グランゼは、ヴァルハラ主催のクリスマス・パーティーの会場に到着し、
その規模の大きさと人の多さに圧倒されていた。
「これはまた凄いわね………ALOのプレイヤーの何割が集まってるのかしら」
もちろん全員がヴァルハラに友好的な人物だという訳ではないのだろうが、
それでも皆がこのイベントを楽しんでいるのは間違いなく、
翻って自分達はと言えば、他のプレイヤーにこんな笑顔をさせられているだろうかと、
グランゼは自分達の行いが正しいのかどうか、疑問に思う事となった。
だがそれも一瞬であった。グランゼは、ここまで巨大になったヴァルハラの勢力を、
自分の力で少しでも削がなくてはいけないと思い直し、
対抗出来る勢力を早く育てねばという義務感にかられる事となった。
これはやはり親である幸原みずき議員の教育の賜物であろう。
いや、教育というか、これはもはや呪いの域に達している。
だがグランゼはその事に気付かない。
それを指摘してくれる友達や、導いてくれる師が誰もいないからだ。
「………まあいいわ、とりあえず楽しんでるフリと、私がここにいるアピールをしないと」
グランゼは自分の役割を果たす為に、積極的に知り合いに話しかけていった。
「こんばんは、『神槌』」
「あっ、え~と確か、そう、グランゼさん!」
「覚えていてくれて嬉しいわ、今日は
「小人の靴屋の人達みんなで来てくれたんだ、ありがとう」
グランゼは他の者達もいますよアピールをしつつ、
リズベットと表面上は仲良く会話を始めた。この二人は一応面識がある。
かつてグランゼが、リズベットを小人の靴屋にスカウトしようとしたのだ。
それは結局失敗したのだが、別に揉めた訳ではない為、今もこうして普通に会話が出来る。
「あ、そうだ、せっかくだしうちの職人も紹介しておくね、ナタク君、スクナ!」
「は~い」
「あら、そちらは?」
グランゼの事はメンバーには周知されている為、これはもちろん演技である。
「こちら、小人の靴屋のグランゼさん!こちらはうちのナタク君とスクナだよ」
「ご高名は伺ってます、初めまして」
「こちらこそ小人の靴屋のお名前は聞いてます、初めまして」
ナタクはこういう状況に慣れている為、挨拶もスムーズだ。
スクナも精一杯愛想よくしようと、慣れない笑顔をキープしている。
と、その時辺りにどこかで聞いたような音楽が響き渡った。
「お?」
「これは?」
「予定には無いはずですが………」
その時中央にウズメとクックロビンが現れ、いきなり歌いながら踊り始めた。
「あれは………」
「ウズメとロビン?」
「ウズメさんという方は聞いた事が無いけれど………」
そう首を傾げるグランゼに、リズベットが笑顔で答えた。
「あ、うちの新人ですよ」
「あら、そうなんですか」
そう思いつつ、グランゼはその華やかさに歯軋りしていた。
周囲の会話を聞くに、ウズメの外見は、何とか言うアイドルにうり二つらしい。
(これでまたヴァルハラの人気が高まっちゃうじゃない、
まったくハチマンときたら、あの手この手を………)
実際は別にハチマンが意図してやった訳ではないのだが、
そんな事はグランゼには分からない。むしろ何もかもが戦略的に思えてしまう。
(というか、クックロビンも歌が上手くない!?)
グランゼは、既知であるクックロビンの歌の上手さに驚愕した。
「頭のおかしな人だと思ってたけど………」
グランゼは思わずそう声に出し、慌てて自分の口を塞いだ。
「ご、ごめんなさい」
「いいんですよ、私達も、同じような事を思ってますから」
そう答えながら、リズベット、ナタク、スクナの三人は楽しそうに笑った。
「そ、そうなのね」
「あはははは、だってロビンってば、本当にその通りですもんね、
でもあれで歌だけは上手いんですよ、誰にも取り柄の一つくらいあるって事なんでしょうね」
「そ、そうですね」
グランゼはそう答えつつ、これって上手とかそういうレベルじゃなくない?
などと内心で思っていた。
もっと歌を聞いていたくはあったが、グランゼは自分の役割を果たさねばとハッとし、
そのまま三人に挨拶してその場を離れ、隅の方でこそこそとグウェンにメッセージを入れた。
「グウェン、そっちの調子はどう?」
『順調だよ、ハイエンド素材もいくつか掘れた』
「そうなの?それは朗報ね」
『それよりヴァルハラの配信を見たんだけど、
そっちでコンサートをやってるみたいじゃない』
「あら、そういうのに興味があるの?」
『まあ音楽は好きだからね』
「そうなのね、正直圧倒されるくらい、あの二人、歌が上手いわよ」
『そっか、帰ったら動画を確認しなきゃ』
そのグウェンの反応を見て、グランゼは歯軋りする思いだった。
ヴァルハラの戦略が有効に機能している事の証左だったからだ。
もちろんグウェンを責めている訳では決してない。
(あのクールなグウェンまで夢中にさせるなんてね………)
『ところでクックロビンと一緒にいるのって、誰?』
「ウズメっていう子らしいわ、ヴァルハラの新人だって。
正直何とかしないとまずいレベルね」
『へぇ、そうなんだ』
グランゼはグウェンにそう尋ねられる前から、
ウズメの事は絶対にマークしておかなくてはいけないと、
心のメモ帳にその顔と名前を記入している。
『今またハイエンド素材が出た、これで七つ目』
「あら、丁度いいわね、これで七つの大罪の幹部用の武器が揃うわ。
他にも蒔き餌の代わりに防具を作りたいから、もう少し頑張って」
『了解、素材が出にくくなったら他の場所に移動させるね』
「うん、お願い」
メッセージのやりとりを終えた後、グウェンは、誰もいない草むらに向けて話しかけた。
「グランゼちゃん、ウズメって子に妙に執着してる気がする」
「へぇ、それは要注意だな、早速ボスにご注進しておくよ」
「うん、お願い」
そこに潜んでいたのはハリューであった。
小人の靴屋の実働部隊をグウェンが纏めているように、
HIAはハリューが纏めているのである。
「あとこれはただの興味本位なんだけど、ウズメって子、
フランシュシュの水野愛とそっくりな外見にしてるみたいだけど、何者?」
そのグウェンの質問に、ハリューは一瞬言葉を詰まらせた。
「………あんた確か、ボスの同級生だよな」
「うん、ハチマンさんのリアル友達で、仲間!」
「それならまあいいか、あの子はな………」
「あの子は?」
「本人だ」
「えっ?嘘、マジで言ってる?絶対の絶対?」
「ああ、それで合ってる。この事は他言無用で頼むな」
「もちろん!ああでも、サインくらいねだってもいいかな?」
その言葉でハリューは、グウェンがフランシュシュのファンなのだという事を知った。
「………好きにすればいいでしょう、その為にもここはボスの為に頑張って働かないと」
「だね、よし、頑張るよ!」
「ちなみに蛎崎うにの事はどう思う?」
これは思いっきり興味本位だが、ハリューは自分の彼女の事をグウェンに尋ねてみた。
「サイン欲しい、めっちゃ好き~………」
「へぇ、そうなのか、それじゃあ今度頼んでおいてやるよ」
「えっ、本当に?ハリュー君ってもしかしていい人?」
「………そう言われた事は一度も無えよ」
「そうなんだ、でも私の中ではいい人で決定!これからも宜しくね、ハリュー君!」
「あ、ああ、こういう機会がまたあったらな」
これがキッカケになった訳ではないが、この二人、この後も何度かコンビを組む事になる。
「あっと、またハイエンド素材が出たって」
「ちょっと出すぎじゃないか?」
「そうだねぇ、こんなに出るなら別の日にパーティーを設定しても良かったかも」
実はクリスマスのような特別な日には、
ハイエンド素材の出現率が高くなるように設定されているのだが、
アルゴは公平性を保つ為に、その事をハチマンに伝えてはいない。
「まあきっとハチマンさんなら、敵がもっと強くなるのは大歓迎だって言うんじゃない?」
「ゲラゲラゲラ、かもしれねえな」
「ゲラゲラゲラ!」
「真似すんなよ、ゲラゲラゲラ!」
二人は競うように笑い、
この日のイベントはヴァルハラにとっても小人の靴屋にとっても実にいい日になった。
結局出たハイエンド素材は全部で二十一個にも及び、
七つの大罪の幹部の武器と防具で十四個、シグルドの武器と防具で二つ、
そして残った五つは小人の靴屋でキープされる事になったのだった。
明日の夕方から、いよいよALOのイベントが開始される。