次の日ハチマンは、各ギルドのメンバーを混ぜた上で適当に四つに分け、
それとは別に初日に来れなかったメンバーを、現地まで案内するチームも編成した。
「よし、それじゃあ狩りを始めよう」
一定範囲まで近付くと敵が勝手に反応してくれる為、釣りはコマチ一人に任せる事にし、
コマチが敵を四体ずつ釣ってきて、
それを各パーティのメンバーが順に拾っていく方式がとられた。
戦闘力をほぼ均等に振り分けている為、四体がほぼ同時に倒れる事となるのだが、
それにかかる時間は一体辺り、大体三分くらいである。
なので単純計算で一時間に八十体の敵を葬れる計算になる。
実際はそれよりも多少時間をロスする為、実測値で七十体くらいになるのだが、
それを一日十三時間………これも食事休憩やトイレ休憩がある為、
実際は十一時間になるのが、それを踏まえてこの日の連合軍は、
実に八百匹近いカウントを稼ぐ事が出来た。
「段々慣れてきたよな」
「敵の弱点も分かってきたしね」
「このペースでいければまあ、二週間くらいで目標を達成出来そうだな」
「効率を追求すれば、もう少し伸ばせそうだけどね」
「今が年末年始で良かったよ」
「最初はどうなる事かと思ったけど………」
二万という数字はこのペースだとかなり妥当な数字なのかもしれない。
もっともあくまでこのペースなら、である。
他のギルドは取り合いをしている為、そのペースはヴァルハラの十分の一くらいまで落ちる。
なのでこのまま行けば、ライバル達が目標値に達成するより早く、
確実にヴァルハラ連合軍が目標を達成する事になるだろうと思われた。
だがその見通しが甘かった事を、一同は後に思い知らされる事となる。
「さて、明日はちょっと用事があるから午後の部と夜の部は俺は休みだ」
「何か用事でもあるの?」
「おう、実は明日、フランシュシュのライブがあってな、
主催者枠でソレイユの代表として、見に行く事になってるんだよ」
「あっ、それってクリスマス会の時の………」
ヒルダが思い出したようにそう言い、凄い勢いでハチマンに迫ってきた。
「ハ、ハチマンさん、お願いがあります!」
「え?あ、おう、な、何だ?」
そのヒルダの剣幕にハチマンは驚いた。
「私、フランシュシュのサインが欲しいんです!」
「そういう事か………」
「あ、それじゃあ俺も俺も!」
「わ、私も!」
「マジかよ………先方に迷惑がかからない程度に一応頼んでみるわ」
希望者は二十人くらいになり、ハチマンは愛に何か埋め合わせをしようと思いつつ、
その頼みを一応引き受けた。
「私のサインも言ってくれればあげるんだけどなぁ」
クックロビンが対抗心を刺激されたのか、チラチラとハチマンの方を見ながらそう言う。
「そういえば俺、お前のサインは持ってないんだったわ」
「俺は持ってるぜ!」
キリトが自慢気にそう言い、ハチマンは希望者を募り、それで十五人くらいが手を上げた。
「くっ、負けた………」
「いやいや、ロビンのサインをもう持ってる人が私を含めて何人かいるんだから、
合計すれば普通に勝ってるじゃない」
「た、確かに!」
そうフォローしたのはレンである。しかもシルフの大人バージョンだ。
もうその姿でいても平気なようで、ハチマンはその事についてはほっとひと安心であった。
他にもGGO組から参加しているのがシャーリーだ。
シャーリーは美優がいなくて一人だと退屈な為、レンもほぼ同じ理由で今回コンバートし、
そのままヴァルハラのメンバーとして仮所属しているのである。
ちなみに優里奈はコヨミと遊ぶ約束があるとかで、今回はイベント参加を見送った。
「それじゃあロビン、悪いが頼むわ。大晦日までに用意してくれればいいからな」
「あっ、八幡主催の内輪の忘年会だね!うん、分かった!」
ついでに八幡は、まだ参加を希望していない者の中で参加したい者がいたら教えてくれと、
一同に向けて問いかけた。それでアルン冒険者の会のメンバーの残りが参加を希望し、
ハチマンはそれを快く了承した。
身元さえ分かれば、多少ヴァルハラの秘密を教えてもいいという許可も出た為、
この八人については今回の事は本当にラッキーであった。
「それじゃあ明日参加出来る奴はまた明日な!」
キリトがそう呼びかけ、何人かがそれに頷いた。
こうしてこの日の活動は終わり、マンションで目を覚ました八幡は、
美優と舞と寝る前の休憩がてら、少し話をした。
「リーダー、明日はフランシュシュのライブに行くんだね」
「おう、愛に誘われたんだよ。まあこれも仕事の一環って奴だな」
その言葉に美優と舞は顔を見合わせた。
「待って待って、会社から言われたんじゃなくて、直接愛さんに誘われたの?」
「おう、主催者枠で来てくれないかってな」
「それって………」
「ん?どうかしたか?」
「ううん、何でもない」
その後、八幡がシャワーを浴びてる間、
二人はスマホでフランシュシュの水野愛の情報を調べながら、
先ほどの件について話をしていた。
「この子が直接、ねぇ………」
「クリスマス会の時に私もちょこっと見させてもらったけど、随分八幡さんに懐いてたよね」
「さすがというか、リーダーのファンが、遂に芸能界にまで広がり始めたか………」
「まあそれも仕方ないよね」
「うん、仕方ない」
元々八幡に対しては、恋愛感情というよりは崇拝に似た気持ちを抱いている舞はともかく、
かなり本気で八幡を狙っている美優にとってはかなり深刻な事態であった。
だがそう思ったからといってどうする事も出来ず、
美優はもっと八幡にアピールするしかないと思い、
八幡を困らせていく事になるのだが、正直それが平常運転な為、
八幡の美優に対する印象はほとんど変化する事が無かったのである。
そして迎えた二十八日の夜、八幡は招待客として、関係者のブースに座っていた。
そしてその隣には、何故か日本国防衛大臣の、嘉納太郎が座っている。
「………閣下」
「ん、どうした?」
「閣下とアイドルの組み合わせって、やっぱり違和感しか無いんですけど………」
「まあそう言うなって、これもしがらみって奴さ、弟に頼まれちまったんだよ」
嘉納の弟が代表を努めるセメント会社は北九州を拠点にしており、
その流れで佐賀県にある関連会社が今回のスポンサーに名を連ねていた。
だがわざわざ東京に人を派遣するのは大変だった為、
嘉納にお鉢が回ってきたと、まあそういう事のようである。
「閣下ってアイドルとか興味あるんですか?」
「まあ興味が無いって事は無いかな、若い子が頑張ってる姿ってのはいいもんだろ?」
「あ、はい、それはそう思います」
「しかし八幡君は、相変わらずお盛んだよな」
「風評はやめて下さい、そういうんじゃありませんから」
二人はここの駐車場で偶然遭遇したのだ。
キットが八幡に、カットが近くにいると教えてくれたのである。
その近くに行くと、丁度嘉納がカットから降りてくるところだったのだ。
「あれ?八幡君か?どうしてここに?」
「閣下こそ、どうしてここに?」
その後、お互いスポンサーとしてここに来ている事が分かり、
その流れで一緒に楽屋に挨拶に行く事になったのであった。
「おっと、雨が降ってきたな」
「雷も鳴ってますね、十二月にしちゃ珍しい」
「急いで中に入りましょう」
それから二人は楽屋に行って挨拶をし、そこで八幡が愛と純子に懐かれているのを見て、
嘉納はお盛んだなと表現したと、まあそういう理由である。
「それにしても愛ちゃんだったか?あの子、楽屋での様子がちょっと変だったよな」
「あ、それは俺も感じました。一応体調が悪いのかなと思って聞いてみたんですけど、
それは別に大丈夫って言ってたんですよね」
「ふ~む、何事も無ければいいんだがなぁ」
「ですね………お、そろそろ始まりますね」
「だな、八幡君、俺に遠慮しないでサイリウムとか振ってくれてもいいからな」
「すみません、さすがにそういうのは俺にはちょっと無理です」
その瞬間にフランシュシュのメンバー達がステージに飛び出してきた。
愛も純子も元気いっぱいに見え、八幡は問題無さそうだと安堵した。
だがその直後にいきなり近くに雷が落ち、大地が少し揺れ、いきなり照明が落ちた。
「うおっ」
「近かったですね」
「大丈夫かな?」
「どうでしょう………」
幸いすぐに電源が復旧し、ライブは問題なく続けられる事となった。
だが愛の様子が何かおかしい。他のメンバーは普通に歌っているのに、
愛の歌だけが途切れ途切れとなり、その表情は固くなっていたのである。
「愛?」
八幡は思わず立ち上がったが、愛の目は怯えたようになっており、
八幡の姿も目に入らないようであった。
「一体どうしちまったんだ………」
八幡の心配をよそに、それでもライブは続く。