ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1068話 初めての狩り場、初めての敵

 ヴァルハラとスリーピング・ナイツは、

せっかくだから今まで行った事が無い方に行ってみようと相談し、

地図の穴埋めを兼ねて、未踏破地域へと進軍していった。

 

「ふふっ、こういうの、冒険してるみたいでいいね」

「ハチマンが昔GGOで言ってた事、今なら凄くよく分かるなぁ」

「ん、俺、お前に何か言ったか?」

 

 そのクックロビンの言葉にハチマンは首を傾げた。

 

「この世界は、お前が考えているよりも、ずっとずっと広いんだよ。

お前が見たのは、世界全体の、ほんの一部にしか過ぎない。だからこその冒険だ。

それは、SAOで未知の世界を冒険する事と、まったく変わらない。

お前の知らない物も沢山ある。ピト、俺達と一緒に、この広い世界を一緒に冒険しよう」

 

 クックロビンはその長いセリフを一言一句違わずに一気にまくしたて、

それを聞いていた他の者達から大きな拍手が起こった。

 

「おお」

「ハチマン、いい事言うなぁ」

「さっすがリーダー!」

「ハチマン様、完璧です!」

「そ、そうか?」

 

 ハチマンは照れた表情でぽりぽりと頭をかいた。

 

「しかしお前、よくそんな長いセリフを覚えてるよな」

「ハチマンの言葉は全部覚えてるよ?」

「マジか、凄いなお前」

「うん、例えば私の胸をじかに見て、『やっぱり貧乳は最高だな!』って言ってた事とか」

「おいこら、せっかくいい話だったのにこんな時に捏造すんな」

 

 ハチマンはクックロビンの頭に拳骨を落とそうとし、途中でやめた。

クックロビンを喜ばせるだけだと思ったからだ。

 

「ちょっと、何でいいところでやめ………」

 

 そんなハチマンにクックロビンが抗議しようとした瞬間に、

ハチマンがいきなり進軍を止めた。

 

「待て、ストップだ、あそこを見てみろ」

「あっ、邪神族と戦闘してるね」

「全部で十二人か?」

「っていうかあれ、ソニック・ドライバーとアルン冒険者の会じゃない?」

 

 よく見ると、それは確かにスプリンガーやラキア、それにヒルダ達であった。

 

「これはラッキーだったな、事情を話して実験に協力してもらおう」

「だな、あの連中なら揉める事もないだろうし」

 

 そして丁度戦闘が終わったのを見計らって、

ヴァルハラ連合軍はスプリンガー達の後ろに降り立った。

 

「うおっ、何だ?」

「あっ、ハチマンさん!それに皆さんも!」

 

 その時ラキアが問答無用でハチマンに突撃してきた。

 

「うわっ!」

 

 ラキアはそのままハチマンにおぶさり、その頭を撫で始めた。

そんなラキアの行動にもう慣れてしまっているハチマンは、

そのままの格好でスプリンガーに近付き、事情を話した。

 

「………えっ、マジで?」

「はい、なのでちょっと協力して頂けないかと」

「わ、分かった、そういう事ならレイドを組んでやってみよう」

 

 こうして急遽レイドが組まれ、

念の為にソニック・ドライバーとアルン冒険者の会には後方に下がってもらい、

ヴァルハラが単独で巨人討伐を開始した。その一匹目の事である。

 

「うわ、マジだ!ハチマン君、クエストが書き変わったよ!」

「おお、そうですか!」

「ちょっと逆も試してみてもいいかな?下のクエストが表示されるか、

あるいは別の新しいクエストが出てくるのか今のうちに検証しておきたいんだ」

「あ、確かにそのほうがいいですね、討伐数が増えるとちょっと躊躇っちゃいますから」

 

 ハチマンはその言葉に頷き、今度はヴァルハラが後ろに下がり、

ソニック・ドライバーとアルン冒険者の会が邪神を一匹討伐した。

だがクエスト内容に変化は無く、ただ討伐数が一匹減らされる事になっただけであった。

 

「これは確定かな?」

「ですね、やっぱりこっちが本線なんでしょう」

「って事はほとんどの連中が、フェイククエストに邁進してる訳か」

「いや、まだフェイクと確定してはいないと思います、

あっちはあっちで続きがあると思いますしね」

「って事はプレイヤー同士の大きな戦闘もあるかもしれないなぁ」

「ですね、ところで七つの大罪の連中とは一緒に行動してないんですか?」

 

 ハチマンは、先ほど七つの大罪を見かけた時に抱いた疑問を、スプリンガーにぶつけた。

 

「いやね、どうやら奴さん達、いい武器と防具が手に入ったらしくて、

単独でどこまで出来るか試してみたいって言うからさ、

それならしばらくは別行動にしてみようってこっちから提案したんだよ」

「なるほど、でもこういったイベントの為に連合したのにそれじゃあ、本末転倒ですね」

「なぁに、前回のトラフィックスのイベントで十分役割は果たせたよ。

今回はこういう事になったし、結果オーライって奴さ、だろ?」

「あはははは、今回は確かにそうですね」

 

 二人は悪い顔をしつつ、そう頷き合った。

 

「さて、これからどうする?」

「今回はもっと奥に行ってみようと思ってます、冒険ですね」

「おお、いいね、冒険!」

 

 ハチマンの背中でラキアも嬉しそうに両手を上げ、

ファーブニルとヒルダももちろん反対しなかった為、

四つのギルドの連合軍は、そのまま更なるヨツンヘイムの奥地へと向かう事となった。

 

「ここが飛行禁止区域のギリギリのラインみたいですね、どうします?

「この後、徒歩で更に奥を目指そうか」

「その方がいいですね、他のプレイヤーも来ないでしょうし」

「いやぁ、こういうの、わくわくしますよね、ハチマンさん!」

 

 そこでクックロビンが再び先ほどのセリフを、自分のGGOでの名前を抜いて披露し、

再び拍手喝采が起きた。

 

「あ、あんまり持ち上げるなって」

「それじゃあ張り切って、冒険の旅に出発進行!」

「むふ!」

 

 そのまま連合軍は、まだ見ぬ土地へ向かって進んでいった。

道中に色々な種類のモブが登場してきたが、

今のところ、その全てが討伐数にはカウントされていない。

ラキアは途中からハチマンの背中ではなくトンキーの背中に乗って喜んでいた。

どうやらトンキーのキモかわいさがお気に入りになったようだ。

それから三十分ほど歩いた頃、いきなり目の前が開けた。

 

「お?」

「草原?」

「見て、空にオーロラがかかってる」

 

 一見すると幻想的な光景が目の前に広がっていた。

更によく見ると、奥の方に見た事のない敵が大量に闊歩している。

 

「何だあれ?」

「天使?それに悪魔?」

「魔獣っぽいのもいるな」

「巨人族も邪神族もいないようだが………」

「どうする?一旦引き返して別の道も調査してみる?」

「う~ん」

 

 ハチマンは腕組みし、考えに耽り始めた。

すぐに答えが出たらしく、ハチマンはいきなり何人かの名前を呼んだ。

 

「アスナ、ちょっと別働隊を指揮して一つ手前の分岐を調査してきてくれ。

連れていくメンバーは、ユイユイ、ユミー、イロハ、サトライザー、

後は近接アタッカーでフカ、それにリーファ、後は一応ナタク辺りか」

「バランスがいいね、オーケー、パーティを編成してちょっと見てくるね」

「悪いな、頼むわ。他のメンバーはここでちょっと狩りをしてみよう。

トンキーも反応してるみたいだしな」

 

 その言葉で一同はトンキーの方を見た。

トンキーは好戦的な表情で、今にも奥の敵に向かって突撃しようとしている。

ここまでのどのモブ相手でもそんな態度は見せなかった為、

おそらくここの敵は討伐対象の可能性が高いと思われた。

 

「よし、それじゃあやってみるか」

「オーケーオーケー、みんな、初見の敵ばかりなんだ、出来るだけ情報を集めていこう」

 

 キリトのその言葉にクリシュナとリオンが頷いた。

そういった情報を纏めるにはこの二人が適任だ。

 

「よし、コマチ、俺と一緒に釣りに行こうか」

「うん、お兄ちゃん!」

 

 二人はそのまま凄いスピードで駆け出していき、

戦闘状況を見つつ、順番に違う種類の敵を釣ってきた。

 

「最初は天使タイプだよ!アークエンジェル(堕天)だって!」

 

 コマチがその情報をクリシュナに伝え、クリシュナがメモ機能を使い、

敵が使う技の情報をリオンが的確にクリシュナに伝えていく。

そして一体目の討伐を終えた時点で討伐カウントが上がり、

そこからしばらくの間、ハチマンとコマチが交代で様々な敵を釣ってきた。

 

「クリシュナ、こいつはレッサーデーモンだ」

「お次はアークデーモン!ちょっと強いかも?」

「オルトロスだ、ファンタジーの定番だな」

 

 ここまでの傾向だと、敵はおそらく悪魔タイプの敵ばかりのようだ。

天使に見える敵ですら、例外なく『(堕天)』と表記されており、

その見た目に反して聖なる存在ではないようである。

その辺りでアスナがこちらに戻ってきた。

どうやら向こうは広場ではあるが行き止まりになっていたらしく、

ナタクが試しに掘ってみたところ、ハイエンド素材が一つと、

他にも結構なレア素材が掘れたらしい。

 

「おお、それはいいな、こっちはちょうと一巡したところだわ。

さすがに一匹倒すのにそれなりの時間がかかっちまうが………」

「それでもその分経験値はかなりでかいぜ!」

「大体の敵はこれで釣ったはずだよね、リオン、カウント数はどうなってる?」

「倒した分だけちゃんと上がってるよ!今十五匹!」

「先は長いよなぁ」

「あはは、だね」

 

 アスナ達の方のカウント数もちゃんと増えていたらしく、

それからしばらく狩りが行われ、

討伐数が丁度百体になったところで今日は解散という事になった。

 

「トンキー、ここで擬態して隠れててくれよな!」

 

 トンキーは敵から見えない場所に誘導され、そこで岩に擬態する事となった。

一応その手前に結界コテージもいくつか設置され、そこがキャンプとされた。

 

「さて、明日の集合時間は午前の部が朝九時から午後二時まで、

午後の部が午後三時から七時まで、夜の部は午後八時から十一時までにするか。

もちろん途中で落ちてくれてもいいし、用事がある奴は無理しないでいいからな」

「俺達はどうする?」

「昔の家でしばらく生活すればいいんじゃないかな」

「その手があったか、それでいこう」

 

 これはスリーピング・ナイツの、ランとユウキ以外の会話である。

五人は落ちる事が無い為、そういう事にしたようだ。

そしてメンバー達は、結界コテージ内から順にログアウトしていったのだった。


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