ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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長い一日の始まりです


第107話 集結の日~合流~

 次の日、運動のノルマを終えた二人は、ログイン準備を着々と進めていた。

 

「そういえばクライン達はどうなったんだろうな」

「陽乃さんに聞いた話だと、連絡はとれたみたいだ。あいつらにももうすぐ会えるな」

「おお!ALOにはログイン出来そうなのか?」

「ソフトの方も手配してくれたみたいだから、まもなくイン出来るって話だぞ」

「やったぜ!チームハチマンがALOで復活だな!」

「いつの間にそんなチーム名が……」

「仮だよ仮。そうだハチマン、全ての片がついたら、ALOでギルドを作ってみないか?

SAOでは俺もアスナも、多分リズも、本当はハチマンの作るギルドに入りたかったんだよ」

「やっぱりそうなのか……なんかすまん」

「いや、まああの時は状況が状況だったし、仕方ないだろ。

もし嫌じゃなかったら、今度は頼むぜ」

「おう、今度調べとくわ」

「正直設立する事自体よりも、ギルドの名前を考えるのが一番迷うよな」

「そうなんだよな……俺そういうの、すごく迷うタイプなんだよ……」

「さて、そろそろリーファとの約束の時間だな。

今日は多分イベントが盛りだくさんだろうから、気合いれてこうぜ。

アスナとリズを助けるための、第一歩だ」

「よし、それじゃあ張り切って行くとするか」

 

 やがてリーファとの約束の時間が来たため、二人はALOにログインした。

宿の外で待っていると、リーファが手を振りながら走ってきた。

 

「二人とも、今日はハードな日になるわよ。体調は整えてきた?」

「おう、バッチリだぜ!」

「俺も問題ない」

「キリト君は元気だね。ハチマン君は相変わらず冷静だね」

「いや、こう見えても少し緊張してるぞ」

「そうなの?」

「この後戦闘と、同盟締結の場での交渉が控えてるからな」

「あ、そうそう、レコンから報告よ。時間をさりげなく伝えた後、

シグルドはこっそりとどこかに連絡してたみたい。その後は妙に上機嫌だったって」

「真っ黒だな。やはり戦闘になるのは避けられそうにないな」

「レコンは、まだ気になる事があるからそのままスパイを続けるって」

「レコンには感謝しないとな。それじゃ二人とも、そろそろ出発しようぜ」

「了解だ」

 

 三人は風の塔を上り、天辺に到着した。そこから見る景色は、やはり絶景だった。

 

「二人とも、私に付いてこれるかしら?」

「リーファこそ、俺達に付いてこれるのか?」

「言うわね、それじゃ行くわよ!」

「よーし、練習の成果を見せてやる!」

「キリト、ペース配分を間違えるなよ」

「わかってるって。それじゃ行こうぜ」

 

 こうして三人は、ルグルーの街の方向へと飛翔した。

言うだけの事はあり、リーファは確かに速かった。

だがハチマンとキリトも余裕で隣に並んで飛んでいたので、

リーファは飛びながら少し落ち込んでいた。

 

「飛ぶ事には自信があったんだけどなぁ」

「まあそう言うなって。俺達も結構いっぱいいっぱいだぞ」

「そうなの?」

「ああ。ハチマンもそうだろ?」

「そうだな、飛ぶだけならいいんだが、俺達はリーファよりも余計な動作が多いだろうから、

羽根の疲労がたまるのがリーファより早いんじゃないか」

「相変わらず冷静な分析だね」

「だが、トップスピードなら負けん」

「えっ?」

 

 ハチマンはそう言うと、スピードを上げた。

 

「よーし、負けないぞ!」

 

 キリトもそれに合わせてスピードを上げた。

リーファも慌ててスピードを上げたが、徐々に二人に離されていった。

 

「うー、本当に速い……やっぱりちょっと悔しい」

 

 リーファはそれでも必死に二人の後を追いかけた。だがそれも長くは続かなかった。

しばらく飛んだ後、ハチマンとキリトが着地をしたからだ。

どうやら羽根の疲労がたまったようで、リーファも隣に着地した。

 

「ハチマンの言った通りだったな」

「確かにそうかも。私はまだもう少し飛べるかな」

「かなり距離は稼げたと思うが、やっぱりその分疲労のたまりも早いな」

「まあ、しばらく休憩しましょうか」

 

 その時ユイが、何かに気付いたように警告を発した。

 

「パパ!私達を追いかけてくる人達がいます」

「追っ手か尾行かどっちかかな。ユイ、何人くらいだ?」

「二人です、パパ」

「二人か……どうやらただの尾行だな。ユイ、そいつらはこの場所まで来そうか?」

「いいえ、どうやら後方に着地したようです」

「やはり尾行だな。まあ、シグルドを引っ掛けるためにも、

ルグルーに着くまではしっかりと付いてきてもらわないとな」

「仕掛けてこないならまあ何の危険も無いだろうしな」

「こっちに来ないなら、気にせず休みましょ」

 

 三人はしばらく休憩していたが、やがて羽根の疲労が抜けたため、再び飛び立った。

何度かそんな事を繰り返すうちに、ついに前方に街のようなものが見えてきた。

 

「あれがルグルーの街よ」

「おお、やっとか」

「思ったより早くなかったか?」

「まあ、途中で妨害とかが何も無かったからね」

「ユイ、あいつらはちゃんとついてきてるか?」

「はいパパ、付かず離れずという感じです」

「よし、それじゃ街に入ろうぜ。リーファはとりあえずユキノ達とコンタクトをとってくれ」

 

 三人はそのままルグルーの街に入った。

リーファは先ほどの二人組が到着する前に、ユキノ達の所へと向かった。

 

「パパ、さっきの人達が追いついてきたみたいです。宿の陰と、パパの後方の木の後ろです」

「ユイ、そいつらがこっちを観察してるかどうか、そっと確認してくれ」

「はいパパ」

 

 ユイはそっとハチマンの胸ポケットから出て肩へ登り、チラっと様子を観察した。

 

「チラチラとこっちを見ています。やっぱり監視役みたいですね」

「俺達がログインするのを待って、更に長距離を尾行後に即監視とか、ご苦労なこったな」

「お、リーファが戻ってきたみたいだぞ」

 

 キリトがそう言いながらリーファに手を振った。

それを見たリーファも手を振りながらこちらに走ってきた。 

 

「予定通りユキノ達も到着してたよ。今から案内するね」

「ちょっと待ってくれ。さっきの奴らがこっちを見てるんでな」

「え、どこどこ?」

「ユイが言うには宿の陰と俺の後方の木の後ろらしい」

 

 リーファが慌ててそっちを見ようとしたので、ハチマンはそれを止めた。

 

「リーファ、とりあえずそっちを見ないようにな。

視線がバレないように、頬を叩くか何かして指の隙間からでも確認してみてくれ。

もし監視役が見覚えのある奴だったら、俺に分かるように伸びをしてみてくれないか?」

「わかった。……さーて、気合を入れますか!」

 

 リーファはハチマンに言われた通りにそう言い、頬を叩くような仕草をして、

指の間から様子を探った。相手が誰か確認出来たようで、リーファはすぐに伸びをした。

それを見たハチマンは、辺りに聞こえるようにこう言った。

 

「よし、それじゃ予定通りに一時間後にルグルー回廊に出発しようぜ。

ユキノ達も俺達が回廊を突破するくらいの時間に向こう側に到着するはずだ」

 

 キリトとリーファも頷きながら、時間を強調しつつ返事をした。

 

「わかった、一時間後だな」

「おっけー!一時間後ね」

 

 それを聞いた二人は、どこかに連絡をするそぶりを見せたあと、去っていった。

 

「よし、仕込みはオーケーだ」

「あの二人、シグルドの腰巾着だよ。パーティメンバーじゃないけど何度か見た事あるもの」

「シグルドは本当に仕掛けてくると思うか?」

「どうだろうね。まあわざわざこっちの予定を確認するためだけに、

人を張り込ませてたとは考えにくいから、やっぱり仕掛けてくるんじゃないかな」

「あいつをよく知るリーファがそう言うんだから、多分そうなんだろうな」

「まあ一時間しか無いんだし、まずユキノ達と合流しましょう」

「それじゃすまないがリーファ、案内を宜しく頼む」

「こっちよ。回廊への出口近くの宿で全員入れる広めの部屋を確保したみたい」

 

 ハチマンとキリトは、リーファの案内で宿へと向かった。

ハチマンはユイと共に一応周囲を警戒していたが、

宿に着くまで怪しい人物はまったく見かけなかった。

こうして一行は、作戦通り無事に合流を果たす事になった。

 

「みんな、無理をさせたみたいで本当にすまない」

「本当に申し訳ない」

 

 まずハチマンとキリトが、四人に頭を下げた。

 

「お兄ちゃん、キリトさん、気にしないで!コマチもっと頑張れるよ!」

「先輩!キリト君!私も全然へっちゃらですからね!」

「ヒ……ハチマン、キリト君、本番はこれからだよ!頑張ろー!」

「二人とも顔を上げて頂戴。これは私達がやりたい事でもあるのだから、気にしないで。

私達は今後、ハチマン君の指示に従い、あなた達と共に全力を尽くすわ。

もちろんおかしいと思ったら私なりに意見は言うから、丸投げはしないつもりよ」

「みんな……その……言葉が出ないな。あ、ありがとな」

 

 キリトはそんなハチマンの背中をぽんぽんと叩いた。

リーファはその姿を、羨ましそうに見つめていた。


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