ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1073話 フェンリルとの出会い

『待て、七人の妖精王の一人よ、我に敵意はない』

 

 ハチマンはその言葉にピタリと動きを止めた。

 

「戦う気はないのか?」

『ああ、我はそなたの敵ではない』

「そうか………」

 

 ハチマンは相手の目をじっと見た後、大人しく武器をしまった。

 

「ウズメ、メッセージは?」

「ギリギリまだ送ってないよ」

「破棄しといてくれ」

 

 ハチマンは救援要請を送るのをやめ、フェンリルに向き直った。

 

「一応確認するが、あんたはフェンリルって事でいいのか?」

『その通り、我はフェンリルだ』

「俺が聞いた話だと、あんたがプレイヤーを殺して回ってるって話だったんだが」

『それも然り、敵は殲滅せねばならん』

「俺は敵じゃないのか?」

『これは異な事を、そなたは我が王の眷属と共に行動しておるではないか』

「我が王?オーディンか?」

『我が王を呼び捨てにするとは豪気な事よな、妖精王よ』

「その妖精王ってのは真なるセブンスヘヴンの事か?」

『そうも呼ばれているようだな、妖精王達が全員敵ではないというのは実に喜ばしい』

「なるほどなぁ………」

 

 ハチマンはここまでの会話で何となく事情を悟った。

要するに巨人族についたプレイヤーが、このフェンリルに狩られているのだろう。

 

「事情は分かった、俺に何か用事がある訳じゃないんだよな?」

『ああ、いずれ用事が出来るかもしれないが、今日の所はそなたと会ったのは偶然だ』

「そうか、それじゃあ再会出来る日を楽しみにしておくわ」

「ちょっと待って下さい!」

 

 ピュアがいきなりそう言い、ハチマンとフェンリルは何事かとそちらに目を向けた。

 

「ピュア、どうかしたか?」

「あ、あの、あの、もし良かったら、もふもふさせてもらえませんか?」

「もふ………!?」

 

 フェンリルは意表を突かれたのか、その言葉に目を見開いた。

 

「………別にそれくらいなら構わない」

「やった!ありがとうございます」

 

 ピュアはフェンリルにお礼を言うと、その毛皮に思いっきり抱きついた。

 

「ふはぁ………」

 

 ピュアは恍惚とした表情をし、そんなピュアの様子を見て、

ハチマンとウズメがひそひそと会話を交わす。

 

「おいおい、凄えなピュア」

「でも気持ちは分かる………ってか私も行ってくる」

「あ、おい!」

 

 その様子を見て我慢出来なくなったのだろう、ウズメもフェンリルの方に駆け出した。

二人はそのままフェンリルの毛皮を堪能し、ハチマンはその様子を写真に収めた。

 

「………そのくらいでいいだろうか」

「あっ、ごめんなさい、気持ち良くてつい………」

「別に謝る事はない、だが我には使命があるのでな」

 

 

「忙しいのにすまなかったな、それじゃあまたな、フェンリル」

『ああ、それまで壮健でな、妖精王』

 

 フェンリルはそう言って去っていき、ハチマンはぼそりと呟いた。

 

「AI搭載のモンスター………か」

「あんなモンスターもいるんですね」

「まあ逆に俺達だけを襲うモンスターがいないとも限らないから、

似たような雰囲気の敵が出てきたらくれぐれも注意しないとな」

「あっ、その可能性もあるんだ」

「そのうち噂が聞こえてくるだろうさ」

 

 ハチマンはそう言うと、二人を連れて再び奥への移動を再開した。

ここからは特に邪魔も入らず、無事にキャンプに到達した三人だったが、

その中でも特にピュアが、仲間達から驚きをもって迎えられた。

 

「という訳で、今度仲間になる事になった、うちの二人目のアイドル、

フランシュシュの紺野純子さんことピュアさんだ。みんな、仲良くしてあげてな」

 

 ハチマンはまるで転入生を紹介するようにそう言った。

本名まで公開しているのはまあ今更だからである。

 

「ま、まさかのアイドル二人目………」

「よく考えると凄い事だよね………」

「ヴァルハラやばいヴァルハラやばい………」

「休憩時間にちょっと歌ってもらえないかな………私、ファンなんだよね」

 

 順にファーブニル、アル冒メンバーA、アル冒メンバーB、ヒルダの言葉である。

その横ではラキアが、スプリンガーの袖をつんつん引っ張っている。

 

「あ?ラキア、何だって?はぁ?うちもスポンサーになりたいだ?

いや、まあ別にいいけどよ………」

 

 どうやらフランシュシュに、新しいスポンサーがついたようだ。

 

「さすあに」

「さすあにだね」

「ぐぬぬ、益々私が目立たなく………」

「ランは名前も被っちゃったね、ピンチだピンチ!」

 

 こちらはスリーピング・ナイツの会話である。

彼ら的にはこういった事にはもう特に驚きはないようで、

全てが『さすが兄貴』、さすあにで済まされてしまうようだ。

 

「待ってハチマン、二人目って、私は?」

 

 その時クックロビンがぐぬぬ状態で異議を申し立ててきた。

おそらくウズメとピュアが人気なのが悔しいのだろう。

一応断っておくが、クックロビンと二人はリアルでも仲良しである為、

二人の加入が嫌だとかそういう意味ではない。

 

「ああん?お前は変態が過ぎるからアイドルじゃねえよ。敢えて言うなら色物だ」

「うっ………」

 

 クックロビンは恒例のビクンビクンタイムに突入し、そのままハチマンに放置された。

 

「で、ここでみんなに報告がある。実はさっき、フェンリルに遭遇した。今写真を見せる」

 

 ハチマンはそう言って、ピュアとウズメのもふもふ写真を公開した。

 

「………もふもふ?」

「もふもふだ」

「マジか、フェンリルってもふもふなのか」

「これはどういう状況なのかしら」

 

 多くの者達が魅了される中、犬族に対してはそこまで思い入れがないユキノがそう言った。

 

「どうやらフェンリルは、邪神族の味方らしい。

どうやら巨人族とつるんで邪神族を狩っているプレイヤーと遭遇したら、

片っ端から殺してるらしいぞ」

「殺し屋みたいな?」

「へぇ、今回のクエストは随分色々な要素が混じってるんだな」

「とりあえずフェンリルの見た目は覚えたな?

もしかしたらフェンリルとは逆の立場のモンスターも存在するかもしれないから、

各自十分に注意してくれ」

「邪神に敵対する勢力のモンスターか」

「可能性はあるわね」

 

 この時点でハチマンは、別の可能性についても考えていたが、

その事については考えが纏まっていない為、ここでは公開しなかった。

 

「さて、それじゃあ狩りを再開しよう。おいユウ、ウズメに戦い方を教えてやってくれ。

多分この中じゃ、ユウが一番ウズメのスタイルに近そうだ。

あとピュアの面倒はユキノが見てくれ。ピュアは多分いいヒーラーになる、と思う」

「分かった、任せて!」

「了解よ」

 

 ウズメはユウキの動きにかなり刺激を受けたようで、

ユウキにステータスの振り方や自身の戦闘スタイルに有用なスキルを教わり、

途中で何度もコンソールを開き、その度に強くなっていった。

 

「成長が目に見えて分かるってのも凄いもんだな………」

 

 ハチマンのその呟きに、アスナが笑顔で答えた。

 

「ウズメさんはきっといい短剣使いになるね」

「だな、ピュアの方はどんな感じだ?」

「順調みたいだよ、やっぱりアイドルになれるような人って色々な才能があるんだね」

 

 ピュアは呪文をまるで歌うように詠唱する為、とても覚えがいいらしい。

それはウズメも同様なのだが、ウズメはどちらかというと体を動かす事の方が好きらしく、

今のところは簡単な魔法を覚えただけのようである。

 

「まあゲームを楽しんでもらえればいいさ、リアルじゃ色々大変だろうしな」

「どういう生活なのか想像もつかないけどね」

 

 二人は楽しそうに戦っているウズメとピュアに暖かい視線を向けた。

 

「で、戦闘の方はどうなった?」

「さすがに飽きてきたから何か工夫をしようって話してた感じ?」

「ああ、まあそうだよな………」

「今日で討伐数は二千五百体を超えるけど、段々慣れてきたから、

まあ大雑把にあと二週間くらいで目標に達するんじゃないかな」

「みんなの能力も上がっていくだろうし、もう少し早まる可能性もありそうだけどな」

「あっ、確かにそうだね」

「あとは他のギルドの動向か………」

「アスモちゃんに聞いてみる?」

「だな、あいつらはどのくらい討伐してるんだろうな、うちほどじゃないと思うが」

 

 ハチマンはそう言ってアスモゼウスにメッセージを送った。

 

『二千』

 

 戦闘中なのか、そうシンプルな答えが返ってくる。

 

「アスモの奴、二千とか言ってるぞ?」

「え?ペース早くない?」

「予想よりもかなり多い数字だよな………」

「だよね、前見た感じのままなら、今良くても五百くらいのはずなんだけど」

「あいつらがいるのってヨツンヘイムの浅い部分だよな?ちょっと見にいってみるか」

「ここからだと遠くない?」

「シャナをコンバートさせたままだから、そっちで見にいってくるわ」

「ああ~、その手があったね」

「それじゃあちょっと行ってくる、適当に休憩を挟んで無理しないようにな」

「うん、任せて」

 

 そのままハチマンはログアウトし、シャナとして再ログインした。

 

「さてと………」

 

 そのままシャナはアルンを飛び立ち、以前見た七つの大罪がいた狩り場へと向かった。

そこでシャナが見たものは、戦場全体をいっぱいに使って、

協力して戦うプレイヤー達の姿であった。

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