八幡の隣に立ち、娘ですと挨拶を繰り返すのでおろおろしたり、
自由が再会を喜ぶあまり、本気で締め殺されそうになって南が泣き叫んだり、
両親が周りにペコペコし、小町と一緒に慌てて二人を止めたり、
アマデウス・茅場晶彦からいきなり着信があり、
『八幡君、このサンタの格好、似合うかな?』などと言われ、
黙って自分のスマホを凛子に渡したりと、
八幡は存分に、突っ込みどころ満載の楽しい時間を過ごす事が出来た。
「はぁ、疲れた………」
「ほら八幡、もうすぐビンゴよ、あと一息だから頑張って」
「お、おう、小猫か、サンキュー」
そんな八幡に薔薇は飲み物を差し出してきた。
「さて、今日のメインイベントね」
「景品は何を用意したんだ?」
「あ~、うん、まあ色々よ」
「そうか、みんなが楽しんでくれるといいな」
「う、うん」
薔薇は八幡にそう答えつつ、その場を動こうとしない。
「お前は手伝わなくていいのか?」
「うん、大丈夫」
「ふ~ん」
そしてビンゴ大会が始まり、豪華景品がどんどん紹介されていった。
「おう、張り込んだな」
「う、うん」
そのまま紹介が続いていき、陽乃がいきなり意味不明な事を言った。
「それじゃあ最後の景品の前に………………やりなさい!」
「お?」
直後に八幡の体が急に締め付けられる。見ると薔薇が、八幡の体を鞭で拘束していた。
「こ、小猫、何しやがる!」
「かかれ!」
その直後に萌郁の手によって、八幡がロープでぐるぐる巻きにされる。
「も、萌郁!?」
「ごめんなさいごめんなさい」
その後、八幡の目の前で女性陣の本気の戦いが繰り広げられたが、
八幡を含む男性陣は、その狂騒を呆気にとられながら眺めている事しか出来なかった。
ちなみに百万円をゲットしたのは詩乃である。
詩乃はこれで大学の学費に余裕が出来ると喜んでいた。
そしてビンゴが終わり、クルスにも裏切られ、
燃え尽きたようになっていた八幡を、明日奈が解放してくれた。
「八幡君、八幡君!」
「え?あ、お、おう、明日奈、終わったのか………?」
「うん、それじゃあ行こう!」
「へ?」
そのまま八幡は明日奈に手を引かれ、有無を言わさずキットに押し込まれた。
「お、おい?」
「いいから!」
それから次の日の朝まで、二人とはまったく連絡がとれなくなったのであった。
登場人物多すぎ………