ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1060話 銃が撃てるアイドル

「ところでウズメちゃん、明日は忙しい?」

 

 ヴァルハラ・ガーデンに戻り、施設の説明を受けた後、

ログアウトしようとしたウズメに、エルザが声をかけてきた。

 

「年末だからそれなりだけど、何で?」

「明日なんだけどさぁ、ハチマン主催のクリスマス・パーティーがあるけど、来る?」

「えっ?また?」

「またというか、明日はゲーム内でのパーティーだよ」

「そっちなんだ、時間は何時から?」

「夕方六時から!」

「六時かぁ、私達、二十八日にライブがあるんだけど、

そのリハーサルが丁度六時までだから、多分来れると思う、っていうか来る」

「あはははは、それじゃあアサギちゃんと一緒に待ってるね」

 

 同じソレイユ・エージェンシー所属の為、三人はとても仲良しである。

 

「でも年末なのにゲームばっかりしてて平気なの?」

「余裕余裕!今年の仕事は前倒しでもう全部終わらせたから!」

「えっ、コンサートとかはやらないの?」

「私はほら、年末年始だから特別にってのは嫌いなんだよねぇ。

やるならツアーで一気に、みたいな?」

「あっ、そうなんだ?」

「アサギちゃんも、テレビの仕事とかは断ったみたい。

年末くらいはのんびりしたいんだってさ」

「それって事務所的にオーケーなの?」

「うちはオーケーだよ、あくまで私達の希望を尊重してくれて、

嫌な仕事はやらなくていいって感じ?

もちろんガンガン活動したい子にはちゃんと仕事をとってきてくれるけどね」

「あっ、そうなんだ、だからみんな一斉に移籍って話になったんだね」

「ウズメちゃんはその辺りの事情は知らなかったんだ?」

「うちはマネージャーに全部お任せだからさ」

 

 芸能界ネタが大好きなリズベットやシリカ、リーファはその会話を興味津々で聞いていた。

シノンもクールぶってはいたが、その耳はダンボのようになっている。

 

「ねぇロビン、ソレイユ・エージェンシーの待遇ってそんなにいいの?」

 

 ソレイユの受付に採用が決まっているリーファが、ロビンにそう尋ねてきた。

 

「うん、そもそも親会社が強すぎるから、枕とかも全部断れるし、

力で押さえつけに来ても力で跳ね返すから、正直下手なヤクザよりも怖いよん」

「うわ、そうなんだ?」

「先週京都の方で、いくつかの組が潰れたってニュースが無かった?」

「あ、あったあった!」

「あれはソレイユさんの仕事らしいよ」

「あ、ああ~!確かに京都に行くって言ってた!」

「凄い………」

 

 ウズメは驚きのあまり、目を見開いた。

そこまでしてくれる芸能事務所が存在する事が驚きだったからだ。

 

「まあウズメちゃん達もラッキーだったよね、あまりにも希望が多すぎて、

今移籍申し込みを止めてるみたいだし」

「あ、確かにそうかも」

「ハチマンにも会えたしね?」

「ぁぅ………」

 

 ウズメはその言葉に顔を赤くした。

 

「そうだ、せっかくだし、ハチマンをコンサートに招待すれば?主催者枠ってあるよね?」

 

 そのクックロビンの言葉にウズメはハッとした。

 

「た、確かにある………!」

「なら誘ってみるといいよ、私、最近NTRにも興味があるから凄く興奮するし」

「ね、とり?」

「わ~!わ~!」

「アウト、アウトですよ!」

 

 ウズメは言葉の意味が分からなかったらしく、首を傾げ、

シリカとリーファが慌てて二人の間に割って入った。

 

「ど、どうしたの?」

 

 きょとんとした顔でそう尋ねてくるウズメの顔を見て、

二人はこの純真さを絶対に守らなくてはいけないという使命感に駆られ、

クックロビンを抑えこんだ。

 

「あっ、ちょっと、無理やりなんて、らめぇ!」

 

 クックロビンはそう言ったが、相手がハチマンではない為、これは演技であろう。

要するに面白がっているだけである。

 

「ロビン、あんたねぇ………」

「わっ、冗談、冗談だってば!」

 

 シノンにじとっとした目で見られ、

クックロビンは慌てて両手を上げ、降参のポーズをとった。

 

「はぁ………それじゃあ私達も落ちるとしましょうか」

「ウズメちゃん、次はいつ空いてるの?」

「空いてるといえば、明日の午前中とパーティーの後くらい?

さすがに明後日からは、準備が忙しくて………」

「それじゃあちょっとでも強くなる為に、明日の朝からアサギちゃんと一緒に遊ばない?」

「あ、うん、大丈夫」

「他に来れる人は………」

 

 リズベット、シリカ、リーファは明日一緒に買い物に行く予定があるらしく、

クックロビンにじっと見つめられたシノンは肩を竦めた。

 

「はぁ………はいはい、付き合えばいいんでしょ?」

「さっすがシノノン、いい女ぁ!」

「で、何をするの?」

「育成なんだし、ゾンビ・エスケープがいいんじゃないかなって」

「ああ、もう明後日からイベントだし、確かにその方がいいかもしれないわね。

ニコラスブレイドも装備出来るようにならないとだし」

「よ、よく分からないけどお願い」

「それじゃあ明日の朝ね!」

「うん!」

 

 こうしてこの日の活動は終わり、迎えた次の日の朝、

愛はフランシュシュの仲間達と朝食をとった後、

一緒に遊びに行こうという誘いを断り、部屋でアミュスフィアを被っていた。

 

「ゾンビ・エスケープについての予習は大体オッケーかな、リンク・スタート!」

 

 そして視界が暗転し、一瞬で愛は、ウズメとしてゾンビ・エスケープの地に立っていた。

 

「うわ、普通に街だ………」

 

 そこはどこにでもありそうな繁華街であり、

当然ではあるが、どこにもゾンビの姿は見えない。

 

「ブランドショップがあちこちにあるんだ、

あっ、あのお店、一度行ってみたいって思ってたんだよね」

 

 ウズメは大はしゃぎで、今度フランシュシュの仲間達もここに誘ってみようと思いつつ、

待ち合わせ場所のビルの上にあるショールームへと向かった。

 

「………ここかな?」

 

 バーチャル・ショールームが並ぶ一角の一番奥に、

一つだけ占有されている部屋があり、ウズメはその扉をノックした。

 

「は~い、ウズメちゃん?」

「う、うん」

「どうぞ、入って~!」

「お、お邪魔します」

 

 中に入ると、そこにはクックロビンとアサギ、シノンの他に、若い男が寛いでいた。

 

「いらっしゃ~い!」

「ウズメちゃん」

「ハイ」

「ふむ、昨日のアイドルの娘っ子じゃな」

 

 その男の見た目と釣り合わない時代がかった喋り方に、ウズメはギョッとした。

 

「えっと、あの………」

「おう、すまんすまん、この見た目じゃ分からんよな、

儂は昨日会った、八幡の義理の爺いじゃよ、覚えとらんか?」

「あっ、もしかして結城のお爺様ですか?」

「おうそうじゃ、これは儂の若い頃の姿なんじゃよ」

「そうだったんですか、格好いいです!」

「ほっ、ありがとよ、アイドルの嬢ちゃん」

「キヨモリさんは、ここの部屋を使わせてもらう為に私が呼んだの」

 

 何故ここにキヨモリがいるのか、クックロビンがそう説明してきた。

この部屋を占有しているのは『千葉デストロイヤーズ』なので、

そのメンバーがいないと使えないのである。

 

「そうなんですね、今日は宣しくお願いします!」

「それじゃあ早速突入準備をしましょうか、最初は武器の選択よ」

 

 パーティを組んですぐに、目の前に突入画面が表示され、

そこにずらずらと武器のリストが並んでいく。

 

「す、凄い数………」

「ウズメはマシンガンでいいわよね、銃なんか撃った事無いでしょ?」

「も、もちろん!」

 

 むしろ撃った事がある方がおかしい。

 

「リロードはオート、弾数無限に設定してっと、私はアサルトライフルでいいや」

「私もまだ不慣れだからマシンガンで」

「私は当然狙撃銃よ」

「儂は当然刀じゃわい」

「よ~し、それじゃあレッツゴー!」

 

 クックロビンが選んだのはB級の無双系ミッションであった。

いつもヴァルハラが経験値稼ぎに利用している鉄板ミッションである。

 

「わっ、廃墟だ!」

「ウズメ、興奮しすぎ」

「ほれ、あっちに見える黒いのが全部敵じゃよ」

「ええっ!?」

 

 中に入ると、遠くに霞がかかっているように見えた。

 

「これで見てみるといいよ」

「あ、ありがと」

 

 ウズメはクックロビンから単眼鏡を借り、そちらを眺めてみた。

 

「うわ、ゾンビがたくさん………あっ、女の子のゾンビもいる、しかもちょっとかわいい」

「そうなのよ、ここのゾンビって女の子はかわいい子がたまにいるのよね」

「男のプレイヤーが、それで撃てなくてやられるってパターンもあるらしいよ」

「うわ、完全にトラップじゃない」

「ウズメなら、ゾンビになってもきっとかわいいわね」

「やだなぁアサギ、私、ゾンビになんかならないって。

でも普通のゾンビもキモかわいい………」

「「「えっ?」」」

 

 あまり知られていないが、ウズメの趣味は、キモかわいいグッズを集める事だったりする。

 

「それじゃあ銃の使い方を教えるわね」

 

 アサギがレクチャーしてくれ、ウズメは『銃も撃てるアイドル』にレベルアップした。

『一人で戦争も出来るアイドル』まで成長する日がいつかくるのかもしれない。

 

「さ~て、それじゃあおっぱいじめますか!」

 

 クックロビンがそう言い、シノンが銃を構える。

 

「それを言うならおっぱじめますか」

 

 そして大きな銃声と共に、ゾンビの集団が纏めて吹き飛ばされる。

 

「えっ、シノノン、何それ?」

「特製の爆裂弾よ、もちろん現実には存在しないけど」

「うわぁ、気持ち良さそう!」

 

 その爆発と共に、敵の集団がこちらに向かって殺到してきた。

 

「ほれ、来るぞい!」

「あっ!」

「私達も………」

「撃たなきゃ!」

 

 キヨモリに促され、芸能人三人娘が一斉に射撃を開始し、

当のキヨモリは、死角から襲ってくる敵に刃を突き立てる。

 

「うわ、うわ、何これ、楽しい」

 

 結局この日は一時間の戦闘を四セット行い、ウズメはまた少しだけ強くなった。


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